神に最も近い男 ~彼の人脈、最強につき~

あがつま ゆい

文字の大きさ
1 / 26

第1話 エクムント=バルミング

しおりを挟む
 黒い立派な口ひげを生やした30半ばの男が町を歩いていた。見た目からして冒険者だろうと容易に推測できるが顔だちも服装も整っており、どこか高貴な雰囲気をかもし出していた。

 10代20代が主流の冒険者としてはだいぶ年を取り「引退」の2文字が浮かぶ彼ではあるがいまだに辞めるつもりは一切ない、生涯現役を貫き通そうとしている冒険者だった。



 ギルドに着くなり彼は受付嬢にクエストに関する話をする。

「こんにちはお嬢さん。ギルドに掲載されてから1年以上経つクエストを受けたい。それとギルド長のノイマンは元気にしてるか顔を見たいんで呼んでくれないか?

「エクムント=バルミング」が会いに来たと伝えてくれれば分かると思う」

「は、はぁ。そうですか」

 彼女は意味を理解していなかった。エクムント=バルミング……聞かない名前だ。見た感じ冒険者っぽいが、ギルド長をあろうことか呼び捨てで指名とはどういう事だろう?



「ノイマン様、お時間よろしいでしょうか?」

「どうした? 忙しいってのに」

「エクムント=バルミングなる冒険者がノイマン様を指名しているのですが、いかがいたしましょうか?」

 その名を聞いた瞬間、ギルド長ノイマンの顔色が変わる。

「!? エクムントさんが!?」



 しばらくして……ギルド長がエクムントと再会する。彼は終始低姿勢であった。

「いやぁエクムントさん! お久しぶりです! その節では大変お世話になりました!」

 受付嬢からしたらギルド長がただの冒険者相手にヘコヘコと頭を下げるのを、信じられない! という目で見ていた。



「久しぶりだなノイマン。この様子だとギルド運営は上手く言ってるようだな。今日はギルドに掲載されてから1年以上経過したクエストを受けたいんだ」

「は、はい! かしこまりました! 君、クエストの一覧を持って来てくれ。大至急だ!」

「か、かしこまりました。しかしノイマン様がそんな低姿勢になるなんてあの人はいったい何者なんですか?」

「エクムントさんはギルド結成の際に初期メンバーの紹介と資金の援助をしてくださったお方なんだ。今のギルドがあるのも、あのお方のおかげなんだ」

「なるほど、そういう事ですか」

 そういう事情があったのか。と受け付け嬢は納得し、言われた通りギルドに掲載されてから1年以上経つクエストを調べ始めた。



 長期間、具体的に言えばギルドに掲載されてから1年以上経つクエストというのは達成が極めて困難で、発注者も半ばあきらめているようなクエストだ。

 エクムントはそんなクエストをこなす、世界的に見てもかなり特殊な冒険者だ。

「フーム。父親の病を治してほしい、という国王直々の依頼か」

「ええ。1年以上病に苦しみ続ける闘病生活を今でも送っているそうです。病に伏してから1年でだいぶ衰弱していて噂じゃ余命3ヶ月から半年だと言われてまして……」

「よしわかった。これにしよう」

 エクムントはそのクエストを受注した。



 普通の冒険者なら様子見のためにまず城へ向かう所だが彼はその前に『あること』をした。

 持っていたみがき抜かれた石板のような魔導器具を起動する。これは通信機器の一種で、世界中にいる「知り合い」と通話が可能な特注の装置だ。

「フレデリカ、今は話をしても大丈夫か?」

 通話相手は錬金術師の中でも特に「薬剤師」と呼ばれる薬の調合をメインにこなす女だった。



「あらエクムントさんお久しぶり、大丈夫ですよ。お仕事ですか?」

「まぁな。病弱な身体にムチを打たせるような真似をしてすまない」

「良いんですよ。エクムントさんのお願いとあれば断るわけにもいきませんし。で、今回のお仕事は?」

「ああ。小国の王の父親が病に伏せているので治療薬が欲しいという依頼だ。君なら診断も出来るし薬も調合できるはずだ。やってくれるか?」

「分かりました。じゃあ明日の昼に召喚してちょうだい。それと仕事が終わったら一緒に話でもしたいな。久しぶりに会うんだし」

「分かった。じゃあ明日会おう」

 通信を終えた。



【次回予告】

エクムントが召喚する薬剤師フレデリカ。彼女は世界最高の名医でもあった。

第2話 「伝説の錬金術師」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...