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激闘 ヴェルガノン帝国
第108話 決起
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季節は流れ、秋の収穫祭を終え冬支度を迎えた頃……。
「閣下、都市国家シューヴァルの議長がお見えです」
「……シューヴァルのトップ直々にか!? わかった。丁重にもてなしてくれ」
都市国家のトップという重役が直々にマコトの元を訪ねる。
「マコト様、緊急事態です。西大陸北部の玄関口である都市国家イルバーンがヴェルガノン帝国の攻撃を受けて陸路海路共に包囲、封鎖されているとのことです。彼らを追い払うための兵力をお貸しください!」
「わかりました。報酬はいくらになりますか?」
「言い値で構いません。どんな額だろうと必ずお支払いいたします」
「いいでしょう。引き受けましょう。すぐに軍を手配します。報酬額は後日お伝えします」
「おお……引き受けてくれますか! ありがとうございます。本当にありがとうございます!」
不安でたまらない顔をしていた議長の顔が柔らかくなる。こうもすんなり救ってくれるのは大いにありがたい事だろう。
「……ついに来たか。ヴェルガノン帝国が」
一方でマコトの表情は硬い。
10年後から来たという47歳のマコトの世界と比べればずいぶん侵攻が早いが、彼が遺した資料通り、奴らは海上ルートを進むために港町である都市国家イルバーンを落とそうとしているらしい。
シューヴァルに攻め込まれる前に、こちらから攻撃だ。
都市国家シューヴァルからの援護要請を聞いた翌日、リシア領にある軍港からエンリケ率いる元海賊の海兵たちを加えたハシバ国海軍を乗せた船が波をかき分け進む。その数、15隻。
シューヴァルの軍艦8隻と合流し、計23隻の船は一路北へと向かう。
海を進むこと1日。都市国家イルバーンを包囲するヴェルガノン帝国の軍旗を掲げるガレー船、30隻を優に超える数の船が見えてきた。
「お頭……じゃない提督! 敵艦がこちらに気づいたようで向かってきます! いかがいたしますか!?」
「各艦に砲撃開始命令を出せ! あいつらに弾をたらふく食わせてやれ!」
ハシバ国の軍艦たちは相手に腹を見せ、敵艦と自分たちの艦でT字になるように陣形を組む。そしてありったけの砲弾をヴェルガノン帝国の軍艦に叩き込み、次々と海の藻屑に変えていく。
相手の船はほとんどが三段櫂船といったガレー船だ。ヴェルガノン帝国の軍艦は大砲を持っていないがゆえにハシバ国海軍による一方的な蹂躙が始まった。
「ハハハ! ヴェルガノン帝国とか言ったか? 大したことねえな!」
「全くだ! これなら母ちゃんの方が怖いぜ!」
沈んでいく敵の船を見てガハハと笑う兵たちだったが異変に気付く。
「な、何だぁ?」
撃沈された船に乗っていたゾンビたちは肺がはちきれる寸前まで息を吸い、浮袋となる。そしてそれを組体操でもしているかのように身体を組み合わせて即席のイカダを作り出した。
そのゾンビイカダはこちらの船に取り付くと乗せていたスケルトン達、それが全員船に取り付くとイカダと化していたゾンビたちが次々と船のわずかなデコボコに指をひっかけ、登ってくる。
「ふ、ふざけんじゃねえぞ! そんなのアリかよ!」
「来るぞ! 迎撃用意!」
海兵たちは銃や剣を構えて敵に挑む。
聖別された鉛を使っているとはいえ、波で揺れる船上ではアンデッドたちの弱点である頭部をピンポイントで撃ち抜く事は難しい。接近戦となると銃剣よりも従来の海戦のセオリー通り剣が有効だ。
陸軍とは違って海兵には全員帯剣させているのが功を成した。
銃から発せられる火薬のにおいと剣と剣とがぶつかりこすれあう音が船上を包む。
「ぐえっ!」
