真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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幕間 ──導かれし者たち──

第65話 side 影山孝太郎② ──異世界召喚とチートスキル──

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 ──世界が、変わった。

 完全に、異質な何かへと。



 突如、視界が切り替わったあの瞬間。

 教室の床が崩れ落ちたような浮遊感と、耳鳴りにも似た重低音が脳を揺さぶったあと、彼らはそこに立っていた。

 そこは、かつての地球のどこにも存在しない光景だった。

 金属のように光を弾く黒灰の床材は、滑らかに磨かれており、ところどころに紫の導線が走っている。


 床一面に描かれた巨大な魔法陣は、魔力と電子パルスが混ざったような輝きで脈動し、歯車にも似た輪郭がゆっくりと回転していた。


 周囲の壁は、冷たく鈍い光を放つ銀色の合金製で構築され、そこには古代文字とコードナンバーが融合したような魔導式が立体的に浮かんでいる。


 天井から吊られた楕円形の魔導灯が、紫白色の光を辺りに投げかけ、空間全体がほの暗い実験施設のような雰囲気に包まれていた。


 どこか、RPGのラストダンジョン──いや、近未来SFゲームの終盤に現れる魔導兵器研究所のような場所。


 そして、二十一人の高校生が、そんな異空間の中央に呆然と立ち尽くしていた。


 影山孝太郎もその一人だった。


 (……これは……)


 咄嗟には、現実なのか夢なのか判断がつかなかった。

 だが、冷たい金属の床の感触。空気に含まれるわずかなオゾンのような匂い。耳元で聞こえる、低く唸る動力炉の駆動音。

 すべてが、異常にリアルすぎた。

 まるで、現実が“異常”になったかのようだった。

 
 広間の奥。半円形の階段状の演壇、その中心に設置された半透明の制御台の前に立つ、一人の女性。

 灰銀色の長い髪が、無重力のようにふわりと宙に揺れた。

 光を帯びたマントと、身体のラインが露わになる紫紺色の魔導装束は、曲線美と機能性を併せ持ち、まるで魔導科学の粋を集めた軍服のようでもある。

 肩や腰には光を放つ魔導基盤が埋め込まれ、背中の装置からはかすかに粒子状の魔素が漏れ出ていた。

 その姿は、神々しさすら感じさせると同時に、どこか冷たい人工美も漂わせていた。

 そして、その唇が動いた。


「……突然、見知らぬ世界に召喚され、困惑していることと思う。まずは、その心中、お察しするわ」


 声は機械のように澄んで、しかし柔らかく。

 まるで音声合成と感情表現が完璧に融合したAIボイスのような、落ち着きと説得力を兼ね備えた声音だった。

 影山は、無表情のまま彼女を見つめていた。


(……お察しする、ね)


 皮肉気に思う。表には出さなかったが、胸の奥で呟くように。


(勝手に異世界に引っ張り込んでおいて、“お察しする”かよ。身勝手な異世界召喚のテンプレって感じだな。)


 無意識に、腰元のスマホに手をやろうとしたが、そこに何もないことに気づいて、ふと肩を落とす。


 その一方で、彼女──魔導官フラム・クレイドルは、表情を変えずに続けた。


「あなたたちは、我が国"ベルゼリア"の未来を左右し得る“異界の魂”──
 我々はその力を求めた。だからこそ、最大限の敬意と最良の環境をもって、あなたたちを招いたの」


