21 / 25
アレク編
訪問者 3
しおりを挟む
アレクは控えめにあたりを見回した。
通りから向かって正面、右側に戸があった。その他の壁面にはいくつも木の板が打ち付けられ、棚のようになっている。が、ほとんど何も置かれていない。どれも高い位置にあり、手前を天井から紐で吊って安定させているようだ。
視界の端で何か動いた気がしたので何の気なしに振り返ると、棚の上で丸くなっていたまだら模様の猫が、ゆっくりと瞬きをしたところだった。
えらくどっしりとして貫禄がある猫である。アレクは、そこに生き物がいることに今の今まで気が付かなかったことに驚いた。
猫はおもむろに立ち上がると、音もなく棚の上を駆けていって、男のつるりとした頭目掛けて飛び降りた。着地の瞬間、男の首が前の方にがくりと折れた。猫は、男が差し出した手のひらに何かを吐き出すと、地面に降りて、ゆっくりと外に歩いていってしまった。
男は猫の口から出てきたものをハンカチで拭きながら、慎重に二人に近付いてくる。
「どっちが使うんだ?」
「俺だ」
返事をしたのはジョージだ。アレクは居心地悪そうに、ジョージと男の顔を代わりばんこに見つめている。
男は、頷く代わりにふっと小さくため息をついて、何かをハンカチの上に乗せてジョージの方へ差し出した。
それは一見ビー玉のようだった。暗い青色で、ツルツルしている。しかし完全な球体ではなく、てっぺんがほんの少しくぼんでいて、そこを正面として見ると、外周に沿っていくつも細かい穴が空いているようだった。
ジョージがくぼみに指を乗せると、ほどなくして球体が内側から赤く輝きだした。それを見たアレクは「おや?」と思って顔を寄せる。するとそのタイミングを見計らったかのように、シューッと音を立てながら球体の全ての穴から煙が噴き出したので、アレクは驚いて「うわぁ」と情けない声を上げてしまった。
(な、なんだこれ!?)
身構えているアレクの前で、白かった煙は瞬きながら濃い紫色に変わり、天井付近で渦を巻いて集まった。まるで小さな雲だ。この頃には、球体は男の手でハンカチに包まれている。
しばらく見ていると、紫色の煙は徐々に下に向かって平たく伸びていき、カーテンのように目の前に広がった。
ジョージが呆然としているアレクの後ろに回って、飄々と言った。
「よし行こう。さあ、あれに向かって歩いて」
「え!? 行くって……どういう……?」
「いいからいいから」
ジョージが後ろからトントンと背を叩いてきたので、アレクは戸惑いながらも足を前に踏み出した。煙のカーテンは目と鼻の先だ。彼は覚悟を決めてぎゅっとまぶたを閉じ、大股歩きでその向こう側に抜けた。
煙がねっとりと肌にまとわりついてくるとか、息ができなくなるとか、想像していた不快感は何もなかった。むしろ清々しい。肌に、風と陽の光を感じる。ざわざわと葉擦れの音すら聞こえてきそうな気がする。いや、確かに聞こえる。
「あ、あれ?」
まぶたを開くと、そこは屋外だった。
通りから向かって正面、右側に戸があった。その他の壁面にはいくつも木の板が打ち付けられ、棚のようになっている。が、ほとんど何も置かれていない。どれも高い位置にあり、手前を天井から紐で吊って安定させているようだ。
視界の端で何か動いた気がしたので何の気なしに振り返ると、棚の上で丸くなっていたまだら模様の猫が、ゆっくりと瞬きをしたところだった。
えらくどっしりとして貫禄がある猫である。アレクは、そこに生き物がいることに今の今まで気が付かなかったことに驚いた。
猫はおもむろに立ち上がると、音もなく棚の上を駆けていって、男のつるりとした頭目掛けて飛び降りた。着地の瞬間、男の首が前の方にがくりと折れた。猫は、男が差し出した手のひらに何かを吐き出すと、地面に降りて、ゆっくりと外に歩いていってしまった。
男は猫の口から出てきたものをハンカチで拭きながら、慎重に二人に近付いてくる。
「どっちが使うんだ?」
「俺だ」
返事をしたのはジョージだ。アレクは居心地悪そうに、ジョージと男の顔を代わりばんこに見つめている。
男は、頷く代わりにふっと小さくため息をついて、何かをハンカチの上に乗せてジョージの方へ差し出した。
それは一見ビー玉のようだった。暗い青色で、ツルツルしている。しかし完全な球体ではなく、てっぺんがほんの少しくぼんでいて、そこを正面として見ると、外周に沿っていくつも細かい穴が空いているようだった。
ジョージがくぼみに指を乗せると、ほどなくして球体が内側から赤く輝きだした。それを見たアレクは「おや?」と思って顔を寄せる。するとそのタイミングを見計らったかのように、シューッと音を立てながら球体の全ての穴から煙が噴き出したので、アレクは驚いて「うわぁ」と情けない声を上げてしまった。
(な、なんだこれ!?)
身構えているアレクの前で、白かった煙は瞬きながら濃い紫色に変わり、天井付近で渦を巻いて集まった。まるで小さな雲だ。この頃には、球体は男の手でハンカチに包まれている。
しばらく見ていると、紫色の煙は徐々に下に向かって平たく伸びていき、カーテンのように目の前に広がった。
ジョージが呆然としているアレクの後ろに回って、飄々と言った。
「よし行こう。さあ、あれに向かって歩いて」
「え!? 行くって……どういう……?」
「いいからいいから」
ジョージが後ろからトントンと背を叩いてきたので、アレクは戸惑いながらも足を前に踏み出した。煙のカーテンは目と鼻の先だ。彼は覚悟を決めてぎゅっとまぶたを閉じ、大股歩きでその向こう側に抜けた。
煙がねっとりと肌にまとわりついてくるとか、息ができなくなるとか、想像していた不快感は何もなかった。むしろ清々しい。肌に、風と陽の光を感じる。ざわざわと葉擦れの音すら聞こえてきそうな気がする。いや、確かに聞こえる。
「あ、あれ?」
まぶたを開くと、そこは屋外だった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる