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6.実子かどうかなんて
使用人の総入れ替えが起こってから早数日。あのラディアの毒事件のせいかジャスパーが朝食を持ってくるという日々が続いている。朝食は胃に優しそうなものばかりだ。
「食べろ」
「……」
ジャスパーを横目にベッドから少し離れた小さな丸い机に置かれた食事を食べる。彼はじっとこちらを見ている。
「今日もベッドで寝なかったのか」
「そこのソファで寝たから」
「……」
今ベッドで眠らないことを渋々了承された気がする。起きると必ず使用人が部屋を整えにくるからか、ベッドを使っていないことが簡単にバレてしまう。
食事を口に運んでいる間、話すことが何もなく沈黙が続くのだが、この日は珍しくジャスパーが口を開いた。
「3ヶ月後、中央都市で夜会が開かれる」
そういえばここは北部だった。中央は結婚式を行なって以来足を踏み入れていないため、夜会へ行くのならそれでやっと二回目の参上となる。
「夜会って具体的に何をするんだ?」
「挨拶回りとダンスだな」
不思議な催しがある世界だ。などと考えていたら行きたくないと捉えられたようだ。
「嫌なら行かなくて良い」
「それ……形式的には行った方が良いやつなんじゃないか?」
あれからカルセドとしばらく話をしていてよかった。ジャスパーがわざわざ何かの予定を共有するということは、きっと様々な家が参加する大きなイベントなのだろう。カルセドとの会話なしでは得られなかった気付きだ。
「毒で倒れたんだ。次の機会でも――」
「待ってくれ、行くから」
「気を遣わなくても良い」
「俺が気を使っているのはジャスパーじゃなくてレピにだ。この世界のことはまだよく分からない。けど、俺の行動次第でレピに何か影響が出るのかもしれないんだろ。それに3ヶ月もあれば十分回復する」
レピはまだ幼いというのにあんなに必死になって……。なのに「皆が集まる会に自分だけ行かずなんと体たらくなことか。カエルの子はカエル、その息子娘もまた同じであろう」なんて思われてはたまらない。概ねそんな話をジャスパーは目を丸くしたまま聞いている。
「なぜそこまでレピドにこだわる」
実子ではないというのに、と言いたいのだろう。
「真面目で、頑張っているから」
「それだけなのか?お前と血が繋がっていないのに――」
「逆に聞きたい。実子であることが……そんなに重要なのか?」
ジャスパーは言葉に詰まっていた。カルセドから実子か前妻の子かという話は確かに聞いた。理論的には分かっていた。分かっていたが……。
実の親にすら愛されたことの無かった俺には、実の子か否かなんて馬鹿らしくて仕方がなかった。
血の繋がりがあったって愛されないんだ。それは裏を返せば実子でなくても愛することが出来るだろう、例え擬態であったとしても。それに俺はあんなにも優しい子を無下に扱うことなんて出来ない。
「俺は曲がりなりにもジャスパーの妻になって、レピの親になったんだろ。半ば強引だったけど。なら俺はレピを死んでも守る」
俺はそうしてもらえなかった。だから俺でその連鎖を断ち切りたい。
「……」
「……もうレピがそう思わせてくれてるんだよ。あの子はいい子だ。毒で倒れた時も、ずっと俺のことを呼んでくれた」
彼は何かを熟考している。義理の息子を想う気持ちを信じるのがそこまで難しくなるほど前の奥様が気難しい人間だったのだろうか。
「わかった。夜会へは行こう。ただこれだけは分からん」
ジャスパーは組んでいた足を入れ替えてこう続けた。
「お前は無理やり結婚させられた」
「そうだな」
「使用人に傷んだ食べ物を出されるほど歓迎されていないのは分かっていただろう?」
「まあそうだな」
「なぜ怒らない。なぜ尽くそうと決意できた。普通なら追い詰められて俺に抗議してくるところだ。レピドだけが理由なのか?」
