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『領地経営』編
第72話『近くで見続けてると気づきにくいもの』
しおりを挟む1時間後。
「……ィカ卿……ロイカ卿…………」
猫たちの頬を摘まんだりお腹を揉んだり……。
俺は至福の時間を過ごしていた。
領地開発は大変だけど、こういう安らぎは必要だよね。
午後からは米を使った酒の酒蔵を見に行かないといけない……。
あと、もうちょっとで充電が終わるから――
「ヒョロイカ卿……聞いていますか……?」
すんすんすん……。匂いを嗅ぐ。ちょっと香ばしいかな?
浄化魔法で綺麗にしといてやろう。
シュッシュッシュッ。
よし、いい感じ
「ヒョロイカ卿、私を無視するのはやめて頂きたいのですが?」
聞かないようにしていた声の主が激しく自己主張をしてきた。
「ジャード、一体何の用だ……」
いつの間にか俺の横に佇んでいた能面の内政官を仏頂面で見返す。
領地猫を制度として認めないと言ったり愛でるタイムを遮ったり。
貴様はどこから送られてきた刺客だ?
俺の癒しを邪魔するなよ。
「私はニコルコの内政官ですが?」
「…………」
知ってるよ。言ってみただけさ。面白味のない男だ。
「癒されるのは結構ですが、まずは現実を見て下さい」
「現実ゥ? 何の話だよ、ハァン!?」
「猫たちのことですよ」
「ね……こ……の……?」
しょうがないな……。
どれどれ?
『ふにゃぁ♪』
『うんなぁ♪』
『ふなぁ♪』
様々な方向から俺の顔や肩に猫たちの頬が擦りつけられた。
ふむ、これは――
「うん、可愛い!」
それしかなくね?
「…………」
ジャードの視線が厳しくなった。
ハイハイ、わかりましたよ。惚けるのはここまでにすればいいんでしょう?
そうだよ……俺の『顔や肩』に『猫の頬』がスリスリされているんだよ。
え? どこがおかしいかって?
いや、ほら、普通なら届くわけないでしょっていう。
わかるかな?
俺は立ったままでしゃがんでいるわけじゃないんだ。
それなのに猫が顔を擦りつけられるってことは。
何が言いたいかって。
つまり――
『『『にゃふぅん!』』』
ズシーン! スデーン! ババーン!
ニコルコの猫たちは愛くるしい顔つきはそのまま――
その全長を――
俺を見下ろせるほどのビッグサイズに成長させていたってことさ。
最初の頃は子猫だったから大きくなってるんだなぁとか、今まで栄養状態がよくなかったから肉がついてきたんだなぁって思ってたんだよ。
それが徐々に目線が近くなってきて。
次第に抜かされるようになってきて――
そうやって少しだけ違和感を覚え始めていたところで、よそからやってきた来た商人が『デカッ! 猫っ! デカッ!』と叫び、そこで俺は初めて異変に気が付いた。
こいつら、普通の猫よりでかくなってね……? ということに。
「こんなことならヒョロイカ卿に好き勝手させず、私が管理すればよかった……」
ジャードがブツブツ言っている。
何を今さら後悔してるのだ。
領地の予算を使わなければ好きにやっていいと言ったのはお前だぞ。
それにしょうがないじゃないか。
身体の成長というのは近くで見続けてると気づきにくいものなのだ。
子供の頃、いつの間にか友達の身長を抜いてたり抜かされてたりってあっただろ?
そういうのと同じ感覚だったんだよ。
領民たちも巨大化した猫が町を歩いてたけど全然騒いでなかったし。
ガキどもなんか猫の上に乗って遊んでたくらいだ。
普通、猫に乗れたらそこでおかしいと思うよね。
なんで誰も気づかなかったのかなぁ……。
細かいことを気にしない領民性なんだろうか。
「それは領民がヒョロイカ卿に毒されてますね……」
ジャードはこめかみを押さえて深刻そうに言った。
俺のせいにするんじゃねえ。
人を病原菌みたいに言いやがって。
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