真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

第234話 アルド、社会的に死す

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講堂全体が、きしむような音を立てていた。
金色の魔力が吹き荒れるたび、空気そのものが悲鳴を上げているみたいだ。

ラグナ・ゼタ・エルディナス。
“大賢者王子”と呼ばれるだけのことはあるね。

壇上の床板は天井から吊られた照明よりも早く限界を迎えそうに震え、ラグナの足元では金色の魔力がまるで噴火のように迸っていた。



「……アルド……ラクシズ……!」



ラグナは鬼みたいな形相で俺を睨みつけてくる。
怒気と嫉妬と焦りがまざり合って、完全に思考回路はショート寸前って感じの顔だ。

自分で自分の感情の舞台装置になってるっていうか……
いや、それはいい。問題は、この魔力量。


──本当に、人間か?


リュナちゃんやヴァレンみたいな“規格外”を除けば、ここまで膨れあがった魔力を出す人間なんて、俺は初めて見る。



「さすがは、"大賢者王子ウィザード・プリンス"ってところだね……」



つい感心してしまったが、その瞬間ラグナは
俺のその“軽い口調”にさらにキレ散らかしたらしい。



「……貴様ァアアア!!」



金色の魔力が一気に膨張した。
魔力量の跳ね上がり方が異常だ。まるで、外部から強制的に絞り出されているみたいな……

それに、今ちょっと黒いモヤみたいなの見えた気がするけど……気のせいか?

とにかく、このままじゃ講堂が吹き飛ぶ。



「仕方ないな……」



俺は魔力をほんの少しだけ解放する。
銀色の魔力が、ゆっくりと、しかし誰も止められない速度で空間に満ちていく。

直後──。

金と銀の魔力が、轟音と共にぶつかり合った。



「ひいっ!!?」

「こ、こんな……!?」



生徒達が悲鳴を上げる。
壇上の机が軋み、床が波打つ。

隣から、温かい感触が俺の腕に巻き付いた。
ブリジットちゃんがギュッと抱きついてきている。



「アルドくん……!」



その声は震えていたけれど、俺を信じ切ってる気配が全身から伝わってくる。
……ああ、可愛い。やばいくらい可愛い。

その様子を見たラグナは、
ギギギギッ……と漫画みたいな音を立てて歯を噛みしめた。



「な、なぜだ……ッ!?僕の魔力が……押し返されている……!?あり得ない……あり得ないッ!!」



そう言われてしまうと、なんだか申し訳ない気持ちになる。

──だって、これでも手加減してるんだよ?

俺の魔力は、ぶっちゃけこんなもんじゃない。
ラグナの魔力と“ほぼ同程度”に調整して、わざと均衡するように抑えているだけなんだけど。

どうやら、少しだけ強めに出てしまっていたらしい。



「銀色の……奔流……」

「対等……どころか……ラグナ王子を、押してる……?」



男子学生たちの間でざわつきが起きる。

“期待”だ。
なんというか、妙に生暖かい期待だ。

ラグナ王子が普段から女子トラブルを引き起こしてるのかもしれない。
まぁ、なんか……そう聞いても驚きはしない。



「僕が……“僕”が……モブに負けるだと!?
ふざけるなァアアア!!」



ラグナの叫びと同時に、再び黒いモヤみたいなのがラグナの周囲に広がった。

その瞬間、ラグナの魔力出力が跳ね上がる。

……!?

いやいやいや、ちょっと待って。
これ、人間の魔力量じゃないでしょ。

リュナちゃんやヴァレン級の、“超越者ランク”じゃない?



