トラックエルフ ~走行力と強度を保ったままトラックがエルフに転生~

のみかん

文字の大きさ
121 / 126
第二章

閑話 エルフ里を出立する幼馴染み

しおりを挟む


 銀髪のエルフ、シルフィはジョウオウサマとしての技と心得を学んでいたアグリッサから最後の試験を課せられていた。

 明日、誕生日を迎えて里を旅立つ予定のシルフィは今日まで磨いてきたすべてをアグリッサに見せて一人前として認めてもらわなければならない。

「じゃあ、いくわね」

 シルフィは深呼吸をして精神を整える。

 目の前には魔法で作り上げた巨大な岩石。

 そして今朝とれたばかりの鶏の卵が並んで置かれていた。

「さあ。見せてちょうだい、あなたの鞭を……」

 合否を決めるアグリッサがシルフィを見守りながら真剣な面持ちで言う。


「じゃあ……ジョウオウサマとお呼びッ!」


 スパァン!


『叩いたものすべてを痛めつけるような鞭はジョウオウサマの鞭ではないわ!』

『ジョウオウサマが与える痛みと傷は慈しむ愛の証!』

『本能のまま力任せに強く叩くだけの鞭はただの暴力なの!』

『ジョウオウサマは暴力を振るわず、愛を振るって喜びを与える存在なのよ!』


 これまでアグリッサから教わってきたことを思い出しながら、シルフィはリズミカルに鞭を振って岩と卵を交互に力強く叩いていった。


「ジョウオウサマとお呼びッ! ジョウオウサマとお呼びッ! ジョウオウサマとお呼びッ!」


 バシィッ! バシィッ! バシィッ! バシィッ!


「シルフィちゃん、がんばれ……」


 木の影からはグレンの妹、スカーレットがこっそりと見守っていた。

 将来の義姉となるかもしれない人物が自信を持って里を旅立てますようにと祈って……。



◇◇◇◇◇



「ふう……アグリッサさん、どうだった?」

「すごいわ、シルフィ、パーフェクトよ!」

 数分間、一心不乱に鞭を振るい続けたシルフィをアグリッサは絶賛した。

 シルフィの叩いた岩と卵はどちらも同じ速度で鞭を振るっていたにも関わらず、岩は真っ二つに割れているのに対して卵はヒビひとつ入っていなかった。

「まさか、この短期間でジョウオウサマの神髄に達するとはさすがね……もうあなたに教えることは何もないわ。あなたなら私以上のジョウオウサマにきっとなれる。胸を張ってグレン君に悦びを与えてきなさい」

 アグリッサから免許皆伝され、シルフィは成し遂げた表情で鞭の柄を握りしめた。




 次の日、シルフィは里のエルフたちに見送られて里を出た。


「シルフィ、外でグレン君に会えるといいわね」

「案外、グレンもシルフィちゃんのことが気になって町で待ってるかもしれないぞ」

「シルフィちゃんは頑張ってジョウオウサマになったんだから、お兄ちゃんが人間のジョウオウサマにたぶらかされてたら一発ブッ叩いて目を覚ましてあげるんだよ!」


 アグリッサ、グレンの父、そしてスカーレットからエールのようなものを受け取って……。



◇◇◇◇◇



 森の獣道を進んでいくシルフィ。

 里から街道までは草や木の根に足を取られたりするので半日以上はかかる。

 本来は体力的なことも考えてゆっくり歩いてもいいのだが、シルフィの足は自然と早いペースで動いていた。

 グレンが昔から長い距離を走りたい、遠くまで行ってみたいと話していたのはよく覚えている。

 だから、きっとグレンはどこかの街に長く滞在することはせず、二か月の間にどんどん遠いところまで進み続けているだろう。

 止まらないグレンとの間にできた差は、今から追いかけたのでは絶対に追いつけないほどの距離があるかもしれない。

 けれど、そんなグレンに少しでも追いつければという想いがシルフィを無意識に急かしていた。


『案外、グレンもシルフィちゃんのことが気になって町で待ってるかもしれないぞ』


 グレン父の言葉を思い出し、シルフィはありえないと首を横に振る。

 あの何者にも揺るがされることなく自分を貫くグレンに限ってそんなことは――

 でもひょっとしたら。

「森の外に迎えに来てくれてたりとか――なんてね?」

 淡い期待を胸に抱きつつ。

 グレンのために用意した鞭を握りつつ……。

 シルフィは獣道を踏みしめて外の世界に歩いていくのであった。




しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...