 その瞬間、誰もが小さくざわめいた。

 もはや“自分たちが異世界に召喚された”という事実を、誰一人として否定できなくなっていた。


「まずは、できる限り、あなたたちの疑問に答えるわ」

「質問は自由よ。どんなことでも構わない。どうか、遠慮なく」


 フラムがそう言った瞬間、足元の魔導陣がわずかに揺らぎ、彼女の背後にホログラム状の情報端末が浮かび上がった。

 名前、状態、魔力値──あらゆる情報がリアルタイムで表示されている。

まるで自分たちが、“実験素材”として管理されているかのような、不気味な静けさが漂う。

だが、その“静けさ”を最初に破ったのは、やはり──



「……ふざけんなよ」



低く、怒気を孕んだ声が、広間に響いた。

その声は、重力を逆撫でするように鋭く、広間の空気を震わせた。

 影山の視界の右斜め前。

声の主は、赤毛を逆立てた男――鬼塚玲司だった。

制服の上着は乱れて開かれ、右腕には雑に巻かれた包帯。

スニーカーを鳴らして一歩前へ踏み出す姿には、まるで“殴り込みに来た狼”のような気迫があった。


「いきなり、何の説明もねぇままこんなトコにぶっこまれて……。今さら『協力してくれ』? 冗談も大概にしとけよ」


その一言が、空間の緊張を一気に高める。

魔導陣の微かな脈動音すら、今は耳に入らないほどの静寂。生徒たちは戸惑いの表情を浮かべたまま凍りついた。

空気を変えたのは、眼鏡の少女だった。


「ちょ、ちょっと、鬼塚くん……!」

長い黒髪をきれいにまとめ、スクールブレザーの襟を正した整然たる美貌。

フレームの細い知的な眼鏡が光を弾く。


天野唯(あまの・ゆい)。


学級委員にして、生徒たちの中でも特に落ち着いた空気をまとった才媛だった。

彼女は、そっと鬼塚の袖を引いた。


「ちょっと、落ち着こう? 怒っても……今は何も変わらないよ」

「は? 天野……お前、よくこんな状況で冷静でいられんな!」


鬼塚はその手を乱暴に振り払った。

その瞬間、唯の眼鏡が少しだけズレる。

表情は崩れなかったが、長い睫毛がわずかに震えていた。


その背中越しに、影山は鬼塚の横顔を見ていた。


(……鬼塚、焦ってる)


怒声の裏にあるのは、単なる苛立ちや粗暴さではなかった。

 混乱、恐怖、不信。

どうしようもない“不安”が噴き出しているに過ぎない。

 むしろ、鬼塚は誰よりも正しい反応をしているのかもしれない。


「まあまあ、鬼塚。落ち着こうぜ」


和ませるように割って入ったのは、もう一人の人物だった。

茶色の髪を爽やかに整えた、整った顔立ちの少年──佐川颯太(さがわ・そうた)。

 彼は鬼塚の前に一歩出て、にこやかに両手を上げる。


「気持ちはわかる。でも、今ここで暴れても、意味ないって」


 佐川の声は穏やかで、説得力があった。

 生徒たちの中でも信頼の厚い中心人物──教師にも生徒にも一目置かれる“潤滑油”のような存在。

 だが鬼塚は、彼にも一瞥をくれただけで、吐き捨てるように言った。


「……バカがよ。言われなくても分かってんだよ……!」


 そう言って、彼はぷいと背を向ける。

 けれど、その背中には、怒りきれない無力感と、どこか“自分を責めるような影”があった。

 再び、空気が沈んだ。

 それぞれの不安が、それぞれの形で言葉にならず、空間に充満していく。

 まるで、爆発寸前のボイラーのように。

 そしてその中で、影山はただ、静かに全体を見渡していた。


 (……冷静になってきたか)


 彼の目は、天井のホログラムと、壁に埋め込まれた魔導制御盤、そして演壇に立つ女性を捉えていた。


 (この施設、見た目は荘厳だけど……どこか実験室っぽい。まるで“検体の受け入れ準備”でもしてたような雰囲気だ)


 そして、最後に視線を向けたのは、演壇の中央に立つ女──フラム・クレイドル。

 赤い瞳は、変わらず冷静に彼ら全員を見下ろしていた。
 まるで何も想定外など起こっていないかのように。

 だが影山は思う。


(俺たちは……確かに異世界に召喚された)

(一番の問題は、そこじゃない。──この“召喚”に、どれだけの覚悟と責任があったのか。どれだけの“誠意”があるのか)


 目の奥がじわりと熱を帯びる。


 (……俺は、こんなやり方は、認めない。)


