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『勇者伝』編
第162話『フランソワ』
しおりを挟む運ばれてきたスシを頬張るスチルをやるかたなく眺めていると、応接室の扉がコンコンとノックされた。
「おーい、領主様。お客さんが来てるけど、どうすんべ?」
応接室に入ってきたのはメイド長だった。
そういえばこの人、未だに田舎のおっかちゃん全開なんだが。
果たしてメイド長のままでいいんだろうか……。
トラブルになったという報告は一切ないから、案外来客には洗練された所作で対応しているのかもしれない。
知らんけど。
「誰が来たんだ? 今日はスチル以外に来客の予定はなかったと思うけど」
「ハスミって人のところの魔道士様らしいだよ。なんか大事な話があるとかって」
「大事な話?」
またハスミを解放しろって訴えにきたのかな……。だったら、ぶっちゃけ会わずに追い返したい。今のところまったく進みがなくても、今日はスチルとこれからの方針を詰めなくてはならないのだ。
「ハスミってマーケットであんたに喧嘩を売ったバカよね? 噂で聞いたわ。その仲間が来たってことはきっと物申しに来たのよ! いいじゃない、ここに呼んでやれば。そういう聞き分けのない人種にはガツンと言ってやらなきゃダメなのよ!」
「…………」
スチルがもっともらしい口調で言う。
どの口がそれを――と思ったけど俺はツッコまなかった。
俺は大人の男だから。
「失礼するわ」
しばらく経って、長い耳の金髪美少女が部屋に入ってきた。
エルフの魔道士。来客は彼女だったか。
「ええと、お前は――」
名前はハスミが呼んでいたから知っている。
確か、フラ……フラン……? クッ、頭が……。
鼻のでかい金髪の男が脳裏をよぎった。違う、そいつじゃない。
いや、なんて名前だったっけ?
「フランソワよ」
俺が覚えていないのを察した彼女は自ら名乗ってきた。
そうそう、フランソワだ。
あれ? でもフランソワって……。
「なあ、お前さ、その名前――」
「この名前はハスミにお願いしてつけてもらったの! 奴隷だったあたしを助けてくれたハスミに、過去と決別して生まれ変わった気分で生きていきたいからって頼んだら一生懸命考えてくれたのよ!」
誇らしげなフランソワ。
これが彼女のハスミ信者になったエピソードの一端か……。
「そうか、名付けたのはハスミか……」
異世界なら常識も違うと思ったけど。
フランソワって地球だと確か男性名だった気がするんだよな。
女性ならフランソワーズとかそんな感じになるはず。
まさか……! こいつもリクのパーティメンバーのタチアナみたいに――
「お前って実は男だったりするの……?」
俺は恐る恐る訊く。
すると、
「は? どこを見たらそう思うの?」
フランソワは不快そうな表情を浮かべた。
そこまで顕著ではないが、彼女はどう見ても女性的な凹凸のある体型をしていた。
「うっわ、ちょっとぉ。あんた、いくらなんでもそれはないわよ……」
スチルも軽蔑したような視線を向けてくる。
「うん、まあ、そうだよな……すまん」
いくらアレな相手でもデリカシーに欠けた発言になってしまった。
普通に見たら疑うほうがおかしいことなのに。
どうやらタチアナは俺に根深い猜疑心を残していったらしい。
容姿に限らず、いろいろと固定観念を崩す衝撃を見せていったからねあの人……。
しかし、ハスミは何を考えてエルフの少女に男性に用いられる名前を付けたのだろう?
多分、語感で決めて現地での使われ方を知らずにつけちゃったんだろうな。
そういうふうに推察する。
まあ、彼女の名前の意味なんてこだわるポイントじゃないんだ。
ちゃっちゃと話を進めていこう。
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