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つかの間の休息
第42話 親子
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(ヘヘヘヘ……キてるぜ、俺!)
暦の上ではもうすぐ秋とはいえ日中は相変わらず暑いとある日の朝、クルスはせっかくの休みだから息抜きにとマコトに誘われ、1対1のセブンカード・スタッドポーカーをしていた。
7枚ある彼の手札のうち5枚はハートの柄、つまりはフラッシュ。結構強い良い役だ。
「チェック」
クルスはとりあえず様子見を選択した。マコトは少し考えた後……試合を降りた。
「フォールド」
「ええ!? 勝負しねえの!?」
「クルス、お前結構良い手札持ってんじゃねーの? フルハウスとか?」
マコトはクルスの手札を見る。7枚中ハートの絵柄のカードが5枚あった。
「あーフラッシュか。それくらいの役はあると思ってたら大当たりだな」
「オ、オヤジ! オメー何で手札が分かるんだ!? イカサマでもしてんのか!?」
「顔に出てるぞ。ポーカーフェイスって言って自分の手札を悟られないようにするのは外交の基本中の基本だ。宿題だな」
「チッ、何だよ。偉そうに……」
不満げにそう一言漏らす。
クルスはメリルにはなついているがマコトに関しては結構反発していた。彼が言うには「オヤジは上から目線で話してくるのが気に入らない」という。
その日の夕方、マコトは「酒場 母乳」で情報収集をするのと一緒にクルスの様子を見に来た。
義理の息子は最初こそ訓練が終わるとその場にぶっ倒れるほど疲労していたが、連日の訓練で体も慣れて、今では訓練後でも仲間とおしゃべりできるほど体力がついた。
「クルス、そのうちお前も戦争に参加することになると思うが、これだけは覚えとけ。勇気と無謀をはき違えるな。はき違える奴から死んでいくんだ」
「何だよオヤジ、せっかくの休みだってのに説教か? じゃあ勇気と無謀の違いって何だよ? 偉そうにそんなこと言えるってんなら当然区別はつくよな?」
「そうだな……」
生意気な態度をとるクルスに対してマコトは文句の一つも言わずに考え込む。
「俺が思うに、無謀ってのは後先考えずにただ突っ込むだけの事だ。それとは違って勝算を出来るだけ高めたうえでなお負ける要素がある。そこを1歩踏み出すのが勇気なんだと思う。
『愚者は恐れを知らない。勇者は恐れを見せない』と誰かが言ってたしな。誰かは忘れちまったが……まぁあくまで俺の定義だがな」
「ふーんやるじゃん、よく分かったぜ。じゃ、先に家に帰ってるからな」
感心したのかしないのか、はっきりしない口調でそう言うと飲み代を置いて帰っていった。
別の日。
マコトとクルスは親子そろってディオールの授業を受けていた。
「閣下、それにクルス様。世にいう「ファインプレー」というのは基本悪手です。何故だかわかりますか?」
「えー!? ファインプレーって良いプレイじゃないの!?」
「そうです。ファインプレーは良いプレーではありません。悪手です」
「うーむ……」
今までの常識をひっくり返されて驚くクルスとは対照的に、マコトはしばらく考えた後答えを出した。
「ファインプレーが起きるときは不利になってるから、か?」
「そう。その通りです。よく御存じでしたね。ファインプレーとは不利を挽回するプレーです。つまり、まず不利になる事がファインプレーが起きる下地になります。本当のファインプレーとはファインプレーに頼らない事です」
「あーあーあー、また負けた。クソッ」
褒められる父親を前にしてまた彼は敗北感を感じていた。
「クルス様、勉学に勝ち負けなどありませんぞ? 大学のように学力試験があるわけでもないですし」
「こっちの話だよ。気にしないでくれよ」
その口調は明らかにすねているものだった。義理とはいえ父親がスポットライトを浴びるのが相当嫌いらしい。
「オヤジと来たら分かったような分かんねえような顔してさぁ。それで世の中は何でもかんでもあのオヤジの言うとおりに動いてさぁ。そこも気に入らねえんだよなぁ」
「そっかー。そういう所が気にいらないんだね」
その日、先に城に帰ってきたクルスは夕食をこしらえている義母であるメリルに対し愚痴をこぼしていた。
「だってあの人37歳よ? 私たちの3倍近くは長生きしてるから色々知ってて当然よ」
「母さんもオヤジの味方するんだな」
「心配しないで、私はいつでもクルスの味方になるから。また言いたくなったら母さんに言ってちょうだい。いつでも待ってるから」
「分かったよ」
夕食も食べ終え、メリルは食器の片づけでテーブルから離れた時、クルスがマコトに一言問いかける。
「……なぁ、オヤジ。俺の事嫌いになった?」
ありったけの勇気を振り絞り、反発してばっかりのキャラではない発言を父親にぶつける。
「嫌いになるわけねえだろ。お前ぐらいの子供は親にガンガン反発するもんだぜ?」
「チッ。何だよ、全部お見通しかよ。気にいらねえ」
「そうそう、そんな感じで良いんだよ。お前ぐらいの子供ってのは。それに俺はお前の軽く3倍は生きてるんだぞ? お前の考えてる事なんて全部わかるさ」
「ケッ。偉そうに。そこが嫌いだって言ってんだろうが。もういい、寝る」
クルスの日記
後アケリア歴1238年 8月30日
相変わらずオヤジが気に入らねえ。
孤児院にいた頃はいつも俺が1番だったのに、今ではあのオヤジが1番だ。
俺の3倍以上生きているとはいえ、納得がいかねえ。
【次回予告】
マコトと、もう1人のマコトとの出会い。