「アルドくん!!」



ブリジットちゃんが俺の腕をさらに強く抱きしめてくる。
恐怖というより、心配。
自分のことより俺のことを心配してくれている。

……ああ、胸が温かい。
こんな時なのに、嬉しくなっちゃう。

でも、ここまで膨れあがったラグナの魔力を抑えるには──。

仕方ないか。少しだけ“本気”を出す──

そう思った瞬間だった。



「──双方とも。そこまでだ。」



聞き慣れた声が降ってきた。

次の瞬間。

ふわり、と。

金と銀の魔力の真正面に、
黒い革装丁の魔本を片手にしたヴァレンが現れた。

登場の仕方が軽すぎて、逆に格好いいんだよなぁ。

ヴァレンは俺とラグナの間に指を伸ばし、黒革の魔本、"ときめきグリモワル"のページが勝手にパラパラとめくれていく。

そして、サングラスをクイッと押し上げながら、



「──"幻愛変相ミラージュ・ファンタズマ"。」



と呟いた。

瞬間、
それまで激しくぶつかり合っていた金と銀の魔力が、スッと“音を立てて”整列する。

渦を巻く金色はひとつに。
銀色はふたつの流れに分かれ、まるで巻き糸のように空中で形を成していく。

暴走しかけていた魔力が、
“まるで最初からそう設計されていたかのように”整えられていく光景は……

正直、ちょっと鳥肌モノだった。



「し、色欲の魔王……ヴァレン・グランツ!?」



ラグナが青ざめた声で呟く。

ブリジットちゃんは、ほっとしたように息をついた。



「ヴァレンさん……!」



ヴァレンは軽く笑い、



「ククク……熱くなりすぎだぜ?二人とも」



と言いつつ、でもその赤い瞳は冴え冴えとした威圧感を宿していた。

“場の空気を掌握する”ってこういうのを言うんだろうな……と、俺は妙に感心してしまった。



 ◇◆◇



ヴァレンの指先から伸びた不可思議な魔力の糸が、
俺とラグナのぶつかり合っていた金と銀の魔力を、
まるで指揮者が混乱したオーケストラを一瞬でまとめあげるみたいに整えていく。

暴れ回っていた魔力は急速に穏やかになり、
空中で渦を巻きながらひとつ、またひとつと形を変え始めていた。



「だ……誰だあれ……!?」

「ラグナ王子と編入生の魔力を、同時に抑えた……?」

「い、今……ラグナ王子、“色欲の魔王”って言わなかったか……?」



生徒たちのざわめきが、講堂中を満たしていく。
ヴァレンは胸に手を当て、深々と一礼しながら言った。



「いかにも。今、ラグナ殿下からご紹介に預かった通り、俺は“大罪魔王・第五の座”、色欲の魔王──ヴァレン・グランツだ。 以後、お見知り置きを。」



出た。どこで誰に見られても毎回100点満点の自己紹介。

後光まで差して見えるんだけど。
やっぱりイケメンって得だよね。

生徒たちは息を呑み、まるで本当に神が降臨したかのような反応をしている。
ザキさんなんて、細い目を限界まで見開いてポカーンとしてる。

逆に、召喚高校生の皆は「あ~、来た来た」って感じでホッとした顔だ。
ヴァレンはそれだけで場の緊張をほぐせるんだよな。なのに500年友達ゼロってどういうことなの?

ヴァレンは穏やかな笑みを浮かべ、生徒たちに向かって柔らかく話す。



「ククク……そう身構えないでくれたまえ。俺は今、エルディナ王国から“国賓”として招かれていてね。
今学期からは特別に、この学園でも教鞭を取らせてもらうことになっている。当然、君たちに危害を加えるつもりはない。誓おう。」



しずかな声なのに、妙に耳に残る。
空気が落ち着く。みんなの緊張が解けていくのが分かる。



「き、聞いたことあるぞ……!大罪魔王が国に招かれたって話……!」

「まさか本当だったとは……!」

「“色欲”と“強欲”は人類に友好的って噂……マジだったんだ……!」



ざわめきが一気に変質する。
恐怖から、畏敬へ。畏敬から、好奇心へ。
ヴァレンは緊張をほぐすためか軽口を入れる。



「──とはいえ、俺もこの大学では新参も新参。
編入生諸君はニューフェイス同士、仲良くしてくれると嬉しい。在学生の諸君には、色々教えてもらいたいね。学食のオススメメニューとか、な?」



茶目っ気たっぷりの言葉に、場が小さな笑いに包まれる。

ほんとに空気を操るのが上手い。

友達ゼロなのは、ラブコメ脳が原因なんだろうね。
普段はこんなに完璧なのに。

ラグナはそんな空気の変化すら気に入らないらしく、俺とヴァレンを睨みつけて声を震わせた。



「ヴァレン・グランツ……!何のつもりだ!?
僕の邪魔をするつもりなら──!」



怒りのオーラむんむんのラグナに対し、
ヴァレンは凛とした姿勢のまま、あくまで軽い調子で問い返す。



「“邪魔をするつもり”なら……一体どうしようって言うんだい?」



サングラスをずらしながら赤い瞳を細める。
その目の奥に宿る"魔王の圧"は、明らかに人間一人では立ち向かえない格だ。

ラグナは歯を食いしばり、震える声で言った。



「くっ……ど、どうもしないさ……」



──流石に、怖いんだな。
この王子様、ヴァレンと真正面からやり合うのは本気で嫌なんだ。

基本的にヴァレンは人間に友好的だけど、強さでいえば人類の尺度とは完全に別物だ。

ヴァレンは三人を見渡し、両手を広げて宣言する。



「ラグナ・ゼタ・エルディナス殿下。
ブリジット・ノエリア嬢。
そして──アルド・ラクシズ君。
君たちがぶつかり合うには、この壇上は狭すぎる。
違うか?」

「“ルセリア統覇戦”まで、あと二ヶ月と少し。そこで君たちは再び相見えるはずだ。
決着は──然るべき舞台で、堂々とつけたまえ!」



講堂に拍手と歓声が広がった。

腰を抜かしていた学長は「ヴァレン殿……ナイス……!」みたいな顔で汗を拭いてる。
召喚高校生の皆は安心した様子でパチパチと拍手。
ザキさんは呆れたように笑ってる。

よかった……この場は丸く収まる──

……と思った、その瞬間。



「お、おい、あれ……!」

「え……何だ、あれ……!?」

「形が……変わってきてる……?」



ざわめきがまた広がる。
みんな、俺たちの“頭上”を見上げている。

嫌な予感しかしないんだけど……!?

俺も上を見る。

空中で渦巻いていた金と銀の魔力が──
ゆっくりと収束し、形を成し始めていた。

……人の、形に。

うわぁああああああ!?思い出した!!
これ絶対アレだよね!?ヴァレンの“アレ”だよね!?

"幻愛変相ミラージュ・ファンタズマ"……!

確か、“相手の『最も理想とする恋人像』を、その魔力を材料に再構成する”スキル。

待って待って待って!?
そんなの今この場で発動させたら──!!

次の瞬間。

ラグナの金色の魔力は、
ボワンッと音を立てて、

──なぜか“平面のドット絵”になった。

……は?

そして俺の銀の魔力は、
ふたつの人影を緩やかに形作り、
銀色の輝きを帯びた“二人の女性”となって、
俺の頭上にゆらりと浮かび上がった。

ブリジットちゃんと──リュナちゃんだった。

…………

…………

うん。

分かってた。
うすうす分かってたけど、
やっぱり最悪だ!!!!!



