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『領地経営』編
第56話『神の使徒』
しおりを挟む悲しい誤解もあったが、万事解決である。
幼女は苦しさが抜けて安心したのか眠りに着いた。
「本当に助かりました。ところであなた方は……」
シスターが不安そうに窺ってくる。
いきなりすごい魔法で治療したらこいつ何者だよって思うよな。
しかもこんな田舎になんでいるのって。
周りの領民たちも怪訝な視線を送っていた。
「シスター、この方たちは新しくニコルコを治めることになった領主様とお連れの方々です」
「あ、ジャードさん。あの、えっと……りょ、領主様でいらっしゃいましたか……! そ、その! なんとお礼を申し上げてよいものかっ……!」
シスターは慌てて恐縮し、両膝を着いて深々と頭を下げる。
他の住民たちは普通に立っていた。
「リョーシュってなんだべ?」
「さあ? どっかで聞いたことあるような……」
「治めるって、代官様とは違うんだっぺか?」
周りの野次馬たちの会話が聞こえた。
あん? 領主の意味を知らない? どうなってんだ?
「ニコルコは長い間、代官による管理で統治されてきたので領民たちにとっては土地を治める者といえば領主ではなく代官なんです。付け加えるなら、貴族ともほとんど関わりがないのでその辺に関しても疎いです」
ジャードが補足してくる。
説明ありがとよ。
領主どころか貴族も知らないって、こいつら俺より異世界人じゃねえかよ。
シスターはよその土地から派遣されてきたので知ってるっぽい。
とりあえず挨拶しとくか。
チィーッス、領主でぇーす!
領民の反応は鈍かった……。
「どうやらこの子、わたしたちに心配をかけないように苦しいのを黙っていたみたいで……」
シスターは幼女が倒れた経緯をボソボソと語りだした。
俺が助けた幼女は教会で預かっている孤児の一人らしい。
周りにいた子供たちもほとんどが幼女と同じく孤児だった。
「昨日も少し食欲がなかった気がしてたんです……もっと早く気づいていれば……」
「はあ……」
ぶっちゃけ、そんな話されても……。
だけど、ちゃんと聞きますよ。
第一印象が大事だからね。
領民の言葉に耳を傾ける心優しい領主様アピールです。
ふむふむ……なになに?
ニコルコでは小さな子供が命に関わる病気にかかることは珍しくない?
新生児の死亡率は四割に達する?
なんだそら、ふざけてやがるな。けどまあ……当たり前だよなぁ?
人糞だけじゃなく、馬糞に牛糞――
ありとあらゆる生物の糞がそこらに転がっているんだから。
へえ、王都とかの大きな街では医者や高位の神官がいるから死亡率は低いの?
自分にもっと力があればって……そんな思い悩んでも仕方ないよ。
ほら、町を清潔にすれば病気になる確率は下げられるからさ。
これからそういうふうに改革していくつもりだし、前を向いて行こうぜ?
そんな話をすると、
「聖女様を上回る回復魔法に誰も知らないような素敵な知識……もしかしてあなた様は神の使徒なのですか……!?」
シスターが興奮したように俺の手をぎゅっと掌で包んできた。
『 ウイイイイイイイッッッッス。どうも、神でーす!』
脳内でうるさいやつの声が響いた気がした。
嫌な幻聴だ。
「おお……神よ……このお方との巡り合わせに感謝します……」
ぶつぶつ唱えてるシスター。
彼女の細い指先をモミモミする。
はあ、猫のお腹の柔らかさが懐かしいな。
これからよろしくね。
「ジロー……いつまで彼女の手を触ってるの?」
デルフィーヌたちがゾッとしたように表情を引きつらせていた。
いや、違うんだってば。
「ほう、これが俺の住む屋敷か」
シスターたちと別れ、しばらく歩いて領主の館に到着。
領主の館は二階建ての厳かな洋館だった。
ボロい? 歴史を感じさせる趣があっていいじゃないか。
は? 五年前に立て替えたばかり?
…………。
「入り口はこちらです」
ジャードの先導に続いて屋敷の中へ。
騎士団長ゴードンはさり気なく消えていた。
彼は結局一言も喋らなかったけどシャイなのか?
ガタイ的には最強なのに。見た目に反比例して空気みたいな存在だった。
屋敷に入ると使用人を紹介された。
爺さんの執事、おばさんのメイド長、それから若い女の子のメイドが二人。
あと料理人の兄ちゃん。
メイドの若い子たちを除く使用人たちは住み込みで一階に暮らしているらしい。
俺たちの部屋は二階?
部屋割りどうしよっか。
俺が一番広い部屋貰っていいの?
まあ、当主だからね。遠慮なくそうさせて頂こう。
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