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第23話 改心
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エルフィーナがヴラド国に嫁いでから1夜が明けた。
「おはようエルフィーナ。何か欲しいものはあるか? 何か食べたい物はあるか? 何かしたい遊びはあるか? 何が欲しい? 何を望む? お前が言うのなら何でも用意させるぞ」
「そうねぇ。と言っても世界中の料理は食べつくしたし遊びもやりつくしたから特に欲しいものは「無い」のよね。強いて言えば……国内に孤児院を作ってほしいってとこかな?」
意外な発言に新郎は大いに戸惑う。
「何ぃ? 孤児院を作れだぁ? そんなことして何になるって言うんだ? せっかくのカネが出ていくじゃないか!」
「あなたは私との生活を維持するために搾取をしてるのね? だったら民に施しをすればもっと出させることもできるかもよ。それに……そうしてくれた方が私は嬉しいかな」
「うーむ……分かった。そうしよう」
こうして3ヶ月で20を超える孤児院が国内に作られた。税金は高いものの孤児たちの多くは雨をしのげ、食事が食べられる場が設けられることになった。
「……」
「あなた、どうしました?」
「お前には魅了スキルが効かないんだよな? オレの言う事に従ってはいるようだが」
「ええまぁ。白き神の加護をもらっていますから私に害をなす魔法や術は一切効きません。あなたの魅了スキルだってそうですよ」
「……だったらなぜオレを殺さないんだ? お前の事だ、オレを殺すことなど簡単にできるはずだというのに。食事や飲み物に毒を盛ること位ならすぐにできるはずだろ?」
「私は白き神の加護で永遠に生き続けるようになって2500年生きてるけどあなたのような人を数えきれない位見て来たわ。でもあなたはまだ再起できる可能性が残ってる人なのよ。
例えば自分がやってることは悪い事だとうすうす気づいている人、とかね」
「!!」
「大丈夫。やり直すのに遅すぎることなんてないわ。その気になったら相談してちょうだい。待ってるわ」
……自分がやってることは悪い事だとうすうす気づいている人。まるで心の中を読んだかのように彼女はそう言った。その通りだ。
勉強なんてしたくない、遊んでいたい、楽して生きていきたい。そういう思いが発端だ。だがそれを満たすためについには親や兄を殺してしまった。
死んだ者はもうどうしようもなく、どんな魔法でも、自分を含めて世界中の誰にも生き返らせることはできない。もう引き返せないところまで来てしまった。
……どうしよう。どうすればいい? 今更反省したって後の祭りだ。
テッドとエルフィーナが結婚してから半年がたった。エルフィーナは潤沢な国庫から資金を引き出し、炊き出しや孤児院経営などの慈善事業を続けていた。
一方のテッドは15歳になり成人したが相変わらず圧政を敷き続けている。この頃の彼は、大いに焦っていた。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……)
「あなた、どうしました? 何か焦っているように見えますけど?」
「う、うるさい! お前には関係ない事だ!」
(……仕方ないわね。ちょっとズルいけど読ませてもらおうかしら)
「ねぇあなた、ちょっといいかしら?」
「? 何だ?」
エルフィーナはテッドを呼ぶ。素直にやってきた彼の額に彼女は指を当てた。
(どうしよう、軍全体を魅了スキルで操っていたけどもうすぐスキルが効かなくなる期限が迫っている。そうなったら軍事クーデターでオレは終わってしまう。
かといって軍人たちを処刑しても代わりなんてないし……どうしよう、どうしよう)
「なるほどね。あなたは軍のクーデターを恐れているわけなのね」
「!! な、なぜわかった!?」
「ちょっと卑怯かもしれないけどあなたの心の中を読ませてもらったわ」
「心を読むだって!? そんな事も出来るのか!?」
「ええまぁ。相手の額に指を当てる必要はありますけど出来ますよ。私も無駄に長生きしているわけではありませんからね」
「……なぁエルフィーナ。オレはどうしたらいい? オレはまだ死にたくない、まだほんの15歳だ。成人になったばかりなんだ。
でも今までやったことに対してはこうなるのも当然なんだろうけどそれでもまだ死にたくないんだ。身勝手なワガママかもしれないけど、やっぱり死にたくないんだ。オレは」
テッドは本気でおびえていた。
「そう、だったら逃げ出したらどうかしら?」
エルフィーナは夫に逃げろ、と提案する。
「に、逃げる? どこへ? 俺の顔はみんなに知れ渡っているんだぞ?」
「私の知り合いに人生のやり直しが出来るエルフが居るから彼女を当てにしてちょうだい。それと……これをあげるわ」
そう言って紹介状と一冊の文庫サイズの小さな本を取り出した。
「私が書いた本よ。ペンネームは本名とは違うけどね。これさえ読めばとりあえず人脈を作れる事は出来るわ。人の「つて」さえあれば何とか生きれると思うから頑張ってね」
そう言って彼女は本と紹介状をテッドに渡した。
「良いのか? オレなんかのために? お前にとっては何のメリットも無いんだぞ?」
「あなたならきっとうまくいくと思うわ。あなた自身気づいてないと思うけどあなたには才能があるからこうしているだけに過ぎないのよ。さぁ行きなさい。後は私がやっておきますから」
「……すまん。世話になったな」
その日の翌日、テッドは自力で持てるだけの財産をもって逃げ出した。それから1週間後、ヴラド国では軍事クーデターが勃発した。
しかしクーデター軍が拘束する目標であったテッドはとっくの昔に国を発っており、国中をひっくり返すような捜査をしても見つからなかった。
また妻のエルフィーナはヴラド国における慈善事業の中核を担っていたこともあって、むやみに罰しては反感を買うとして「国政に参与しない」というのを条件に国内での生活ができるようになったという。
【次回予告】
その日、15歳のテッド=ヴラドという人間はいなくなり、代わりに25歳のエクムント=バルミングが現れた。
第24話 「テッド=ヴラドが死んで、エクムント=バルミングが生まれた」
「おはようエルフィーナ。何か欲しいものはあるか? 何か食べたい物はあるか? 何かしたい遊びはあるか? 何が欲しい? 何を望む? お前が言うのなら何でも用意させるぞ」
「そうねぇ。と言っても世界中の料理は食べつくしたし遊びもやりつくしたから特に欲しいものは「無い」のよね。強いて言えば……国内に孤児院を作ってほしいってとこかな?」
意外な発言に新郎は大いに戸惑う。
「何ぃ? 孤児院を作れだぁ? そんなことして何になるって言うんだ? せっかくのカネが出ていくじゃないか!」
「あなたは私との生活を維持するために搾取をしてるのね? だったら民に施しをすればもっと出させることもできるかもよ。それに……そうしてくれた方が私は嬉しいかな」
「うーむ……分かった。そうしよう」
こうして3ヶ月で20を超える孤児院が国内に作られた。税金は高いものの孤児たちの多くは雨をしのげ、食事が食べられる場が設けられることになった。
「……」
「あなた、どうしました?」
「お前には魅了スキルが効かないんだよな? オレの言う事に従ってはいるようだが」
「ええまぁ。白き神の加護をもらっていますから私に害をなす魔法や術は一切効きません。あなたの魅了スキルだってそうですよ」
「……だったらなぜオレを殺さないんだ? お前の事だ、オレを殺すことなど簡単にできるはずだというのに。食事や飲み物に毒を盛ること位ならすぐにできるはずだろ?」
「私は白き神の加護で永遠に生き続けるようになって2500年生きてるけどあなたのような人を数えきれない位見て来たわ。でもあなたはまだ再起できる可能性が残ってる人なのよ。
例えば自分がやってることは悪い事だとうすうす気づいている人、とかね」
「!!」
「大丈夫。やり直すのに遅すぎることなんてないわ。その気になったら相談してちょうだい。待ってるわ」
……自分がやってることは悪い事だとうすうす気づいている人。まるで心の中を読んだかのように彼女はそう言った。その通りだ。
勉強なんてしたくない、遊んでいたい、楽して生きていきたい。そういう思いが発端だ。だがそれを満たすためについには親や兄を殺してしまった。
死んだ者はもうどうしようもなく、どんな魔法でも、自分を含めて世界中の誰にも生き返らせることはできない。もう引き返せないところまで来てしまった。
……どうしよう。どうすればいい? 今更反省したって後の祭りだ。
テッドとエルフィーナが結婚してから半年がたった。エルフィーナは潤沢な国庫から資金を引き出し、炊き出しや孤児院経営などの慈善事業を続けていた。
一方のテッドは15歳になり成人したが相変わらず圧政を敷き続けている。この頃の彼は、大いに焦っていた。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……)
「あなた、どうしました? 何か焦っているように見えますけど?」
「う、うるさい! お前には関係ない事だ!」
(……仕方ないわね。ちょっとズルいけど読ませてもらおうかしら)
「ねぇあなた、ちょっといいかしら?」
「? 何だ?」
エルフィーナはテッドを呼ぶ。素直にやってきた彼の額に彼女は指を当てた。
(どうしよう、軍全体を魅了スキルで操っていたけどもうすぐスキルが効かなくなる期限が迫っている。そうなったら軍事クーデターでオレは終わってしまう。
かといって軍人たちを処刑しても代わりなんてないし……どうしよう、どうしよう)
「なるほどね。あなたは軍のクーデターを恐れているわけなのね」
「!! な、なぜわかった!?」
「ちょっと卑怯かもしれないけどあなたの心の中を読ませてもらったわ」
「心を読むだって!? そんな事も出来るのか!?」
「ええまぁ。相手の額に指を当てる必要はありますけど出来ますよ。私も無駄に長生きしているわけではありませんからね」
「……なぁエルフィーナ。オレはどうしたらいい? オレはまだ死にたくない、まだほんの15歳だ。成人になったばかりなんだ。
でも今までやったことに対してはこうなるのも当然なんだろうけどそれでもまだ死にたくないんだ。身勝手なワガママかもしれないけど、やっぱり死にたくないんだ。オレは」
テッドは本気でおびえていた。
「そう、だったら逃げ出したらどうかしら?」
エルフィーナは夫に逃げろ、と提案する。
「に、逃げる? どこへ? 俺の顔はみんなに知れ渡っているんだぞ?」
「私の知り合いに人生のやり直しが出来るエルフが居るから彼女を当てにしてちょうだい。それと……これをあげるわ」
そう言って紹介状と一冊の文庫サイズの小さな本を取り出した。
「私が書いた本よ。ペンネームは本名とは違うけどね。これさえ読めばとりあえず人脈を作れる事は出来るわ。人の「つて」さえあれば何とか生きれると思うから頑張ってね」
そう言って彼女は本と紹介状をテッドに渡した。
「良いのか? オレなんかのために? お前にとっては何のメリットも無いんだぞ?」
「あなたならきっとうまくいくと思うわ。あなた自身気づいてないと思うけどあなたには才能があるからこうしているだけに過ぎないのよ。さぁ行きなさい。後は私がやっておきますから」
「……すまん。世話になったな」
その日の翌日、テッドは自力で持てるだけの財産をもって逃げ出した。それから1週間後、ヴラド国では軍事クーデターが勃発した。
しかしクーデター軍が拘束する目標であったテッドはとっくの昔に国を発っており、国中をひっくり返すような捜査をしても見つからなかった。
また妻のエルフィーナはヴラド国における慈善事業の中核を担っていたこともあって、むやみに罰しては反感を買うとして「国政に参与しない」というのを条件に国内での生活ができるようになったという。
【次回予告】
その日、15歳のテッド=ヴラドという人間はいなくなり、代わりに25歳のエクムント=バルミングが現れた。
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