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富国強兵
第50話 穀潰しの再起
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ヴェルガノン帝国が侵攻してきたその日、俺の騎士団は本当に穀潰しの税金泥棒だった。というのが分かってしまった。
もういい。もうどうでもいい。せめて俺だけは勇敢に戦って死のう。穀潰しの税金泥棒ではない事を命をもって証明しよう。
俺はそう思い、たった一人で戦場へと出向いた。最後の方は覚えていない。アンデッド相手にただひたすら武器を振り回していた事だけは覚えている。
だがこうして俺は助けられた。しかも町の住人ではなさそうだ。では誰が?
そう思っていると男たちが走って部屋へとなだれ込んできた。
立派なアゴヒゲを生やした熟年というよりは初老と言った方が良い男に、それよりは大分若い年齢だと思われる、結構な上物の服を着た中年の男だった。
「おお! 気が付きましたか! いやぁ良かった良かった!」
「いやぁビックリしたよ。召喚したと思ったら血だらけで倒れていたからさぁ」
「召喚……? 召喚ってことはまさか、あんたは噂のチキュウとかいう異界から来た王なのか?」
「ああそうだ。君を召喚したのは俺だ」
中年の男が答える。どうやら彼が異界から来た王で、俺を召喚したらしい。
「何で俺の事を助けた? 助けてほしいとは思ってない。むしろ俺はあの時死ぬべきだった。俺なんて生きてたって穀潰しにしからならないのに」
「オイオイ、助けてもらっていきなりそれは無いだろ?」
「事実だろうって……ぐっ……!」
ベッドから立ち上がろうとするが足に力が入らず床に倒れてしまう。身体が思うように動かない。
「あー、ダメダメ! お前大ケガしてるんだ。しばらく休んでろ。安心しろ。治療費はいらん」
「辞めろ。俺みたいな死にぞこないの税金泥棒は生かしといたって何に役にも立たないぞ」
「ハイハイ分かった。何も言わずに休んでなさい! それと、そんなバカな事2度というなよ。そんなこと言ってると、生きたくて仕方なかったのに死ぬしかなかった奴に呪い殺されるぞ」
2人がかりで持ち上げられ、俺はベッドの中へと戻された。
夕方になり、再びあの2人が俺の元を訪ねた。
「またアンタらか。言っただろ。俺は……」
「今お前がやるべきことは食って飲んで寝ることだ。まぁ、飲め」
そう言って中年男はパンとワインを勧めてくる。俺は始めこそ乗り気ではなかったが、ここに来て以来飲まず食わずで空腹だったこともあり、好意に甘えることにした。焼きたてなのかほのかに温かく柔らかいパンをかじり、なかなかのものなのか酸味も少ないワインを口にしながら、俺は重い口を開けた。
「俺はアルバートと言って、とある街の騎士団長だった。特に何もない街だったけど、平和な街だった。だから兵士なんてものは普段から穀潰しだの税金の無駄遣いだのとさんざん言われてた。でもいざという時に役立てればそれでいい。そう思ってたんだ。……あの時までは」
俺は続ける。
「その日、ヴェルガノン帝国が侵攻してきた。そしたら部下たちはどいつもこいつも不死者の大軍を前にして戦わずに降伏していった。
痛い目に遭いたくないからとか、戦って死ぬなんて馬鹿げてるとか、勝ち目のない戦いなんてするだけ無駄だとか、そんなこと言ってさ。
その日、俺達は本当にただの穀潰しの税金泥棒だったって事が分かっちまったのさ。
最後の方は覚えてない。ただヤケクソになって暴れてたらいつの間にか傷だらけになってアンタに召喚されてたらしいな」
そこまで言ってハァ。と重いため息をついた。
「アルバート、だっけか? お前は勇敢に戦ったじゃないか。傷だらけになるまで戦ったじゃないか」
「役に立つ立たないは人間の決めることではありません。それは万色の神のやる事です。体も心もか弱きただの人間に、役に立つ立たないを決めることなど、どうしてできるのか? とは思いませんか?」
2人は何とかして俺の事を励ましたいらしい。
「何で俺なんかをそこまでして助けるんだ?」
「じゃあ聞くが、人助けに理由や理屈が必要なのか? 特に理由が無くても困った奴がいたら助けるってのが人間ってもんじゃないのかい?
まぁいい。今日はもう寝ろ。また明日見舞いに来るよ。じゃあな」
「……」
人助けに理由が要るか? その言葉が妙にストンと腑に落ちた。
翌朝。朝日が窓から差し込み、目が覚めると昨日ちらりと見たネコミミの少女がやってきた。横になったままというのも無礼なので上半身を起こした。
「アルバートさん、ですよね確か? あの人に召喚されたそうね。私はメリル。この国の王妃よ」
「そうか。女王陛下、この国は王も幹部もお人よしだらけだ。そのうち付け込まれて国家運営は破たんするぜ」
「困ったときはお互い様って言うでしょ? 気にしないで良いよ」
あの王と同じような言葉を返す。一見して大分歳は違えどさすがは夫婦、似た者同士というわけか。
「ねぇ、出来るならあの人の力になってちょうだい。あの人色々大きなものを抱えてて大変そうだから。確か、ヴェルガノン帝国がどうのこうのとか言ってたわね」
「!! ヴェルガノン帝国!?」
「あら、知ってるの?」
「簡単に言えば、仇だな」
「あ、ごめんなさい。変なこと聞いちゃって。でも私からもお願いするわ。あの人に協力してちょうだい。もちろん今すぐってわけじゃなくてもいいから。じゃあまた来るわね」
この国もヴェルガノン帝国と対立しているらしい。まぁあいつらは不死者にまつわる禁忌を侵したから当然と言えば当然か。
……もしかしたら。
しばらくして、あの王がまだ朝だというのに顔を出してきた。
「国王陛下殿、お聞きしたいことがあるのですが、あなたはヴェルガノン帝国とぶつかるつもりなんですか?」
「ああ。俺達はいずれヴェルガノン帝国とぶつかるつもりだ。それまでに出来るだけ戦力を蓄えなくてはならない。出来るのならで構わんが、お前の力が必要だ。手を貸してほしい」
「……」
俺はしばらく考え、決意する。
「分かった。俺でよければ協力しよう」
「そうか。助かるよ。んじゃあ忠誠を誓ってもらおうか」
そう言って彼は王の道具とされる「すまほ」なる物を取り出した。
「俺はアルバート。再起のチャンスを与えてくれた我が王の恩に絶対の忠誠で報いよう!」
そう言うと俺の胸から赤い球状の光が飛び出し、「すまほ」の中に入っていった。
「よし、契約成立だ。……とはいってもその体じゃ今すぐ仕事は無理だな。傷が完治するまでしばらく寝てるんだな」
そう言って王は去っていく。これからはあのお人よしが上司か。まぁ、悪くはないな。そう思いながら眠りについた。
【次回予告】
今なら引きが良い。ある種根拠のない自信が湧いてきたマコトは、再度配下を召喚する。その結果は……?
第51話「グレムリン」
もういい。もうどうでもいい。せめて俺だけは勇敢に戦って死のう。穀潰しの税金泥棒ではない事を命をもって証明しよう。
俺はそう思い、たった一人で戦場へと出向いた。最後の方は覚えていない。アンデッド相手にただひたすら武器を振り回していた事だけは覚えている。
だがこうして俺は助けられた。しかも町の住人ではなさそうだ。では誰が?
そう思っていると男たちが走って部屋へとなだれ込んできた。
立派なアゴヒゲを生やした熟年というよりは初老と言った方が良い男に、それよりは大分若い年齢だと思われる、結構な上物の服を着た中年の男だった。
「おお! 気が付きましたか! いやぁ良かった良かった!」
「いやぁビックリしたよ。召喚したと思ったら血だらけで倒れていたからさぁ」
「召喚……? 召喚ってことはまさか、あんたは噂のチキュウとかいう異界から来た王なのか?」
「ああそうだ。君を召喚したのは俺だ」
中年の男が答える。どうやら彼が異界から来た王で、俺を召喚したらしい。
「何で俺の事を助けた? 助けてほしいとは思ってない。むしろ俺はあの時死ぬべきだった。俺なんて生きてたって穀潰しにしからならないのに」
「オイオイ、助けてもらっていきなりそれは無いだろ?」
「事実だろうって……ぐっ……!」
ベッドから立ち上がろうとするが足に力が入らず床に倒れてしまう。身体が思うように動かない。
「あー、ダメダメ! お前大ケガしてるんだ。しばらく休んでろ。安心しろ。治療費はいらん」
「辞めろ。俺みたいな死にぞこないの税金泥棒は生かしといたって何に役にも立たないぞ」
「ハイハイ分かった。何も言わずに休んでなさい! それと、そんなバカな事2度というなよ。そんなこと言ってると、生きたくて仕方なかったのに死ぬしかなかった奴に呪い殺されるぞ」
2人がかりで持ち上げられ、俺はベッドの中へと戻された。
夕方になり、再びあの2人が俺の元を訪ねた。
「またアンタらか。言っただろ。俺は……」
「今お前がやるべきことは食って飲んで寝ることだ。まぁ、飲め」
そう言って中年男はパンとワインを勧めてくる。俺は始めこそ乗り気ではなかったが、ここに来て以来飲まず食わずで空腹だったこともあり、好意に甘えることにした。焼きたてなのかほのかに温かく柔らかいパンをかじり、なかなかのものなのか酸味も少ないワインを口にしながら、俺は重い口を開けた。
「俺はアルバートと言って、とある街の騎士団長だった。特に何もない街だったけど、平和な街だった。だから兵士なんてものは普段から穀潰しだの税金の無駄遣いだのとさんざん言われてた。でもいざという時に役立てればそれでいい。そう思ってたんだ。……あの時までは」
俺は続ける。
「その日、ヴェルガノン帝国が侵攻してきた。そしたら部下たちはどいつもこいつも不死者の大軍を前にして戦わずに降伏していった。
痛い目に遭いたくないからとか、戦って死ぬなんて馬鹿げてるとか、勝ち目のない戦いなんてするだけ無駄だとか、そんなこと言ってさ。
その日、俺達は本当にただの穀潰しの税金泥棒だったって事が分かっちまったのさ。
最後の方は覚えてない。ただヤケクソになって暴れてたらいつの間にか傷だらけになってアンタに召喚されてたらしいな」
そこまで言ってハァ。と重いため息をついた。
「アルバート、だっけか? お前は勇敢に戦ったじゃないか。傷だらけになるまで戦ったじゃないか」
「役に立つ立たないは人間の決めることではありません。それは万色の神のやる事です。体も心もか弱きただの人間に、役に立つ立たないを決めることなど、どうしてできるのか? とは思いませんか?」
2人は何とかして俺の事を励ましたいらしい。
「何で俺なんかをそこまでして助けるんだ?」
「じゃあ聞くが、人助けに理由や理屈が必要なのか? 特に理由が無くても困った奴がいたら助けるってのが人間ってもんじゃないのかい?
まぁいい。今日はもう寝ろ。また明日見舞いに来るよ。じゃあな」
「……」
人助けに理由が要るか? その言葉が妙にストンと腑に落ちた。
翌朝。朝日が窓から差し込み、目が覚めると昨日ちらりと見たネコミミの少女がやってきた。横になったままというのも無礼なので上半身を起こした。
「アルバートさん、ですよね確か? あの人に召喚されたそうね。私はメリル。この国の王妃よ」
「そうか。女王陛下、この国は王も幹部もお人よしだらけだ。そのうち付け込まれて国家運営は破たんするぜ」
「困ったときはお互い様って言うでしょ? 気にしないで良いよ」
あの王と同じような言葉を返す。一見して大分歳は違えどさすがは夫婦、似た者同士というわけか。
「ねぇ、出来るならあの人の力になってちょうだい。あの人色々大きなものを抱えてて大変そうだから。確か、ヴェルガノン帝国がどうのこうのとか言ってたわね」
「!! ヴェルガノン帝国!?」
「あら、知ってるの?」
「簡単に言えば、仇だな」
「あ、ごめんなさい。変なこと聞いちゃって。でも私からもお願いするわ。あの人に協力してちょうだい。もちろん今すぐってわけじゃなくてもいいから。じゃあまた来るわね」
この国もヴェルガノン帝国と対立しているらしい。まぁあいつらは不死者にまつわる禁忌を侵したから当然と言えば当然か。
……もしかしたら。
しばらくして、あの王がまだ朝だというのに顔を出してきた。
「国王陛下殿、お聞きしたいことがあるのですが、あなたはヴェルガノン帝国とぶつかるつもりなんですか?」
「ああ。俺達はいずれヴェルガノン帝国とぶつかるつもりだ。それまでに出来るだけ戦力を蓄えなくてはならない。出来るのならで構わんが、お前の力が必要だ。手を貸してほしい」
「……」
俺はしばらく考え、決意する。
「分かった。俺でよければ協力しよう」
「そうか。助かるよ。んじゃあ忠誠を誓ってもらおうか」
そう言って彼は王の道具とされる「すまほ」なる物を取り出した。
「俺はアルバート。再起のチャンスを与えてくれた我が王の恩に絶対の忠誠で報いよう!」
そう言うと俺の胸から赤い球状の光が飛び出し、「すまほ」の中に入っていった。
「よし、契約成立だ。……とはいってもその体じゃ今すぐ仕事は無理だな。傷が完治するまでしばらく寝てるんだな」
そう言って王は去っていく。これからはあのお人よしが上司か。まぁ、悪くはないな。そう思いながら眠りについた。
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