真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

第219話 目覚める王子、集まる仲間達

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『が……学校に通う!?俺とブリジットちゃんが!?』

思わず変な裏返り方をした声が、カクカクハウスのリビングに響いた。
だって仕方ないだろ。学校?こんな流れで?
さっきまでブリジットちゃんの家のゴタゴタで胃がキリキリしてたのに、
急に「ハイ、君たちは学校通ってね」って……心の切り替え追いつかないって。

ヴァレンは俺の反応なんてまったく気にせず、
ゆっくり椅子にもたれかかって脚を組んだ。
薄い笑みを浮かべて、まるで全部計算済みだとでも言うかのような顔だ。



「ブリジットさん……君は、このフォルティア荒野開拓を任される前、ルセリア中央大学に通っていたね?」



突然話を振られたブリジットちゃんは、持っていたティーカップを危うく落としそうになって、
慌てて両手で包み直す。



「え? は、はい。そう……ですけど……」



あ、なんか赤くなってる。
それにしても、大学……?
え、ブリジットちゃんって元女子大生だったの……?

急に何か、今まで知らなかった彼女の一面を垣間見てしまった気がして、胸の奥がふわっと変な感じになる。

ヴァレンは彼女の反応を確認すると、軽く指を鳴らした。



「十五歳で入学し、半年後の誕生日に与えられた祝福がもとで、フォルティア荒野開拓を命じられた……そういう理解で合ってるよな?」



ブリジットちゃんは、もう逃げられないという顔で、小さくコクリと頷いた。

……この世界って、十五歳から大学入れるの?
じゃあ高校みたいな感覚なんだろうか?
いや、そもそも大学進学より開拓任命ってどういう判断基準なんだよ、ノエリア家。

混乱する俺を尻目に、ヴァレンはゆっくりと身を引き締めた。
ふざけた笑みは影を潜め、真剣な“魔王の顔”になる。



「単刀直入に言おう。ブリジットさんには――ルセリア中央大学へ復学してもらう。」


「え、ええっ!?ふ、復学!?」



椅子が軋むほど勢いよく前に乗り出したブリジットちゃんの声は、完全に裏返っていた。
ティーカップの紅茶がカップの中でグルンと踊る。

セドリックさんはと言えば、驚くどころか──
何かに気づいたような顔で、ゆっくりと目を見開いていた。



「ブリジットを……大学に復学させる……?……そうか……!」



そうか、って何!?
俺、まったく話が見えてないんだけど!?

俺の顔が「???」だらけなのに気づいたのか、
ヴァレンは片眉を上げてニヤッと笑い、
テーブルの上に置かれた分厚い書類の束をばさばさとめくり始めた。

白地に黒文字がぎっしり詰まった紙面が、
テーブルの上に滑り落ちるように広がる。



「相棒、見てみなよ。これは“貴族が分家を起こして爵位を得るための条件一覧”さ。」



ブリジットちゃんと肩を並べて覗き込んだ俺の視界に、ある一文が飛び込んで来た。



「……“爵位を得るためには、大学卒業による学位の取得が必須”……?」



読み上げた瞬間、自分の声が妙に間の抜けた響きになった。



「そう! 今のエルディナ王国では、爵位を持つには大学を卒業しておく必要があるのさ!」



ヴァレンがドヤ顔で宣言する。

え、ちょっと待って何その制度。
爵位ってそんな教員免許みたいなシステムなの?
現代っぽいの混ぜるのやめてほしいんだけどこの世界。いや助かってる部分も多いけどさ。

でもこれで合点はいった。

──ブリジットちゃんが新たに爵位を得て、
ノエリア家の分家として実質独立するには、大学卒業が必要、というわけか。

なるほど……なるほどね……。

でも、納得したからって疑問が消えるわけじゃない。



「ちょ、ちょっと待ってよ。話を聞くに、ブリジットちゃんは──本人の意思じゃないとはいえ、入学半年で大学中退したんでしょ?」



ブリジットちゃんがうつむきながらコクリと頷く。

俺はそのまま言葉を続けた。



「今から復学したとして、卒業までに三年とか四年とかかかるんじゃないの?その間、ずっとノエリア家から圧力かけられ続けるだけなんじゃ……?」



そう、問題はそこだ。
時間稼ぎしたところで、あの両親が黙ってるとは思えない。

そして、ついでに本音をもう一つ。



「……あと、ブリジットちゃんが大学行く必要性はわかったけど……なんで俺も学校通うの? 今の説明だと、その理由まったく分からないんだけど。」



俺がそう言うと、
ヴァレンは片手をひらひらと振って「それはだな、相棒……」と口を開きかけ──

その瞬間。

ソファのほうから、もぞっ、と何かが動く音がした。

全員がそちらを向く。

ラグナ王子がムクリと起き上がった。

……あっ。

完全に忘れてたーーーーー!!!!

ヴァレンとセドリックさんに気を取られすぎた!
なんでよりによってこのタイミングで起きるのよ!?



「う……うーん……僕は一体……?」



ぼんやりと周囲を見回すラグナ王子。

やばい。
やばいやばいやばい!!

あの王子、俺が容赦なくぶっ飛ばしたことを根に持ってるかもしれない……!
いや普通に逮捕案件では……?

心臓を鷲掴みにされたような冷たい感覚のまま、
俺は慌てて王子のもとへ駆け寄った。



「……あ、あのー、ラグナ殿下……? 先程は、そのー……大変な失礼を……」



セドリックさんに聞こえないように、
できる限り小声で、できる限り低姿勢で。

いやまあ、今さら低姿勢になっても焼け石に水ってことは分かってるけど……
土下座でもしたほうがいい?
俺は保身の為なら、躊躇わず土下座出来る男だぜ?

だが、返ってきた言葉は──



「──……キミ、誰?
どこかで会ったことあったっけ?」



……え?

え?

俺は自分が発したとは思えないほど情けない声を出していた。



「──へっ?」



王子は本当に俺を知らない、という顔をしてる。
記憶の中に俺の姿形が一ミリも無いかのような、
綺麗さっぱりした目で俺を見ていた。

いや、ちょっと待って。
それってつまり――

……助かったぁぁぁぁぁあああああああ!!?!?

心の中で崩れ落ちる俺。

打ちどころが良かったんだか悪かったんだか……
いや、良かったよ。めちゃくちゃ良かったよ!!
覚えてたら完全に俺、王族相手の暴行罪だったもん!!

天からの救済かよ……!

とりあえず、その瞬間だけは心の底から神に感謝した。



 ◇◆◇



ラグナ王子は、テーブルの上に肘をつきながら、頭を抱えていた。
ぐらり、と身体がわずかに揺れ、金髪が頬に落ちる。



「……頭が痛い……フォルティア荒野に来てからの事を、何も思い出せない……なんだこれ……?」



低く漏らしたその声は、王族とは思えないほど弱々しかった。

セドリックさんが横から肩を支え、心配そうに覗き込む。



「陛下、大丈夫ですか?」



ラグナ殿下はしばらく目を閉じたまま、
頭に手を当て、痛みに耐えるように息を吐いた。

……ああ、やっぱり本気で忘れてるんだ。

何度見ても信じがたいが、
どうやら俺の存在だけじゃなく、
フォルティアに来てからの流れ全部が、
まるっと抜け落ちているらしい。

打ちどころが良かったのか……
いや、本来なら悪いんだけど、今の俺に限っては良かったと言うべきか。

だって──

もし覚えていたら、俺は確実に逮捕されていたからね!

王族を脳天ビンタで地面にめり込ませたとなれば、
普通に国家反逆罪でもおかしくない。
いや、でもこの人、攻撃魔法的なもので攻撃してきてたと思うんだけど……こっちの世界の王族じゃ、あれくらいは挨拶代わりみたいなもんなのかな?

とにかく……助かったぁぁぁ……!!

