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第3章 巨大な犬編
第35話 笑顔の帰還と、黄金の絆
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あぁ~、やっと一息つけたなぁ……。
俺はカクカクソファにごろんと寝転がり、天井をぼんやりと見上げていた。
カレーの匂いがまだほんのり残る、あったかい空間。
誰もいない静かな家。
昼下がりの、最高に平和な時間だった。
——ドドドドドドドド……!
「……ん?」
耳の奥に、妙な音が飛び込んできた。
最初は小さな振動みたいだったのに、だんだんと大きく、重たく響いてくる。
「地鳴り……?」
反射的に身を起こす。
何かヤバい奴でも来たかと警戒しかけて——
「……あ、ブリジットちゃんとリュナちゃんか!」
すぐに気付いて、ふっと肩の力が抜けた。
そうだ、二人はフェンリル族との交渉に行ってたんだ。
何事もなければ、もうそろそろ戻ってくる時間だ。
このドドド音は、たぶんその帰り道の効果音エフェクトってわけだな。
「おかえり~!」
のんきな声で、俺は玄関を開けた。
ぱぁっと開け放った先——
そこに広がる光景は、想像を超えていた。
「……えっ、何あれ」
思わず素で声が漏れる。
荒野の彼方から、巨大な犬たちが、雲のような土煙を上げて突っ走ってくる。
しかも、5匹とか6匹どころじゃない。
パッと見、軽く100匹はいる。
しかも、先頭にいるのが——
5m級のダックスフンドに乗ったブリジットちゃん!
5m級のパグに横座りしてるリュナちゃん!
さらに、その後ろには8mを超える銀色の狼が、誇らしげに走ってる!
「えぇぇぇぇぇえええええ!?」
これ、俺の予想してた「ただの交渉」の帰りの姿じゃなかった!
ていうか、どう見ても征服した側みたいなノリなんだけど!!乗ってるし!!
……でもまあ、よく見ると、みんな笑顔だ。
犬たちも、耳をピンと立てて尻尾振りながら走ってるし、明るい雰囲気だ。
……なんかリュナちゃんが、乗ってる巨大パグの頭をゲシゲシ蹴ってる気もするけど。
でも蹴られてる巨大パグはなんか嬉しそうだから、多分大丈夫なんだろう。
気持ちはちょっと……分からなくもない!
(……やっぱ思った通り、フェンリル族って、犬種いろいろいたんだな!)
興奮しながら、俺は呆然とその行進を見つめ続けた。
そして——
ついにブリジットちゃんたちは、カクカクハウスの目の前までやってきた。
「アルドくーーん!!」
元気な声と共に、ブリジットがフレキから飛び降りた。
ふわっと舞う金髪。
次の瞬間、俺の胸に飛び込んできた。
「わっ、わぁぁっ!」
ぐえっ、と変な声が出たけど、ぎゅっとしがみつかれて、抵抗できなかった。
「よかったぁー!!アルドくん、無事だったんだねっ!」
顔をうずめながら、ブリジットは泣きそうな声をあげた。
その小さな手が、服をくしゃっと掴んでるのがわかる。
(な、なんだこれ……めちゃくちゃ、可愛いんだけど……)
だが、同時に疑問も湧いた。
「えっ、えっ、ちょっと待って、ブリジットちゃん!? 何でそんな心配モードなの!?」
俺、普通にここでカレー作ってただけなんだけど。
留守番してた俺が心配される側とはどういうこと?
俺、赤ちゃんか何かだと思われてるのかな?
後ろでは、フレキくんも飛び跳ねるようにやってきて、
「アルドさん!無事でよかったですー!!」
と、巨大な尻尾をぶんぶん振りまくってた。
地面が揺れる勢いだ。
リュナは5mパグから軽やかに飛び降りて、黒マスクの下でにやっと笑った。
「ま、兄さんなら、心配いらないとは思ったっすけどね」
ふぅ……と、ようやく抱きしめられていたブリジットが一歩離れる。
赤くなった目で、安心したように微笑む彼女を見て、こっちまでホッとした。
「ほんと、二人とも……おかえり」
俺はそう言いながら、照れくさく笑った。
荒野に吹く風は優しくて、すごく、すごく気持ちよかった。
(……さて。なんか色々あったっぽいけど)
(とりあえず、無事に帰ってきたなら、それでいいか)
そんなことを思いながら、俺は小さく伸びをした。
◇◆◇
ブリジットちゃんがまだ袖口で涙を拭ってる横で、リュナが俺に近づいてきた。
黒マスク越しでも分かる、軽い笑み。
「兄さん、あーしらが留守の間、誰か来たりしませんでした?」
リュナは、軽く訊くようなトーンだったけど、その目はどこか鋭かった。
「うん、来たよ」
俺は、ありのままを答える。
「ベルザリオンくんって子がね」
「ベルザリオン……?」
リュナが眉をひそめた。
隣で聞いてたブリジットちゃんも、ぱちぱちと目を瞬かせている。
フレキは巨大な頭を傾げ、興味津々って顔だ。
「そいつ、どうしたんすか?」
リュナがぐいっと顔を寄せてくる。
わ、近い。ドキドキしちゃう!
俺は、頭の中で簡潔な説明を組み立てた。
事実を並べるだけなら、きっと短いはず。
「お腹減ってたみたいだから、カレー食べさせてあげたら、若返って泣いて感動して帰ってったよ。」
「…………」
リュナも、ブリジットちゃんも、フレキも、みんな目を丸くして固まった。
「え、何すかそれ」
リュナが、超真顔で聞き返してくる。
「俺もよく分かんない」
俺は素直に答えた。
本当によく分かってないからね。
「でもさ、彼、すごくいい顔してたよ」
「仕事辞めて新しい生き方探す!って、イケメンフェイスで言ってたし」
カレー一杯で人生を変えるとか、マジで予想外だったけど。
たぶん、彼には、それだけのタイミングだったんだろうな。
リュナは一瞬きょとんとしてたけど、やがて、ふっと目を細めた。
マスクの下で、きっと笑ってる。
「兄さんらしいっすね」
なんか、ちょっと嬉しそうな声だった。
「えへへ、えへへ……」
ブリジットちゃんも、袖口で口元を隠しながら、くすくす笑っている。
よかった。無事に帰ってきてくれたし、ちゃんと笑顔になってくれてる。
俺も自然と笑みが浮かんだ。
……平和って、いいなあ。
◇◆◇
そんなほんわかムードに包まれていたら——
「リュナ様!!」
でっかい声が響いた。
俺が振り向くと、そこには——
銀色の毛並みを持つ、まさに”フェンリル”って感じの巨大な狼と。
ちょっと小さめだけど、やたら態度がデカいパグっぽいフェンリル(?)が立っていた。
こいつ、さっきリュナちゃんに蹴られて喜んでたやつじゃない?気が合うかも。
「誰ですか、この馴れ馴れしい小僧は!」
パグ狼が、怒った顔で俺を睨んでいる。
やっぱ気が合わないかも知れない。
背筋がピーンと伸びた感じが、なんか小学校の風紀委員長みたいだ。
「リュナ殿に、そのような気安い態度を取るとは——!」
銀狼も、重々しい声で俺を見下ろしてくる。
うわ、こっちはこっちで、威厳すごいな。
これぞ"異世界で仲間になる伝説のフェンリル"って感じだ!
他の子達はぶっちゃけ全員でかい犬だし。
「ああ、こいつらっすか?」
リュナがあっさりと言った。
マスクの下で、絶対ニヤニヤしてる。
「こいつらは、マナガルムとグェル。
フレキっちの、父ちゃんと弟っす」
「へぇー、仲直りできたんだ。よかったね。」
フレキくんの家族なんだね。
あんまり似てないけど。犬種も違うし。
と呟いた瞬間、パパ銀狼と弟パグの眉間がピクッと動いた。
いや、犬だから眉間ないか。まあ、そんな感じ。
俺が弟パグをチラチラ見てたら、
ふと、パパ銀狼の銀の胸毛が目に入った。
すごい、もっふもふ。
フレキくんと同じで、めちゃくちゃ撫でたくなるやつ。ここは遺伝なのかもね。
俺は、そろーりと手を伸ばした。
そーっと。
そーっと。
けど、銀狼はサッと一歩引いた。
そして、低く唸る。
「勘違いするな、人間よ」
「我らはブリジット殿とリュナ殿には降ったが、すべての人間に心を許したわけではない」
……あ、ちょっとショック。
もふもふ、したかったな……。
巨大弟パグも、ギャーギャー騒ぎ出す。
「そうだそうだ! 矮小な人間が、ブリジット様やリュナ様にそんな馴れ馴れしくするなど!
うらやまし……じゃなくて!けしからんっ!!」
今うらやましいって言ったよね? ごまかせてないからね?
やっぱり、同志っぽい空気を感じるな。
このパグくん。
どうリアクションすべきか迷ってた、そのとき。
リュナが、サラッと言った。
「ちなみにこの人、あーしやブリジット姉さんとは
比べ物にならないくらい強いっすからね。
あんま怒らせないよーに。」
パパ銀狼と弟パグ、ぴたっと止まる。
そして、同時に——
「「えっ」」
小さな、けれど確実な声が漏れた。
間。
そして——
ドサァァ!
パパ銀狼が、バサッと腹を出して倒れ込んだ。
「どうぞ、思う存分……我が胸毛をご堪能あれ……」
なんかすっごい覚悟決めた目してる!
そこまでしなくていいのよ!
ちょっと触ってみたかっただけだから!
って言うか、息子達が見てる前でその感じ、
父親としてつらくない!?なんか……ごめんね!?
弟パグも、急にヘコヘコしながらすり寄ってくる。
「ですよね~! ボクは一目見た時から只者じゃないと思ってましたよ、坊ちゃん!!」
めっちゃ媚び売ってきてる。
しかもハッハッハッって、息切れしながら笑ってるの、何。
俺は二匹を見下ろして、心の中で思った。
(……サラリーマンだったら、出世しそうだな、この二匹。)
もうなんか、いろんな意味で、賑やかになりそうだ。
◇◆◇
カクカクハウスの前に、みんなが集まった。
ブリジットちゃん、リュナちゃん、フレキくん、マナガルムさん、グェルくん。
それから、その後ろに控えてる——
100匹超の、巨大フェンリルたち。
5m級のシェパードとか、6m級の柴犬とか、7m級のゴールデンレトリバーとか、もう色んな犬種がごちゃまぜ。
あれだね、でっかいドッグショーだね、完全に。
ちなみに。
フェンリルたちは、カクカクハウスの正面じゃなくて、ちょっと離れた平地で遊んでる。
全員で集まられても場所取って仕方ないからね。
遊び道具は——俺が土魔法で作った、超特大フリスビー。
ドスンッ!
バサァン!
ドスドスッ!
5m超のパピヨンとかが、フリスビーを前脚でバシバシ投げて、
6mのグレートデーンとかがジャンプして口でキャッチする。
……めちゃくちゃシュールな光景だ。
荒野にでっかい犬がフリスビーでキャッキャしてる。
幻想的な光景とも言えるし、高熱の時に見る悪夢みたいな光景とも言える。可愛いのか怖いのか判断できないよ。
でもまあ、楽しそうだし、いっか。
そんな微笑ましいカオスを背に、フレキが一歩、前に出た。
俺たちのほうを、真っ直ぐに見据えて。
「改めまして!」
キリッと声を張るフレキ。
立ち姿も、めちゃくちゃ堂々としてる。
「フェンリル族の長となりました、フレキです!」
「ボクたちフェンリル族は——」
「ブリジットさんが作る“ノエリア領”の、領民として!」
「共に暮らさせていただくことに、決めました!!」
ぱちぱちぱちぱち!
俺は、素直に拍手した。
リュナもにこにこしながら手を叩いてるし、ブリジットちゃんも満面の笑みだ。
さすが、ブリジットちゃん。
きっと、暴力なんかに頼らずに、平和的に、
ちゃんと話し合いでまとめたんだろうなぁ。
領民が一気に100匹超え!
しかもみんな超大型犬!
超癒される!!
けどこれ、領地として成立してる?
