刈リ取ル者 ~俺をいじめた奴を悪魔の力で叩き潰した挙句正義の味方名乗ってるけど文句あるか?~

あがつま ゆい

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天使と悪魔

Scene.13 再会

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 刈リ取ル者と真理達のファーストコンタクトから一夜明けた。

「真理、昨夜の戦いはご苦労だったわね。無理しないで。貴女はしばらく休んでなさい」
「ザカリエル様! でもあの悪魔は!? 刈リ取ル者はどうなさるおつもりですか!?」

 Aランクである自分ですら倒せなかった危険すぎる存在をどうするつもりか? 真理はザカリエルに迫る様に問いただした。

「最近スカウトした人に優秀な人がいてね、試しに派遣することにしたの」
「いくら優秀だからって、Aランクの私ですら倒せなかったあいつは
 ちょっとやそっとの優秀な人程度ではどうこうできる存在ではございませんよ!?」

 聞いた話によるとAランクは日本国内では自分一人らしい。それだけ稀な逸材である自分に匹敵する、あるいは上回る存在でなければ奴は止められない。そんな思いを胸に彼女は訴えた。

「『There is always a greater power.(上には上がいる)』 お分かり?」
「私より上……? Aランクより上があるのですか?」
「ええ。あるわよ。人間を超え、私たちの領域に足を踏み込むことが出来た人類の歴史上でも類稀な存在……Sランクよ」
「Sランク……初めて聞きますけど、強いのですか?」
「どれだけ過小評価したとしても、ざっとあなた10人分ね。AランクとSランクはそれだけの差があるわ。……そう。圧倒的な差が」



 ピーンポーン


 朝からドアのチャイムが鳴る。誰だろう。宅配にしては早すぎる。というか、そもそも何か注文した覚えもない。
 疑問に思いながらも乃亜は扉を開ける。外にいるのが存在しないはずの生き物であるとも知らずに。

「はーい。誰ですか?」
「ただいま。お兄ちゃん」

 扉を開けるなり、乃亜に掛けられる言葉。今でも忘れられない、半ばトラウマだった姿と声に乃亜は身体が固まる。
 そこにはかすり傷一つすらついてない、しかし確かに死んだはずの少女が今までのものとは違う、天使の姿をした少女と同じ制服を着て立っていた。

「美……歌……」
「話したいことは山ほどあるけどとりあえず警察署寄って、そのあと裁判所で遺産分割協議っていうの? それやろうね。いい?」
「あ、ああ……」

 美歌はいたって平穏に、ともすれば淡々とした口調で言葉を紡ぐ。
 あの日、やらかしたことのでかさに対して怒っているわけでもなければ恐れているわけでもなさそうだ。
 乃亜にとって何故生きているかも不明な上にその心が読めない分余計に不気味だった。

 (どうなってんだよ……マジで生き返ったのか? アイツ。ミスト、何か分かるか?)
 (わかんねえ。天使の仕業だとは思うけどどうすりゃ死んだ人間が生き返るのかもわからねえ)

 人外の存在であるミストでさえ何も分からないらしい。ただただ不気味だ。



「おお! 美歌ちゃん! 無事だったか! 美歌ちゃん。おじさんは聞きたいことがあるんで色々話してくれないかな?」

 刑事が安堵の声をあげる。
 これまでの経緯を聞くため取調室で事情を聴くことになった。

 事情聴取が終わるまでの待つ間、乃亜は考えていた。
 何故生きている? という根本的な謎と何故今までとは違う制服を着ていたのか、つまりは転校したのか?
 しかもよりによってあのDランクの天使たちが通ってた学校へ。という今日彼女と出会って浮かんだ謎。

 考えたが答えは出ない。
 確か美歌の血の跡を消したのは天使の仕業だとミストは言った。だったらなぜそんな手間ひまかけてあまつさえ彼女を生き返らせたりしたのか?
 天使たちにとってそうまでして彼女に肩入れするのは一体何のためか? ……謎だ。

 「一人暮らし」を始めてから買ったスマホで時間つぶしをしようという考えに至る前に取り調べは終わり、2人はその足で裁判所へと向かうことになった。

「では遺産相続についての協議を始めましょうか」

 何故か予約が入ってた遺産相続の件は意外にもサクサクと進んだ。特に遺書も残っていなかったから法令に基づき両親の遺産は乃亜と美歌の半々で分けることでおおむね合意した。
 現金以外の財産については後日話し合うという事でその日の協議は終わった。



 諸々の手続きを終えて2人が自宅に帰ってきたのは夕方を過ぎていた。
 兄は妹に根本的な謎を問いかける。

「美歌……何故生きてるんだ? お前は死んだはずだろ?」
「確かに一回死んだよ。でも天使と契約して、力を貰ったの。それで生き返る事が出来たの。ま、私は特別だからね」
「天使だと!?」
「お兄ちゃん……私『あの時』言ったよねぇ?」

