全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-

のみかん

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『領地経営』編

第100話『う……うわわあああああああーんっ!!!!!!』

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◇◇◇◇◇




 時刻は夕暮れ。

 魔境から帰ってきた冒険者たちが治療を受けにゾロゾロやって来た。

 あ、ちなみに治療費は怪我の大きさによって若干変わるけど、べらぼうに高くなることはない良心価格です。


「くっそー。やっぱ魔境の魔物ハンパねえわ」

「駆け出しの頃以来だぜ。こんだけいっつもボロボロになっちまうのはよ」

「アンナちゃん痛いよぉ!」

「ん? 今日はそっちの美少女も治してくれんの?」


 アンナとスチルは並んでくる怪我人を次々と治療していく。

 ふむふむ。

 列の捌き方とか、治り具合は今のところ同じくらいだな。

 あれ? 同じくらい……?


「おーい、こいつが大変なんだ。治してやってくれねーか? うっかり潰されちまってよぉ」


 俺が引っかかりを覚えたところで、重傷の冒険者が運ばれてきた。
 うわ、グッロ!
 あんまり表現したくない感じでぐちゃぐちゃだ。

 お腹とかホラー要素になってるし。
 手足もボーンが紆余曲折。
 辛うじて息はしてるけど、もうすぐお迎えが来そうなレベル。

「あれはもう助からないわね……。せめて安らかに逝けるよう祈りを捧げてあげましょう」

 スチルが真剣な表情で手を合わせ始める。
 え……? こいつ何言ってんの? なんで諦めてるの?
 もしかして……。

「スチル、あの冒険者を治してくれ」

「は……? あんな瀕死状態を治せるわけないでしょ。あたしに失敗させて安く雇おうとしてるわけ?」

 そんなセコイ真似しねえよ。

「じゃ……アンナ、やってきてくれるか?」

「はい。領主さま」

「ちょっと、無駄に力を使うなんてもったいないからやめなさいよ。治せる見込みのある人のために余力を残しておくべきよ。魔力は無限にあるわけじゃない。見極めはヒーラーの基本でしょう――」

 アンナを止めようとするスチル。

 俺はそんな彼女の肩をガシッと掴み、

「まあ、見てろや」

 と、そう言った。



「いまから、イタイイタイのビュッビュッしますね!」

「おお、アンナちゃん、いつもみたいにやってくれ!」


「え、嘘よね……?」


 重傷の冒険者を連れてきた仲間たちが悲壮感もなく、アンナが治せると疑わない調子で話しているのを見てスチルは違和感を覚えたようだ。

 戸惑いながら、しかし食い入るように経過を見つめだした。


「じゃあいきますよー」


 パアアアアア。

 みるみる修復されていくお腹&手足のボーン。

 逆再生シーンを見てるかのように損傷部分が治っていく。


「うっし! 復活したぜ! ありがとなアンナちゃん! これで今日も娼か……げふんげふん、特殊なほうの銭湯に行けるぜ!」


 傷を完全に癒してもらった冒険者は礼を言って何事もなかったかのように立ち上がった。

 そして受付で素材を換金し、仲間たちと元気よくギルドを出て行った。

「あ、ありえないわ……」

 スチルは愕然とした様子でフラフラと後退する。
 確かに重傷だったが、ウチで回復魔法が使える子供たちなら不可能というほどではない。
 これで驚いてるって……。

 やはりコイツ、デカい口を叩いてた割に使えな――いや、子供たちのお手本にならないのでは……?


