→📚️賛否分かれる面白いショートストーリー(1分以内で読了限定)

ノアキ光

文字の大きさ
31 / 195

#31 縁結び喫茶(恋愛に近い)

しおりを挟む

 私には趣味がある。潰れてしまいそうなギリギリで生き残っている店を見つけて、そこの常連になる。

 それから、少しずつ滅びに向かっていく店と、店員と、そしてこれから店と一緒に心中する商品とのつかの間の時間を過ごすのが、私の唯一の趣味だ。

 しかし、大体のところ、私が見つけてから数ヶ月、長くても半年程で気に入った店はこの世から消えてしまう。

 今気になっているのは、手入れのされていないケーキの看板が特徴の、個人経営っぽい店だ。

 【喫茶・猫のてのひら】

 こぢんまりした木の扉から覗く店内は、店長の趣味が行き過ぎたのかそれとも流行に乗り遅れたのか、私好みに寂れていた。

 扉を開けると、可愛らしい音のベルがカランと鳴る。店の中は予想外に掃除が行き届いていて、意外にも席数があった。でも。私の見立て通り、ケーキのショーケースはガランとしていて、広い店内には客の一人も居ない。

「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」

 店の奥から現れた老年の女主人が私の方にやってくる。さっと店内を見回して、外からは見えなそうな席に腰を下ろす。外からは私は見えなくて、でもこの席に座った私からは店内が一望出来そうだった。

 今日から、この店がこの街から消えるまで、ここが私の指定席だ。

 満足して、お冷やと共に運ばれてきたメニューを眺めていた時だった。私にとってあってはならないことーー私の次の客がこの店にやって来た。

 店主の喜びようから見ても、彼もこの店の新参者なのだろう。着席を勧められると彼は少し足を止めて、入り口からよく見える席に座った。

 幸いなことに私とは距離のある席を選んだ彼は、優柔不断にメニューを眺めていた私よりも早く食事の注文を済ませ、鞄から本を取り出して小説の世界に没頭する。

 私が注文を終えようとも興味も示さない彼は、先に来たアイスコーヒーを受け取る時だけ本から顔を上げ女主人に会釈をし、また文字の海に戻っていく。

 しばらくして彼のテーブルに温かそうな出来立てのオムライスが届くと、彼は当然のように本をテーブルの端に置き、食事に取り掛かった。

 今時珍しく行儀の良さそうな人だなぁと、私が彼に思ってからもう数年経つ。

 あれ以降私と同じく毎日欠かさず店にやってくるようになった彼は、数日かけて店のメニューを全制覇した。
 
 彼は私よりも早く店主と仲良くなって、毎日毎日飽きもせず私と同じ時間にやって来て、あろうことか日増しに他の客を連れてくるようになった。

 最初のうちは知り合いを連れて来ているのかとも思ったが、どうやら他の客とは顔見知りですら無いらしい。

 彼がやって来る度に客が増え、そのうちの何組かは固定客になった。

 とうとう時間通りにやって来る彼の席まで無くなってしまう程店は繁盛して、何故か最近では彼は私と相席をするようになった。

「いつ結婚するんですか」

 こっそりと私に訊ねてくる若い店員に、私は未だにこの人と話したことが無いんですとは、言い出せないでいる。

 たぶんそれも込みで、見抜かれているんだろうなぁと思いながら……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

兄の悪戯

廣瀬純七
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

処理中です...