 ◇◆◇



ラグナと俺の頭上に浮かんだ“何か”を見て、講堂中がどよめいた。



「な、なんだアレ……?」

「二人の上……光ってる……?」

「おい、ラグナ殿下の頭の上、なんか……ペラペラしてない?」



うん、俺も見たくなかったけど……
見ないわけにもいかない。

俺の頭上には──
ブリジットちゃんとリュナちゃんの“銀色の人影”。
しかも二人とも、神々しいほど可憐で、ちょっと恥ずかしい。

反対にラグナの上には──

……何だアレ。
いや、ほんとに何だアレ。

ペラッペラのドット絵。
輪郭がカクカクしてる。
たぶん“人”なんだけど……たぶんブリジットちゃんの“つもり”なんだろうけど……
平面だし、画素が粗いし、色数が少ないし、何より雑だ。

俺のだけリアル寄りで、ラグナのだけレトロゲーム画面って……どういうこと!?
ラグナには、"幻愛変相ミラージュ・ファンタズマ"が効いてないって事!?

そして案の定、ヴァレンはいつの間にか取り出したマイク片手にめっちゃドヤ顔して解説を始めた。



「説明しよう!皆!これは俺の能力、──"幻愛変相ミラージュ・ファンタズマ"が生み出した幻想さ!」



いやいや、説明しなくていいよ!?
余計なことしないで欲しいんですけど!!

ヴァレンは誇らしげに歩き回り、講堂の中央でターンしてから言った。



「色欲の権能の一つ、“幻愛変相”。これは、相手の『最も理想とする恋人像』を……その魔力を材料に再構成するスキル!!」



学生たちは

「えっ!?」「そ、それって……!」

と驚きの声を上げ、ラグナ王子も


「なっ──!?!?」


と絶句する。
うん、そりゃあ驚くよね。

俺の頭上には二人の美女。
ラグナの頭上には妙に低解像度なキャラ。

解像度の差で格差社会が発生してる。

そしてヴァレンは、俺の動揺など一切無視してマイクのボリュームを上げた(気がした)。



「つまり!ここに現れているものこそ!ラグナ殿下とアルド・ラクシズ氏の、深層心理が最も理想とする恋人像なのだぁ!!」


「「「ええーーーーーっ!!??」」」



講堂がもう大パニック。
ラグナは目を見開いて固まり、
俺は心臓がどこかに逃げようとしている。

いやいやいやいや!!!!
俺だけ……実写クオリティみたいな二人が出てるのおかしいでしょ!!

ズルくない!?俺だけ公衆の面前で好きな人暴露されたみたいになってんじゃん!!
完全に公開告白じゃん!!
しかも二人同時に!?



「──アルド……くん……」



隣のブリジットちゃんは、顔を耳まで真っ赤にして俯く。
うん、可愛い……可愛いけど!!
今はそれどころじゃない!!

生徒たちは


「二人……!?」

「どういうこと!?」

「一人じゃなくて……二人……?」


そんな困惑でざわついていた。

いや、まぁ、そうなりますよね!!
一般的なリアクションとしてはね!!

……と、俺の焦燥など全く意に介さず、
ヴァレンはどんどんテンションを上げていく。



「そう!! 二人の女性が現れたという事は!!
アルド・ラクシズ氏は──二人の女性を、全く同じ熱量で愛している証!!なんと純粋で、なんと美しい……!!まさにハーレム系主人公の鑑!!」


「「「ざわ……ざわ……!!」」」



うおおおお!や、やめろォ!!
それは誤解しか生まないやつ!!!
いや、誤解でも無いな!!本当のことではあるのだけども!!

隣でブリジットちゃんが「ひゃっ……」と声を漏らして、ますます真っ赤になる。
いや可愛い。可愛いけど!!
違う、違う、これ流れがまずい!

ラグナはというと──

ワナワナ……ワナワナ……!

怒りと混乱で顔色が青白くなったり真っ赤になったり、忙しないグラデーションを繰り返していた。クリスマスシーズンの電飾みたいだね!



「き……貴様ァァ……!!僕の……僕のブリジットに手を出しておきながら……他にも……他にも愛する者がいる、だと……!?」

まあ、その反応が普通だよね!
ヴァレンの言い方のせいで“二股野郎認定”されてるよね俺!まぁ、実際、そうなんだけども!!