「相変わらずアンナちゃんの治療はすげえな! それでこの値段は破格だぜ!」

「生きて帰ってくりゃどんな怪我でも全快で次の日も冒険に行けるし、一発の稼ぎが大きいから毎日治療を受けても収支は他所よりプラスになる。ありがてえ話だ」

「ヒョロイカの領地でバルバトスがギルドマスターをやるっていうから来てみたけど、ウレアから移ってきて正解だったわ」


 ニコルコに来た冒険者たちは魔境に挑むだけあってどいつもこいつも強者揃い。

 強力な魔物相手でも生きて帰ってこれる自信のある猛者たちにとって、怪我のリスクを気にせず大金を稼げるニコルコは絶好の狩り場なのだった。


「で、でも今日はもう回復魔法を使えないでしょ? あれだけの大怪我を治したんだから。力を使い果たしちゃったのよね?」

「え?」

 スチルから迫真顔で訊ねられ、きょとんとするアンナ。

「アンナ、今日はあとどれくらい治療できる?」

「はい、領主さま、まだたくさんへーきです!」

「んなっ!? あたしはもうあと数人が限界だっていうのに!?」

 仰天するスチル。

 あと数人って、こいつマジでダメなやつじゃん……。


「ふっ、緑の髪のねーちゃん、落ち込むことはねえよ」


 冒険者の一人が優しい口調でスチルに声をかけた。


「な、なによ……」


 スチルが困惑気味に反応すると、


「アンナちゃんには勝てなくても仕方ねーから気にすんな!」

「そうそう! アンナちゃんはニコルコの聖女みてーなもんだから!」

「きっとアンナちゃんより上のヒーラーは大聖国にいる本家の聖女くらいさ!」

「ねーちゃんもかなりいい線いってると思うぜ? 聖女クラスと比べるのが間違いってもんよ」

「その辺のやつらと比べたら相当な腕前だって! 大したもんだ!」


 冒険者たちは嫌味ではなく純粋な気持ちでスチルに慰めの言葉を送る。

 だが、それらは彼女のメンタルを錆びたナイフでザクザク刺すようなものであることを彼らは知らない。


「そんな……聖女様はもっとすごいに決まってます! わたしなんてまだまだです!」

「ふがっ!」


 謙遜するアンナの言葉も追撃でぶっささった。


「ふっ……ふひっ……ふしゅっ……」


 なんか痙攣しながら変な呼吸してる……。

 いろいろと大丈夫かな……。


 やがて、スチルは辛うじて残った気力を振り絞って俺のほうを睨み付けると、


「あ、あたしは聖水を出すことだって……で、できるんだからねッ!?」


 なんか、当初の売りとは違う方面のアピールを始めた。
 あれだけ回復魔法に自信満々ネキだったのに……。
 力にひれ伏せとはなんだったのか。


「ちょっとコップを持ってきて! ほら、行くわよ! んッ! あんっ、くうっ……!」


 苦悶の表情を浮かべたスチルの指先から水が流れてコップが満たされた。


「はあはあ……。どう? 聖水を出せる水魔法よ。すごいでしょ?」

「あ、それわたしもできる!」

 ジャバジャバジャバダァ――ッ

 アンナの手の平から聖水が迸り、その辺にあったバケツを満杯にした。
 嗚呼、無慈悲なことを……。
 アンナとしては俺にいいところを見せたくて張り切ってるだけなのだろうが。

 子供は残酷である。

 つか、そもそも聖水はニコルコじゃすでにありふれた水道水だし。

 出せるのもコップ一杯がやっとでは、インフラを整備する前の頃でもぶっちゃけ微妙だ。

「こ、こんなことが……け、けど、すごいのはこの子だけでしょ? そうよね? そうに決まってるわよねっ?」

 スチルはプライドをボコボコにされ、ギリギリのところで理性を保っている感じだった。
 あれだけ大口叩いてこのザマだもんな……。
 心中お察しします。

 これ以上は現実を見せないほうがいいだろう。

 俺がそう思っていると、


「え? ミーシャちゃんとかマックくんもけがを治す魔法はとくいですよ。お水だすやつならパンプくんもじょうずですし――」
 

 アンナが無邪気に事実を述べ、呆気なくスチルにトドメを刺した。


「そ、そんな……」


 スチルはガクリと膝を着いて崩れ落ちる。

 そして、


「う……うわわあああああああーんっ!!!!!! どぼじてええええええ……こごでもごうなるのおぉおぉおおぉおおおっ!!!!!!」


 めちゃくちゃに泣き出した。
 ちょっとやめてくれよ……。
 他の冒険者たちも困惑してるじゃん。

 誰かなんとかしてくれぇ。


「あっ、スチル様! なにやってるのですか! 勝手に外に出て! どうされたのです!?」


 ちょうどよくダスクが魔境から帰ってきた。
 クレマンスやフェリシテも一緒である。
 どうやら彼女たちは今も継続してパーティを組んでいるようだ。

 あの二人、意外と面倒見いいな……。


「もう! わけわかんないの! 蛇口を捻ったら聖水が出てくるし! 猫はデカいし! ドラゴンがたまに空飛んでるのに領民は平気な顔してるし! 子供がありえない力を使ってるし! なんなのよ! この町は!」


 スチルはダスクを無視し、堪えていたものを爆発させるように捲し立てた。
 周りの冒険者たち、何を頷いているんだ?
 お前らノリノリで暮らしてるだろうが。


「辺境のド田舎でならあの女が来る前みたいにやれると思ったのに! もうイヤだ! 魔境走ってくるうううううううぅっ!」


「スチル様ぁ! こんな時間に魔境を走ったら危ないのですよ!」


 スチルはギルドを飛び出し、それを追いかけてダスクも外に出ていった。
 騒がしいやつらだ……。
 ギルド内は微妙な雰囲気になり、俺は少しだけ居心地悪い気分になった。

 変なやつを連れてきてごめんなちゃい。


「領主さま……わたし、なにかいけないこと言っちゃいました……?」


 不安そうに涙ぐむアンナに、俺は何も悪くないよと言ってあげた。
 






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