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第二章
才媛と塔2『……ネタではないのだ。』
しおりを挟む「元気になったようだし、フィーナ、頼むのだよ?」
「はい、ラル様。お任せなのですよ! むむっ……プチファイア!」
眉間に皺をよせ、真剣な表情で呪文を唱えるフィーナ。
すると、彼女の指先に微量な炎がほんのり灯った。
一体……?
「ぐぎぎぎ……限界なのですよ……! ふうふう……」
早えな、おい。
で、これがなんだというのだ?
魔力があるなら魔法を使えるのは普通じゃないか?
俺が疑問を持ちながら目線を送ると、
「君も知っていると思うが、魔力の操作は身体が成長してからコツを掴むのは大変難しい」
ラルキエリが眼鏡をクイッと上げて説明を行う。
……ああ、そういうえばそういう話もありましたね。
「フィーナは魔力があるから我輩の従者をしつつ学生としても学園に籍を置いている。だが、彼女は平民出身で幼少期に魔力を循環させる教育を受けていなかったのだよ? おかげで今日までロクに魔法を使えていなかったわけだが……」
「ふふ、この数日間、ひたすら無茶苦茶な量の鍛錬を行った結果! なんとわたくし、僅かですけど魔力の循環を感じ取ることができたのですよ! 筋肉が発達するとともに……こう、不思議と全身をわぁーっと何かが駆け巡る感覚が押し寄せてきたのですよ!」
力こぶを見せつけるように腕を曲げながらフィーナが興奮気味に言ってきた。
マジで? マジなん?
それホントに筋トレのおかげなの? 嘘だろ……。
「実験期間中は本気で死ぬかと思ったのですよ! 意識を失うたびにラル様からポーションをぶっかけられて起こされ、失っては起こされを繰り返し。眠くなってもこれまたポーションで眠気を取り払って睡眠時間までを鍛錬に宛がって……」
その時のことを思い出したのか、彼女はぶるるっと身を震わせた。
うーん、よほどハードなキャンプを繰り広げたっぽい。
ようやるもんだわ。俺が言うのもあれだけどw
「ま、要するにだよ? フィーナの実験結果によって、身体の強度を上げることが魔力操作や能力の向上と関わりがある可能性がありえなくなくなったのだよ?」
才媛の表情は冗談を言っているようには見えない。
……ネタではないのだ。
学園の空気を変えるためのデマカセがガチになっちまった。
なにこれこわい。
「我輩はもとより魔力の増幅や制御を後天的に鍛える方法はないのか研究していたのだよ? 術式の構築を研究するだけでは魔導士そのものの成長は見込めないからな。だが、イマイチ発想に行き詰っていたのだ……。しかし君の筋肉を鍛えるという言葉を聞いてこれだとビビッときたのだよ!」
「でもお前、授業を見に来なかったじゃん」
「わ、我輩があんな大勢の前に出ていったら注目の的なのだよ? 陰口を叩かれるのは目に見えているのだよ? そんなのは怖いじゃないか……物陰からこっそり窺っていたに決まっているのだよ……」
ラルキエリが指先をつんつん合わせながらしどろもどろに言い訳する。
そういえばこいつって有名人なんだっけ。
いろいろ大変そうっすね。でも、陰口とかはきっと自意識過剰なだけだと思うよ。
「……あなたも相当話題になっているのですよ? 生徒としてエルフが学園にきたというのは学園内外を問わず噂になっているのですよ?」
フィーナに指摘される。あ、そうなの? まったく気づかなかったわ。
「はあ……我輩も君やエルーシャのような無神経さが欲しかったのだよ?」
森育ちの繊細なエルフをつかまえて何言ってんだ?
まあ、とにかく。
どうやら本当に筋トレには何らかの効果があるらしい。
一体どうしてこんなことになったのか。
「これはまだ仮説なのだが、フィーナが魔法を使えるようになったのは身体が強化されたことで強い魔力を流すことに耐えられる肉体になり、魔力操作が覚束なくとも魔力量で強引に押し切れるようになったのが原因だと思うのだよ?」
完全に脳味噌筋肉なやり方じゃねーか。筋トレだけに。
けど、燃費が悪かろうが魔法を使えなかった者が使えるようになるのだ。
この際、効率云々は気にしなくていいのかもしれん。
「あと、身体の強化に伴い貯蔵できる魔力量も増えていく兆候があったのだよ? だから、もしこの理論が確立されれば幼少期に指導が受けられなかった平民の生徒だけではなく、魔力量が少ないせいで魔導士として落ちこぼれの烙印を押された貴族の子弟たちも努力次第では挽回することができるようになるかもしれないのだよ?」
よくわからんが筋トレで救われる連中が出てくるということでいいのかな。
筋トレで誰もが幸せになれるならいいことだと思うよ。
知らんけど。
「しかし、フィーナだけでは十分なサンプルとは言えないのだよ? 確実な理論として発表するにはもっと大勢の実験動物……じゃない、被験者で個々のパターンや効果的なメニューの組み合わせを検証してみる必要があるのだよ」
……これは筋トレを一気に学園に広めるチャンスではなかろうか。
才媛の異名を持つラルキエリの名前で推奨されるなら、この前の授業で興味を持ちながら二の足を踏んでいた連中も一気に呼び込めるかもしれない。
しかも嘘じゃないなら後ろめたさを感じず布教が行なえる。
「よし、任せろ。俺が協力してくれそうなやつに声をかけてやるよ」
多分、フィーナと同じ立場にいた基礎魔法のやつらなら何人か乗ってくれるはず。
「おおっ、頼もしいのだよ!」
ラルキエリは小躍りして喜んだ。
余談だが。
ラルキエリの話に速攻で飽きたエルーシャとリュキアはいつの間にか部屋の隅にあったジェンガっぽい玩具を見つけて二人で遊んでいた。
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