113 / 169
『領地経営』編
第112話『「いえ、しませんが?」』
しおりを挟むネイバーフッド伯爵は何も聞いてないのに勝手にペラペラ白状してきた。
どうやら彼は俺を嵌めるため、王城から指示を受けて送り込まれてきたらしい。
本当は関わりたくなかったが、ハルンケア8世の圧力を恐れて断れなかったのだとか。
「ですが、ヒョロイカ殿はすべてを知った上で私を許し、危険なことは何もないと、困っているなら手を取れと言って下さった! 権威を振りかざして理不尽に振る舞う陛下より、私は慈悲深い貴殿を信じたいと思いました……!」
ネイバーフッド伯爵は、どうにも俺がその辺のことをすべて把握していたと思っているようだった。
そして彼の中では俺がそれらをすべて許したことになっていた。
いや、よくわかんないんだけど……?
どこにそんな要素あった?
「貴殿が一体何をしようとしているのか、浅はかな私にはわかりません。ですが……貴殿の仰ったように、深く関わっていくことで本質を見極めさせて頂きたいと思います!」
彼は自分を許してくれた俺に非常に感謝しているみたいなのだが……。
正直なんのことか意味不明だ。
あの話の流れでどうしてそう考えるに至ったんだろう?
確かに仲良くなろうぜって言ったけど。
工作員だったとか全然知らなかったから、許すとかは言ってないと思うんだけど。
あれか? 困っていることが策謀に巻き込まれてることだったってことか?
結局……。
ハルンケア8世の命令に従ったのは家を守るために仕方なかったということ。
これから俺と親交を深めたいということ。
この二つに嘘がないのは真偽判定スキルで確認できたので、俺は特に訂正しないで彼を受け入れることにした。
せっかく恩義を感じているのだから利用できるものはしておくに限る。
そういう判断だ。
「そういえばネイバーフッド伯爵は先ほど私のことを勇者と仰いましたが……」
「ええ、魔王を倒して様々な奇跡を起こす存在といえば勇者様以外におられますまい?」
「でも、召喚は失敗で俺は勇者の代わりに魔王を倒した冒険者だと公国は発表してますよね?」
「それは何かの策謀で勇者ではないことにされたのだと思ったのですが……違いましたか?」
「おお……」
ウレアの街では勇者だぜって言ってもなかなか信じてもらえなかったのに……!
ネイバーフッド伯爵って、もしかしてすごくいい人なのではないか……?
俺の中でネイバーフッド伯爵の株が爆上がりした。
その後、ネイバーフッド伯爵は肩の荷が下りたのか機嫌よくニホンシュとワインをグビグビ飲み始めた。
スシも気に入ったらしく、バクバク食べて絶賛してくれた。
「実は私にはなかなか器量よしの娘がおりましてな……よろしければヒョロイカ殿のところで行儀見習いをさせていただけないかと……」
「はあ……」
酔っ払って顔の赤いネイバーフッド伯爵の申し出に頷いたりしながら、会食はいい感じの雰囲気で終わりを告げた。
◇◇◇◇◇
ネイバーフッド伯爵が客室に戻っていった後。
俺は執務室でジャードと密談っぽい会議をしていた。
「どうだったよ、俺の華麗な社交スキルは? しっかりと伯爵をこちら側に引き込むことに成功したぜ?」
俺はウキウキで語る。
想定してないこともあったが、最終的には上手くまとまった。
さすが俺だろう?
「はい、ネイバーフッド伯爵を取り込めたのは大きな成果ですね。彼は中央に影響力のある貴族ではありませんが、この辺り一帯に領地を持つ地方貴族たちには顔が利きますから。ニコルコの地盤を固めるためには是非とも懐柔しておきたい相手でした」
ジャードが珍しく手放しに成果を褒めてくる。
どうやらネイバーフッド伯爵は俺が思っていた以上にキーパーソンだったようだ。
「まさか向こうから負い目を背負って飛び込んでくるとはね……。労せず貸しのある関係を築くこともできましたし、ネイバーフッド伯爵を駒に選んだハルンケア8世の愚かさには感謝しなくてはいけません」
ジャードがとても楽しそうな顔になっている。
楽しそう、と言っても笑っているわけではないけれど。
でも、多分、俺が見てなかったら『ひゃっほう!』とか叫びながら小躍りしてるぜ。
「いえ、しませんが?」
「…………」
心を読まれた。
相変わらず鋭い男である。
それとも俺が口に出していたのだろうか?
真相を確かめる勇気は俺にはなかった。
◇◇◇◇◇
宛がわれた客室でネイバーフッド伯爵は窓から夜空を眺めていた。
「フッ、そういえばアレに言及する余裕もなかったな……」
魔境にそびえ立つ謎の高い塔を見つめながらネイバーフッド伯爵は苦笑する。
公国内では他国の魔王軍が作った新兵器なのではとも噂されている建造物。
普通に考えれば真っ先に確認すべき事項だったが……。
考えることや驚くことが多すぎて忘れてしまっていた。
明日の出立の前に訊ねてみるべきだろうか……?
「まあ、ヒョロイカ殿が放置してるのなら、きっと大丈夫なのだろう」
ネイバーフッド伯爵は欠伸を漏らしてベッドに潜り込む。
彼の目の前でブラックドラゴンがその塔に入っていったりもしたが。
それでも彼は気にせず就寝した。
ニコルコでの様々な体験によって、ネイバーフッド伯爵はいろんなことをあるがままに受け止める性格を体得していたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに
試運転中
ファンタジー
山を割るほどに剣を極めたおとん「ケン」と、ケガなど何でも治してしまうおかん「セイ」。
そんな二人に山で育てられた息子「ケイ」は、15歳の大人の仲間入りを機に、王都の学園へと入学する。
両親の素性すらも知らず、その血を受け継いだ自分が、どれほど常軌を逸しているかもわからず。
気心の知れた仲間と、困ったり楽しんだりする学園生活のはずが……
主人公最強だけど、何かがおかしい!? ちょっぴり異色な異世界学園ファンタジー。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる