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『領地経営』編
第70話『商談』
しおりを挟むズズズズッ……。ジャードとジゼルのやり取りの横で俺はゆっくり茶を啜る。
「ジゼルさん、確かに我々にはあなた方の商会と取り引きできるものがあります」
「はい、存じてます。資源がたくさんあるんですよね?」
「…………」
いきなり言い当てられ、イニシアチブを取られたジャード。
そこまで知られてるのか。どうなってんだ? まだスパイがいたのか?
いや、連邦の商人がド田舎のニコルコにスパイを置いとく意味なんかねえよなぁ。
「……あなたは我々が作った新しい街道を通って来られたのですよね?」
「はい、丁寧に整備されていて馬車の揺れも少なく、とても助かりました」
「我が領が連邦と道を繋げたのはつい先日ですが。なぜ魔境からニコルコを目指そうと? 街道の存在をご存じだったのでしょうか?」
街道の工事はその日に決定してその日に完成したからな。
噂を聞いて完成を予測して行動したなどという言い訳はできない。
「はい、お兄様がそろそろ魔境に連邦と公国を繋ぐ街道が完成しているはずだから、そっちのほうが安全で近いと仰られたのです。あ、お兄様というのはウレザム家の三男、マックス・ウレザムお兄様のことです。わたしは商会長の次女でして――」
またお兄様……。
俄かに信じ難いが、鑑定に引っかからないので恐らく彼女は嘘を言っていない。つまり、マックスという彼女の兄が街道の完成を言い当てていたこと、大きな商談のチャンスがあると言ったことは事実なのだ。
どうしてマックスお兄様とやらは俺たちの状況を詳細に把握している?
超能力者なのか? あるいは未来人? 宇宙人ではないだろうけど。
「お兄様はすごいんです。昔から何でもお見通しなんです……」
ジゼルは頬を朱色に染め、誇らしげな表情で身をくねらせる。
うわぁ……この子、いわゆるブラコンってやつなのかしら。
彼女は兄の指示に従っただけみたいだし、究明は難しそうだ。
「なあ、ひょっとして俺たちが何を欲しいのかもわかってたりするの?」
「はい、我が商会は下水の敷設工事も請け負っていますよ。連邦の首都では下水や水道の一般化が着々と進められています。そして、その開発事業を責任を持って取り仕切っているのが我々ウレザム商会なのです!」
「…………」
「…………」
俺とジャードは閉口。まさかここまでとはな……。
「もし専属契約を結んで頂ければ商会の権限でそれらの工事をニコルコにも優先的に手配することを約束できます! ハルン公国にはまだ大規模な導入工事を行なえる技能は伝わっていませんよね?」
ジゼルはショートカットの銀髪を揺らし、蠱惑的に微笑んだ。
「その他にも我が商会は様々なノウハウを有しております。例えば――」
それから俺はウレザム商会が持つ数々の先進的な商品のプレゼンを聞いた。
それらはいわゆる知識チートと呼ぶに等しいレベルの発想だった。
…………。
間違いない。
こいつらは俺が具体的なメソッドを理解していなかったために再現できなかった現代の発想に近いものを持っている。
普通の貴族なら理解が及ばず、すぐに受け入れる判断を下すことはできないだろう。
しかし、俺はそのどれもが人々の生活を豊かにする価値あるものだと知っている。
これらを王都に先んじて領地に取り入れることができれば――
どうしてウレザム商会が文明にそぐわないアイディアを思いついたのかは気になる。
俺たちの状況を的確に掴んでいたことも……。
だが、取り越し苦労で逃すには惜しい案件であることは間違いない。
とりあえず乗ってみるか……。
マックスお兄様とやらにはいずれ会って詳細を問い詰めなければならんが。
仮に裏があったとしてもなんとかなるだろう。
今までもそういうノリでやってきたし。
「わかった、じゃあ詳しい話をしていこうじゃないか!」
「はい、ありがとうございます!」
俺はジゼルと商談に進むことにした――
「ヒョロイカ卿……私の意見も聞かずに……任せると言ったのに……ブツブツ」
ジャードが俺にしか聞こえない小声で愚痴っていた。
そういえば言ってたね……ごめん……。
細かい交渉の後、俺たちはジゼルと――ウレザム商会と契約を結んだ。
ジャード曰く、事前に見積もっていた条件よりも何割か上の条件を提示されたらしい。
俺は眺めていただけなのでよくわからんが。
契約を終えるとジゼルは工事の手筈などを整えてくると言って速攻で連邦に帰っていった。
すごい嬉しそうだったな。
めっちゃ張り切ってた。
泊って行けば魔物肉のステーキとかを食わせてやったんだけど……。
なんにせよ、これでやっとうんこの臭いから解放される。
スカっとするな。
うんこだけにスカっと……なんてね?
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