 静かな怒りを胸に抱いたまま、影山孝太郎は──フラムの赤い瞳を、まっすぐに見据え続けた。



 ◇◆◇



 沈黙が、また場を支配しようとしていた。

 鬼塚の怒りは正当なものであり、佐川の冷静な説得も間違ってはいなかった。

 しかし、どちらも本質には届いていない。

 ──この召喚は、何のためだったのか。

 その疑問を、真っすぐに言葉にしたのは、クラスの中でもとりわけ理知的な少年だった。


「……さっき、“選ばれた”って言いましたよね」


 その声はやや低めで、抑揚に乏しい。

 だが言葉の端々に、的確な思考の鋭さが滲んでいる。

 声の主は、一条雷人(いちじょう・らいと)。

 無造作な前髪、細身のシルエットにブレザー。

 無口で人との関わりは少ないが、理系教科では教師をも唸らせる天才肌。

 教室では物静かな存在だった彼が、迷いなく一歩前に出て、演壇のフラムに目を向けた。


「何故……ただの学生である僕たちが、そんな重要なことに“選ばれた”んですか?」


 静かながらも真を突く問いに、生徒たちは息を呑んだ。

 赤毛を逆立てた鬼塚でさえ、少しだけ視線を逸らした。

 フラムは演壇で、わずかに笑った。

 その赤い瞳が、まるで懐かしむように細められる。


「いい質問ね。」


 再び、彼女の言葉が空間に響く。

 機械仕掛けの魔導装置が、背後で静かに鼓動するように脈動していた。


「この世界は、“多元宇宙”のひとつ。無数に並ぶ世界のなかで、時に──“接続”が起こるの。」

「……接続?」


 一条が静かに問い返すと、フラムは頷いた。


「そう。“異世界召喚”という概念を持つ文化圏とは、ときおり通路が繋がるのよ。」


 一瞬、空気が静止する。

 召喚魔法――それが、ただの奇跡や偶然ではなく、“文化的な下地”によって可能になると告げられたことで、
 生徒たちの意識は、現実とフィクションの境界線を見失い始めていた。

 一条は、僅かに目を細め、続けて言った。


「つまり……俺たちが元いた世界が、“異世界召喚”という概念をフィクションとして知っていたからこそ……繋がりやすかった、ってことですか?」

「その通りよ。」


 フラムは、迷いなく答えた。


「特に“日本”という国の若者たちは、“異世界召喚”という発想に対する受容性が高い。小説、漫画、アニメ、ゲーム──多くの文化媒体でそれを描き、享受してきた。だからこそ、この術式は、君たちの世界に届いたのよ。」

「受容性、って……そんな理由で……?」


 女子生徒のひとりが、ぽつりと呟いた。

 すると、どこかから誰かが声を上げた。


「そ、そういえばさ! 召喚される直前、俺ら……“異世界に行くならどんな能力がほしいか”って、話してたよな!?」

「やば……まさか、あの雑談がフラグだった……!?」

「嘘だろ、俺……『何も努力せず無双できるチートがいい』とか言ってたんだけど!?」

「そっちかよ!?」


 ざわ……ざわ……と、召喚の間にいた生徒たちの声が次々に重なりはじめる。

 理屈は通っている。だが、感情がそれを受け止めきれない。

 混乱の波の中で、影山は、ただ静かに沈思していた。


(なるほど。確かに、“文化的前提”があるからこそ、召喚の術式が届いた……。一応の理屈は通ってる)


 しかし──


(だが、『繋がりやすい』ってだけで、わざわざ俺たちみたいな学生を召喚する必要があるか?)


