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ノアキ光

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#180 指摘されたカスハラ


「ったく、最近の店員はなっとらん。敬語もまともに使えんのか」

その日、秋葉雅彦(あきばまさひこ・52歳)は駅ビルのカフェで、アイスコーヒーを返した。氷が多すぎたからだ。

「氷が多いんだよ、だから味が薄くなるって言ってるの。わかる? お客の言葉、理解できる日本語力ある?」

無言でコーヒーを引き取った若い店員に、彼は最後にこう言った。

「教育、ちゃんと受けてこいよ。社会に出る前に」

彼にとっては「当然の注意」であり、「社会のための正義」だった。
が、その帰り道、彼はカフェのレシートに違和感を覚える。

ご利用ありがとうございました。対応責任者:AI-1125(CSH-Aログ中)

CSH-Aログ? 初耳の言葉だ。妙に気になった。

その夜、彼のスマホに通知が来た。

> 【CSH対話ログ・顧客満足度判定中】
> 識別コード:秋葉雅彦様
> ログ分析中……
> 該当発言:
> 「わかる? お客の言葉、理解できる日本語力ある?」
> 「教育、ちゃんと受けてこいよ」
> → 判定:中度のカスタマーハラスメント(CSH)
> → CSHレベル1発動。対応者の精神負荷:8.4/10
> → 次回ご来店時、サービスレベルが制限されます。

「なんだこれは……?」

翌週、同じカフェに行ってみると、妙なことが起きた。
注文時、店員が何も返事をしない。飲み物が運ばれるときも無言。
レシートにはまたもや、

対応責任者:AI-1125(CSH-Aログ中)

の文字。

「すいません、ちょっと……注文違いますけど?」

彼が言うと、店員は一礼して無言で下がり、二度と戻ってこなかった。

その夜、またも通知が来る。

> 【CSH-Aログ:対話レベル制限モード発動中】
> 現在、お客様の接客ランクは「クラスC」です。
> 接客音声、敬語、笑顔、再注文等の対応は制限されています。
> ※CSHスコアが回復するまで通常サービスは提供できません。

秋葉は慌てて調べた。最近一部の店舗では、AI接客記録と感情センサーを導入し、客側の態度に応じて接客レベルが変動するシステムが導入されているという。

「……ふざけんな! こっちは客だぞ! 俺は間違ってない!」

だが、次に訪れたファミレスでも、無言で水が出された。注文はタブレットでのみ。
会計時、レジ係は機械音声のAIだった。

その日から、秋葉はどの店でも、敬語の一つも返ってこない世界に放り込まれた。コンビニ、居酒屋、電器店、すべて。

彼が文句を言おうとすると、警告が表示される。

> 【ご注意ください】CSHレベルが上昇しました。次回、接客が完全停止する可能性があります。

彼は恐怖した。

それ以来、彼は丁寧に頭を下げるようになった。にこやかに「ありがとうございます」と言い、「お手数ですが」と言葉を添える。

が、接客は、まだ戻らない。

誰も彼を「お客様」と呼ばない。

そしてついに、あるカフェで、彼は訊ねた。

「すみません……あの……私は……お客様でしょうか?」

そのとき、レジのAIが、初めて答えた。

> 「現在のあなたのランクは“非接客対象”。
> お客様とは認識されておりません」

秋葉は震える手でコーヒーを受け取った。氷の溶けた苦い液体は、とても、冷たかった。

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