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第4話 裏切りの確信
その日の庭は、いつもより静かだった。
朝露がまだ芝生に残り、陽光を受けて細かな光を散らしている。
風が木々を揺らし、葉の擦れ合う音が柔らかく響く。
その穏やかな景色の中で――ノエルは、ふと足を止めた。
(……声?)
微かに、誰かの話し声が聞こえた気がした。
庭師たちの声ではない。
もっと柔らかく、もっと親密な響き。
ノエルは無意識に息を潜めた。
声は、庭の奥――昨日、カトリーナのハンカチを拾った東屋の方角から聞こえる。
胸の奥が、ひどく冷たくなる。
(まさか……)
ノエルはゆっくりと歩き出した。
足音を立てないように、慎重に。
木々の影が揺れ、葉の隙間から差し込む光が地面に模様を描く。
その光景は美しいはずなのに、今はただ不吉に見えた。
東屋が近づくにつれ、声がはっきりと聞こえてくる。
「……ノエル姉様は気づいていませんわ」
その声は、聞き慣れたものだった。
(カトリーナ……)
ノエルは東屋の柱の陰に身を寄せ、そっと覗いた。
そこには――エドモンドとカトリーナが、向かい合って立っていた。
カトリーナは淡いピンクのドレスを揺らし、柔らかく微笑んでいる。
その表情は、ノエルに向けたことのない甘さを含んでいた。
そして、彼女の指先はエドモンドの腕にそっと触れている。
エドモンドは、その手を振り払うこともせず、むしろ受け入れるように立っていた。
ノエルの心臓が、強く脈打つ。
(どうして……?)
耳に入る会話が、胸を締め付ける。
「気づくはずがないだろう。あの女は鈍い」
エドモンドの声は、冷たく、嘲るようだった。
その声音は、ノエルが一度も向けられたことのない種類のものだった。
ノエルの指先が震えた。
足が地面に縫い付けられたように動かない。
カトリーナが甘えるように笑う。
「早く離縁すればいいのに。そうすれば、私……」
「そのうちに、な」
エドモンドは、まるで当然のことのように言った。
ノエルの胸の奥で、何かが崩れ落ちる音がした。
(ああ……本当に)
自分が妻として見られていなかったことは、薄々分かっていた。
けれど、こうして言葉にされると痛みは想像以上だった。
(私は……いらないのね)
その瞬間、カトリーナがさらに追い打ちをかけるように言った。
「ノエル姉様って、本当に奥ゆかしいだけが取り柄ですものね。妻の役目も果たせていないのに、よく平気でいられるわ」
ノエルの胸に、鋭い痛みが走る。
だが、エドモンドは庇わない。
否定もしない。
ただ、黙って受け入れている。
その沈黙が、何よりも残酷だった。
(……そう。そういうことなのね)
ノエルは静かに踵を返した。
涙は落ちない。
心は凍りついていた。
足元の草が揺れ、風が頬を撫でる。
その感触さえ、遠く感じられた。
歩き出すと、庭の景色がぼやけて見えた。
花々の鮮やかな色も、陽光の温かさも、何ひとつ心に届かない。
(この結婚……終わらせましょう)
声に出さずとも、決意は揺るがない。
胸の奥に、静かで強い炎が灯る。
ノエルは背筋を伸ばし、屋敷へ向かって歩き出した。
その歩みは、静かだが確かな反撃の始まりだった。
(私は……私の人生を取り戻す)
その言葉は、ノエルの心の中で、確かな形を持ち始めていた。
朝露がまだ芝生に残り、陽光を受けて細かな光を散らしている。
風が木々を揺らし、葉の擦れ合う音が柔らかく響く。
その穏やかな景色の中で――ノエルは、ふと足を止めた。
(……声?)
微かに、誰かの話し声が聞こえた気がした。
庭師たちの声ではない。
もっと柔らかく、もっと親密な響き。
ノエルは無意識に息を潜めた。
声は、庭の奥――昨日、カトリーナのハンカチを拾った東屋の方角から聞こえる。
胸の奥が、ひどく冷たくなる。
(まさか……)
ノエルはゆっくりと歩き出した。
足音を立てないように、慎重に。
木々の影が揺れ、葉の隙間から差し込む光が地面に模様を描く。
その光景は美しいはずなのに、今はただ不吉に見えた。
東屋が近づくにつれ、声がはっきりと聞こえてくる。
「……ノエル姉様は気づいていませんわ」
その声は、聞き慣れたものだった。
(カトリーナ……)
ノエルは東屋の柱の陰に身を寄せ、そっと覗いた。
そこには――エドモンドとカトリーナが、向かい合って立っていた。
カトリーナは淡いピンクのドレスを揺らし、柔らかく微笑んでいる。
その表情は、ノエルに向けたことのない甘さを含んでいた。
そして、彼女の指先はエドモンドの腕にそっと触れている。
エドモンドは、その手を振り払うこともせず、むしろ受け入れるように立っていた。
ノエルの心臓が、強く脈打つ。
(どうして……?)
耳に入る会話が、胸を締め付ける。
「気づくはずがないだろう。あの女は鈍い」
エドモンドの声は、冷たく、嘲るようだった。
その声音は、ノエルが一度も向けられたことのない種類のものだった。
ノエルの指先が震えた。
足が地面に縫い付けられたように動かない。
カトリーナが甘えるように笑う。
「早く離縁すればいいのに。そうすれば、私……」
「そのうちに、な」
エドモンドは、まるで当然のことのように言った。
ノエルの胸の奥で、何かが崩れ落ちる音がした。
(ああ……本当に)
自分が妻として見られていなかったことは、薄々分かっていた。
けれど、こうして言葉にされると痛みは想像以上だった。
(私は……いらないのね)
その瞬間、カトリーナがさらに追い打ちをかけるように言った。
「ノエル姉様って、本当に奥ゆかしいだけが取り柄ですものね。妻の役目も果たせていないのに、よく平気でいられるわ」
ノエルの胸に、鋭い痛みが走る。
だが、エドモンドは庇わない。
否定もしない。
ただ、黙って受け入れている。
その沈黙が、何よりも残酷だった。
(……そう。そういうことなのね)
ノエルは静かに踵を返した。
涙は落ちない。
心は凍りついていた。
足元の草が揺れ、風が頬を撫でる。
その感触さえ、遠く感じられた。
歩き出すと、庭の景色がぼやけて見えた。
花々の鮮やかな色も、陽光の温かさも、何ひとつ心に届かない。
(この結婚……終わらせましょう)
声に出さずとも、決意は揺るがない。
胸の奥に、静かで強い炎が灯る。
ノエルは背筋を伸ばし、屋敷へ向かって歩き出した。
その歩みは、静かだが確かな反撃の始まりだった。
(私は……私の人生を取り戻す)
その言葉は、ノエルの心の中で、確かな形を持ち始めていた。
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