ヴァレンは悪びれもせず続けた。



「いやぁ素晴らしい!!分け隔てなく愛を注げるというのは、才能だよ!?感動するね!?やはり君こそ真なる主人公──!」


「違う違う違う!!!!!!!」



俺の心の声は、もはや絶叫に近かった。
でも叫べない。
叫んだら、もっと燃えるから。

召喚高校生の皆は「あー……まぁね……」「うん知ってた」みたいな顔してるし、そこだけは全く動じてないのが逆にキツい。

だが、俺以上に精神を削られている男が一人いた。

ラグナ・ゼタ・エルディナス。

自分の頭上に浮かんだ“ドット絵ブリジット”を震える目で見上げながら、唇を噛みしめていた。

その震えが怒りか、羞恥か、プライドの崩壊か……
あるいは全部か。

そして震える声で、俺を指差した。



「アルド・ラクシズ……!!貴様……!!
貴様だけは……絶対に許さん……ッッ!!」



 ◇◆◇



「待って! アルドくんを責めないで!」



ブリジットちゃんの声が、講堂の空気を一瞬で切り裂いた。

その声の震えが、真っ直ぐに俺の胸に届く。
……ああ、本当にこの子はいつだって俺を庇おうとしてくれる。

彼女は小さく息を吸い、勇気を振り絞るように一歩前へ出た。

その背中が、俺の視界いっぱいに入る。

──可愛い。
──いや、それどころじゃない。

ブリジットちゃんは、真っ直ぐラグナを見据えて言った。



「アルドくんは……あたしの“初めての人”なんです」



……えっ。

……えっ!?!?

待って。ブリジットちゃん?
落ち着こう?
それは……その言い方は……!

案の定、講堂中が凍った。



(え……今、なんて……?)

(“初めての人”って……えっ、マジで……?)

(あの子……清楚そうな顔して……)



どよっ……と、黒い誤解が波紋のように広がっていく。



「お、おい…あいつ……」

「……やりやがったのか……?」

「マジかよ……!」



いや違う!!!
そうじゃない!!

ブリジットちゃん、それは多分、
「初めて好きになった人」
って意味だよね!?

俺は分かる、分かるよ!?嬉しいよ!?
でも略しちゃダメなんだよ!?

“初めて”を単品で言うと意味が変わっちゃうの!!!

しかし当の本人は、
会場の空気が完全に“R18解釈”に傾いていることにまったく気付かず、

ほわっと微笑んで続けた。



「アルドくんは、あたしのフォルティア荒野開拓を、ずっと側で手伝ってくれてる、大切なパートナーで……」

「あの……はじめはね、怖かったんです。
(フォルティア荒野の開拓を任された時)どうしたらいいのか分からなくて。でも……アルドくんが、(拠点の建設とか、食糧の調達とか)色々リードしてくれたから……」



( )内の補足は俺の脳内翻訳。
実際に口に出てるのは、その他の部分だけ。

文脈が悪すぎない?
めちゃくちゃ誤解されるやつじゃない?これ。

案の定、客席からザワザワ……と視線が刺さる。



(リード……?)

(この子……何を赤裸々に告白してるの……?)

(え、ちょっと待って、これ入学式だよね?)



セドリックさんなんて、
今にも剣を抜いて俺に飛びかかってきそうな顔だ。

(……アルドくん……これは後で話を聞かなければいけないな?)

という心の声が漏れ出ている?

お兄さん!!
誓って言います!
俺達は清らかな関係です!!
今日ほど潔白でいたい日はない!!

ふと横を見ると、ラグナの顔色は
青→赤→紫→白→黒→灰
と、忙しなく変わり続けていた。



「ぶ、ブリジット……!な、何を言っているんだ……!?色欲の魔王も言っていただろう!?そ、その男は……君以外にも“愛する者”がいると……!!」



もう声が完全に裏返ってる。
指もプルプル震えてる。

でもブリジットちゃんは、きょとんとして首を傾げた。



「え?知ってますよ? だって、あたしとリュナちゃんはアルドくんと一緒に暮らしてるから!」



──地獄が加速した。
インフェルノ・アクセラレーション。

男子学生たちの目が……一気に死んだ魚の目になっていく。



(……一緒に暮らしてる……?)