心の中で崩れ落ちながら、
俺はそっと胸を撫で下ろした。

そんな俺をよそに、
ラグナ殿下はようやく顔を上げて、
カクカクハウスの内装をぼんやりと見渡す。

木目の柱、魔導式の照明、広いリビング。
そしてフォルティアの名物立方体タイルで貼り固めた床。



「それにしても……キミがこんな立派な拠点を築いていたなんて、驚いたよ。ブリジット」



王子スマイル。
キラーンって音が聞こえるかの如き完璧な笑みだ。

……ああ、腹立つ。
顔整いすぎだろ。
なんでそんなキラキラ発光してんの?
明確な理由は無いけど、とにかく腹たつ。

ブリジットちゃんはというと──
にっこり、優しげに笑った。



「ありがとうございます、殿下」



一見いつもの笑顔なんだけど、
俺には分かる。

その笑顔……さっきセドリックさんに向けてたやつと同じだ。

“笑ってるのに、心は微動だにしてない顔”。

いや、これはむしろ“冷えてる”と表現した方が正しい。
王子が見たら喜んじゃいそうだけど、実際は、氷点下。

ラグナ殿下はというと、
その温度差に気づく気配もない。



「ああ、すばらしい……やはりキミはメインヒロインだね、ブリジット」



などと、ヴァレンみたいな事をブツブツと呟いている。

……うわ。
一言言うたびに、どんどん嫌われてる気がする。

どうやらラグナ殿下は、俺が来る前に
ブリジットちゃんと軽い“ひと悶着”を起こしていたらしいが、その記憶も綺麗さっぱり無かったことになってる。

そのせいで今、彼の中では“初対面の好青年ムーブ”になっており、それをことごとくブリジットちゃんに笑顔で華麗にスルーされている、というのが現状だ。

いや、悪循環すぎるってこれ。

そんな中──
「お茶をどうぞ」と、横から手が伸びる。

ヴァレンだ。
優雅な仕草で、ふわりと香る紅茶を王子の前に差し出した。

ラグナ殿下は「あ、ああ。ありがとう」と受け取るが──

次の瞬間、ヴァレンの顔を見て固まった。



「──!?!?
し、色欲の魔王、ヴァレン・グランツ!?!?」



ビクーンッッ!!
と、王子の身体が椅子ごと跳ねた。

すげぇ……ここまで綺麗に動揺する人、初めて見たかもしれない。さっきのセドリックお兄さんの記録を更新したね。

ヴァレンは、ほんの少し首を傾げて
純粋に疑問を口にした。



「ん?キミとは初対面かと思ったんだが……
以前、どこかでお会いしてたかな?」



“初対面だと思った”の言い方が、なんか優しくて逆に怖い。
色欲の魔王、懐深いな。

ラグナ殿下は、明らかに取り乱しながらも、
必死に貴族スマイルを作って誤魔化した。



「い、いや!僕が一方的に知っていただけさ。
き、気にしないでくれたまえ!」



声が震えてる。
手も小刻みに震えてる。
カップの紅茶が揺れてる。

完全にビビってるじゃん。

……なんだろう。
王子の反応、絶妙に意味深なんだけど。

以前からヴァレンの噂を聞いていたのか?
もしくは、どこかで見たことがあったのか?

それとも、ブリジットちゃん絡みで “何か” あるのか……?

王族とか貴族の裏事情はよくわからないけど──
確実に、彼の表情には“ただの緊張”じゃない色が混ざっていた。

ラグナ殿下は視線をそらし、
冷めかけた紅茶をぎこちなく口に運んだ。

そしてその様子を、ヴァレンはどこか意味深な笑みで眺めていた。

……いやいや、
頼むから変に刺激しないでくれ……!

王子本人が忘れてようとも、俺自身はいまだに王族を殴った罪を忘れてはいないのだから。



 ◇◆◇



玄関の方から、カチャッと軽い金属音が響いた。

次いで、ドアの開く音。



「おいっすー。残ったブラックドラゴンどもは、南の森に帰るよう指示して来たっす。あと、なんか、道に迷ってる2人がいたんで、とりま連れてきちゃったっす。」



いつもの調子のリュナちゃんが、ひょこっと顔を覗かせた。
その足元には、ミニチュアダックス型フェンリル王──フレキくんが、尻尾をぶんぶん振って入ってくる。

おお、帰ってきたか。
この空気をどうにかしてくれる救世主としては……うん、ちょっと頼りにしてる。

リュナちゃんは部屋をぐるりと見渡し、
セドリックさんとラグナ王子に気づくと、



「あれ?お客さんっすか?」



と、まるっきり緊張のない声で言う。

セドリックさんとラグナ王子は、
(誰だ、この黒ギャル……?)みたいな顔で、
ぎこちなくペコッと頭を下げる。

……うん、仕方ない。
いま目の前にいるこの黒マスクのギャルが、
咆哮竜ザグリュナだなんて、普通は分かるはずがない。

むしろ気づいたら腰抜かすと思う。

そして足元のフレキくんが、
ハッハッと軽い息遣いをしながら、こちらを振り返った。



「もしかして……お二人が探していた方って、この方じゃないですかっ?」



お、仕事モードの声だ。
小さいのに頼りになるなぁ。

フレキくんがそう言うと、
リュナちゃんの後ろから、ゆっくりと2人の人影が姿を現した。

1人目──
ふわりと広がる明るい茶髪のセミロング。
フリルのついたエプロンドレスに、ぱちぱち瞬きする大きな瞳。
仕草がいちいち“あざとかわいい”方向に全振りされたメイドさん。

