真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

第303話 銀の新星、王家の渦へ

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扉が、開く前から分かった。

空気が、変わった。

さっきまでざわめいていたセンプラ大ホールの喧騒が、まるで見えない手に首根っこを掴まれたみたいに、すっと静まり返る。
誰かの笑い声が途中で途切れ、グラスを傾ける音すら遠慮がちになる。

重い。
物理的にじゃない。
でも、確かに“何か”が上から押し下げてくる。

思わず背筋が伸びた。
俺、真祖竜(しかも王子様)なのにね!

ホール奥に設えられた、荘厳な二枚扉。
金の装飾が施されたその表面が、低く唸るような音を立てて、ゆっくりと開いていく。

差し込む光。

逆光の中から、五つの影が現れた。

まず正面に立つ男が、一歩前へ出る。
歳は三十前後だろうか。鋭い眼差し。
無駄のない顎のライン。ハリウッド俳優も顔負けの、整いすぎていると言っていい顔立ちと、寸分の隙もない立ち姿。
仕立ての良い王族礼装が、彼の身体にぴたりと沿っている。
“出来る男”という言葉が、そのまま人の形をとったみたいだった。

その半歩後ろ、右側に立つのは、長い髪を後ろでゆるく束ねた優しげな顔立ちの青年。
二十代中盤くらいだろうか。
柔らかく微笑んでいるが、目の奥は静かに澄んでいる。あれは……きっと頭が切れるタイプのキャラだ。

左側には、眼鏡をかけた女性。
落ち着いた所作。背筋は伸びているが、威圧感はない。図書館の司書とか、絶対似合う。
静かな知性をまとった美女、って感じだ。

そしてその後方、少し距離を置くようにして立つ二人。

ひとりは、赤髪の女性。姿勢が完璧すぎる。
凛とした立ち姿。厳しい表情。
美人だけど、張り詰めた緊張がそのまま刃物みたいに周囲を切り裂いている。あれは……相当、気が強い。

もうひとり。

──え、ちょっと待って。

身なりは確かに王族なのよ。
煌びやかな服装。装飾も一級品。だが。

デカい。

いや、デカすぎる。

二メートル……いや、二メートル三十はある。
肩幅も常識外れだ。首も太い。
顔は傷だらけで、彫りが深く、目つきも鋭い。
正直、近所の裏通りで出会ったら絶対目を合わせないタイプ。

えっ、あの人、王族のボディガード的な?
思わず小声で呟いていた。



「いや、っわ……何あの人、王子様達のボディガード……?」



隣から、くすっと笑う気配。
ヴァレンが口元を隠しながら、耳元で囁いた。



「おいおい相棒、あまり失礼な事を言うなよ。」



わざとらしく咳払いをしてから続ける。



「彼は第五王子、エゼキア・エプシ・エルディナス。れっきとした、この国の王子様だぜ?」


「えっ!?」



思わず声が裏返った。



「えっ!?あの人も王子様!?っていうか、ラグナのお兄さんなの!? 似てねぇ!!」



慌てて口を押さえるが、時すでに遅し。
横に立っていたラグナが、苦笑を浮かべて小声で言った。



「僕達エルディナの王子は、皆母が違うからね。そこまで似ていないのは仕方ないのさ。」



さらりと言う。そーなの?
この世界の王族ってそんな感じなのね。



「だが、エゼキア兄さんは、ああ見えて『仁愛の王子』と呼ばれるほど心優しい王子だ。ぶっちゃけ顔はマジで怖いが、心根は野山に薫る花を愛する人格者なのさ。」



野山に薫る花。申し訳ないけど、正直似合わねぇ。
俺はもう一度、エゼキアさんを見た。
立っているだけで床板が軋んでいそうな体格。

マジででけぇ。本当に人か?
人型の存在で、黄龍ホァンロンさんよりデカい人、初めて見たわ。
影が周囲の王子達を半分覆っている。
鋭い眼光。傷跡。

野山に薫る花を愛する人格者。
確かに、見た目は花山薫っぽいけども。
背中にズタズタになった彫り物とか入ってそう。

いかんいかん。
人を見た目で判断しちゃダメだ……!
見た目と中身のギャップという意味では、俺だって他人の事は言えた立場じゃないからね!
自分に言い聞かせるように、内心で深呼吸する。

その時、正面に立つ男──第一王子が、一歩進み出た。

動きは大きくない。だが、それだけで空気がさらに締まる。

視線が、ゆっくりとホール全体をなぞる。

不思議な感覚だった。
遠くにいるはずなのに、一瞬、目が合った気がする。

そして、声が響いた。



「第一王子アルベリク・アルフ・エルディナスだ。」



声量は、特別大きくない。だが、不思議と隅々まで届く。

鼓膜じゃなく、直接、頭の奥に落ちてくる感じ。



「此度の統覇戦ドミナンス・カップ予選会において──大会史上初となる完全攻略者が三チームも現れた。」



アルベリク王子はゆっくりと会場を見渡す。
その視線は鋭く、しかし誇らしげだった。



「この国のまつりごとを預かる第一王子として──私は、この結果を心より喜ばしく思う。 同時に、諸君らの力強き歩みに、深い頼もしさを覚えている。」



静かな間が落ちる。



「今宵は慰労の席だ。 今日という戦いを乗り越えた己を労い、英気を養え。 そして本戦において、さらなる高みを示してほしい。」



会場の空気が、僅かに引き締まる。



「惜しくも予選で敗れた者もまた、顔を上げよ。
敗北は恥ではない。歩みを止めることこそが恥だ。」



アルベリクは静かに言葉を区切った。



「鍛錬を積み、再び剣を取れ。
諸君らは皆──」



その声が、広間の隅々まで響く。



「次代のエルディナを担う若き勇士なのだから。」



静寂。

拍手が起こるよりも一瞬早く、俺は気づいた。
自分が、息を止めていたことに。



(──あの人が、この国の第一王子、アルベリクさんか。)



固い。真面目。融通は効かなさそうだ。

でも。



(声が脳に響く、っていうか……聞き入っちゃうね。)



気づいたら、目を逸らせなくなっていた。
威圧じゃない。
押し付けでもない。

“責任”だ。

自分がこの国を背負っているという自覚が、あの人の声にそのまま乗っている。



(これが……カリスマ性ってヤツなのかな。)



横を見ると、ブリジットちゃんも真剣な顔で壇上を見つめている。
ラグナは穏やかな微笑を浮かべながらも、その視線の奥には複雑なものが揺れていた。

五人の……いや、ラグナも入れて六人の王子と王女。

それぞれが、違う色を持っている。

政治。知性。理性。緊張。仁愛。そして──才覚。

国家そのものが、そこに立っているみたいだった。
俺はごくりと喉を鳴らす。

統覇戦は、ただの学生大会じゃない。

国が見ている。王家が動く。

そして──
何かが、ここから始まる。
そんな予感が、確かにあった。



 ◇◆◇



アルベリク第一王子の説明は簡潔だった。

予選会で起きたマリーダ教授の異変については、会場に集まった学生や来賓には「体調不良による一時的な騒動」として伝えられたらしい。
あの時の妙な空気や警備の慌ただしさを思い出すと、どう考えてもそれだけでは済まない気もするが……まあ、王族や貴族が関わる話だ。
俺みたいな一般人(※真祖竜)が深く突っ込むような話じゃないのだろう。

それよりも重要なのは、統覇戦の本戦だ。

現在、王族や上級貴族、さらには他国から来ている重鎮たちとも協議を行い、本戦の形式をどうするか話し合っている最中とのこと。
予選会であんな騒動が起きた以上、運営側も慎重にならざるを得ないらしい。



「数日中には正式に発表する」



アルベリク王子はそう言って話を締めた。
それだけ言うと、彼はふっと踵を返した。
テーブルにはすでに立食パーティ用の豪華な料理が並んでいる。
香ばしい肉料理、宝石みたいに輝く果物、見たこともない高級そうな酒。
普通なら一口くらいはつまんでもよさそうなものだが、アルベリク王子はそれらに一切手をつける様子もなく、スタスタと会場の出口へ向かっていく。

付き従う近衛たちが慌てて後を追う。

……え、もう帰るの?