海兵のうちの1人の首にスケルトンが放った矢が深々と突き刺さる。致命傷だ。その場に倒れ動かなくなる。だがしばらくすると……。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ……」
彼は再び動き出す……敵として。ついさっきまで仲間だった戦友が、ゾンビとなって蘇り敵に回るというのは単純に戦力面はもちろん、心理的にも圧迫感がある。
既に息絶えて身体だけとはいえ、たった今まで戦友だった存在を一切の躊躇なく斬れるかというと、否だ。
ガレー船はオールの漕ぎ手を確保するために人員を多く乗せられるように設計されている。このため戦闘員を確保しやすく白兵戦に強いというメリットがある。
ヴェルガノン帝国の兵隊たちは質こそ劣っていたものの数の暴力で押してくる。
「クソッ! 数が多すぎる!」
「もう……だめだ!」
死者たちに押されてついに船員達があきらめそうになる、その時! 空から銃弾が降ってきた。
航空母艦ソルディバイドから飛び立ったハーピーの狙撃隊が上空から攻撃を仕掛けたのだ。
さらに都市国家シューヴァルの軍艦が横付けし、次々と兵士がやってくる。救援が来てくれたのだ。
「ご無事で!」
「た、助かった!」
「皆の者、アンデッドを恐れるな! 進め!」
援軍が来てくれたことで一気に吹き返す。ハシバ国の兵士たちの武器である剣や銃弾などは聖別されており、少しではあるが聖なる力を秘めている。
それが思った以上に成果が出ているようで、普通の武器ではアンデッドは首を切り落とさてもまだ動くのだが、彼らが使う剣では首を切り落とされただけで動かなくなる。
マコトは聖別もできる僧兵を増やそうと神学校を設置したが、その効果が出た。
シューヴァルからの援護を受けたハシバ国海軍が反撃に出て、次々とアンデッドたちを斬り伏せていく。
また船からも砲撃を続け、残りの敵艦を沈めていく。
そして……
「提督! 敵艦後退していきます!」
「俺たちの勝ちのようだな」
ハシバ国とシューヴァルの連合軍はイルバーンの海路解放に成功した。
【次回予告】
都市国家イルバーンの海路は解放された。今度は陸路だ
第109話 「最初の勝利」
「閣下、都市国家シューヴァルの議長がお見えです」
「……シューヴァルのトップ直々にか!? わかった。丁重にもてなしてくれ」
都市国家のトップという重役が直々にマコトの元を訪ねる。
「マコト様、緊急事態です。西大陸北部の玄関口である都市国家イルバーンがヴェルガノン帝国の攻撃を受けて陸路海路共に包囲、封鎖されているとのことです。彼らを追い払うための兵力をお貸しください!」
「わかりました。報酬はいくらになりますか?」
「言い値で構いません。どんな額だろうと必ずお支払いいたします」
「いいでしょう。引き受けましょう。すぐに軍を手配します。報酬額は後日お伝えします」
「おお……引き受けてくれますか! ありがとうございます。本当にありがとうございます!」
不安でたまらない顔をしていた議長の顔が柔らかくなる。こうもすんなり救ってくれるのは大いにありがたい事だろう。
「……ついに来たか。ヴェルガノン帝国が」
一方でマコトの表情は硬い。
10年後から来たという47歳のマコトの世界と比べればずいぶん侵攻が早いが、彼が遺した資料通り、奴らは海上ルートを進むために港町である都市国家イルバーンを落とそうとしているらしい。
シューヴァルに攻め込まれる前に、こちらから攻撃だ。
都市国家シューヴァルからの援護要請を聞いた翌日、リシア領にある軍港からエンリケ率いる元海賊の海兵たちを加えたハシバ国海軍を乗せた船が波をかき分け進む。その数、15隻。
シューヴァルの軍艦8隻と合流し、計23隻の船は一路北へと向かう。
海を進むこと1日。都市国家イルバーンを包囲するヴェルガノン帝国の軍旗を掲げるガレー船、30隻を優に超える数の船が見えてきた。
「お頭……じゃない提督! 敵艦がこちらに気づいたようで向かってきます! いかがいたしますか!?」