以前ならしたところで待遇が変わるのだろうかとも思ったが、彼は相手がまともに対話をしようと試みる人間であればちゃんと話を聞く人なのだろうと認識が変わった。
「簡単な話だ。レピのこともあるが……この家の人間から敵意を感じはするものの、殺意は感じなかった。前の世界のことを思うとなんだかんだ安心できる場所なんだよここは」
「極端なやつめ」
「それに俺はレピが成人したらここを出るつもりだ。あの子が家を継ぐまで共に過ごして、すぐ、とまではいかないかもしれないが、用済みになったらちゃんと出ていく」
「は?今安心できる場所だと……」
「今の言葉、レピを害さない証拠として受け取って欲しい」
彼はため息を吐いて手のひらで額を押さえた。しばらくして席を立ち、日を置いて服を用意するぞと行って去ってしまった。
――――
――
―
あれからすっかりと回復した頃のこと。食事を終えてレピが受けている授業の様子を見終えた後、メイドが現れて試着室まで案内された。豪華な調度品が適度に配置された明るい部屋の真ん中には、色とりどりのタキシード服がずらりと並ぶ衣装架が置かれていた。
「すごいな……」
「奥様、本日は採寸と服のイメージのすり合わせのため参上しましたデザイナーのネフラですわ。あぁしかし、ここまでの美貌でしたとは……」
「いくら何でも買いかぶりすぎだろ」
俺を別の生き物かのように見てくるネフラに対しつい言い放ってしまった。
ネフラは採寸を終えてまずはこれ、次はこれと着せ替え人形にでもするかのように次々と服を着せてきた。それは夜会へ行くと行ったことをほんのわずか後悔するほどの量だった。面白そうにこちらを見ているジャスパーは敵なのかもしれない。
そうして最後の一着を着た。黒いオペラクロークにふんだんに刺繍が施され。適度な宝石が付いている。アウターよりは明るい黒のスカーフタイのブラウスに腹を覆うハイパンツだ。
「驚くほど黒が似合うな」
「美しすぎて頭が誤作動を起こしてしまいますわ!ロアイト公爵、とんでもない方を娶られたのですね!では、既製品からはこちら、新規でこちらに近いものをお作りしますわ」
「ありがとう……………疲れたな……」
最後に着たこの服を脱ごうとする手をジャスパーに止められてしまった。
「今日はそのままでいろ」
「えっ」
「言っただろ。夜会は挨拶回りとダンスがあると」
どこか楽しそうな様子を見ると彼は続けて言った。
「ダンスの練習をするぞ」
そのままダンスホールへ連れられた。試着室からダンスホールまで引き続き煌びやかな空間で目がクラクラしてきそうだ。天井画をじっと眺め絵の意味が何なのか考える暇もなくジャスパーに手を引かれた。
「今までにダンスを踊ったことは?」
「もちろん無い」
「それは指導のしがいがある」
ホールに揃っていた奏者たちが演奏を始めるとジャスパーは引いていた手をさらに強く本人の胸の前へ引き二人の距離を縮めた。腰に手を回され顔が近付く。心臓がバクバクするこれはこ酸っぱく甘い恋とかそういったものではなく、表に出さんと封じ込めている恐怖だった。自分を安心させて彼の指導を真剣に聞く。
「今日は俺が直々に見よう。明日からはダンスの師を呼ぶ」
「ああ」
ここで足を踏み込む、ターン、アップ、彼は的確に指示する。言葉の意味と動きをリンクさせ順序を覚えていく。何度か練習し、休憩を挟み、また練習をしていつの間にか空が赤くなっていた。踊っていた自分とジャスパーも大概だが、奏者たちもよく長時間演奏したものだと感心した。明日から一日のダンスの時間が追加される。体を動かすのは気持ちが良い。
夕食時ジャスパーとレピ、そして自分、三人のいつもの食事のことだった。あの事件以来ジャスパーによる直接的なメニューの監視に使用人による毒味を受けた上での食事を徹底されており、傷んでいるものを食べ続けたせいでこの面倒な一連の流れを作ってしまったことを悔やんでいる。
「師匠は今日ダンスを練習されたと聞きました。僕も一緒にやりたかったな……」
「明日もやるからレピもダンスホールにおいで。使用人には俺から伝えておく」