(ブリジット嬢に……プラス、あの美女……?)

(は……え……? 二人と……?)

(三人暮らし……? いや、意味が……?)



次の瞬間、男子の半分が殺気に包まれた。

ガチで魔力が揺らいでるやつまでいる。
ザキさんも呆れた様に俯いている。



「……地雷、全部踏んどるやん……」



そのまま会場がザワァ……っと波立った。



「ちょ……アイツ、どういう関係なんだよ……」

「二人と暮らしてるって……いやいやいやいや……」

「えっ……控えめに言って死んで欲しい……」



こ、怖い……
さっきまで俺を応援してくれてた男子達が、全員“敵”になってる……

けれどブリジットちゃんは、そんな黒いオーラに全く気付かず、むしろ嬉しそうに笑って、とどめを刺してきた。



「あたし、もう──三人一緒じゃないとイヤなんです!」



……………………。

おわああああああああああああ!!!!!!!

違う違う違う違う違う違う違う!!!!
ブリジットちゃん!!!
俺は分かってるよ!?
分かってるけども!!

『これからも三人一緒に、仲良くフォルティアを開拓していきたい』

的な意味だよね!?
知ってる、俺は知ってるよ!!

でも、でもね。

この流れでそれ言っちゃダメなんじゃないかな!?

案の定──



「三人一緒……!? こ、こいつ……!!」

「いたいけな少女たちと……何をしてるんだ……!?」

「変態か!! ド変態なのか!!!」



男子全員、完全に俺を見る目が“犯罪者を見る目”になってる。

さっきまで俺を応援していた男子まで、
今はラグナと俺を並べて

『女誑し同士、ぶつかって対消滅しろ』

みたいな目で見てきている。

そして──
限界を迎えた男が一人。

ラグナ・ゼタ・エルディナス。



「アルド・ラクシズ……貴様は……貴様はぁぁぁぁぁ……ッ!!」



叫んだ次の瞬間、
ラグナは白目を剥いてバタァン!と倒れた。

また気絶すんのかよ!
今回は殴ってないのに!
頭に血が上り過ぎたのかな!?
でも、願わくば、今回もそのまま俺に関する記憶を失ってくれないかな!

セドリックさんの絶叫が響く。



「で、殿下ぁぁぁぁぁぁ!!!」



すぐさまセドリックさん、リゼリアさん、ルシアさんの三人がラグナに駆け寄る。
そのまま三人がかりで王子をズルズルと舞台袖へ引きずっていく。

去り際、セドリックさんが俺に投げた視線……
あれ完全に“後で殴るリスト”に入った目だった。ご、誤解なんです!!お兄さん!!



講堂は大混乱。
生徒たちのざわつきは止まらず、
男子の怒気と女子の困惑と教師たちの震えが混ざり合っていた。

そんな中──



「あれ?みんな、どうしたのかな?」



ブリジットちゃんだけが、ぽかんと首を傾げていた。
頭の上に“?マーク”が見えるほどの純真さで。

可愛い。
可愛いけど。
この子、純真過ぎる。

召喚高校生たちは苦笑いしてるし、
ザキさんは口をパカーンと開けたまま固まってる。

ジュラ姉は腕を組んで
「……まぁ、アルドきゅんだしね……」
みたいな納得顔をしている。

問題は……ひとり。

ヴァレン。

奴は……
双方を見比べながら、満足げに頷いていた。

満足してんじゃねぇ!!
どーすんの、この空気!?

こうして俺は……
ラグナ王子とは別ベクトルで社会的に死んだまま、
めちゃくちゃになった編入生入学式の壇上で、
ガクリと肩を落として項垂れたのだった。
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