「各艦に砲撃開始命令を出せ! あいつらに弾をたらふく食わせてやれ!」
ハシバ国の軍艦たちは相手に腹を見せ、敵艦と自分たちの艦でT字になるように陣形を組む。そしてありったけの砲弾をヴェルガノン帝国の軍艦に叩き込み、次々と海の藻屑に変えていく。
相手の船はほとんどが三段櫂船といったガレー船だ。ヴェルガノン帝国の軍艦は大砲を持っていないがゆえにハシバ国海軍による一方的な蹂躙が始まった。
「ハハハ! ヴェルガノン帝国とか言ったか? 大したことねえな!」
「全くだ! これなら母ちゃんの方が怖いぜ!」
沈んでいく敵の船を見てガハハと笑う兵たちだったが異変に気付く。
「な、何だぁ?」
撃沈された船に乗っていたゾンビたちは肺がはちきれる寸前まで息を吸い、浮袋となる。そしてそれを組体操でもしているかのように身体を組み合わせて即席のイカダを作り出した。
そのゾンビイカダはこちらの船に取り付くと乗せていたスケルトン達、それが全員船に取り付くとイカダと化していたゾンビたちが次々と船のわずかなデコボコに指をひっかけ、登ってくる。
「ふ、ふざけんじゃねえぞ! そんなのアリかよ!」
「来るぞ! 迎撃用意!」
海兵たちは銃や剣を構えて敵に挑む。
聖別された鉛を使っているとはいえ、波で揺れる船上ではアンデッドたちの弱点である頭部をピンポイントで撃ち抜く事は難しい。接近戦となると銃剣よりも従来の海戦のセオリー通り剣が有効だ。
陸軍とは違って海兵には全員帯剣させているのが功を成した。
銃から発せられる火薬のにおいと剣と剣とがぶつかりこすれあう音が船上を包む。
「ぐえっ!」
海兵のうちの1人の首にスケルトンが放った矢が深々と突き刺さる。致命傷だ。その場に倒れ動かなくなる。だがしばらくすると……。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ……」
彼は再び動き出す……敵として。ついさっきまで仲間だった戦友が、ゾンビとなって蘇り敵に回るというのは単純に戦力面はもちろん、心理的にも圧迫感がある。
既に息絶えて身体だけとはいえ、たった今まで戦友だった存在を一切の躊躇なく斬れるかというと、否だ。
ガレー船はオールの漕ぎ手を確保するために人員を多く乗せられるように設計されている。このため戦闘員を確保しやすく白兵戦に強いというメリットがある。
ヴェルガノン帝国の兵隊たちは質こそ劣っていたものの数の暴力で押してくる。
「クソッ! 数が多すぎる!」
「もう……だめだ!」
死者たちに押されてついに船員達があきらめそうになる、その時! 空から銃弾が降ってきた。
航空母艦ソルディバイドから飛び立ったハーピーの狙撃隊が上空から攻撃を仕掛けたのだ。
さらに都市国家シューヴァルの軍艦が横付けし、次々と兵士がやってくる。救援が来てくれたのだ。
「ご無事で!」
「た、助かった!」
「皆の者、アンデッドを恐れるな! 進め!」
援軍が来てくれたことで一気に吹き返す。ハシバ国の兵士たちの武器である剣や銃弾などは聖別されており、少しではあるが聖なる力を秘めている。
それが思った以上に成果が出ているようで、普通の武器ではアンデッドは首を切り落とさてもまだ動くのだが、彼らが使う剣では首を切り落とされただけで動かなくなる。
マコトは聖別もできる僧兵を増やそうと神学校を設置したが、その効果が出た。
シューヴァルからの援護を受けたハシバ国海軍が反撃に出て、次々とアンデッドたちを斬り伏せていく。
また船からも砲撃を続け、残りの敵艦を沈めていく。
そして……
「提督! 敵艦後退していきます!」
「俺たちの勝ちのようだな」
ハシバ国とシューヴァルの連合軍はイルバーンの海路解放に成功した。
【次回予告】
都市国家イルバーンの海路は解放された。今度は陸路だ
第109話 「最初の勝利」
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