魔法仕掛けのルーナ

好永アカネ

文字の大きさ
14 / 25
アレク編

魔法使いの街 2

しおりを挟む
 アレクは戸惑っていた。
 黒髪を短く切り揃えた中肉中背の若者である。彼の深い緑色の瞳が、不安そうに揺れている。
 いくつもの馬車を乗り継いでやっとたどり着いたみやこは見知らぬものに溢れていて、とても故郷と地続きとは思えなかった。
 まず、街路を行く人の量が違う。実家で飼っている羊よりも多そうだ。加えて彼らの服装の華やかなこと! 結婚式でもあるのだろうか? だとすればこの人通りもある程度は納得がいく。
 アレクは慣れない人混みに揉まれている間、そんなことを考えていた。
 彼は街の東側から中央を掠めるように抜け、北に向かうつもりで歩いていた。もちろん地理はわからない。それでもなんとか前に進めるのは、最後の馬車に乗り合わせた都人みやこびとに兄の住所を話して、大まかな道順を教えてもらったからだ。アレクは彼の人への感謝は一生忘れるまいと思った。
 通りの両端には所狭しと露店が並んでいる。色とりどりの粉を量り売りしている店であったり、見たこともないような動物の死骸をばら売りしている店であったり……品は違えど、全て魔法使いのための店である。アレクはそれらを遠目から見て、興味をそそられたり、目を輝かせたり、時にゾッとしたりした。
 中央エリアに差し掛かると、露店がぱったりなくなって道が広くなった。いくらか歩きやすくなり、ホッと息をついたアレクは、あたりをじっくり観察する余裕ができてきた。
 彼はとある店の前で目と足を止めた。
(わぁ、きれいだなぁ)
 そこは宝石店だった。通りに面する壁は透明なガラスで出来ていて、外からでも飾り付けられた店内が見渡せるようになっている。アレクに取っては目から鱗だった。田舎ではこのような開けっぴろげな店にはまずお目にかかれない。
 アレクはふと、当たり前のものが見当たらないことに気付いた。戸である。
 はて、ここは店ではないのだろうか? 無論アレクは宝石に用などなかったが、なんとなく気になって、透明な壁に沿って数歩歩いた。そしてたまたま、地面に設置されていた魔法陣を踏んだ。
 足元がぽうっと光ったのを見て、彼はびくりと身を震わせた。たすき掛けにしていた使い古したバッグを、すがるようにぎゅっと抱きしめる。
 継ぎ目などないように見えていた目の前のガラスにスーッと切れ目が入り、ここに戸があればちょうどこのくらい、と言った大きさの長方形を浮かび上がらせた。くり抜かれたガラスの戸は、わずかに店の外側へ移動すると、アレクの右側に向かってスーッと横滑りに動いた。こうして通りと店内を結ぶ四角い穴ができた。
「いらっしゃいませ~。どのような石をお探しですか~?」
 店の奥から、甲高い声を発しながら着飾った女性が近付いてきた。店員であろう。アレクは彼女の営業スマイルを真正面から受け止める時になって、やっと我に返った。
「ご、ごめんなさいー!」
「はい?」
 女性が首を傾げるのを待たずに、アレクは駆け出した。彼の顔は真っ赤に上気していた。
 なぜだかとても、この道の先にいるはずの兄に会いたくなった。一刻も早く会いたいと願った。だから彼は走った。けして、恥ずかしかったからではないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...