真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

文字の大きさ
1 / 257
第一章 誕生、そして旅立ち編

第1話 社畜、卵から出たらドラゴンでした

しおりを挟む
ブラック企業勤めは、RPGで言えば常時【毒】【睡眠不足】【混乱】のデバフを食らいながら、毎ターン残業でHPが削られるクソゲーである。


そのクソゲーの主人公だった俺、橘 隆也(たちばな・りゅうや)、28歳、独身、恋人無し。趣味は深夜のラーメンと寝落ち。


ある日の深夜、仕事帰りに会社の階段を踏み外して——人生を途中退場してしまった。


死んだ時の記憶はぼんやりしてる。階段から落ちて、背中に激痛走って、ふっと気を失ったその次の瞬間には——

真っ暗な空間で、空気すらない世界に漂っていた。


 ◇◆◇
 

(……なんだここ。俺、生きてるの? 死んでるの? これは、もしかして——)

──転生フラグ?

暗闇の中で、意識だけが浮かんでいるような感覚。何も見えないのに、俺の“存在”だけが確かにここにある。あまりに王道展開すぎて、転生の女神とか出てきそうな予感すらあった。

でも、誰の声も聞こえない。

ただ——自分の中の“何か”が、ぐにゃりと、変わっていく。

 

……あれ? 俺の身体……無い?

 

いや、あるにはある。感覚はある。でもそれは、今までの“人間の身体”じゃない。

皮膚の感触も、手足の重さも、なにか違う。もっと硬くて、重くて……冷たいような、熱いような、不思議な感覚。

そして何より、自分の中心が、変質していくのがわかる。

魂そのものが、別の構造に書き換えられているような感覚。

 

最初は怖かった。でも、痛みも苦しみもなかった。
むしろ心地よい。どこまでも深く沈んでいくような、あったかい液体に包まれているみたいな。

 

——ああ、これ、俺は“人間じゃなくなっていく”んだ。

 

そして、意識が光に包まれる。

次に気づいた時、俺は——柔らかくてあたたかい液体に浸かっていた。

ぐるん、と身体が回る。狭い。小さい。でも、なぜか安心する。
手も足もまだうまく動かないけど……確かにある。

 

——あ、これ、俺……卵の中にいるな?

 

これ、そういう転生だったの? 赤ん坊っていうか、未孵化?

というか、俺は何に生まれ変わるんだろう。殻のある卵だから、鳥類か爬虫類だろうか。
 
視界の端に、ほんの少しだけ、殻の隙間から光が漏れ始めている。

新しい人生(?)の幕開け。

だけどその始まりは、俺が人間じゃなくなったっていう、どう考えてもツッコミどころ満載な地点からだった——。


 ◇◆◇


パキ……。

小さく乾いた音がした。

視界の端で、光の筋が一筋、俺の世界を裂いた。

 

殻に……ヒビが入った。

 

それに気づいた瞬間、なぜか俺の中で“生まれるべき”という感覚が湧き上げてきた。
 
そして——俺は、本能に従って、全力で頭をぶつけた。

 

ガンッ!!

 

いてぇ!!

なんだこの殻!? 鋼鉄か!? 絶対防御の卵ってなに!?
孵化ってもっとこう……ポンって割れるイメージだったんだけど!!

 

が、それでも数度のヘッドアタックを繰り返すうちに、ついに殻が砕けた。

まぶしい光が、一気に視界を包む。

生まれたての俺の目にはちょっと強すぎたけど、それでもなんとか目を開けて——

 

「……うわ、空、広っ」

 

それがこの世界での、俺の第一声だった。

 

いや、待て。喋れたの!?

さっきまで卵の中にいた生まれたての俺が、孵化したらもう喋れるの?

言語スキル、標準搭載なのか。どんな生き物だよ、俺。

 

それよりも、目の前の光景がヤバかった。

 

……でっっっっっか!!!!

 

俺を囲んでいるのは、山よりデカい竜たちだった。

スケール感バグってんのよ。

お台場で見たユ◯コーンでもこんなにデカくなかったよ。何ならダイバー◯ティのビルそのものよりデカい。

 

蒼い鱗、黒曜石のような翼、瞳に星が浮かぶような、幻想的で……そして、どこか恐ろしい存在感。

 

そんな“神話的存在”たちが、俺を覗き込んでいた。

 

《目覚めたか……"アルドラクス"よ》

 

その声は、言葉じゃなく、頭に直接響いてきた。念話的なやつだ。あなたの脳に直接話しかけています、みたいな。

その声の主——目の前の一番でかい竜が、俺の親らしい。どこか優しげな瞳で俺を見つめていた。

 

《汝は、真祖竜の血を継ぎし者……古の契約により生まれし、運命の器である》

 

ええ…なんか急に重いこと言い出したな。

俺、階段から落ちて死んだだけのサラリーマンなんだけど。

前世の死に様からすると、運命値だいぶ低いと思うんだけど、運命の器なんかにしちゃって大丈夫?メジャーリーガーとかを転生させた方が良かったんじゃない?

 

しかも、その言葉を聞いた周囲の竜たちが「ほう……」「これは……」「新たなる調律の兆しか」って一斉にうなり始めてて、正直怖い。

 

「えっと……初めまして。アルドラクス……?……です。新参者ではございますが、何卒よろしくお願いします」

 

俺はとりあえず、卵のかけらに前足を乗せてぺこっとお辞儀した。
まさか生まれて初めての挨拶が、神話級ドラゴンたちへの自己紹介になるとは思わなかった。

 

《ふむ……すでに言葉を話すか。我が子ながら興味深い。》

《これは魂に刻まれた記憶によるものか?》

《あるいは、魂の特異性か……》

 

竜達……恐らくは、今世の俺のパパンやママン達(誰がオスで誰がメスなのか見分けつかないけど)は、フレッシュさのかけらもない挨拶をした生まれたての俺の事を何やら分析し始める。

しまった、竜だからって、生まれた瞬間に喋るのは流石に不自然だったのか。大人しくバブーとハーイとチャーンくらいしか喋れないふりをするべきだったかもしれない。

 

でも、そんな戸惑いの中でも、俺は自分の体が、確かに“とんでもないポテンシャル”を持っているのを感じていた。

心臓の奥に燃えるような力の渦。
呼吸するだけで空間が震えるような感覚。
筋肉の一つ一つに力が満ちていて……軽くジャンプするだけで、空を飛べそうな気がした。

 

(……これが、真祖竜の力……)

 

はっきり言って、間違いなく強い。
何より、社畜時代では考えられない程、体調がすこぶる良い。どこも痛くない身体なんて、いつぶりだろうか。自分で言ってて悲しくなるけど。

 

でも、何より驚いたのは——



その後に始まった“竜社会の儀式”が、俺にとって最大のカルチャーショックとなる。

その話は、また次のシーンで詳しく語るとしよう——

 

とにもかくにも、俺は今——
真祖の竜として、新しい人生、もとい竜生をスタートさせたのだった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました

ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」 優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。 ――僕には才能がなかった。 打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...