2人目は──
フード付きのポンチョ。
口元は長いマフラーで隠され、
フードからは──うさぎの耳みたいなのが、ぴょこん、と生えていた。

……なんだ、めっちゃ不思議系の子きた。
顔はとんでもなく整ってるのに、雰囲気からして完全に“感情の行方が読めない系”。

2人が室内に入ると同時に、
ラグナ王子は椅子から身を乗り出すようにして両手を広げた。



「おおっ!リゼリアに……転校生!
2人も、僕を探して来てくれたんだね!」



転校生?
変な呼び方。仲間なんじゃないの?

なんて考える間もなく、
茶髪のメイドさん――リゼリアと呼ばれた彼女が、
ラグナ王子に向かって駆け寄っていく。



「殿下ぁ~~!!
急にいなくなられてぇ~~!
心配しましたよぉ~~!!」



すごい。
語尾だけでキャラが一発で分かるタイプだ。

対して、ウサ耳フードの不思議ちゃんは、
じっとラグナ王子を見つめた後、ぼそっと、



「ちがう。あと、私は転校生じゃなくてルシア。」



と、感情という概念が希薄な声でつぶやく。

めっちゃ無口系ヒロインだ、これ。

この二人の組み合わせ、キャラ濃すぎる。

セドリックさんは彼女たちを見て、
ようやく肩の力を抜いたように微笑んだ。



「二人とも、合流できてよかった……」



ラグナ王子に向き直り、
まるで“これ以上トラブルを起こさないでくれ”と言いたげに言う。



「殿下……頭も打たれているようですし、
本日のところは帰りませんと……」



するとラグナ王子は──
案の定、不満爆発な声を上げた。



「え、ええぇーっ!?
せっかく、メインヒロインに会えたのに……!」

さっきから何なの、その"メインヒロイン"ってワード。ヴァレン以外で使ってるやつ初めて見たわ。
なに勝手に乙女ゲームみたいなフォーマットで人生を進めてるんだこの人。

そして──
ラグナ殿下の視線がブリジットちゃんへ向く。

パチンッ、と片目をつむってウインク。

……なんだろう。
すごく……ぶん殴りたい。

いやダメダメ!!
ついさっきまで忘れてたけど、
この人、王族だよ!?
殴ったら終わりだよ!?
って言うか、既に殴ってるしね!?
しかもいま記憶喪失という奇跡の状態なのに、
ここで刺激してどうする!!

俺が必死に心の中で理性を引き止める一方、
ブリジットちゃんはといえば──

にっこり笑ったまま、笑顔の端が引きつっている。

……物凄く嫌そうだ。
王族相手にあれだけ嫌そうな顔ができるブリジットちゃん、逆にすごい。

ラグナ殿下は、お供3人──
リゼリアさん、ルシアさん、セドリックさんに腕を掴まれ、ずるずると引きずられていく。

王子を引きずっていく途中、リゼリアさんとルシアさんが、俺の事をチラリと見た気がしたけど、気のせいかもしれない。

その途中で、
扉の前に立ちながらこちらを振り返り、
まるで劇的な見せ場みたいな言い方で言った。



「待っててね、ブリジット。
3ヶ月後だ。
3ヶ月後には、堂々と正面から、
キミを迎えにいくからね。」



バタン。

扉が閉まるまでの間、
ブリジットちゃんの笑顔は、
ずっと“凍り付いたままの笑み”だった。

……3ヶ月後?

3ヶ月後って──
何があるの?

王子が言い残した謎の宣言は、
その場にいた全員の心に、妙なざわめきを残した。

そして俺は──

“絶対ろくでもないイベントが待ってるやつじゃん……”と、嫌な予感しかしない胸の内で、そっと頭を抱えた。




⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐

インフルエンザに罹患してしまったので、更新ペースが少し遅くなるかもしれません。気長にお待ちいただけると嬉しいです!
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