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第二章

子爵家と民族競技4『民族競技』

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「セイ! セイ! セイッ!」
「フンッ! フンッ! フンッ!」
「フシュッ! フシュッ! シュッ!」


 円の周辺では、外で剣を振っていた騎士たちよりもさらに輪をかけて体格のいい騎士たちが上半身裸で汗を流していた。

 彼らは靴を履かず、裸足の状態で膝を真横に開いて足を高く上げ下げしたり、低い姿勢を取ったまま足の裏を地面から離さないで擦りながら歩く動作を繰り返し行なっている。

 あれも何かのトレーニングなのか……?

 後で機会があれば訊いてみよう。

 しかし、この部屋にいる騎士たちは太さがヤバいな。

 筋肉だけでなく脂肪もたっぷり身体に纏っているため全身の威圧感が半端ない。


「ここは牛の獣人、カウス族に伝わる民族競技『モウス』を行なうために拵えた建物でな? あそこにある円の部分をドヒョウと言うんじゃ」


 ニゴー子爵が俺に広間の説明を行なってくる。

 モウス……ドヒョウ……?

 よくわからんが、ここが何かの競技場であるという予想は当たっていたらしい。

 なぜこんなものを見せられているのか理解しないまま、俺は続けてモウスとやらのルールや戦い方を説明された。

『突く・殴る・蹴る』の三つが禁止。

 足の裏以外が地面に着くか、足がドヒョウの円の外に出たら負け。

 攻撃手段は――ふむふむ。

 へえ……。

 聞く限りでは体重があるほど有利そうだ。

 ここにいる者たちが巨漢揃いなのもそういうことだからだろう。

 てか、前の世界で似たような競技があったような……?

 なんつったっけ。名前の響きもそっくりだったはずだけど。

 す、すも……もぉ?

 忘れた。





「すまんが誰か……いや、ドルジィ、お前が相手をしてやってくれんか? 稽古ではなく真剣勝負のつもりで頼む」

「自分っスか? 本気でやっていいんスか?」

 のっしのっし。

 ニゴー子爵に呼ばれ、広間で鍛えていた中で一番大きな体躯の騎士がこちらに来る。

 え? 相手ってなに? 真剣勝負ってなに?

「グレン君、先ほど言った通りじゃ。ワシは君が魔法ではなく、その肉体で戦っている本気のところを見たいんじゃ。ウチの騎士とモウスを一本とってはくれんか?」

 ウルウルした瞳で頼み込んでくる眼帯爺さん。

 ニゴー子爵はこれがやらせたくて俺を呼んだってことかな……。

 どんだけ戦いが好きなんだ。

「グレンっちモウスやるの? 無理に付き合わなくていいんだよ?」

 エルーシャが何気に気遣ってくれるが、老い先短いだろう人間の老人の願いだ。

 減るものでもないし一発やってやるさ。

 まあ、トラックと人間で押し合いなら俺の勝ちだろうけど。

 荷台を貸してやるくらいのつもりでやってやるぜ。

「フッ、いきなりドルジィとはハードだな」

 いつの間にか隣にいた騎士が馴れ馴れしく話しかけてきた。

 誰だ? と思ったらアレだ。

 前にエルーシャの護衛をやってたジェロムって騎士だわ。

 お久しぶりっすね。



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