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『領地経営』編

第108話『オットナリー・ネイバーフッド伯爵3』

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 ヒョロイカに先導され、ネイバーフッド伯爵はニコルコの町を歩いていく。

 木造の古い家屋。

 すれ違う領民のほぼ全員が農民らしきほっかむり姿。

 ネイバーフッド伯爵が幾年か前に訪れた頃と同じ、寂れた田舎のままだ。

(フッ、ここと比べればまだ私の領地は栄えているな……!)

 ネイバーフッド伯爵は、そんな優越感を覚えた。

 普通に案内をされ始めたことで、とりあえず即座に何かされるわけではないと判断したネイバーフッド伯爵は意外と余裕だった。

(しかし、どこか違和感があるぞ……)

 歩き進め、町の中心地に入るとネイバーフッド伯爵はその違和感の正体に気が付いた。
 そうだ――

「領民が身綺麗すぎる……」

 辺境の田舎に住む平民のほとんどは数日おきに水浴びをするか布で拭うかしかしない。
 特に農作業に従事する農民は土や埃にまみれているのが普通だ。
 しかし彼らの肌や髪は王都の貴族と同じ……いや、それ以上に清潔で潤っている。

「まあ、彼らはほぼ毎日風呂に入ってますので」

「ふ、風呂に毎日ですと? 平民が? 一体どうやって……」

 ヒョロイカの言葉に驚愕するネイバーフッド伯爵。
 風呂に入るには大量の水を用意して薪を消費する必要がある。
 彼らが身だしなみのために生活の負担になることをするとは考えにくい。

 農民の生活サイクルを知っていればありえないことだ。

「実は少し前に水道関係のインフラを町全体に整えたんですよ。そのときに領民ならタダで入れる公衆浴場を作りまして」

「無料の公衆浴場? そんなものを平民のためにわざわざ作ってやったのですか!?」

 そういえば、町の中心部分は人通りが増えていて活気が以前とはまったく違う。
 並んでいる家屋もあばら家ではなく、しっかりした造りのものに変わっている。
 確かに最近のニコルコはすさまじい勢いで発展していると噂には聞いていた。

 だが、それはあくまで昔と比較してだとネイバーフッド伯爵は思っていたのだ。
 彼の知るニコルコは自給自足の農村を規模だけ無駄に大きくしたような町。
 そんな町が多少の発展をしたところでたかが知れている……そう考えていたのだ。

 しかし、ここにある町並みはすでにネイバーフッド伯爵の領地を上回っている。

 詳しく話を聞けば公衆浴場は聖水を沸かした湯で、それどころか町の生活用水すべてが聖水で賄われているらしい。

 下水の工事も町全体に済ませているのだとか。

 街道を移動して町に着いた瞬間はいつも糞尿の臭いが気になるものだったが、今日はそれがなかった。
 ニコルコには糞尿が落ちていないのだ……。
 こんな田舎の領地に連邦の首都と同等の設備が施されている。

(あ、ありえん……!)

 まさか町全体がここまで大掛かりな変化を遂げているとは……。
 呆気にとられていたネイバーフッド伯爵だったが、ニコルコは彼に落ち着く隙を与えることはなかった。
 さらなる追撃。

「な、ななな……!」

 茶、白、灰。
 様々な色の毛玉集団。
 猫の姿をした巨大な怪物たちが猛然とこちらへ近づいてきていたのだった。





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