人魔共和国建国記

あがつま ゆい

文字の大きさ
100 / 127
領土平定

第100話 エンリケ海賊団制圧戦

しおりを挟む
 身を切るような寒さの中、リシア領の軍港をちエンリケ海賊団の根城の海域まで2日かけてたどり着いた。最寄りの港で補給をして万全の状態で挑む。

「閣下、ここまで来たら勝つしかないのですが、勝てますかね?」
「大丈夫だ。相手は強い。だが俺たちの方がもっと強い。心配かもしれんが俺たちが勝つ戦いだ」

 海域にエンリケ海賊団の船が出てくる。その数9隻。

「こちら側が7隻に対して相手は9隻。数では不利ですけど……」
「なぁに。あいつらが俺たちの船までたどり着けることはないだろう。射程に入り次第砲撃を開始せよ! 奴らを沈めてやれ!」



「なんだあの船、こちら側に横っ腹を見せてるぜ?」

 まるで「どうぞお好きなところから体当たり攻撃をしてください」とでも言わんばかりに自分たちに側面を向ける船。疑問に思った次の瞬間!
 ヒュウウウ……という何かが飛んでくる音と共に砲弾が船を直撃した。

「な、なんだぁ!?」

 海賊たちは不意打ちに大慌てだ。
 この世界での「海戦」といえば、船の先端に取り付けられた衝角しょうかくという物で体当たり攻撃を行うか、無理やり横付けして敵艦に飛び移り、白兵戦を仕掛けるかのどちらかだった。
 ドワーフお手製の大砲は超遠距離から一方的に相手を行動不能、あるいは撃沈させることも可能な「砲撃」という新たな戦法を軍艦に与えた。

「お前たち! 大砲相手でも恐れるな! 近づいて俺たちの流儀を教えてやれ!」



 ハシバ国海軍はひたすら砲弾を敵艦に撃ち込んでいく。1隻、また1隻と海の藻屑もくずと化していくがそれでも相手は止まらない。
 3隻目を沈めたところでハシバ国海軍の操舵手そうだしゅが異変に気付く。

「!! な、何だ!? か、かじがきかない!?」

 異変に気付くと同時に船のそばには「舵は占拠した」というメッセージを掲げたマーメイドやマーマンたちが海面から身体を乗り出していた。

「閣下! 敵が言うには舵を動けなくしたそうですがどうしますか!?」
「安心しろ。ソルディバイドの出番だな。出撃しろ!」

 マコトは合図を送った。



「エンリケ様! 敵艦の舵をすべて押さえました!」
「ご苦労だったな」

 海賊団の長である40代の筋骨隆々とした立派な黒ひげを生やした大男、エンリケが部下にそう言う。
 船を3隻も失うという少なくない損害は出たが、ハシバ国とやらに身代金をたっぷりと要求すれば帳消しした上で仕事は終わり。そう思った矢先の事だった。
 突如ヌルヌルした液体が空から降ってきた。雨ではない……油だ。
 と同時に火のついたたいまつも降ってきて、辺りは火の海に包まれる。

「何が起きた!?」
「ハーピーだ! ハーピーの連中が上から油を落としてきました!」
「何だと!? 消火しろ! 急げ!」

 海賊たちは大慌てで消火作業を続けるが、無情にも火の勢いを止めることはできない。次々と油が注がれ炎の花が煌々こうこうと甲板に咲く。

「クソッ! 何とかならんのか!?」
「それが、敵ははるか上空にいて矢も魔法も届きません!」
「チッ! 一方的じゃないか!」

 空を自在に飛べるハーピーで構成された部隊は、カッコつけて言えば少なくとも西大陸初にして現時点ではハシバ国のみが保有する「偵察機」あるいは「拠点爆撃機」といえる「空軍」である。
 船というのは彼らから見れば「低速で動く拠点」のようなのもので、敵軍の拠点同様油を持って空から落とし、敵の船上を火の海にするという強力な攻撃が可能なのだ。
 マコトの「空軍」は「世界初の対艦爆撃機」と言える存在でもあった。
 その「対艦爆撃機」を1匹でも多く積めるように商船を改造した航空母艦を用意したのだ。

「お頭! だめです! 消火が間に合いません!」
「チッ! 伝令船を出せ! 俺が乗りこむ!」



「あれは、伝令船か? 攻撃中止命令を!」

 ハシバ国の海軍兵が伝令船がこちら側に近づいているのを見て攻撃を中止させる。数人の護衛とともにエンリケ海賊団長がマコトの船、ソルディバイドに乗り込んできた。

「俺はエンリケ。エンリケ海賊団の頭だ」
「へぇ。お頭直々に出て来るとは結構な事だ」
「今すぐ砲撃および船を燃やすのを中止しろ。舵を壊されたくなければ大人しく言う事を聞くんだな」
「断る。舵を開放しなければお前の船を1隻残らず沈めるだけだ」

 お互い譲らない。
 まず相手のいう事は聞かない。ここで要求を呑むことは出来ない。マコトはしばらく悩むふりをして落としどころと言える案を提示する。

「じゃあこうしよう。俺がお前たち全員を海軍兵や将校として雇うってのはどうだ? こうすればお前たちはメシの種に困らなくなるし、俺も軍事力の増強が出来る。
 まぁ軍隊所属となると海賊暮らしよりもだいぶ窮屈きゅうくつになるがその辺は我慢してくれ。それともお前の船を1隻残らず灰になるまでやるか?」
「……」

 エンリケはしばらく考え込み……

「チッ、分かった。そいつで『手打ち』だ」

 交渉成立だ。

「んじゃあ俺に忠誠を誓ってもらおうか?」
「ああ。俺はエンリケ。これからはお前について行くことにしよう」

 そこまで言うとエンリケの胸から金色の光が飛び出し、マコトのスマホの中に入っていった。

「全軍に戦闘中止命令を下せ」
「お前ら! 戦闘は中止だ! 引け! 引け!」



「閣下、まさかエンリケ海賊団を相手にしたのは……」
「そのまさかだ。あいつらを倒すのではなく取り込む事が狙いだ。海軍力の増強には質、量ともに欲しい逸材だったからな」

 エンリケ海賊団の船を率いるマコトが兵士たちと話をしている。
 この戦いはエンリケ海賊団を「滅ぼす」ためではなく「取り込む」ためだった。

 国が滅びるなどした場合、残された海軍兵や将校は海賊に落ちぶれることはあるし、逆に国に貢献した海賊は海軍将校に任命されることもある。
 地球の場合フランシス・ドレークはスペイン船を襲う海賊(正確に言えば私掠しりゃく船)としてイギリスに多大な功績をあげ、海軍将校として召し抱えられたという。

 そんな「海軍と海賊」の関係をマコトは知っており、今回は「海賊を海軍にする」という方向で使った。
 もちろん、ヴェルガノン帝国に対抗できる戦力を確保するためである。

 優秀な船乗りである海賊たちに大砲と航空母艦の技術。これで海の戦力は大丈夫だろう。マコトは一安心した。



【次回予告】
どんな生き物も必ず死んでしまう。普段は忘れているが時には頭をよぎる。

第101話 「死、忘るるなかれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...