運命の歯車がいよいよ動きだし、マコトは表舞台へと引きずり出される。
第43話「絶望の未来から来た男」
暦の上ではもうすぐ秋とはいえ日中は相変わらず暑いとある日の朝、クルスはせっかくの休みだから息抜きにとマコトに誘われ、1対1のセブンカード・スタッドポーカーをしていた。
7枚ある彼の手札のうち5枚はハートの柄、つまりはフラッシュ。結構強い良い役だ。
「チェック」
クルスはとりあえず様子見を選択した。マコトは少し考えた後……試合を降りた。
「フォールド」
「ええ!? 勝負しねえの!?」
「クルス、お前結構良い手札持ってんじゃねーの? フルハウスとか?」
マコトはクルスの手札を見る。7枚中ハートの絵柄のカードが5枚あった。
「あーフラッシュか。それくらいの役はあると思ってたら大当たりだな」
「オ、オヤジ! オメー何で手札が分かるんだ!? イカサマでもしてんのか!?」
「顔に出てるぞ。ポーカーフェイスって言って自分の手札を悟られないようにするのは外交の基本中の基本だ。宿題だな」
「チッ、何だよ。偉そうに……」
不満げにそう一言漏らす。
クルスはメリルにはなついているがマコトに関しては結構反発していた。彼が言うには「オヤジは上から目線で話してくるのが気に入らない」という。
その日の夕方、マコトは「酒場 母乳」で情報収集をするのと一緒にクルスの様子を見に来た。
義理の息子は最初こそ訓練が終わるとその場にぶっ倒れるほど疲労していたが、連日の訓練で体も慣れて、今では訓練後でも仲間とおしゃべりできるほど体力がついた。
「クルス、そのうちお前も戦争に参加することになると思うが、これだけは覚えとけ。勇気と無謀をはき違えるな。はき違える奴から死んでいくんだ」
「何だよオヤジ、せっかくの休みだってのに説教か? じゃあ勇気と無謀の違いって何だよ? 偉そうにそんなこと言えるってんなら当然区別はつくよな?」
「そうだな……」
生意気な態度をとるクルスに対してマコトは文句の一つも言わずに考え込む。
「俺が思うに、無謀ってのは後先考えずにただ突っ込むだけの事だ。それとは違って勝算を出来るだけ高めたうえでなお負ける要素がある。そこを1歩踏み出すのが勇気なんだと思う。
『愚者は恐れを知らない。勇者は恐れを見せない』と誰かが言ってたしな。誰かは忘れちまったが……まぁあくまで俺の定義だがな」
「ふーんやるじゃん、よく分かったぜ。じゃ、先に家に帰ってるからな」
感心したのかしないのか、はっきりしない口調でそう言うと飲み代を置いて帰っていった。
別の日。
マコトとクルスは親子そろってディオールの授業を受けていた。
「閣下、それにクルス様。世にいう「ファインプレー」というのは基本悪手です。何故だかわかりますか?」
「えー!? ファインプレーって良いプレイじゃないの!?」
「そうです。ファインプレーは良いプレーではありません。悪手です」
「うーむ……」
今までの常識をひっくり返されて驚くクルスとは対照的に、マコトはしばらく考えた後答えを出した。
「ファインプレーが起きるときは不利になってるから、か?」
「そう。その通りです。よく御存じでしたね。ファインプレーとは不利を挽回するプレーです。つまり、まず不利になる事がファインプレーが起きる下地になります。本当のファインプレーとはファインプレーに頼らない事です」
「あーあーあー、また負けた。クソッ」
褒められる父親を前にしてまた彼は敗北感を感じていた。
「クルス様、勉学に勝ち負けなどありませんぞ? 大学のように学力試験があるわけでもないですし」
「こっちの話だよ。気にしないでくれよ」
その口調は明らかにすねているものだった。義理とはいえ父親がスポットライトを浴びるのが相当嫌いらしい。
「オヤジと来たら分かったような分かんねえような顔してさぁ。それで世の中は何でもかんでもあのオヤジの言うとおりに動いてさぁ。そこも気に入らねえんだよなぁ」
「そっかー。そういう所が気にいらないんだね」
その日、先に城に帰ってきたクルスは夕食をこしらえている義母であるメリルに対し愚痴をこぼしていた。
「だってあの人37歳よ? 私たちの3倍近くは長生きしてるから色々知ってて当然よ」
「母さんもオヤジの味方するんだな」
「心配しないで、私はいつでもクルスの味方になるから。また言いたくなったら母さんに言ってちょうだい。いつでも待ってるから」
「分かったよ」
夕食も食べ終え、メリルは食器の片づけでテーブルから離れた時、クルスがマコトに一言問いかける。
「……なぁ、オヤジ。俺の事嫌いになった?」
ありったけの勇気を振り絞り、反発してばっかりのキャラではない発言を父親にぶつける。
「嫌いになるわけねえだろ。お前ぐらいの子供は親にガンガン反発するもんだぜ?」
「チッ。何だよ、全部お見通しかよ。気にいらねえ」
「そうそう、そんな感じで良いんだよ。お前ぐらいの子供ってのは。それに俺はお前の軽く3倍は生きてるんだぞ? お前の考えてる事なんて全部わかるさ」
「ケッ。偉そうに。そこが嫌いだって言ってんだろうが。もういい、寝る」
クルスの日記
後アケリア歴1238年 8月30日
相変わらずオヤジが気に入らねえ。
孤児院にいた頃はいつも俺が1番だったのに、今ではあのオヤジが1番だ。
俺の3倍以上生きているとはいえ、納得がいかねえ。
【次回予告】
マコトと、もう1人のマコトとの出会い。
運命の歯車がいよいよ動きだし、マコトは表舞台へと引きずり出される。
第43話「絶望の未来から来た男」
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