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3国同盟
第15話 マコト 初陣
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「閣下、さすがにナタではカッコがつかないと閣下専用の剣を発注したのは覚えておりますよね? それが完成したのでお渡しします」
そう言ってディオールは布に包まれた何かを差し出す。マコトが包みをほどくと一振りの剣が現れた。
「これはファルシオンか? まぁある意味俺にふさわしい武器ではあるな」
「王としての華やかさは皆無な剣になって申し訳なく思っていますが今はこれで我慢して下さい」
ファルシオンは剣とナタの中間のようなもので実用一辺倒の武器、と言うよりは「武器としても使える日用品」に近い存在である。
そのため明らかに庶民が持つものであり、地球では儀礼用のファルシオンと言うのはほぼ存在しないという。
どちらかと言えば実用性のある物を選びがちなマコトには悪くない物であった。
セミが鳴き始めたある日の早朝、馬に乗ったミサワ国の伝令兵がマコトの元へやってきた。
「マコト様! アレンシア国が行軍を開始しました! 本日の午後にはシューヴァルを抜け、夜更けまでには我々の国へとたどり着くもようです!」
「分かった。ディオール、彼に兵をあてがってくれ」
「かしこまりました」
そばにいたディオールに指示を出す。いよいよ本格的な戦争が始まろうとしている。マコトとディオールにも緊張が走る!
「小規模だがお前らに兵を派遣する。そいつらを連れて帰れ」
「ハッ!」
伝令兵の表情に少しだけ安堵が浮かぶ。彼はキビキビとした動作で馬を操りディオールについていった。
「やはり城壁は間に合わなかったか」
戦争は夏に行われることが多い。春の植え付けや秋の収穫時期と比べれば農作業に手間がかからないし、冬と比べて活動しやすい時期だからだ。
建設中の城壁は戦で使うには遅くても晩春には完成していなくてはならないが、建設開始時期が遅かったせいで夏の中ごろまで完成時期がずれ込み、結局間に合わなかった。
その日の夕方アレンシア国の軍勢はマコトの読み通り、小規模だが鉄鉱山があり資源としては有用なものを持つミサワ国へと進軍していった。
「アレンシア国の軍はシューヴァルを抜けてミサワ国へと向かっています」
「やはりそうか。俺みたいな吹けば飛ぶような小国はいつでも潰せるって事か。わが軍の戦力とシューヴァルに展開する輜重兵(後方支援のための兵隊)の数は?」
「わが軍が450前後。輜重兵はおよそ700前後だと思われます。閣下、いかがいたしましょうか? 我々はいつでも戦えます!」
「いや、真正面からぶつかって勝つのは難しいな。大丈夫だ、策はある。噂を流してくれないか? 内容は……」
練度や装備で劣る輜重兵相手だがいかんせん数が多い。真正面からぶつかればこちらの損害が大きくなるだろう。
ただでさえ人口の少ないハシバ国だ。兵の損失は最小限に抑えなくてはならない。
だがその心配はいらない。マコトは手を打っていた。あとは相手が乗ってくれるかどうかだ。
アレンシア国がミサワ国への侵攻を始めて3日が経った。
アレンシア国の補給部隊長バシャールは不満を抱いていた。「オレは戦場で輝く存在だ。こんな後方支援では本当の実力は発揮できない」と。
軍に置いて兵站、分かりやすく言うと補給部隊や後方支援は軽く見られがちである。
大日本帝国においては「輜重輸卒が兵隊ならば、蝶々トンボも鳥のうち。焼いた魚が泳ぎだし、絵に描くダルマにゃ手足出て、電信柱に花が咲く」そういう扱いである。
それはこの世界においても例外ではなく、兵站は軽視されていた。
その日、彼は都市国家シューヴァルでハシバ国の者たちが商人相手に売り買いをやっているのを見た。その指や腕にはキラキラ、というよりはギラギラと輝く黄金色の、やや悪趣味な指輪や腕輪がはめられていた。
「ずいぶん豪華じゃないか」
「いやなに、閣下は気前よく給金を払いますからなぁ。おっと、あなたたちには関係のない事でしたな。では、失礼」
意味ありげな言葉を言いかけて彼らは去っていった。
同じ日……
末端の部下である輜重兵が話していたその噂話にバシャールは足を止める。
「聞いたか? 何でもハシバ国ではマンドレイクの栽培に成功したらしいぜ」
「ああ、聞いた聞いた。でも最近急に聞くようになった噂だろ? 怪しいよなぁ」
「!! おいお前ら!」
「は、はい! いかがいたしましたかバシャール様!?」
「その話、詳しく聞かせてもらおうか?」
バシャールは兵士達から話を聞き、情報を整理する。
見るものがあるとしたら魔物程度しか無い吹けば飛ぶような小国、それが最近になって急に金回りが良くなったそうだ。それに人工的なマンドレイクの栽培に成功したという噂、もしもこれが本当だとしたらそれにも納得がいく。全ての点が線で繋がる。
チャンスだ。
栽培中のマンドレイクとそれを売った金を根こそぎいただいてがっぽり儲ける。それだけじゃない。栽培技術を手に入れれば色々利用できる。自分のために栽培すればぼろ儲けできるだろうし技術に加えて領土も手に入れたとなれば出世は間違いない。
後方で輜重兵を率いるだけの退屈な生活からおさらばして戦場で武勇を思う存分ふるえるようになる。
「輜重兵をかきあつめろ! ハシバ国に侵攻だ!」
横領した破城鎚と攻城はしごと共にハシバ国への侵攻を決めた。
「大将、本当にあいつら来るかね? 来たとしてもアタシらで耐えきれるかい?」
「情報が正しければ来るさ。来るとなると相手は侵攻部隊と守備隊にわける必要がある。それを各個撃破すればまだ勝機はある!」
お虎がファルシオンと真新しいチェインメイルで武装した自らの王に尋ねる。
配下たちが敵軍に見せびらかすために身に着けていた金や宝石の指輪や腕輪、それは真鍮とガラス細工で作られた偽物だ。
それを見せびらかして金持ってますアピールをして攻めさせる、という手はずだ。相手は猪武者だと聞いているから、おそらく引っかかるだろうとは予想している。そんな彼らの元に偵察に出ていた兵が大慌てで戻ってくる。
「閣下! シューヴァルに展開していたアレンシア国の輜重部隊が我が国に向かって侵攻してきました! その数およそ550! いかがいたしましょうか!?」
「来たか。迎えうつぞ!」
マコトはニヤリとしつつも指示を飛ばした。
「バシャール様、降伏勧告を送ったハシバ国からの伝言を持ち帰りました。『貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』……とずいぶん酷い事を言ってますが、いかがいたしましょうか?」
「何だと!? ナメた口ききやがって! 全軍前進! 敵を蹴散らせ!」
彼は即座に指示を出した。バシャールの軍勢が雄たけびを上げながら突撃してくる。それにマコト達は矢を射かけることで応える。
ろくに矢を防ぎきることが出来ない革製の防具を身に着けた兵士が多いためか結構効き目は高い。が、いかんせん数が多く蹴散らすまでには至らない。
マコトとバシャール、お互いの軍の最前列が衝突し、本格的な戦が始まる。そこでは特にディオールが奮戦していた。
人体の急所……狙えるのであれば目やのどにみぞおちに太もも、あるいはこめかみを集中的に右手の剣で斬る、あるいは左手のナイフで突き刺す。
彼の使う剣術は元をたどればアサシン達による暗殺剣をルーツに持つとされる殺人術に特化したえぐいものだ。
それらを使って10人、20人、30人と敵兵を次々と斬り捨てていく。
「す、すげぇ」
「これが薔薇の騎士団団長の力か!」
「俺達も続けぇ!」
その勇猛果敢に戦う様を見てハシバ国軍の兵士たちは大いに勇気づけられ士気がグンと高まり、それは数の差を覆すほどの大いなる力となる!
「伝令! バシャール様! カロシア隊長が討死しました! 残存兵力残りわずかです!」
「ば、バカな! 数では勝ってるんだぞ!? なぜ押される!?」
「バシャール様! 味方は敵軍の将の強さに怯えて逃亡しています!」
「クソッ! いったん退却しろ!」
バシャールの負けだった。結局この戦いはマコト側には大した被害も無く、敵部隊が一方的に大きな損害を受けた。残存兵はシューヴァルへと後退していく。
「敵軍、撤退していきます! 閣下! いかがなさいますか!?」
「敵は壊走している! 一気に蹴散らすぞ! 続け!」
「「「オー!」」」
戦に勝って士気は最高潮だ。今なら一気に押し切れる! マコトは勝利を確信した。
そう言ってディオールは布に包まれた何かを差し出す。マコトが包みをほどくと一振りの剣が現れた。
「これはファルシオンか? まぁある意味俺にふさわしい武器ではあるな」
「王としての華やかさは皆無な剣になって申し訳なく思っていますが今はこれで我慢して下さい」
ファルシオンは剣とナタの中間のようなもので実用一辺倒の武器、と言うよりは「武器としても使える日用品」に近い存在である。
そのため明らかに庶民が持つものであり、地球では儀礼用のファルシオンと言うのはほぼ存在しないという。
どちらかと言えば実用性のある物を選びがちなマコトには悪くない物であった。
セミが鳴き始めたある日の早朝、馬に乗ったミサワ国の伝令兵がマコトの元へやってきた。
「マコト様! アレンシア国が行軍を開始しました! 本日の午後にはシューヴァルを抜け、夜更けまでには我々の国へとたどり着くもようです!」
「分かった。ディオール、彼に兵をあてがってくれ」
「かしこまりました」
そばにいたディオールに指示を出す。いよいよ本格的な戦争が始まろうとしている。マコトとディオールにも緊張が走る!
「小規模だがお前らに兵を派遣する。そいつらを連れて帰れ」
「ハッ!」
伝令兵の表情に少しだけ安堵が浮かぶ。彼はキビキビとした動作で馬を操りディオールについていった。
「やはり城壁は間に合わなかったか」
戦争は夏に行われることが多い。春の植え付けや秋の収穫時期と比べれば農作業に手間がかからないし、冬と比べて活動しやすい時期だからだ。
建設中の城壁は戦で使うには遅くても晩春には完成していなくてはならないが、建設開始時期が遅かったせいで夏の中ごろまで完成時期がずれ込み、結局間に合わなかった。
その日の夕方アレンシア国の軍勢はマコトの読み通り、小規模だが鉄鉱山があり資源としては有用なものを持つミサワ国へと進軍していった。
「アレンシア国の軍はシューヴァルを抜けてミサワ国へと向かっています」
「やはりそうか。俺みたいな吹けば飛ぶような小国はいつでも潰せるって事か。わが軍の戦力とシューヴァルに展開する輜重兵(後方支援のための兵隊)の数は?」
「わが軍が450前後。輜重兵はおよそ700前後だと思われます。閣下、いかがいたしましょうか? 我々はいつでも戦えます!」
「いや、真正面からぶつかって勝つのは難しいな。大丈夫だ、策はある。噂を流してくれないか? 内容は……」
練度や装備で劣る輜重兵相手だがいかんせん数が多い。真正面からぶつかればこちらの損害が大きくなるだろう。
ただでさえ人口の少ないハシバ国だ。兵の損失は最小限に抑えなくてはならない。
だがその心配はいらない。マコトは手を打っていた。あとは相手が乗ってくれるかどうかだ。
アレンシア国がミサワ国への侵攻を始めて3日が経った。
アレンシア国の補給部隊長バシャールは不満を抱いていた。「オレは戦場で輝く存在だ。こんな後方支援では本当の実力は発揮できない」と。
軍に置いて兵站、分かりやすく言うと補給部隊や後方支援は軽く見られがちである。
大日本帝国においては「輜重輸卒が兵隊ならば、蝶々トンボも鳥のうち。焼いた魚が泳ぎだし、絵に描くダルマにゃ手足出て、電信柱に花が咲く」そういう扱いである。
それはこの世界においても例外ではなく、兵站は軽視されていた。
その日、彼は都市国家シューヴァルでハシバ国の者たちが商人相手に売り買いをやっているのを見た。その指や腕にはキラキラ、というよりはギラギラと輝く黄金色の、やや悪趣味な指輪や腕輪がはめられていた。
「ずいぶん豪華じゃないか」
「いやなに、閣下は気前よく給金を払いますからなぁ。おっと、あなたたちには関係のない事でしたな。では、失礼」
意味ありげな言葉を言いかけて彼らは去っていった。
同じ日……