切り替えっや。

俺は思わず心の中でツッコミを入れていた。

さっきまで国を背負う王族として堂々と演説していたかと思えば、説明が終わった瞬間に即退場。
公務があるらしいが、その動きはまるで仕事を終えた官僚が定時で帰るみたいな速さだった。

残された第二~第五王子たちは、それぞれ会場に散っていく。

貴族たちに声を掛けられたり、他国の重鎮と談笑したり。王族というより、政治家の社交場みたいな光景だ。

そんな光景を横目に見ながら、ラグナがくつくつと笑った。



「ふぅん。本戦の形式はまだ決まってない、か」



ラグナはグラスを揺らしながら俺を見た。
その目には、あのいつもの不敵な光が宿っている。



「僕としてはね」



ゆっくりと口角を上げる。



「キミと決着をつけるためにも――一対一の決闘形式が望ましいんだがね」



視線が、真っ直ぐ俺に突き刺さる。
挑発というより、純粋な期待だ。
俺は苦笑した。



「はは……」



肩をすくめる。



「俺は、予選会みたいなゲーム性が高い勝負も嫌いじゃないけどね」



グラスをテーブルに置きながら続ける。



「戦略性を試される、みたいなさ」



ラグナは一瞬だけ目を細めた。
俺はそのまま、軽く笑ったまま言葉を続ける。

……でも本音を言えば、理由は別にある。

ガチンコの一対一。
もしそんな勝負になったら。
たぶん俺は……誰の攻撃でも一切ダメージを受けない。

真祖竜。
この身体は、それくらい理不尽な存在だ。

最初はそれでもいいと思っていた。
ブリジットちゃんのためになるなら。
彼女の夢のために、統覇戦を圧勝するのもアリだって。

でも。

予選会で見た光景が、頭から離れない。
必死に戦う学生たち。
傷だらけになって、それでも前に進もうとする姿。

そして──

ラグナ。
あいつは俺をライバルだと言った。
全力で、真正面からぶつかってきた。

だから思ったんだ。



(それじゃフェアじゃないな)



