人魔共和国建国記

あがつま ゆい

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第77話 芸術家の少女

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 砂糖が作れるようになってからしばらくして、春祭りも終わり本格的な種まきシーズンを迎えたころ、マコトは神霊石を持って召喚の間へと降りて行った。
 ワーシープのドリーを召喚して以降もマコトは商人たちから神霊石を仕入れ、かれこれ20回以上は召還を行っていた。
 しかし出てくるのはこれと言って特徴も無ければ手に職もついてるわけでもないノーマルのゴブリンやコボルドにオーク、それに駆け出し冒険者の人間というかなり渋い結果で、良くてレアの文官というありさまだった。

 そろそろ当たりを引いてもいいんじゃないのかと思い、マコトは召喚の儀を行う。魔法陣が「白く」輝いた。
 またもやノーマルだ。マコトは何度目になるかわからない、ハァ。というため息をつく。
 現れたのはこの辺では珍しい桃色の髪に赤いベレー帽、インクで汚れたエプロンを私服の上からかけて荷車を引いている少女だった。

「とりあえず自己紹介と何か欲しいものを言ってくれ」
「あ、はい。私はアデライト。絵を描いたり詩を書いたりして生活しています。欲しいものですか……そうですねぇ。あなたは召喚できるってことは王様なんですよね?
 だったら私をパトロンとして雇ってくれませんか?」

 地球の中世では芸術家たちは王侯貴族や豪商に雇われたり、資金の援助を受けて活動していた。
 この世界もまた、そのころの地球と一緒で芸術家たちは金持ちお抱えというのが当たり前だった。

「分かった。お前のパトロンになろう。ただあまり期待できる金は出せんぞ。それと、戦場にはまず出さないが一応忠誠を誓ってもらおうか?」
「ありがとうございます。私はアデライト。これからは王様のために働きます。よろしくお願いします」

 彼女の胸から白い球状の光が飛び出し、マコトのスマホの中に入っていった。



 2日後……。



 賃貸で借りた自宅兼アトリエとなる住宅で彼女は作業をしていた。何枚かある木の板にそれぞれ違う色のインクを塗り、紙に刷っていた。様子を見に来たマコトはすぐにその正体を察する。

「よお、アデライト。これは……版画か?」
「ええっ!? 知ってるんですか!? 王様は芸術にも秀でているんですねぇ」

 現代地球では版画は小中学校の授業で習う程度だが、地球で言う中世程度の文明においては版画というのは最新技術の印刷方法だ。
 手書きの絵よりもはるかに大量に量産することが可能でその分価格を下げることが出来、ふところ事情の厳しい庶民にも普及させることが可能なのだ。

「へぇ。その版画のおかげでパトロン無しでもやっていけたのか」
「これ1本で食えてはいませんでしたけどね」

 2人は談笑する中、彼女を訪ねて来客が来る。

「失礼しまーす。って、オヤジ!? なんでいるんだ!?」
「様子を見に来たんだ。そういうお前は何の用でここへ?」
「アデライトから絵のモデルにならないかって誘われたんだ」
「絵のモデル?」
「うん。今までは背景画が主力で新しい人物画が欲しかったの。それで依頼したってわけです。じゃあクルス様、ついてきてください」
「そういうわけだ。じゃあな、オヤジ」

 クルスはアデライトについて行って2階へと上がっていった。

「しっかし……商売っ気のある芸術家だなぁ。まぁ、当たりだろうな」

 マコトはレアリティこそ低い……つまりは戦闘向きではないものの、久しぶりに収穫のある引きだと思い込むことにした。
 この時のマコトは彼女が刷る版画が、ハシバ国にちょっとした事件を起こす事になろうとは思いもしなかった。



【次回予告】

嘘のわたしじゃないと、あなたには触れられない。
本当のわたしでは、あなたには触れなれない。
ずっとそう思ってた。あの日まではずっと。

第78話 「ドッペルゲンガーの少女」
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