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第1話 エクムント=バルミング

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 黒い立派な口ひげを生やした30半ばの男が町を歩いていた。見た目からして冒険者だろうと容易に推測できるが顔だちも服装も整っており、どこか高貴な雰囲気をかもし出していた。

 10代20代が主流の冒険者としてはだいぶ年を取り「引退」の2文字が浮かぶ彼ではあるがいまだに辞めるつもりは一切ない、生涯現役を貫き通そうとしている冒険者だった。



 ギルドに着くなり彼は受付嬢にクエストに関する話をする。

「こんにちはお嬢さん。ギルドに掲載されてから1年以上経つクエストを受けたい。それとギルド長のノイマンは元気にしてるか顔を見たいんで呼んでくれないか?

「エクムント=バルミング」が会いに来たと伝えてくれれば分かると思う」

「は、はぁ。そうですか」

 彼女は意味を理解していなかった。エクムント=バルミング……聞かない名前だ。見た感じ冒険者っぽいが、ギルド長をあろうことか呼び捨てで指名とはどういう事だろう?



「ノイマン様、お時間よろしいでしょうか?」

「どうした? 忙しいってのに」

「エクムント=バルミングなる冒険者がノイマン様を指名しているのですが、いかがいたしましょうか?」

 その名を聞いた瞬間、ギルド長ノイマンの顔色が変わる。

「!? エクムントさんが!?」



 しばらくして……ギルド長がエクムントと再会する。彼は終始低姿勢であった。

「いやぁエクムントさん! お久しぶりです! その節では大変お世話になりました!」

 受付嬢からしたらギルド長がただの冒険者相手にヘコヘコと頭を下げるのを、信じられない! という目で見ていた。



「久しぶりだなノイマン。この様子だとギルド運営は上手く言ってるようだな。今日はギルドに掲載されてから1年以上経過したクエストを受けたいんだ」

「は、はい! かしこまりました! 君、クエストの一覧を持って来てくれ。大至急だ!」

「か、かしこまりました。しかしノイマン様がそんな低姿勢になるなんてあの人はいったい何者なんですか?」

「エクムントさんはギルド結成の際に初期メンバーの紹介と資金の援助をしてくださったお方なんだ。今のギルドがあるのも、あのお方のおかげなんだ」

「なるほど、そういう事ですか」

 そういう事情があったのか。と受け付け嬢は納得し、言われた通りギルドに掲載されてから1年以上経つクエストを調べ始めた。



 長期間、具体的に言えばギルドに掲載されてから1年以上経つクエストというのは達成が極めて困難で、発注者も半ばあきらめているようなクエストだ。

 エクムントはそんなクエストをこなす、世界的に見てもかなり特殊な冒険者だ。

「フーム。父親の病を治してほしい、という国王直々の依頼か」

「ええ。1年以上病に苦しみ続ける闘病生活を今でも送っているそうです。病に伏してから1年でだいぶ衰弱していて噂じゃ余命3ヶ月から半年だと言われてまして……」

「よしわかった。これにしよう」

 エクムントはそのクエストを受注した。



 普通の冒険者なら様子見のためにまず城へ向かう所だが彼はその前に『あること』をした。

 持っていたみがき抜かれた石板のような魔導器具を起動する。これは通信機器の一種で、世界中にいる「知り合い」と通話が可能な特注の装置だ。

「フレデリカ、今は話をしても大丈夫か?」

 通話相手は錬金術師の中でも特に「薬剤師」と呼ばれる薬の調合をメインにこなす女だった。



「あらエクムントさんお久しぶり、大丈夫ですよ。お仕事ですか?」

「まぁな。病弱な身体にムチを打たせるような真似をしてすまない」

「良いんですよ。エクムントさんのお願いとあれば断るわけにもいきませんし。で、今回のお仕事は?」

「ああ。小国の王の父親が病に伏せているので治療薬が欲しいという依頼だ。君なら診断も出来るし薬も調合できるはずだ。やってくれるか?」

「分かりました。じゃあ明日の昼に召喚してちょうだい。それと仕事が終わったら一緒に話でもしたいな。久しぶりに会うんだし」

「分かった。じゃあ明日会おう」

 通信を終えた。



【次回予告】

エクムントが召喚する薬剤師フレデリカ。彼女は世界最高の名医でもあった。

第2話 「伝説の錬金術師」
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