180 / 203
#180 指摘されたカスハラ
「ったく、最近の店員はなっとらん。敬語もまともに使えんのか」
その日、秋葉雅彦(あきばまさひこ・52歳)は駅ビルのカフェで、アイスコーヒーを返した。氷が多すぎたからだ。
「氷が多いんだよ、だから味が薄くなるって言ってるの。わかる? お客の言葉、理解できる日本語力ある?」
無言でコーヒーを引き取った若い店員に、彼は最後にこう言った。
「教育、ちゃんと受けてこいよ。社会に出る前に」
彼にとっては「当然の注意」であり、「社会のための正義」だった。
が、その帰り道、彼はカフェのレシートに違和感を覚える。
ご利用ありがとうございました。対応責任者:AI-1125(CSH-Aログ中)
CSH-Aログ? 初耳の言葉だ。妙に気になった。
その夜、彼のスマホに通知が来た。
> 【CSH対話ログ・顧客満足度判定中】
> 識別コード:秋葉雅彦様
> ログ分析中……
> 該当発言:
> 「わかる? お客の言葉、理解できる日本語力ある?」
> 「教育、ちゃんと受けてこいよ」
> → 判定:中度のカスタマーハラスメント(CSH)
> → CSHレベル1発動。対応者の精神負荷:8.4/10
> → 次回ご来店時、サービスレベルが制限されます。
「なんだこれは……?」
翌週、同じカフェに行ってみると、妙なことが起きた。
注文時、店員が何も返事をしない。飲み物が運ばれるときも無言。
レシートにはまたもや、
対応責任者:AI-1125(CSH-Aログ中)
の文字。
「すいません、ちょっと……注文違いますけど?」
彼が言うと、店員は一礼して無言で下がり、二度と戻ってこなかった。
その夜、またも通知が来る。
> 【CSH-Aログ:対話レベル制限モード発動中】
> 現在、お客様の接客ランクは「クラスC」です。
> 接客音声、敬語、笑顔、再注文等の対応は制限されています。
> ※CSHスコアが回復するまで通常サービスは提供できません。
秋葉は慌てて調べた。最近一部の店舗では、AI接客記録と感情センサーを導入し、客側の態度に応じて接客レベルが変動するシステムが導入されているという。
「……ふざけんな! こっちは客だぞ! 俺は間違ってない!」
だが、次に訪れたファミレスでも、無言で水が出された。注文はタブレットでのみ。
会計時、レジ係は機械音声のAIだった。
その日から、秋葉はどの店でも、敬語の一つも返ってこない世界に放り込まれた。コンビニ、居酒屋、電器店、すべて。
彼が文句を言おうとすると、警告が表示される。
> 【ご注意ください】CSHレベルが上昇しました。次回、接客が完全停止する可能性があります。
彼は恐怖した。
それ以来、彼は丁寧に頭を下げるようになった。にこやかに「ありがとうございます」と言い、「お手数ですが」と言葉を添える。
が、接客は、まだ戻らない。
誰も彼を「お客様」と呼ばない。
そしてついに、あるカフェで、彼は訊ねた。
「すみません……あの……私は……お客様でしょうか?」
そのとき、レジのAIが、初めて答えた。
> 「現在のあなたのランクは“非接客対象”。
> お客様とは認識されておりません」
秋葉は震える手でコーヒーを受け取った。氷の溶けた苦い液体は、とても、冷たかった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。