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第一章

解放と敵襲1『ここだけは女神様の見込んだ通りなんだなぁ。』

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「くそっ、離せ! やめろ! 勝手に外そうとするんじゃない! 私の奴隷だぞ! なにかあったらどうしてくれるんだ!」

 俺の首輪撤去作業を妨害しようとした領主は女騎士とゴリラな隊長に両腕を掴まれて拘束されていた。

 そんなにエルフの奴隷を手放すのが嫌なのか。色欲にまみれたおっさんだ。

「うーん。どうするかなぁ……」

 とんでもない無茶ぶりをされた俺は領主の喚き声をバックミュージックに成功までの筋道を立てる。

 まったくふざけたパスを回されたものだが、これはチャンスでもあった。

 ここで時間を置くと領主に言い逃れの隙を作ることになるし、下手をすれば証拠隠滅を図ってジンジャーに危険が及ぶ可能性がある。

 そういう面では俺の手で解決する機会を強引ながらも与えてくれたルドルフには感謝すべきなのかもしれない。認めるのは悔しいけど。

 ちなみに勝算はある。

 この首輪、無理やり外そうとすると即死レベルの爆発を起こすらしいのだが、ぶっちゃけ俺からすると『それだけなの?』という感じだった。

 まず、第一段階として俺は身体強化の術をジンジャーにかけ、さらに首輪に魔法攻撃の威力を低下させる術をかけていく。

 いずれも呪文の暗記が簡単な初級魔法だが、気合いを入れたのでそれなりの効力はあると思う。あってもらわないと困るが。


「じゃあやってみるか」


 第二段階。ここは単純な力技だ。回復魔法をジンジャーに唱え続けながら首輪を左右に引っ張るだけ。

 こうやって絶え間なく回復魔法をかけていれば、いつ首が吹き飛んでもその場から回復が始まる。即死を防ぐことができるのだ。

 身体強化もしてあるから爆発に耐えられる体にもなっているし、爆発自体の威力も抑えてある。俺の危機管理対策は完璧だった。しかし――


『おい、やめろッ! そんなことをしたら――』


 周りは俺の何重にも及ぶ予防など知る由もないから騒ぎ立ててくる。


 うるさいな。これならきちんと説明してから行うべきだった。集中が乱れる……。

 ミシミシと音を立てる奴隷の首輪。ちょっと硬いな。もう少し力を込めて――


「よし、やったぞ……!」

 パキンという音を立てて首輪は外れた。光を失っていたジンジャーの瞳に輝きがみるみる戻っていく。

 へへん、ざまぁ見ろ。解放してやったぜ! と思って領主を見ると、なぜか彼はほっとしたような表情をしていた。

 ……どういうことだ? 解放された悔しさよりも、ジンジャーが無事だったことに安堵しているのか?

「……あれ? おかしいですわね」

「ば、爆発はしないのか?」

 腰を抜かした御令嬢とそれを支える女騎士が言った。

 彼女らは俺とは違うところに疑問を感じていたようだ。そういえば確かに爆発すると聞いていたのに指先が微かに痺れた程度しか何も起きなかったな。

 不発だったのか、不良品か何かだったのか。それとも俺のかけた魔法のせいで威力が低下したのか。

 ……きっとこっちだろうな。

 確かに意図した通りの効果だが、上手くできすぎだぜ。

「お前、本当に規格外な野郎だな……」

 ルドルフがドン引きしていた。おい、後退るな。

 お前まで引いたらなんだか自分が怖くなっちゃうだろ。



 ……女神様のくれた才能はやっぱり行き過ぎたものなのではないかと思った。

 女神基準の『ちょっと』って結構やばい?



 ちなみに御令嬢や領主も最初はありえないと驚いていたが、しばらくするとエルフだしそんなものかと納得したらしい。

 ここだけは女神様の見込んだ通りなんだなぁ。

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