「良いのですか!」
「当然。一緒に踊ろう」
レピは嬉しそうにして食事を次々と口に運び始めた。以降、三人でその日の出来事を話しあったりと談笑の時間が続いた。
初めてダンスを踊ってから自分の一日は食事、レピの授業や訓練を見て、ダンスを練習し、この世界のことや政治のことについて学ぶ日々が続いた。満足に授業を受けられたことがなかったからか、何かを学ぶことは特別で素直に楽しかった。気になったことを尋ねると誰かが快く教えてくれることがどれほど恵まれたことか、初めて知った。
「こんなに平和で良いのか……」
「お前にとってこの生活は平和か」
レピが庭師と共に花を植えている様子を、初めてレピを見つけたあの廊下でカルセドと見ているとジャスパーがこちらに近付きながら問いかけてきた。それを見たカルセドは静かに礼をして場を離れた。
「前までは毎日誰かが死んでいたし、毎日誰かを殺していたんだ。だから今は平和そのものだよ」
「……」
「人の殺し方とか部隊の陥落のさせ方とか、誰の心を操るだとか、心を落とすだとか、そんなことばかり教えられてきたから他に生き方を知らなかった」
「傭兵の育成機関でもあったのか?」
「いいや。俺は最初から傭兵だったわけじゃない。元々そう言う特殊な機関に売られて、そこから逃げ出しただけだ。そんな奴の行き着く先は、戦争奴隷か傭兵だったんだ」
ジャスパーは黙り込んでしまった。
「悪い、暗い話になったな」
「いやいい」
聞きたくもない話を聞いて返す言葉を見つけられなかったとしても、ただ静かにここにいてくれるのは彼なりの優しさなのだろう。人のことは言えないが、彼もとことん不器用だ。少しして彼は話題を変えた。
「……お前の目にレピドはどう映っている。幸せそうに見えるか?」
「子どもがああやって外敵に怯えず笑顔で花を植えているんだ。幸せなんじゃないか?使用人に執着されども直近では貶されている様子もなかったし。必死になりすぎるところだけ、心配だけどな」
「そうか」
それは、どう言う感情を込めた目なのだろう。慈しみだけではないそれは、何かに追われているようにも見えた。
「食べろ」
「……」
ジャスパーを横目にベッドから少し離れた小さな丸い机に置かれた食事を食べる。彼はじっとこちらを見ている。
「今日もベッドで寝なかったのか」
「そこのソファで寝たから」
「……」
今ベッドで眠らないことを渋々了承された気がする。起きると必ず使用人が部屋を整えにくるからか、ベッドを使っていないことが簡単にバレてしまう。
食事を口に運んでいる間、話すことが何もなく沈黙が続くのだが、この日は珍しくジャスパーが口を開いた。
「3ヶ月後、中央都市で夜会が開かれる」
そういえばここは北部だった。中央は結婚式を行なって以来足を踏み入れていないため、夜会へ行くのならそれでやっと二回目の参上となる。
「夜会って具体的に何をするんだ?」
「挨拶回りとダンスだな」
不思議な催しがある世界だ。などと考えていたら行きたくないと捉えられたようだ。
「嫌なら行かなくて良い」
「それ……形式的には行った方が良いやつなんじゃないか?」
あれからカルセドとしばらく話をしていてよかった。ジャスパーがわざわざ何かの予定を共有するということは、きっと様々な家が参加する大きなイベントなのだろう。カルセドとの会話なしでは得られなかった気付きだ。
「毒で倒れたんだ。次の機会でも――」
「待ってくれ、行くから」
「気を遣わなくても良い」
「俺が気を使っているのはジャスパーじゃなくてレピにだ。この世界のことはまだよく分からない。けど、俺の行動次第でレピに何か影響が出るのかもしれないんだろ。それに3ヶ月もあれば十分回復する」
レピはまだ幼いというのにあんなに必死になって……。なのに「皆が集まる会に自分だけ行かずなんと体たらくなことか。カエルの子はカエル、その息子娘もまた同じであろう」なんて思われてはたまらない。概ねそんな話をジャスパーは目を丸くしたまま聞いている。
