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変なアプリと変な男の奇妙な立場。
美人は何をしても、美人だ。異論は勿論ない。
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通勤ラッシュで毎朝渋滞している国道沿いのコンビニで、朝飯の菓子パンと缶コーヒーを手に取りレジに並ぶ。
店内には学生達による朝のピークを乗り越えたからか、少し穏やかな雰囲気が感じ取れ、心なしかレジ対応をしてくれた女性店員も柔らかい接客態度のように感じる。
ピンポーン、と自動ドアが開くと少し肌寒い外気に出迎えられて外へと出る。コンビニ前の通りを走っていく制服姿の男女が目に飛び込んだものだから、「国道から一本脇道に入るとはいえそれなりの交通量があるのだから気をつけろよ」なんて言葉が自然と漏れてしまった。
目に映る新緑が、その生命力を溢れさせ活き活きと風に吹かれゆらゆらと嬉しそうにしている、たとえそれが、無機質なアスファルトの罅割れから伸びた名も知らない草花であったとしても、か、だからこそ、か。
その色鮮やかさに多少の憧れのような羨望を覚えたのは、先ほど走り去っていった、うちの学校の制服を着た若者達に当てられたからかもしれない。
すぐに歩き出すのに何となく躊躇してしまい、建物の脇に設置されている灰皿の横に立って青空に向かって紫煙を吐くことにした。
国道の喧騒も届かない閑静な住宅街にある校門に到着し、周りをざっくりと眺めた限りでは、朝練をしていたはずの運動部の連中の姿も既に無く、ちらほらと見える生徒たちも足早に教室へと向かっているようだ。
あと20分もすれば朝のホームルームが始まるのだから、当たり前と言えばそうなのだが。
職員用の出入り口の扉を開け、内履きに替える。お飾りとして用意された職員室の片隅の机には、同僚達のような資料などは置かれていない殺風景なもので、ぽつんと型落ちしたノートパソコンが申し訳程度に佇んでいる。
「おはようございます」
「おはようございます」と対面に座る養護教諭である同僚に返す。
俺よりも2つ歳下の彼女は持ち前のその可愛いらしい、生徒からすれば美人と人気の整っている顔を優しく咲かせた。
「いつも通り、ギリギリのご出勤ですね、先輩?」
「無遅刻無欠勤が俺の唯一の自慢だよ、後輩ちゃん」と学生の頃、バイトで培った安いスマイルを作る。
「...社会人の鑑ですね」
「それはどうも」
少し間をおいて軽い嫌味を返す後輩の対面の椅子を引いて座る。中身の伴わない鞄を、先程買った朝食を取り出して足元に置き、カサカサと菓子パンの袋を開けて、缶コーヒーのプルタブを押し上げた。
「またコンビニですか?」とデスクとPCを挟んだ向こう側から顔を覗かせる後輩に、
「ルーティン、ってヤツだな」などと横文字を返すと呆れたような顔をされるのもまた、ルーティンだ。
それにしても美人はどんな顔をしても美人で得だなぁ、と心の中で後輩を褒めながら税込110円のパンに齧り付く。
カタカタカタ、と職員室に響くキーボードをタッチする音をBGMに缶を傾ける。
ちょうど飲み終えたと同時に、廊下側の扉が開き教頭と、珍しい事に学校長が伴って入室して来たので、全員立ち上がり正面を向いた。
「おはようございます」と、教頭の挨拶に頭を下げて挨拶を返す光景は、学生達と何ら変わらない。
職員朝礼が始まり、諸連絡を聞きスケジュールの確認を行うと、最後に学校長からお達しがあった。
「一昨日の夜11時頃、当校の生徒が栄のドン・キホーテ前で警察官に補導されました。該当生徒と保護者の方には昨日事情を確認させてもらい、犯罪等の関連性も無く、ただ知り合いに呼び出された為に夜中に徘徊していたとの事。
今回が初めてだったという点を踏まえて厳重注意と反省文の提出、保護者の方の付き添いもなく夜の外出等をしないように家庭内で話し合って頂くことになりました。
各教員の皆さんは、こういった事が再発しないよう生徒に徹底させてください」
「はい」と、担当クラスのある同僚達が硬い表情で頷く。大事な部分が抜けた情報を投げられても、「はい、そうですか」と請け負える〈担任〉という職業は相変わらず凄い...真っ黒だな。
そんな気持ちで周囲を見渡していたのが悪かったのだろう。徐に正面の学校長に向けた視線が、見事に捉えられてしまった。ニヤリ、と口角を上げた年齢不詳の美魔女に、三角帽子に杖を持ち毒林檎を携えている姿を幻視した。
「福永先生は、この後学校長室まで来てください」
「...分かりました」と返しながら、やってしまった、と辟易する。朝から、余計に疲れるような真似を自らしてしまった自分に「阿呆か」と愚痴れば、「はい、よろこんで」と長い間刷り込まれた条件反射的な返答をしなくて良かった、などと訳の分からない言い訳が頭の中をよぎってしまった。
「どうか穏やかな週始めを迎えたい」だなんて、そんなに難しいことではないはずなんだけどな、と足下の床の木目を見れば、偶々だろうが、床材の節目が俺のことを笑っているかのような形だった、なんて誰に聞かせても理解してもらえないだろうよ。
店内には学生達による朝のピークを乗り越えたからか、少し穏やかな雰囲気が感じ取れ、心なしかレジ対応をしてくれた女性店員も柔らかい接客態度のように感じる。
ピンポーン、と自動ドアが開くと少し肌寒い外気に出迎えられて外へと出る。コンビニ前の通りを走っていく制服姿の男女が目に飛び込んだものだから、「国道から一本脇道に入るとはいえそれなりの交通量があるのだから気をつけろよ」なんて言葉が自然と漏れてしまった。
目に映る新緑が、その生命力を溢れさせ活き活きと風に吹かれゆらゆらと嬉しそうにしている、たとえそれが、無機質なアスファルトの罅割れから伸びた名も知らない草花であったとしても、か、だからこそ、か。
その色鮮やかさに多少の憧れのような羨望を覚えたのは、先ほど走り去っていった、うちの学校の制服を着た若者達に当てられたからかもしれない。
すぐに歩き出すのに何となく躊躇してしまい、建物の脇に設置されている灰皿の横に立って青空に向かって紫煙を吐くことにした。
国道の喧騒も届かない閑静な住宅街にある校門に到着し、周りをざっくりと眺めた限りでは、朝練をしていたはずの運動部の連中の姿も既に無く、ちらほらと見える生徒たちも足早に教室へと向かっているようだ。
あと20分もすれば朝のホームルームが始まるのだから、当たり前と言えばそうなのだが。
職員用の出入り口の扉を開け、内履きに替える。お飾りとして用意された職員室の片隅の机には、同僚達のような資料などは置かれていない殺風景なもので、ぽつんと型落ちしたノートパソコンが申し訳程度に佇んでいる。
「おはようございます」
「おはようございます」と対面に座る養護教諭である同僚に返す。
俺よりも2つ歳下の彼女は持ち前のその可愛いらしい、生徒からすれば美人と人気の整っている顔を優しく咲かせた。
「いつも通り、ギリギリのご出勤ですね、先輩?」
「無遅刻無欠勤が俺の唯一の自慢だよ、後輩ちゃん」と学生の頃、バイトで培った安いスマイルを作る。
「...社会人の鑑ですね」
「それはどうも」
少し間をおいて軽い嫌味を返す後輩の対面の椅子を引いて座る。中身の伴わない鞄を、先程買った朝食を取り出して足元に置き、カサカサと菓子パンの袋を開けて、缶コーヒーのプルタブを押し上げた。
「またコンビニですか?」とデスクとPCを挟んだ向こう側から顔を覗かせる後輩に、
「ルーティン、ってヤツだな」などと横文字を返すと呆れたような顔をされるのもまた、ルーティンだ。
それにしても美人はどんな顔をしても美人で得だなぁ、と心の中で後輩を褒めながら税込110円のパンに齧り付く。
カタカタカタ、と職員室に響くキーボードをタッチする音をBGMに缶を傾ける。
ちょうど飲み終えたと同時に、廊下側の扉が開き教頭と、珍しい事に学校長が伴って入室して来たので、全員立ち上がり正面を向いた。
「おはようございます」と、教頭の挨拶に頭を下げて挨拶を返す光景は、学生達と何ら変わらない。
職員朝礼が始まり、諸連絡を聞きスケジュールの確認を行うと、最後に学校長からお達しがあった。
「一昨日の夜11時頃、当校の生徒が栄のドン・キホーテ前で警察官に補導されました。該当生徒と保護者の方には昨日事情を確認させてもらい、犯罪等の関連性も無く、ただ知り合いに呼び出された為に夜中に徘徊していたとの事。
今回が初めてだったという点を踏まえて厳重注意と反省文の提出、保護者の方の付き添いもなく夜の外出等をしないように家庭内で話し合って頂くことになりました。
各教員の皆さんは、こういった事が再発しないよう生徒に徹底させてください」
「はい」と、担当クラスのある同僚達が硬い表情で頷く。大事な部分が抜けた情報を投げられても、「はい、そうですか」と請け負える〈担任〉という職業は相変わらず凄い...真っ黒だな。
そんな気持ちで周囲を見渡していたのが悪かったのだろう。徐に正面の学校長に向けた視線が、見事に捉えられてしまった。ニヤリ、と口角を上げた年齢不詳の美魔女に、三角帽子に杖を持ち毒林檎を携えている姿を幻視した。
「福永先生は、この後学校長室まで来てください」
「...分かりました」と返しながら、やってしまった、と辟易する。朝から、余計に疲れるような真似を自らしてしまった自分に「阿呆か」と愚痴れば、「はい、よろこんで」と長い間刷り込まれた条件反射的な返答をしなくて良かった、などと訳の分からない言い訳が頭の中をよぎってしまった。
「どうか穏やかな週始めを迎えたい」だなんて、そんなに難しいことではないはずなんだけどな、と足下の床の木目を見れば、偶々だろうが、床材の節目が俺のことを笑っているかのような形だった、なんて誰に聞かせても理解してもらえないだろうよ。
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