俺だけ反則みたいな存在で、ただ蹂躙するだけの勝負なんて、それは違う。

アルド・ラクシズとして戦うなら。
俺にも敗北の可能性があるルールで戦うべきだ。

それが、存在そのものが反則みたいな俺にできる、せめてもの誠実さだと思った。

ラグナは少し不思議そうに俺を見た。



「ふぅん」



腕を組む。



「キミほどの実力者が、少し意外だな」



だがすぐに、納得したように肩をすくめる。



「だが、言わんとすることは分からなくもないよ」



グラスを軽く揺らした。



「ゲーム性の高い試合には、ルールの中で戦うスリルというものがあるからね」



その言葉に、ブリジットちゃんが少しだけ目を丸くした。
俺の方を見る。
そして、何かを理解したように、ふわっと、優しく笑った。

ヴァレンも喉の奥で笑う。



「──なるほどな」



グラスを掲げる。



「ククク……相棒らしいぜ」



リュナはソファにぐったり座りながら、呆れたように肩をすくめた。



「ったく。ホント、お人好しっすねー」



足をぶらぶらさせる。



「ま、そこがイイんすけど!」



俺はなんだか照れくさくなった。
でも、なんとなく分かる。
ブリジットちゃん、ヴァレン、リュナちゃん。

この三人は、俺の考えていることをちゃんと分かってくれている。

それだけで、ちょっと嬉しくなった。

横を見ると、ラグナだけが、首を傾げていた。



「?」



……まあ、分からんよね。
そんな空気の中。



「やあ」



穏やかな声が横から聞こえた。



「予選会の殊勲者が揃ってるね」



ラグナがぱっと振り向く。
顔が一瞬で明るくなる。



「ベルノア兄さん!」



声の主は、あの王子だった。
さっき、王族の列で前から二番目に立っていた人物。
柔らかな笑みを浮かべた青年だ。

ヴァレンがすぐに一歩前へ出る。
恭しく一礼。



「これはこれは――」



芝居がかった丁寧さで言った。



「ベルノア・ベタ・エルディナス第二王子殿。本日もご機嫌麗しゅう」



……あ、なるほど。
俺への説明だな。
サンキュー、ヴァレン。
ベルノア王子は少し困ったように笑った。



「ヴァレン閣下」



肩をすくめる。



「貴方にそのような態度を取られるなど、畏れ多いですよ」



ブリジットが慌てて頭を下げた。



「は、はじめましてっ!」



ぺこり。



「ベルノア殿下!ブリジット・ノエリアです……!」



ベルノアは優しく微笑んだ。



「ブリジット嬢」



視線が温かい。



「きみの活躍は見ていたよ」



軽く頷く。



「素晴らしい戦いぶりだった」



そして、ふと視線を横に向ける。



「そちらで……眠ってしまっている、ビビアーナ嬢との戦いなど、特にね」



リュナちゃんの隣。
ソファには、完全に力尽きたビビアーナさんがぐったりと沈んでいる。

推しであるラグナとの対面に泡吹いてぶっ倒れたまま、まだ目を覚ます気配はない。
なかなか感性がぶっ飛んだ子だよね。ビビアーナさん。

ラグナが誇らしげに胸を張った。



「そうだろ?」



ニヤリと笑う。



「ブリジットは凄いのさ」



そして、ドヤ顔で言った。



「何せ──メインヒロインだからね」



また言ってる。
そのメインヒロインって何なのよ。
つーか、ブリジットちゃんは俺のヒロインだから!
そこは譲らない。絶対に。

するとベルノア王子が、くすりと笑った。



「ははは」



軽くウィンクする。



「そう言う割には、派手にフラれたらしいじゃないか」



肩をすくめる。



「ラグナ」



ラグナが固まった。



「なっ!?」



顔が一瞬で真っ赤になる。



「や、やめてくれよ兄さん!」



慌てて手を振る。



「そんな事はまだ分からないさ!」



そして勢いよく言った。



「本戦でアルド・ラクシズを倒し――」



びしっと俺を指差す。



「ブリジットのハートも射止めてみせるつもりさ!」



いや、本人達の前でそれ言う?
最近ちょっと馴染んで来た気はしてたんだけど、こういうところは相変わらずよね。こいつ。
俺は思わず顔を引きつらせた。

ブリジットちゃんも困ったように笑う。



「あ、あはは……」



完全に引きつった笑顔だ。
しかし、俺は少し意外だった。
あのラグナが。こんなふうに、普通の弟みたいに、兄である王子に接するなんて。

このベルノア第二王子。
よほど、ラグナから信頼されているんだろう。
そんな気がした。



 ◇◆◇



ラグナは顔を真っ赤にしたまま、しばらく言葉に詰まっていた。

さっきまでの自信満々な態度が嘘みたいだ。

ベルノア王子は面白そうにそれを眺めているし、周囲の貴族たちもくすくす笑っている。完全に兄にからかわれている弟の図だ。

やがてラグナは、居心地が悪そうに視線を逸らした。



「……ぼ、僕は」



咳払いを一つする。



「僕は他の貴族連中への挨拶があるから、失礼させてもらうよ」



そしてくるりと振り向いた。



「行こう、セディ、リゼリア、ルシア」



言いながら、軽く手を振る。
去り際に振り返り、ベルノアへ声を投げた。



「──ベルノア兄さん、また後で」



ベルノア王子は楽しそうに笑う。



「ははは。分かった分かった」



そして、ラグナの隣に控えているメイドに目を向けた。



「リゼリア。ラグナをよろしく頼むよ」



呼ばれたリゼリアさんは、ふわっと柔らかく笑う。



「はぁ~い!」



やけに気の抜けた、のんびりした声。



「お任せください、ベルノア様ぁ」



語尾がゆるい。
だが、笑顔はやたらと自信満々だ。
……本当に大丈夫?
リゼリアさん、あの人、何か怖いのよね!
何考えてるか分からなくて!

ラグナはそんなメイドを特に気にする様子もなく、セドリックたちを連れて歩き出す。

去り際に、セドリックさんがブリジットちゃんの横を通った。
ほんの一瞬だけ歩みを緩める。
周囲には聞こえないくらいの小さな声で言った。



「……お前はよくやっている」



低く、落ち着いた声。
ブリジットちゃんがはっと顔を上げる。
セドリックさんは前を向いたまま続けた。



「父と母には、俺からも掛け合うつもりだ」



わずかに視線だけを向ける。



「まずは目の前の本戦に集中しなさい」



そのまま何事もなかったように歩き去っていく。
ブリジットちゃんの表情が、ほんの少しだけ明るくなった。
目の奥に灯る光が変わる。
その変化を、俺は見逃さなかった。



(セドリックさん……)



やっぱり、いいお兄さんだな。
そんな風に思っていると。
グルーシャ……ルシアがラグナたちの後ろを歩きながら、ふとこちらを見た。

目が合う。ほんの一瞬。
何かを測るような視線。

次の瞬間には、いつもの気だるそうな顔に戻っていた。
肩をだらんと落とし、面倒くさそうに歩いていく。
相変わらずやる気ねぇな、グルーシャ。
まあ、彼女にとってこの統覇戦は、本来の目的を達成するための建前みたいなものだからね。