「でも結局、この秘宝の力って……何だったのかな?」
ブリジットちゃんが、ポーチから小さな物を取り出した。
大きめサイズの、骨型の犬用ガム風の秘宝。
相変わらず、どう見てもおやつにしか見えない。
まあ、異世界だし。
何が秘宝で何がゴミか、素人目には分かんないよね。
ブリジットちゃんが不思議そうな顔で犬ガムを手に持っていると、フレキが一歩進み出た。
そして、にっこり笑った。
「秘宝の力に頼らなくても」
「ブリジットさんたちと“絆”を結べたことのほうが、ボクにとっては——」
「一番の宝物です!」
そう言って、ハッハッハッと息を弾ませながら笑う。
大きな身体で、子犬みたいな表情して。
ブリジットちゃんも、パッと顔を輝かせた。
「うん! あたしも、そう思うよ!」
眩しいくらいの笑顔だった。
いや、かわいいな、ほんと!
この子はマジで天使か何かなのか?
その瞬間——
秘宝が、光り出した。
「……えっ」
俺は思わず声を漏らした。
骨型のガムが、ぶわっと金色に輝き始めたんだ。
ただの犬のおやつじゃなかったんだ、やっぱり!!
そして、その光は——フレキにも伝った。
「え、ええええっ!?」
フレキの全身が、金色に包まれていく。
もっふもふの毛並みが、光を反射してきらっきらしてる。
後ろで遊んでたフェンリルたちも、ぽかんと口を開けてる。
グェルもマナガルムも、目を見開いて動けない。
そして、重々しく、マナガルムが呟いた。
「……こ、これは……!」
「フレキと、ブリジット殿との間に生まれた“絆”が——」
「フェンリル族の秘宝の封印を、解いたというのか……ッ!!」
そんな、まるで伝説の一幕みたいな台詞を呟く。
わかりやすい解説ありがとう!
「……」
俺は、発光するフレキくんを見つめながら、思った。
(さっきも似たような光景、見たな……)
ベルザリオンくんが、カレー食った時もこんな感じだったね。
異世界の人(犬)達って、事あるごとに発光するものなのかな。
俺はカクカクソファにごろんと寝転がり、天井をぼんやりと見上げていた。
カレーの匂いがまだほんのり残る、あったかい空間。
誰もいない静かな家。
昼下がりの、最高に平和な時間だった。
——ドドドドドドドド……!
「……ん?」
耳の奥に、妙な音が飛び込んできた。
最初は小さな振動みたいだったのに、だんだんと大きく、重たく響いてくる。
「地鳴り……?」
反射的に身を起こす。
何かヤバい奴でも来たかと警戒しかけて——
「……あ、ブリジットちゃんとリュナちゃんか!」
すぐに気付いて、ふっと肩の力が抜けた。
そうだ、二人はフェンリル族との交渉に行ってたんだ。
何事もなければ、もうそろそろ戻ってくる時間だ。
このドドド音は、たぶんその帰り道の効果音エフェクトってわけだな。
「おかえり~!」
のんきな声で、俺は玄関を開けた。
ぱぁっと開け放った先——
そこに広がる光景は、想像を超えていた。
「……えっ、何あれ」
思わず素で声が漏れる。
荒野の彼方から、巨大な犬たちが、雲のような土煙を上げて突っ走ってくる。
しかも、5匹とか6匹どころじゃない。
パッと見、軽く100匹はいる。
しかも、先頭にいるのが——
5m級のダックスフンドに乗ったブリジットちゃん!
5m級のパグに横座りしてるリュナちゃん!
さらに、その後ろには8mを超える銀色の狼が、誇らしげに走ってる!
「えぇぇぇぇぇえええええ!?」
これ、俺の予想してた「ただの交渉」の帰りの姿じゃなかった!
ていうか、どう見ても征服した側みたいなノリなんだけど!!乗ってるし!!
……でもまあ、よく見ると、みんな笑顔だ。
犬たちも、耳をピンと立てて尻尾振りながら走ってるし、明るい雰囲気だ。
……なんかリュナちゃんが、乗ってる巨大パグの頭をゲシゲシ蹴ってる気もするけど。
でも蹴られてる巨大パグはなんか嬉しそうだから、多分大丈夫なんだろう。
気持ちはちょっと……分からなくもない!
(……やっぱ思った通り、フェンリル族って、犬種いろいろいたんだな!)
興奮しながら、俺は呆然とその行進を見つめ続けた。
そして——
ついにブリジットちゃんたちは、カクカクハウスの目の前までやってきた。
「アルドくーーん!!」
元気な声と共に、ブリジットがフレキから飛び降りた。
ふわっと舞う金髪。
次の瞬間、俺の胸に飛び込んできた。
「わっ、わぁぁっ!」
ぐえっ、と変な声が出たけど、ぎゅっとしがみつかれて、抵抗できなかった。
「よかったぁー!!アルドくん、無事だったんだねっ!」
顔をうずめながら、ブリジットは泣きそうな声をあげた。
その小さな手が、服をくしゃっと掴んでるのがわかる。
(な、なんだこれ……めちゃくちゃ、可愛いんだけど……)
だが、同時に疑問も湧いた。
「えっ、えっ、ちょっと待って、ブリジットちゃん!? 何でそんな心配モードなの!?」
俺、普通にここでカレー作ってただけなんだけど。
留守番してた俺が心配される側とはどういうこと?
俺、赤ちゃんか何かだと思われてるのかな?
後ろでは、フレキくんも飛び跳ねるようにやってきて、
「アルドさん!無事でよかったですー!!」
と、巨大な尻尾をぶんぶん振りまくってた。
地面が揺れる勢いだ。
リュナは5mパグから軽やかに飛び降りて、黒マスクの下でにやっと笑った。
「ま、兄さんなら、心配いらないとは思ったっすけどね」
ふぅ……と、ようやく抱きしめられていたブリジットが一歩離れる。
赤くなった目で、安心したように微笑む彼女を見て、こっちまでホッとした。
「ほんと、二人とも……おかえり」
俺はそう言いながら、照れくさく笑った。
荒野に吹く風は優しくて、すごく、すごく気持ちよかった。
(……さて。なんか色々あったっぽいけど)
(とりあえず、無事に帰ってきたなら、それでいいか)
そんなことを思いながら、俺は小さく伸びをした。
◇◆◇
ブリジットちゃんがまだ袖口で涙を拭ってる横で、リュナが俺に近づいてきた。
黒マスク越しでも分かる、軽い笑み。
「兄さん、あーしらが留守の間、誰か来たりしませんでした?」
リュナは、軽く訊くようなトーンだったけど、その目はどこか鋭かった。
「うん、来たよ」
俺は、ありのままを答える。
「ベルザリオンくんって子がね」
「ベルザリオン……?」
リュナが眉をひそめた。
隣で聞いてたブリジットちゃんも、ぱちぱちと目を瞬かせている。
フレキは巨大な頭を傾げ、興味津々って顔だ。
「そいつ、どうしたんすか?」
リュナがぐいっと顔を寄せてくる。
わ、近い。ドキドキしちゃう!
俺は、頭の中で簡潔な説明を組み立てた。
事実を並べるだけなら、きっと短いはず。
「お腹減ってたみたいだから、カレー食べさせてあげたら、若返って泣いて感動して帰ってったよ。」
「…………」
リュナも、ブリジットちゃんも、フレキも、みんな目を丸くして固まった。
「え、何すかそれ」
リュナが、超真顔で聞き返してくる。
「俺もよく分かんない」
俺は素直に答えた。
本当によく分かってないからね。
「でもさ、彼、すごくいい顔してたよ」
「仕事辞めて新しい生き方探す!って、イケメンフェイスで言ってたし」
カレー一杯で人生を変えるとか、マジで予想外だったけど。
たぶん、彼には、それだけのタイミングだったんだろうな。
リュナは一瞬きょとんとしてたけど、やがて、ふっと目を細めた。
マスクの下で、きっと笑ってる。
「兄さんらしいっすね」
なんか、ちょっと嬉しそうな声だった。
「えへへ、えへへ……」
ブリジットちゃんも、袖口で口元を隠しながら、くすくす笑っている。
よかった。無事に帰ってきてくれたし、ちゃんと笑顔になってくれてる。
俺も自然と笑みが浮かんだ。
……平和って、いいなあ。
◇◆◇
そんなほんわかムードに包まれていたら——
「リュナ様!!」
でっかい声が響いた。
俺が振り向くと、そこには——
銀色の毛並みを持つ、まさに”フェンリル”って感じの巨大な狼と。
ちょっと小さめだけど、やたら態度がデカいパグっぽいフェンリル(?)が立っていた。
こいつ、さっきリュナちゃんに蹴られて喜んでたやつじゃない?気が合うかも。
「誰ですか、この馴れ馴れしい小僧は!」
パグ狼が、怒った顔で俺を睨んでいる。
やっぱ気が合わないかも知れない。
背筋がピーンと伸びた感じが、なんか小学校の風紀委員長みたいだ。
「リュナ殿に、そのような気安い態度を取るとは——!」
銀狼も、重々しい声で俺を見下ろしてくる。
うわ、こっちはこっちで、威厳すごいな。
これぞ"異世界で仲間になる伝説のフェンリル"って感じだ!
他の子達はぶっちゃけ全員でかい犬だし。
「ああ、こいつらっすか?」
リュナがあっさりと言った。
マスクの下で、絶対ニヤニヤしてる。
「こいつらは、マナガルムとグェル。
フレキっちの、父ちゃんと弟っす」
「へぇー、仲直りできたんだ。よかったね。」
フレキくんの家族なんだね。
あんまり似てないけど。犬種も違うし。
と呟いた瞬間、パパ銀狼と弟パグの眉間がピクッと動いた。
いや、犬だから眉間ないか。まあ、そんな感じ。
俺が弟パグをチラチラ見てたら、
ふと、パパ銀狼の銀の胸毛が目に入った。
すごい、もっふもふ。
フレキくんと同じで、めちゃくちゃ撫でたくなるやつ。ここは遺伝なのかもね。
俺は、そろーりと手を伸ばした。
そーっと。
そーっと。
けど、銀狼はサッと一歩引いた。
そして、低く唸る。
「勘違いするな、人間よ」
「我らはブリジット殿とリュナ殿には降ったが、すべての人間に心を許したわけではない」
……あ、ちょっとショック。
もふもふ、したかったな……。
巨大弟パグも、ギャーギャー騒ぎ出す。
「そうだそうだ! 矮小な人間が、ブリジット様やリュナ様にそんな馴れ馴れしくするなど!
うらやまし……じゃなくて!けしからんっ!!」
今うらやましいって言ったよね? ごまかせてないからね?
やっぱり、同志っぽい空気を感じるな。
このパグくん。
どうリアクションすべきか迷ってた、そのとき。
リュナが、サラッと言った。
「ちなみにこの人、あーしやブリジット姉さんとは
比べ物にならないくらい強いっすからね。
あんま怒らせないよーに。」
パパ銀狼と弟パグ、ぴたっと止まる。
そして、同時に——
「「えっ」」
小さな、けれど確実な声が漏れた。
間。
そして——
ドサァァ!
パパ銀狼が、バサッと腹を出して倒れ込んだ。
「どうぞ、思う存分……我が胸毛をご堪能あれ……」
なんかすっごい覚悟決めた目してる!
そこまでしなくていいのよ!
ちょっと触ってみたかっただけだから!
って言うか、息子達が見てる前でその感じ、
父親としてつらくない!?なんか……ごめんね!?
弟パグも、急にヘコヘコしながらすり寄ってくる。
「ですよね~! ボクは一目見た時から只者じゃないと思ってましたよ、坊ちゃん!!」
めっちゃ媚び売ってきてる。
しかもハッハッハッって、息切れしながら笑ってるの、何。
俺は二匹を見下ろして、心の中で思った。
(……サラリーマンだったら、出世しそうだな、この二匹。)
もうなんか、いろんな意味で、賑やかになりそうだ。
◇◆◇
カクカクハウスの前に、みんなが集まった。
ブリジットちゃん、リュナちゃん、フレキくん、マナガルムさん、グェルくん。
それから、その後ろに控えてる——
100匹超の、巨大フェンリルたち。
5m級のシェパードとか、6m級の柴犬とか、7m級のゴールデンレトリバーとか、もう色んな犬種がごちゃまぜ。
あれだね、でっかいドッグショーだね、完全に。
ちなみに。
フェンリルたちは、カクカクハウスの正面じゃなくて、ちょっと離れた平地で遊んでる。
全員で集まられても場所取って仕方ないからね。
遊び道具は——俺が土魔法で作った、超特大フリスビー。
ドスンッ!
