101 / 169
『領地経営』編
第100話『う……うわわあああああああーんっ!!!!!!』
しおりを挟む◇◇◇◇◇
時刻は夕暮れ。
魔境から帰ってきた冒険者たちが治療を受けにゾロゾロやって来た。
あ、ちなみに治療費は怪我の大きさによって若干変わるけど、べらぼうに高くなることはない良心価格です。
「くっそー。やっぱ魔境の魔物ハンパねえわ」
「駆け出しの頃以来だぜ。こんだけいっつもボロボロになっちまうのはよ」
「アンナちゃん痛いよぉ!」
「ん? 今日はそっちの美少女も治してくれんの?」
アンナとスチルは並んでくる怪我人を次々と治療していく。
ふむふむ。
列の捌き方とか、治り具合は今のところ同じくらいだな。
あれ? 同じくらい……?
「おーい、こいつが大変なんだ。治してやってくれねーか? うっかり潰されちまってよぉ」
俺が引っかかりを覚えたところで、重傷の冒険者が運ばれてきた。
うわ、グッロ!
あんまり表現したくない感じでぐちゃぐちゃだ。
お腹とかホラー要素になってるし。
手足もボーンが紆余曲折。
辛うじて息はしてるけど、もうすぐお迎えが来そうなレベル。
「あれはもう助からないわね……。せめて安らかに逝けるよう祈りを捧げてあげましょう」
スチルが真剣な表情で手を合わせ始める。
え……? こいつ何言ってんの? なんで諦めてるの?
もしかして……。
「スチル、あの冒険者を治してくれ」
「は……? あんな瀕死状態を治せるわけないでしょ。あたしに失敗させて安く雇おうとしてるわけ?」
そんなセコイ真似しねえよ。
「じゃ……アンナ、やってきてくれるか?」
「はい。領主さま」
「ちょっと、無駄に力を使うなんてもったいないからやめなさいよ。治せる見込みのある人のために余力を残しておくべきよ。魔力は無限にあるわけじゃない。見極めはヒーラーの基本でしょう――」
アンナを止めようとするスチル。
俺はそんな彼女の肩をガシッと掴み、
「まあ、見てろや」
と、そう言った。
「いまから、イタイイタイのビュッビュッしますね!」
「おお、アンナちゃん、いつもみたいにやってくれ!」
「え、嘘よね……?」
重傷の冒険者を連れてきた仲間たちが悲壮感もなく、アンナが治せると疑わない調子で話しているのを見てスチルは違和感を覚えたようだ。
戸惑いながら、しかし食い入るように経過を見つめだした。
「じゃあいきますよー」
パアアアアア。
みるみる修復されていくお腹&手足のボーン。
逆再生シーンを見てるかのように損傷部分が治っていく。
「うっし! 復活したぜ! ありがとなアンナちゃん! これで今日も娼か……げふんげふん、特殊なほうの銭湯に行けるぜ!」
傷を完全に癒してもらった冒険者は礼を言って何事もなかったかのように立ち上がった。
そして受付で素材を換金し、仲間たちと元気よくギルドを出て行った。
「あ、ありえないわ……」
スチルは愕然とした様子でフラフラと後退する。
確かに重傷だったが、ウチで回復魔法が使える子供たちなら不可能というほどではない。
これで驚いてるって……。
やはりコイツ、デカい口を叩いてた割に使えな――いや、子供たちのお手本にならないのでは……?
「相変わらずアンナちゃんの治療はすげえな! それでこの値段は破格だぜ!」
「生きて帰ってくりゃどんな怪我でも全快で次の日も冒険に行けるし、一発の稼ぎが大きいから毎日治療を受けても収支は他所よりプラスになる。ありがてえ話だ」
「ヒョロイカの領地でバルバトスがギルドマスターをやるっていうから来てみたけど、ウレアから移ってきて正解だったわ」
ニコルコに来た冒険者たちは魔境に挑むだけあってどいつもこいつも強者揃い。
強力な魔物相手でも生きて帰ってこれる自信のある猛者たちにとって、怪我のリスクを気にせず大金を稼げるニコルコは絶好の狩り場なのだった。
「で、でも今日はもう回復魔法を使えないでしょ? あれだけの大怪我を治したんだから。力を使い果たしちゃったのよね?」
「え?」
スチルから迫真顔で訊ねられ、きょとんとするアンナ。
「アンナ、今日はあとどれくらい治療できる?」
「はい、領主さま、まだたくさんへーきです!」
「んなっ!? あたしはもうあと数人が限界だっていうのに!?」
仰天するスチル。
あと数人って、こいつマジでダメなやつじゃん……。
「ふっ、緑の髪のねーちゃん、落ち込むことはねえよ」
冒険者の一人が優しい口調でスチルに声をかけた。
「な、なによ……」
スチルが困惑気味に反応すると、
「アンナちゃんには勝てなくても仕方ねーから気にすんな!」
「そうそう! アンナちゃんはニコルコの聖女みてーなもんだから!」
「きっとアンナちゃんより上のヒーラーは大聖国にいる本家の聖女くらいさ!」
「ねーちゃんもかなりいい線いってると思うぜ? 聖女クラスと比べるのが間違いってもんよ」
「その辺のやつらと比べたら相当な腕前だって! 大したもんだ!」
冒険者たちは嫌味ではなく純粋な気持ちでスチルに慰めの言葉を送る。
だが、それらは彼女のメンタルを錆びたナイフでザクザク刺すようなものであることを彼らは知らない。
「そんな……聖女様はもっとすごいに決まってます! わたしなんてまだまだです!」
「ふがっ!」
謙遜するアンナの言葉も追撃でぶっささった。
「ふっ……ふひっ……ふしゅっ……」
なんか痙攣しながら変な呼吸してる……。
いろいろと大丈夫かな……。
やがて、スチルは辛うじて残った気力を振り絞って俺のほうを睨み付けると、
「あ、あたしは聖水を出すことだって……で、できるんだからねッ!?」
なんか、当初の売りとは違う方面のアピールを始めた。
あれだけ回復魔法に自信満々ネキだったのに……。
力にひれ伏せとはなんだったのか。
「ちょっとコップを持ってきて! ほら、行くわよ! んッ! あんっ、くうっ……!」
苦悶の表情を浮かべたスチルの指先から水が流れてコップが満たされた。
「はあはあ……。どう? 聖水を出せる水魔法よ。すごいでしょ?」
「あ、それわたしもできる!」
ジャバジャバジャバダァ――ッ
アンナの手の平から聖水が迸り、その辺にあったバケツを満杯にした。
嗚呼、無慈悲なことを……。
アンナとしては俺にいいところを見せたくて張り切ってるだけなのだろうが。
子供は残酷である。
つか、そもそも聖水はニコルコじゃすでにありふれた水道水だし。
出せるのもコップ一杯がやっとでは、インフラを整備する前の頃でもぶっちゃけ微妙だ。
「こ、こんなことが……け、けど、すごいのはこの子だけでしょ? そうよね? そうに決まってるわよねっ?」
スチルはプライドをボコボコにされ、ギリギリのところで理性を保っている感じだった。
あれだけ大口叩いてこのザマだもんな……。
心中お察しします。
これ以上は現実を見せないほうがいいだろう。
俺がそう思っていると、
「え? ミーシャちゃんとかマックくんもけがを治す魔法はとくいですよ。お水だすやつならパンプくんもじょうずですし――」
アンナが無邪気に事実を述べ、呆気なくスチルにトドメを刺した。
「そ、そんな……」
スチルはガクリと膝を着いて崩れ落ちる。
そして、
「う……うわわあああああああーんっ!!!!!! どぼじてええええええ……こごでもごうなるのおぉおぉおおぉおおおっ!!!!!!」
めちゃくちゃに泣き出した。
ちょっとやめてくれよ……。
他の冒険者たちも困惑してるじゃん。
誰かなんとかしてくれぇ。
「あっ、スチル様! なにやってるのですか! 勝手に外に出て! どうされたのです!?」
ちょうどよくダスクが魔境から帰ってきた。
クレマンスやフェリシテも一緒である。
どうやら彼女たちは今も継続してパーティを組んでいるようだ。
あの二人、意外と面倒見いいな……。
「もう! わけわかんないの! 蛇口を捻ったら聖水が出てくるし! 猫はデカいし! ドラゴンがたまに空飛んでるのに領民は平気な顔してるし! 子供がありえない力を使ってるし! なんなのよ! この町は!」
スチルはダスクを無視し、堪えていたものを爆発させるように捲し立てた。
周りの冒険者たち、何を頷いているんだ?
お前らノリノリで暮らしてるだろうが。
「辺境のド田舎でならあの女が来る前みたいにやれると思ったのに! もうイヤだ! 魔境走ってくるうううううううぅっ!」
「スチル様ぁ! こんな時間に魔境を走ったら危ないのですよ!」
スチルはギルドを飛び出し、それを追いかけてダスクも外に出ていった。
騒がしいやつらだ……。
ギルド内は微妙な雰囲気になり、俺は少しだけ居心地悪い気分になった。
変なやつを連れてきてごめんなちゃい。
「領主さま……わたし、なにかいけないこと言っちゃいました……?」
不安そうに涙ぐむアンナに、俺は何も悪くないよと言ってあげた。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに
試運転中
ファンタジー
山を割るほどに剣を極めたおとん「ケン」と、ケガなど何でも治してしまうおかん「セイ」。
そんな二人に山で育てられた息子「ケイ」は、15歳の大人の仲間入りを機に、王都の学園へと入学する。
両親の素性すらも知らず、その血を受け継いだ自分が、どれほど常軌を逸しているかもわからず。
気心の知れた仲間と、困ったり楽しんだりする学園生活のはずが……
主人公最強だけど、何かがおかしい!? ちょっぴり異色な異世界学園ファンタジー。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる