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#187 8月32日
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夏休み最後の日の夜、僕は宿題を終えぬままに、布団に潜った。
「ぁぁ……終わりだ」
そう思ったのに、翌朝のカレンダーはこうだった。
――8月32日。
朝。
リビングで母は平然と、「はい朝ごはん」と言う。
テレビのニュースキャスターも当たり前の顔で「今日は8月32日、全国的に晴れです」と読んでいた。
僕は狂ったように喜んだ。
終わらない夏休み。無限の自由。漫画、アイス、ゲーム、昼寝。宿題も先生の小言も、永遠に来ない。
だが数日もすれば、自由は不気味に腐り始めた。
公園に行っても誰もいない。
友だちに電話しても「ごめん、今日は無理」と同じ言葉を繰り返すだけ。
海は同じ波を繰り返し、空の入道雲は決して形を変えない。まるで壊れたレコードだった。
八月三十二日。三十三日。三十四日。…………四十日。
無限に続く夏。だけど世界は少しずつ色を失い、ついには白黒写真みたいになっていった。
僕はやっと気づいた。
「夏休みが終わらないってことは、僕だけ時間から取り残されてるんだ」
やがて声も音も消え、僕ひとりだけのモノクロな世界になった。
――その時、机の上に置きっぱなしだった宿題帳が光を放った。
勝手にページが開き、余白が僕を見上げる。
鉛筆を取った。
「八月が終わるのは、やるべき事を終えた者だけ」
そんな気がした。
僕は震える手で宿題を埋めた。漢字ドリル、算数の計算、感想文。ページを塗りつぶすごとに、色が戻っていく。セミが鳴き、夕焼けが空を染める。
最後の一行を書き終えた瞬間――カレンダーがめくれた。
9月1日。
蝉の声が途絶え、秋の風が吹いた。
夏休みは終わった。
でも、誰もいないあの世界を経験した僕は知っている。
「終わる」からこそ、あの自由は輝くのだ。
僕はランドセルを背負って、少し誇らしい気持ちで学校へ向かった。
「ぁぁ……終わりだ」
そう思ったのに、翌朝のカレンダーはこうだった。
――8月32日。
朝。
リビングで母は平然と、「はい朝ごはん」と言う。
テレビのニュースキャスターも当たり前の顔で「今日は8月32日、全国的に晴れです」と読んでいた。
僕は狂ったように喜んだ。
終わらない夏休み。無限の自由。漫画、アイス、ゲーム、昼寝。宿題も先生の小言も、永遠に来ない。
だが数日もすれば、自由は不気味に腐り始めた。
公園に行っても誰もいない。
友だちに電話しても「ごめん、今日は無理」と同じ言葉を繰り返すだけ。
海は同じ波を繰り返し、空の入道雲は決して形を変えない。まるで壊れたレコードだった。
八月三十二日。三十三日。三十四日。…………四十日。
無限に続く夏。だけど世界は少しずつ色を失い、ついには白黒写真みたいになっていった。
僕はやっと気づいた。
「夏休みが終わらないってことは、僕だけ時間から取り残されてるんだ」
やがて声も音も消え、僕ひとりだけのモノクロな世界になった。
――その時、机の上に置きっぱなしだった宿題帳が光を放った。
勝手にページが開き、余白が僕を見上げる。
鉛筆を取った。
「八月が終わるのは、やるべき事を終えた者だけ」
そんな気がした。
僕は震える手で宿題を埋めた。漢字ドリル、算数の計算、感想文。ページを塗りつぶすごとに、色が戻っていく。セミが鳴き、夕焼けが空を染める。
最後の一行を書き終えた瞬間――カレンダーがめくれた。
9月1日。
蝉の声が途絶え、秋の風が吹いた。
夏休みは終わった。
でも、誰もいないあの世界を経験した僕は知っている。
「終わる」からこそ、あの自由は輝くのだ。
僕はランドセルを背負って、少し誇らしい気持ちで学校へ向かった。
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