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#72 時をかける(失望)
しおりを挟む私は学生時代、本屋でバイトをしていた。本が好きだったし、店長も優しかったし、仲間も楽しかった。
でも、一つだけ嫌なことがあった。それは、閉店後の棚卸し作業だ。
毎日、売れた本の数と在庫の数を照らし合わせるのは、とても面倒だった。しかも、時々、数が合わないことがあった。本が盗まれたのか、紛失したのか、誰も分からなかった。
店長は、数が合わないときは、自分の責任で補填すると言っていた。私は、それがとても不憫だと思っていた。
ある日、閉店後の棚卸し作業をしていると、私は不思議なことに気づいた。
数が合わないのは、いつも同じ本だったのだ。それは、『時をかける少女』というタイトルの本だった。私は、その本を読んだことがなかったが、表紙には、制服を着た女の子が走っている絵が描かれていた。
どうして、この本だけがいつも数が合わないのだろうか。私は、その謎を解きたいと思った。
私は、その本を手に取って、ページをめくってみた。すると、驚いたことに、本の中には、何も書かれていなかった。白紙のページが、ずっと続いていたのだ。
私は、本を見直してみたが、やはり、文字は一つもなかった。これは、どういうことなのだろうか。私は、混乱した。
そのとき、本の最後のページに、小さな文字で書かれた一行のメッセージに目が留まった。
そこには、こう書かれていた。
「この本は、あなたのために用意したものです。あなたは、この本を使って、時をかけることができます。どこに行きたいか、どうなりたいか、思い描いてみてください。そして、この本を閉じて、走り出してください。あなたの願いは、必ず叶います。」
私は、そのメッセージを読んで、信じられなかった。これは、冗談なのだろうか。それとも、本当なのだろうか。私は、迷った。でも、私は、試してみたかった。
私は、この本屋でバイトをしているのがいつの間にか嫌になっていた。私は、もっと自由になりたかった。私は、時をかけて、違う世界に行きたかった。
私は、その本を閉じて、走り出した。店長や仲間の声は、聞こえなかった。
私は、本屋のドアを開けて、外に飛び出した。夜空には、星が輝いていた。私は、その星を目指して、走り続けた。
私は、二度と、その本屋には戻らなかった。
・・・気まずかったからだ。
自由になっただけで、時はかけなかったために・・・。
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