末端の部下である輜重兵が話していたその噂話にバシャールは足を止める。
「聞いたか? 何でもハシバ国ではマンドレイクの栽培に成功したらしいぜ」
「ああ、聞いた聞いた。でも最近急に聞くようになった噂だろ? 怪しいよなぁ」
「!! おいお前ら!」
「は、はい! いかがいたしましたかバシャール様!?」
「その話、詳しく聞かせてもらおうか?」
バシャールは兵士達から話を聞き、情報を整理する。
見るものがあるとしたら魔物程度しか無い吹けば飛ぶような小国、それが最近になって急に金回りが良くなったそうだ。それに人工的なマンドレイクの栽培に成功したという噂、もしもこれが本当だとしたらそれにも納得がいく。全ての点が線で繋がる。
チャンスだ。
栽培中のマンドレイクとそれを売った金を根こそぎいただいてがっぽり儲ける。それだけじゃない。栽培技術を手に入れれば色々利用できる。自分のために栽培すればぼろ儲けできるだろうし技術に加えて領土も手に入れたとなれば出世は間違いない。
後方で輜重兵を率いるだけの退屈な生活からおさらばして戦場で武勇を思う存分ふるえるようになる。
「輜重兵をかきあつめろ! ハシバ国に侵攻だ!」
横領した破城鎚と攻城はしごと共にハシバ国への侵攻を決めた。
「大将、本当にあいつら来るかね? 来たとしてもアタシらで耐えきれるかい?」
「情報が正しければ来るさ。来るとなると相手は侵攻部隊と守備隊にわける必要がある。それを各個撃破すればまだ勝機はある!」
お虎がファルシオンと真新しいチェインメイルで武装した自らの王に尋ねる。
配下たちが敵軍に見せびらかすために身に着けていた金や宝石の指輪や腕輪、それは真鍮とガラス細工で作られた偽物だ。
それを見せびらかして金持ってますアピールをして攻めさせる、という手はずだ。相手は猪武者だと聞いているから、おそらく引っかかるだろうとは予想している。そんな彼らの元に偵察に出ていた兵が大慌てで戻ってくる。
「閣下! シューヴァルに展開していたアレンシア国の輜重部隊が我が国に向かって侵攻してきました! その数およそ550! いかがいたしましょうか!?」
「来たか。迎えうつぞ!」
マコトはニヤリとしつつも指示を飛ばした。
「バシャール様、降伏勧告を送ったハシバ国からの伝言を持ち帰りました。『貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』……とずいぶん酷い事を言ってますが、いかがいたしましょうか?」
「何だと!? ナメた口ききやがって! 全軍前進! 敵を蹴散らせ!」
彼は即座に指示を出した。バシャールの軍勢が雄たけびを上げながら突撃してくる。それにマコト達は矢を射かけることで応える。
ろくに矢を防ぎきることが出来ない革製の防具を身に着けた兵士が多いためか結構効き目は高い。が、いかんせん数が多く蹴散らすまでには至らない。
マコトとバシャール、お互いの軍の最前列が衝突し、本格的な戦が始まる。そこでは特にディオールが奮戦していた。
人体の急所……狙えるのであれば目やのどにみぞおちに太もも、あるいはこめかみを集中的に右手の剣で斬る、あるいは左手のナイフで突き刺す。
彼の使う剣術は元をたどればアサシン達による暗殺剣をルーツに持つとされる殺人術に特化したえぐいものだ。
それらを使って10人、20人、30人と敵兵を次々と斬り捨てていく。
「す、すげぇ」
「これが薔薇の騎士団団長の力か!」
「俺達も続けぇ!」
その勇猛果敢に戦う様を見てハシバ国軍の兵士たちは大いに勇気づけられ士気がグンと高まり、それは数の差を覆すほどの大いなる力となる!
「伝令! バシャール様! カロシア隊長が討死しました! 残存兵力残りわずかです!」
「ば、バカな! 数では勝ってるんだぞ!? なぜ押される!?」
「バシャール様! 味方は敵軍の将の強さに怯えて逃亡しています!」
「クソッ! いったん退却しろ!」
バシャールの負けだった。結局この戦いはマコト側には大した被害も無く、敵部隊が一方的に大きな損害を受けた。残存兵はシューヴァルへと後退していく。
「敵軍、撤退していきます! 閣下! いかがなさいますか!?」
「敵は壊走している! 一気に蹴散らすぞ! 続け!」
「「「オー!」」」
戦に勝って士気は最高潮だ。今なら一気に押し切れる! マコトは勝利を確信した。
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