やがてラグナたちは人混みの中に消えていった。
その場に残ったのは、俺たちとベルノア王子。
ベルノアはゆっくりと俺の方へ視線を向けた。
穏やかな笑みを浮かべている。



「きみが……”銀の新星シルバー・ノヴァ”、アルド・ラクシズだね」



静かな声で言った。
そして、自然な動作で手を差し出してくる。



「予選会での戦い、素晴らしいものだったよ」



……握手?
俺は少し驚いた。
王族って、もっとこう、距離があるものだと思っていた。

だって俺、ただの学生よ?
いや、正確には違うけど。
ただ、第二王子って立場のひとが、俺みたいな下々の民(※真祖竜)に、こんな風にフレンドリーに接してくれるなんて。
この世界の王族って、意外と庶民的で良いよね。
そんなことを思いながら、俺は慌ててその手を握り返した。



「は、初めまして」



ちょっと緊張してしまう。



「アルド・ラクシズです」



……あ。
ふと思い出した。



「あ、あの……」



俺は頭をかきながら言った。



「す、すみません。予選会では……」



言いづらい。
でも言わないわけにもいかない。



「弟さん(ラグナ)の事、思い切り蹴ったり殴ったりしちゃって……!」



慌てて付け足す。



「クリーンヒットは無かったですけど!」



ベルノアは一瞬きょとんとした。
そして、次の瞬間。
声を上げて笑った。



「ははは!」



肩を揺らして笑っている。



「きみは面白いね」



目元に優しい皺が寄る。



「真剣勝負の場に、王族も何も無い」



軽く肩をすくめる。



「気にする必要は無いよ」



そして、ふっと視線を遠くに向けた。



「──ラグナは昔から強かった」



静かな声。



「故に、孤独でもあったんだ」



グラスを軽く回す。



「だから、きみの様な本気でぶつかれる相手が現れて……内心、嬉しかったんだと思う」



少し間を置く。
ベルノア王子の声が少しだけ低くなる。



「ラグナはその力故に──他者からのやっかみも多く受けている」



そして、静かに言った。



「貴族や……同じ王族からも、ね」



その言葉と同時に、ベルノアの視線がわずかに横へ流れた。
俺は思わず、その先を追う。

そこにいたのは──

先ほど王子たちの入場の列の最後尾に立っていた女性。



「──第四王子、ジゼル・デル・エルディナスだな。」



ヴァレンが小さく耳打ちしてくる。毎度のことながら、説明ありがとう!
彼女は少し離れた場所で、貴族の来客と話しているラグナの方を見ていた。

その目は、鋭い。
いや、冷たい。
まるで刃物みたいな視線だった。

……あれは。



(色々複雑そうだな)



俺は内心そう思った。
ベルノア王子は小さく息をついた。



「──私は、昔からラグナの事を気にかけていてね」



穏やかな声。



「強力過ぎる力を持って生まれては来たが……」



少しだけ笑う。



「私にとっては、可愛い弟なんだ」



そして、ベルノア王子は、俺の方へ向き直った。
ほんの少しだけ真剣な目になる。



「アルドくん」



静かに言う。



「ラグナの事を、どうかよろしく頼むよ」



そして──
深く頭を下げた。



「えっ!?」



俺は思わず声を上げた。



「い、いや!頭上げてください!」



慌てて手を振る。
だって相手は王子よ!?
俺なんかに公衆の面前で頭下げるとか、色々まずいんじゃない!?

ベルノア王子は顔を上げて、くすっと笑った。



「ははは」



軽く手を振る。



「もちろん、統覇戦で手を抜いて欲しいという話ではないよ」



視線が柔らかくなる。



「ライバルとして、ラグナに立ちはだかってやって欲しい」



そして、静かに言った。



「それが、今のラグナには必要な事だと……私は思うんだ」



その言葉を聞いた瞬間。
俺の胸の奥で、何かが少しだけ重くなった。

……なるほどな。
王族ってのも、色々あるらしい。

ラグナはただの天才じゃない。
王族の中で、色々背負ってる。
ベルノアさんはそれを分かっている。

だから俺に頼んだんだ。



(……なんか、すげぇ話になってきたな)



俺は苦笑した。
でも、逃げるつもりはない。
俺は軽く息を吸って、ベルノアに向かって笑った。



「分かりました」



しっかりと頷く。



「任せてください」



その言葉に、ベルノア王子は満足そうに微笑んだ。
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