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『勇者伝』編
第158話『僕は中二病なんかじゃないです!』
しおりを挟む「僕はね……この世界に来てすぐに魔王軍の幹部を追い払ったんですよ?」
ハスミは何かのアピールを始めた。
「普通の勇者とは格が違うんです。僕は、あなたや他の二人と同列ではないんですよ」
「俺は召喚されて数分で魔王を倒したけど」
あのリクだって幹部を一人倒している。
まあ、死体の処理を適当にやったせいでアンデッド化して蘇ってたが。
それでも一回倒してるのは確かだし、追い払ったよりは戦績として上だろう。
大聖国のJKは知らん。
「あ、あなたは魔王を倒しましたけど、国から勇者だとは認めてもらえなかったんですよね? だったらそんなのはナシですよ。ノーカウントです。人の行いは誰かに観測されて初めてそこで実績になるんです!」
必死に自分のほうが上だという主張をしてくるハスミ。
これはアレか……?
もしかしてマウントを取りに来ているのか?
強さアピールや偉大さアピールで要求を呑ませようとしているのか?
「僕は国から勇者であると認められた勇者なんです。貴方とは違う特別で本物の勇者なんですッ! なにせ、召喚されてすぐに他国の魔王幹部が偵察にくるくらい警戒されていたんですから!」
「他国の幹部?」
「ヒザマとか言ってましたね。ハッ、僕の弓に恐れをなしてすぐ逃げていきましたよ」
おお、ヒザマ……。
地味に懐かしい名前だ。
そいつは公国の魔王軍の鳥野郎じゃないか。
そうかぁ、ハスミが追い返した魔王幹部ってヒザマだったのか。
あいつって俺が召喚されたときは魔王城にいなかったけど、共和国に行ってたのね。
でも、本当にヒザマはハスミの偵察に行ってたのか……?
王国や大聖国には派遣してなかったっぽいのに、共和国にだけ幹部クラスが見に行くってそんなことある?
まだどの勇者がすごいかなんて情報が出揃ってたわけでもないのに。
「それってさ――」
「これでわかりましたかね。僕という勇者の尊さってものが!」
「…………」
ハスミが得意気に胸を張る。
俺に意見する余地すら与えないのか。
大体、お前が追い返しただけのやつを俺は倒したんだが?
うーん、こいつあれじゃね?
強大な力を手に入れて、それで周りにおだてられて増長してない?
この状態は青少年の成長上、あまりよくないルートを辿っているのでは……?
ここは年長者として彼の驕り高ぶりを指摘してやったほうがいいのかもしれん。
「誰に何を吹き込まれたのか知らんがな……」
俺はできるだけ言葉を選んで伝ようとする。
この年頃の少年の自尊心は非常に高く、それでいて情緒は激しく不安定だから。
「なんつーか、自分を特別だとか、偉いとか……あんまり、そういうふうに思い込んでいくのはよくないと思うぞ? もし思っていても周囲を見下す発言は控えるとかさ。いきなりチートを得て、全能感みたいなものがあるかもしれないけど――」
「ぼぼっぼっ、ぼ、僕は中二病なんかじゃないです! 異世界で勇者になったんですから! 思い込みなんかじゃなくて本当にすごかったんだよッ! 他の有象無象とは違う、選ばれた人間だったんだ! 弱くない! 妄想じゃなくて強いんだッ!」
めちゃくちゃ早口で怒鳴られた。
別に中二病とまでは言ってないんだけど。
もしかして自覚あったの?
あるいは異世界に来る前はそうやってからかわれていたとか……。
「くっ……!」
俺の視線から考えていることを悟ったのか、ハスミの頬にサッと赤みが差した。
「だから嫌なんですよ……弱者を何とも思っていない権力のある人間は……」
「おい、どうした?」
俯いてブツブツ言い出したハスミに声をかける。
どうやら俺はナイーブな思春期の少年の心を傷つけてしまったらしい。
子供の教育って難しいね。
「あなたのような人が権力者になんてなっているのがおかしいんだ。僕が領主だったらもっと弱い立場の人に優しくするのに……。そうか、そうだよ! 他の誰かが治める土地に住まわせてもらおうとするから今までも上手くいかなかったんだ!」
「待て、あまり早まったことはするべきじゃない。迸るリビドーと冷静に向き合うんだ」
嫌な予感がした俺はハスミを宥める。
しかし、
「おじさん、僕に領主の座を譲って下さいよ。僕が領主になれば……この場所の王になればもっと皆を幸せにすることができる」
ハスミは背負っていた弓を手に持ち、俺に向けて構えた。
おいおい、言っちまいやがったよコイツ。
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