「なぜそこまでレピドにこだわる」
実子ではないというのに、と言いたいのだろう。
「真面目で、頑張っているから」
「それだけなのか?お前と血が繋がっていないのに――」
「逆に聞きたい。実子であることが……そんなに重要なのか?」
ジャスパーは言葉に詰まっていた。カルセドから実子か前妻の子かという話は確かに聞いた。理論的には分かっていた。分かっていたが……。
実の親にすら愛されたことの無かった俺には、実の子か否かなんて馬鹿らしくて仕方がなかった。
血の繋がりがあったって愛されないんだ。それは裏を返せば実子でなくても愛することが出来るだろう、例え擬態であったとしても。それに俺はあんなにも優しい子を無下に扱うことなんて出来ない。
「俺は曲がりなりにもジャスパーの妻になって、レピの親になったんだろ。半ば強引だったけど。なら俺はレピを死んでも守る」
俺はそうしてもらえなかった。だから俺でその連鎖を断ち切りたい。
「……」
「……もうレピがそう思わせてくれてるんだよ。あの子はいい子だ。毒で倒れた時も、ずっと俺のことを呼んでくれた」
彼は何かを熟考している。義理の息子を想う気持ちを信じるのがそこまで難しくなるほど前の奥様が気難しい人間だったのだろうか。
「わかった。夜会へは行こう。ただこれだけは分からん」
ジャスパーは組んでいた足を入れ替えてこう続けた。
「お前は無理やり結婚させられた」
「そうだな」
「使用人に傷んだ食べ物を出されるほど歓迎されていないのは分かっていただろう?」
「まあそうだな」
「なぜ怒らない。なぜ尽くそうと決意できた。普通なら追い詰められて俺に抗議してくるところだ。レピドだけが理由なのか?」
以前ならしたところで待遇が変わるのだろうかとも思ったが、彼は相手がまともに対話をしようと試みる人間であればちゃんと話を聞く人なのだろうと認識が変わった。
「簡単な話だ。レピのこともあるが……この家の人間から敵意を感じはするものの、殺意は感じなかった。前の世界のことを思うとなんだかんだ安心できる場所なんだよここは」
「極端なやつめ」
「それに俺はレピが成人したらここを出るつもりだ。あの子が家を継ぐまで共に過ごして、すぐ、とまではいかないかもしれないが、用済みになったらちゃんと出ていく」
「は?今安心できる場所だと……」
「今の言葉、レピを害さない証拠として受け取って欲しい」
彼はため息を吐いて手のひらで額を押さえた。しばらくして席を立ち、日を置いて服を用意するぞと行って去ってしまった。
――――
――
―
あれからすっかりと回復した頃のこと。食事を終えてレピが受けている授業の様子を見終えた後、メイドが現れて試着室まで案内された。豪華な調度品が適度に配置された明るい部屋の真ん中には、色とりどりのタキシード服がずらりと並ぶ衣装架が置かれていた。
「すごいな……」
「奥様、本日は採寸と服のイメージのすり合わせのため参上しましたデザイナーのネフラですわ。あぁしかし、ここまでの美貌でしたとは……」
「いくら何でも買いかぶりすぎだろ」
俺を別の生き物かのように見てくるネフラに対しつい言い放ってしまった。
ネフラは採寸を終えてまずはこれ、次はこれと着せ替え人形にでもするかのように次々と服を着せてきた。それは夜会へ行くと行ったことをほんのわずか後悔するほどの量だった。面白そうにこちらを見ているジャスパーは敵なのかもしれない。
そうして最後の一着を着た。黒いオペラクロークにふんだんに刺繍が施され。適度な宝石が付いている。アウターよりは明るい黒のスカーフタイのブラウスに腹を覆うハイパンツだ。
「驚くほど黒が似合うな」
「美しすぎて頭が誤作動を起こしてしまいますわ!ロアイト公爵、とんでもない方を娶られたのですね!では、既製品からはこちら、新規でこちらに近いものをお作りしますわ」
「ありがとう……………疲れたな……」
最後に着たこの服を脱ごうとする手をジャスパーに止められてしまった。
「今日はそのままでいろ」
「えっ」
「言っただろ。夜会は挨拶回りとダンスがあると」
どこか楽しそうな様子を見ると彼は続けて言った。
「ダンスの練習をするぞ」
そのままダンスホールへ連れられた。試着室からダンスホールまで引き続き煌びやかな空間で目がクラクラしてきそうだ。天井画をじっと眺め絵の意味が何なのか考える暇もなくジャスパーに手を引かれた。
「今までにダンスを踊ったことは?」
「もちろん無い」
「それは指導のしがいがある」
ホールに揃っていた奏者たちが演奏を始めるとジャスパーは引いていた手をさらに強く本人の胸の前へ引き二人の距離を縮めた。腰に手を回され顔が近付く。心臓がバクバクするこれはこ酸っぱく甘い恋とかそういったものではなく、表に出さんと封じ込めている恐怖だった。自分を安心させて彼の指導を真剣に聞く。
「今日は俺が直々に見よう。明日からはダンスの師を呼ぶ」
「ああ」
ここで足を踏み込む、ターン、アップ、彼は的確に指示する。言葉の意味と動きをリンクさせ順序を覚えていく。何度か練習し、休憩を挟み、また練習をしていつの間にか空が赤くなっていた。踊っていた自分とジャスパーも大概だが、奏者たちもよく長時間演奏したものだと感心した。明日から一日のダンスの時間が追加される。体を動かすのは気持ちが良い。
夕食時ジャスパーとレピ、そして自分、三人のいつもの食事のことだった。あの事件以来ジャスパーによる直接的なメニューの監視に使用人による毒味を受けた上での食事を徹底されており、傷んでいるものを食べ続けたせいでこの面倒な一連の流れを作ってしまったことを悔やんでいる。
「師匠は今日ダンスを練習されたと聞きました。僕も一緒にやりたかったな……」
「明日もやるからレピもダンスホールにおいで。使用人には俺から伝えておく」
「良いのですか!」
「当然。一緒に踊ろう」
レピは嬉しそうにして食事を次々と口に運び始めた。以降、三人でその日の出来事を話しあったりと談笑の時間が続いた。
初めてダンスを踊ってから自分の一日は食事、レピの授業や訓練を見て、ダンスを練習し、この世界のことや政治のことについて学ぶ日々が続いた。満足に授業を受けられたことがなかったからか、何かを学ぶことは特別で素直に楽しかった。気になったことを尋ねると誰かが快く教えてくれることがどれほど恵まれたことか、初めて知った。
「こんなに平和で良いのか……」
「お前にとってこの生活は平和か」
レピが庭師と共に花を植えている様子を、初めてレピを見つけたあの廊下でカルセドと見ているとジャスパーがこちらに近付きながら問いかけてきた。それを見たカルセドは静かに礼をして場を離れた。
「前までは毎日誰かが死んでいたし、毎日誰かを殺していたんだ。だから今は平和そのものだよ」
「……」
「人の殺し方とか部隊の陥落のさせ方とか、誰の心を操るだとか、心を落とすだとか、そんなことばかり教えられてきたから他に生き方を知らなかった」
「傭兵の育成機関でもあったのか?」
「いいや。俺は最初から傭兵だったわけじゃない。元々そう言う特殊な機関に売られて、そこから逃げ出しただけだ。そんな奴の行き着く先は、戦争奴隷か傭兵だったんだ」
ジャスパーは黙り込んでしまった。
「悪い、暗い話になったな」
「いやいい」
聞きたくもない話を聞いて返す言葉を見つけられなかったとしても、ただ静かにここにいてくれるのは彼なりの優しさなのだろう。人のことは言えないが、彼もとことん不器用だ。少しして彼は話題を変えた。
「……お前の目にレピドはどう映っている。幸せそうに見えるか?」
「子どもがああやって外敵に怯えず笑顔で花を植えているんだ。幸せなんじゃないか?使用人に執着されども直近では貶されている様子もなかったし。必死になりすぎるところだけ、心配だけどな」
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