1 / 1
いのちのひ
しおりを挟む
「ねえ、せっかくなのにそんな顔しなくてもいいんじゃないかな」
少女は目の前に座る青年に、ほんの少しおかんむりだった。わざとらしく、少しじっとりとした目を心がけて、ものものしく声のトーンを落とす。
「それにこの花はちょっとなあ……いや、ものすごくキレイだよ?でも私、オレンジ系統の花が好きってよく知ってるでしょ?まさか忘れてないよね……というかこれ、花屋さん、おしべとるの忘れてるじゃん」
怒ったふりは到底長続きしない。
花粉、服についちゃうと洗ってもとれないから気をつけなねぇ、と彼女はからからと笑い、ついで自分のために用意されたごちそうに、きらきらと目を輝かせる。
「うさぎりんご作ってくれたんだ!てかうまくなったじゃん、もしかしてこっそり練習してくれてた?耳がちぎれてないし、変色もしてない!まあ塩水ちょっと苦手だから砂糖水にしてほしかったんだけど……でも本当に嬉しい!このケーキも私の好きな駅前のケーキ屋さんのだよね?覚えててくれたんだぁ」
火のともったふたつの蝋燭。目の前の青年の瞳のなかで、橙の光がゆらゆらと揺れている。
プレゼントはくれないの、と少女が悪戯っぽく囁く。
暫く時が流れて、漸く虚空を見つめた青年が、ぽつりと呟く。
――大好きだったよ
どうして過去形、と彼女は透明に笑う。
「私はまだ大好きだよ」
――ねえ、十何年越しに私は振り向いてもらえたわけだけれど
――今度は、何年たったらまた私と目を合わせて笑ってくれるのかな
少女は目の前に座る青年に、ほんの少しおかんむりだった。わざとらしく、少しじっとりとした目を心がけて、ものものしく声のトーンを落とす。
「それにこの花はちょっとなあ……いや、ものすごくキレイだよ?でも私、オレンジ系統の花が好きってよく知ってるでしょ?まさか忘れてないよね……というかこれ、花屋さん、おしべとるの忘れてるじゃん」
怒ったふりは到底長続きしない。
花粉、服についちゃうと洗ってもとれないから気をつけなねぇ、と彼女はからからと笑い、ついで自分のために用意されたごちそうに、きらきらと目を輝かせる。
「うさぎりんご作ってくれたんだ!てかうまくなったじゃん、もしかしてこっそり練習してくれてた?耳がちぎれてないし、変色もしてない!まあ塩水ちょっと苦手だから砂糖水にしてほしかったんだけど……でも本当に嬉しい!このケーキも私の好きな駅前のケーキ屋さんのだよね?覚えててくれたんだぁ」
火のともったふたつの蝋燭。目の前の青年の瞳のなかで、橙の光がゆらゆらと揺れている。
プレゼントはくれないの、と少女が悪戯っぽく囁く。
暫く時が流れて、漸く虚空を見つめた青年が、ぽつりと呟く。
――大好きだったよ
どうして過去形、と彼女は透明に笑う。
「私はまだ大好きだよ」
――ねえ、十何年越しに私は振り向いてもらえたわけだけれど
――今度は、何年たったらまた私と目を合わせて笑ってくれるのかな
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の大きな勘違い
神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。
もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし
封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。
お気に入り、感想お願いします!
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる