全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-

のみかん

文字の大きさ
111 / 169
『領地経営』編

第110話『会食』

しおりを挟む






 無事、屋敷まで案内されたネイバーフッド伯爵は入浴を勧められて湯に浸かっていた。

 浴場に張られた湯は聖水だった。

「生活用水が聖水というのは本当だったのだな……」

 温められた聖水を手で掬いながらネイバーフッド伯爵は呆然と呟く。
 こんな贅沢に聖水を使うことが許されている領地が他にあるだろうか?
 あの大聖国ですら聖水を文字通り湯水のごとく使うなどありえないというのに。

 ニコルコという領地の底力は一体どれほどのものなのか?

「考えるだけでも恐ろしいな……」

 あの男は一体何者なのだろう。
 魔王を倒し、様々な奇跡を起こす者……。
 ネイバーフッド伯爵は、そんな存在に一つだけ心当たりがあった。

 そう、まるでヒョロイカは――

「いや、だがそれではなぜ陛下はヒョロイカを陥れようとしているのだ?」

 なぜ、召喚は失敗したなどと公表したのだ?
 …………。
 最後に見せられた騎士団の演習風景がネイバーフッド伯爵の頭をよぎる。

 ヒョロイカは軍事面も抜かりなく強化を進めていた。
 あれほど練度の高い騎士が揃っているなら、数で勝る王都の騎士団とも渡り合えるだろう。
 いや、魔王を倒したヒョロイカが率いるのならそれどころか――


「…………」


 十分に温まったネイバーフッド伯爵は湯船から立ち上がった。
 この後はヒョロイカとの晩餐会である。
 果たして、自分はどうすればよいのだろうか?

 想像をしていた以上にこの件は闇が深いのかもしれない。
 湧き上がった疑念と際限ないプレッシャーに押し潰されそうになりながら……。
 ネイバーフッド伯爵は夕食という名の戦場に赴くのだった。



◇◇◇◇◇



 夜。

 屋敷にて俺はネイバーフッド伯爵と二人で食卓を囲んでいた。
 テーブルに並ぶのは魔物のステーキなど、ニコルコで取れる食材をふんだんに使った料理。
 ワインも連邦から取り寄せた高級品である。

 普段の夕食はデルフィーヌやエレンやベルナデットたちも一緒なんだが、今日は客人とサシで対話したいから席を外して貰っている。

 壁際にはジャードとエレンが控えてくれてるけど。
 給仕係としてメイド長とメイドさんたちもいるけど。
 基本的に口を開くのは俺とネイバーフッド伯爵の二人だけだ。

「料理の味はいかがですか? ネイバーフッド伯爵?」

 ここで親睦を深めることができれば領地の横の繋がりが強化される。
 なので、割と失敗できない重要な会食である。
 俺は積極的に会話を振って友好度アップに勤しんでいた。

「ええ、かなり美味ですよ……」

 どうやらお気に召してくれたらしい。

『かなり微妙ですよ……』の聞き間違いじゃないよな?

 まあ、これで駄目ならニコルコのメシ全否定だからね。

 ネイバーフッド伯爵がグラスやフィンガーボールの聖水を見て『ここも聖水か……』と感嘆の息を漏らしていた。

 うんうん。
 ここまでの行動は概ね好印象に繋がっていると見て間違いない。
 では、さらに駄目押しといこうか。

「こちらはニコルコの名産として考えている一品なのですが……。よろしければネイバーフッド伯爵の意見をお聞かせいただけないでしょうか?」

 俺はメイド長にスシを持ってくるよう伝える。
 後ろに控えていたエレンが『あの腐ったコメ料理を出すのか……』と小さく呟いた。
 だから、腐ってねえって言ってるだろがッ!

「これは……生の魚ですか?」

 寿司を目の前にしたネイバーフッド伯爵が表情を青くさせる。
 やはり拒否反応を示すか……。
 文化の違い、さながらベルリンの壁のごとし。

 なかなか乗り越えることは難しい。

 だが、ベルリンの壁ならいつかは壊せるのだ!

「スシと合わせてこちらの酒も召し上がって下さい」

 トクトクトク。
 メイドさんがネイバーフッド伯爵に新しいグラスを出して日本酒を注いだ。
 手応えがよくないなら切り替える。

 ヒット・アンド・アウェイで畳み掛けていく作戦。

 会話の勢いで一口は食わせてみせるっ!

「ふむ、随分と透き通っていて美しいですな……ヒョロイカ殿、この酒は一体?」

「はい、その酒はニホンシュといって、コメと聖水で仕立てたニコルコの特産品です」

「ニホンシュ? また聖水なのか……」

 ネイバーフッド伯爵は再び感動の溜息を吐きながらニホンシュを口に含んだ。

 よし、引き続き心に響いているな!

「…………」

 ニホンシュを口に含んだ瞬間、ネイバーフッド伯爵は目を大きく見開いた。

「ヒョロイカ殿……」

 グラスをゆっくりとテーブルに置いたネイバーフッド伯爵は神妙な表情で俺の顔をちらちら伺ってきた。
 何かを言おうか言うまいか迷っている。
 そんな雰囲気である。

 ふふっ。これはあれだろ?
 わかってるよ?
 あまりの美味さに感激して絶賛が始まる流れ――


「ここまで領地を成長させて貴殿は一体、何をなさろうとしているのです? まさか本当に謀叛を企てているのですか?」


 ――じゃなかった。

しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに

試運転中
ファンタジー
山を割るほどに剣を極めたおとん「ケン」と、ケガなど何でも治してしまうおかん「セイ」。 そんな二人に山で育てられた息子「ケイ」は、15歳の大人の仲間入りを機に、王都の学園へと入学する。 両親の素性すらも知らず、その血を受け継いだ自分が、どれほど常軌を逸しているかもわからず。 気心の知れた仲間と、困ったり楽しんだりする学園生活のはずが…… 主人公最強だけど、何かがおかしい!? ちょっぴり異色な異世界学園ファンタジー。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...