バサァン!
ドスドスッ!
5m超のパピヨンとかが、フリスビーを前脚でバシバシ投げて、
6mのグレートデーンとかがジャンプして口でキャッチする。
……めちゃくちゃシュールな光景だ。
荒野にでっかい犬がフリスビーでキャッキャしてる。
幻想的な光景とも言えるし、高熱の時に見る悪夢みたいな光景とも言える。可愛いのか怖いのか判断できないよ。
でもまあ、楽しそうだし、いっか。
そんな微笑ましいカオスを背に、フレキが一歩、前に出た。
俺たちのほうを、真っ直ぐに見据えて。
「改めまして!」
キリッと声を張るフレキ。
立ち姿も、めちゃくちゃ堂々としてる。
「フェンリル族の長となりました、フレキです!」
「ボクたちフェンリル族は——」
「ブリジットさんが作る“ノエリア領”の、領民として!」
「共に暮らさせていただくことに、決めました!!」
ぱちぱちぱちぱち!
俺は、素直に拍手した。
リュナもにこにこしながら手を叩いてるし、ブリジットちゃんも満面の笑みだ。
さすが、ブリジットちゃん。
きっと、暴力なんかに頼らずに、平和的に、
ちゃんと話し合いでまとめたんだろうなぁ。
領民が一気に100匹超え!
しかもみんな超大型犬!
超癒される!!
けどこれ、領地として成立してる?
「でも結局、この秘宝の力って……何だったのかな?」
ブリジットちゃんが、ポーチから小さな物を取り出した。
大きめサイズの、骨型の犬用ガム風の秘宝。
相変わらず、どう見てもおやつにしか見えない。
まあ、異世界だし。
何が秘宝で何がゴミか、素人目には分かんないよね。
ブリジットちゃんが不思議そうな顔で犬ガムを手に持っていると、フレキが一歩進み出た。
そして、にっこり笑った。
「秘宝の力に頼らなくても」
「ブリジットさんたちと“絆”を結べたことのほうが、ボクにとっては——」
「一番の宝物です!」
そう言って、ハッハッハッと息を弾ませながら笑う。
大きな身体で、子犬みたいな表情して。
ブリジットちゃんも、パッと顔を輝かせた。
「うん! あたしも、そう思うよ!」
眩しいくらいの笑顔だった。
いや、かわいいな、ほんと!
この子はマジで天使か何かなのか?
その瞬間——
秘宝が、光り出した。
「……えっ」
俺は思わず声を漏らした。
骨型のガムが、ぶわっと金色に輝き始めたんだ。
ただの犬のおやつじゃなかったんだ、やっぱり!!
そして、その光は——フレキにも伝った。
「え、ええええっ!?」
フレキの全身が、金色に包まれていく。
もっふもふの毛並みが、光を反射してきらっきらしてる。
後ろで遊んでたフェンリルたちも、ぽかんと口を開けてる。
グェルもマナガルムも、目を見開いて動けない。
そして、重々しく、マナガルムが呟いた。
「……こ、これは……!」
「フレキと、ブリジット殿との間に生まれた“絆”が——」
「フェンリル族の秘宝の封印を、解いたというのか……ッ!!」
そんな、まるで伝説の一幕みたいな台詞を呟く。
わかりやすい解説ありがとう!
「……」
俺は、発光するフレキくんを見つめながら、思った。
(さっきも似たような光景、見たな……)
ベルザリオンくんが、カレー食った時もこんな感じだったね。
異世界の人(犬)達って、事あるごとに発光するものなのかな。
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過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。
「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」
そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。
スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。
これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
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「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
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