 いつの間にかうつむいた美歌が顔をあげる。

「どんな手を使ってでもテメーをぶっ殺してやるからなってよぉ?」

 殺意剥き出しの血走った目。下劣な劣等生物に吐きかけるようなドスを利かせた声。兄をストレス解消のサンドバッグ扱いする時の美歌になった。
 直後、美歌の身体が光に包まれる。と同時に家全体を一瞬で結界が覆う。

「これは……結界!?」
「ヤバいよ乃亜! アイツから俺と逆の力を感じる! それもとんでもなく強い力が!」

 ミストが実体化しながら悲鳴に近い声をあげる。それで我に返った乃亜は反射的に≪超常者の怪力パラノマル・フォース≫で異形の怪物の姿に変身する。
 それから1テンポ遅れて光が消えると、彼女は真理よりずっと豪華な装飾が施された衣裳に身を包んでいた。

「まぁいいや。とりあえずテメエの強さってもんを測定してやるよ。オレのボディに最高に鋭い一撃を頼むわ」

 美歌が人差し指をクイクイと動かしながら挑発するかのように言い出す。乃亜は2~3秒ためらったが言われたとおりにボディに右の拳を食らわす。
 美歌は直撃を食らったにもかかわらず吹き飛ぶどころか微動だにしない。まるで地中に何十メートルもの杭でも打ち込んで固定したかのように全く動かなかった。

「なっ……!」

 乃亜は驚き、戸惑う。今度は拳よりもさらに威力の高い蹴りを食らわす。が、結果は同じ。やはり美歌は吹き飛ぶどころかよろける事すらなかった。

「だったら!」

 乃亜とミストは顔を向けあい、こくりとうなづく。乃亜は美歌の顔面目がけて拳を、ミストは腹目がけて蹴りを食らわす。すると今度は美歌が右の拳を繰り出して乃亜の拳を殴った。
 拳と拳が激しくぶつかり合う。と同時に生温かいものに包まれていた右手に外気が触れる感覚が伝わる。乃亜が拳を見ると≪超常者の怪力パラノマル・フォース≫で包まれていた右手の装甲が剥がれて生身の右手が露出していた。
 ミストの攻撃もまともに食らったはずなのに一切効いていないのか全く気にしている様子はない。

「誰が2人いっぺんに来いっつったんだボケ。許可してねーことしてんじゃねえよクソが。
 まぁいいや。オレにとってオメーらはムシケラ以下だってことがよーく分かった。
 そんなムシケラごときがオレに楯突くどころか殺しまでやったんだ。どうなるか分かってんだろうな?」

 美歌が床を蹴って乃亜目がけて跳躍する。それが反撃開始の合図だった。美歌の1発目の左の拳で腹の装甲が砕け、2発目の右の拳で美歌の腕が胴体を貫通した。

「おごっ!」
「させるかっ!」

 その間にミストが割って入って美歌に殴りかかる。が、効いている様子が全くない。

「邪魔なんだよ。テメェ」

 美歌がイラつきながら彼女を殴る。拳は1撃で結界を貫通し、さらに胸をも貫いた。加えて止めの一撃と言わんばかりに頭を殴り砕いた。
 普通の人間なら即死する致命傷を受けたミストは身体がぼろぼろと崩れ去り、霧状となる。

「すまねえ、乃亜。俺はもう駄目だ」

 リタイアだ。美歌は残った兄への再教育を再開する。
 殴られ、蹴られるたびに≪超常者の怪力パラノマル・フォース≫で包まれた装甲が壊れ、露出した生身の体に追撃を喰らい骨がブチ折れる。
 完全なワンサイドゲーム。兄はまだあどけなさの残る少女に手も足も出なかった。

「がはっ!」

 乃亜は力なく床に倒れた。もはや≪超常者の怪力パラノマル・フォース≫も完全に身体を覆う事が出来ず、いたるところで生身の体が露出している。
 美歌はうつ伏せに倒れている兄の髪の毛を掴み、背中を踏みつけたままエビ反りになるように上体を持ち上げる。

「あががががが!!」
「ホラホラ! 悪魔の力があるんだろ? 何とかしてみろよ! じゃねーと背骨がブチ折れちまうぜ!?」

 成すがまま。されるがまま。一方的な蹂躙じゅうりんが続くと思われた。その時だった。

「!?」

 何者かが美歌が張った結界を破壊し、穴を開けた。直後2人組の男女が家の中になだれ込んできた。

「何だテメェら!?」
「俺を見ろ!!」

 青年が叫びながら何かを投げた。美歌はどうせチャチな爆薬か何かだろうとタカをくくって結界で防御した。
 直後、凄まじい爆音と強烈な閃光が防御用結界を突きぬけて美歌の目と耳を直撃した。

 投げたのは「M84スタングレネード」

 アメリカ軍で採用されている非殺傷兵器。起爆すると同時に170-180デシベルの爆発音と1.5メートルの範囲で100万カンデラ以上の閃光を放ち、突発的な目の眩み、難聴、耳鳴りを発生させ相手を無力化するものだ。

 ショックで座り込み呆然とする美歌をよそに彼らは乃亜を回収し、逃げ去っていった。
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