 影山の眉が、かすかにひそむ。

 フラムは言った。“選ばれた”と。

 ならば、選ばれるだけの意味があったはずだ。

 だが今のところ、それは“都合が良かったから”という説明に過ぎない。

 選ばれた理由。

 連れてこられた意味。

 この世界の未来を託されるという重荷の根拠──


 (そこを、まだフラムこの人は話していない)


 赤い瞳をまっすぐに見据えながら、影山は再び口を閉ざす。

 ──フラムの本当の狙いが語られる、その時を待ちながら。



 ◇◆◇


 静まり返った召喚の間に、またひとつ――小さな手が、そっと挙がった。

 機械仕掛けの天蓋が回転し、無数の魔導レンズがピントを合わせるように、その指先を照らす。

 「……あのー……」

 弱々しく、けれど確かに発せられたその声に、生徒たちは思わずそちらを見た。

 話し手は、クラスでも特に“趣味が合う者同士”でつるんでいたオタク四人組のひとり──藤野マコトだった。

 ぽっちゃりした体型にチェックシャツ、寝癖を押し切ったままの髪。

 おどおどとした態度に、会話の端々にアニメやラノベの話題が紛れ込む、いかにもなタイプの少年。


「えっと……俺たちの世界で、よく見る“異世界召喚もの”だと……召喚された人間には、なんていうか……その、チートスキル、みたいなのが与えられる、っていうのが定番なんですけど……」


 視線を泳がせながら、それでも懸命に言葉を繋いでいく。


「ぼ、僕たちにも……そ、そういう、こう、強力なスキルが……使えるようになったり、しないのかなーって……」


 語尾に苦笑が混じる。
 恥ずかしさと期待が入り混じった、絞り出すような声。

 一瞬、空気がぽつりと沈黙した。

 だが、次の瞬間――

 フラムは、まるで小動物を見るような笑みを浮かべて、やさしく答えた。


「──ええ、あるわよ」


 生徒たちの間に、ピン、と緊張が走る。


「世界を超えた魂は、“祝福”を受ける。既に君たちの身体には、新たな力が宿っているはずよ。」


 そう言って、フラムはステージの背後――光の柱が立ち上っている中央端末を、手で示す。


「それが、“霊脈晶核《ライネス・コア》”という装置により可能となった、さきほど説明した“適性の測定”によって明らかになる、君たちだけの“ユニークスキル”よ。」


 藤野は、目を見開いた。


「ま……マジで……!?」


 その瞬間、藤野の背後にいた他の三人――眼鏡の久賀レンジ、明るい顔立ちの石田ユウマ、そして茶髪の好青年な西條ケイスケが、同時に声をあげた。


「チートスキルあるのかよ!?」

「神かよフラムさん!!」

「ってことは、俺……魔眼とか使えるようになってる可能性ある!?」

「いや、俺は時間止めるやつがいいって思ってたから……!」

 完全に盛り上がっている。

 四人で円陣を組んで小声で「いやマジでワンチャンあるって……!」と騒いでいる姿は、少し滑稽ですらある。


 しかし、その興奮はすぐに周囲にも伝播していった。


「え、ちょっと待って、あたしらもそういう“超能力”的なの使えるってこと?」

「スキルかぁ……ちょっと面白そうじゃん?」

「ねぇ、どんなのもらえてるか早く知りたくない? 測定いつやるの?今?」

「え、私のスキルが”運命の王子と出会う能力”だったらどうする?」

「いやそれチートかどうか微妙!!」


 ギャルズたちもキャッキャとはしゃぎ始める。

 今までの緊張はどこへやら、生徒たちの空気が一気に明るく、そして甘く緩みはじめた。



 ──その様子を、影山は、静かに見ていた。



(……おいおい)


 内心で、静かに吐き捨てるように思う。


(浮かれるの、早すぎだろ……皆)


 もちろん、気持ちは分かる。

 目の前に提示されたのは、“努力不要の能力”。

 どんな世界であれ、それを与えられたとなれば、希望を抱くなというほうが無理だ。

 けれど。


(これでハッキリしたな)


 影山の目が、ほんの一瞬、フラムの笑顔を鋭く射抜いた。

(こいつら"ベルゼリア"の連中は、“召喚しやすい日本の高校生”を選んで、“世界の祝福”とやらを使って、チートスキルを与えて――)

(“使える戦力”として確保しようとしてるってわけか)


 巧妙で、綺麗な仕組みだ。

 “異世界”という舞台装置。

 “チートスキル”という飴。

 そして“運命の使命”という言葉で、生徒たちを自らその役割に飛び込ませようとする。


(……確かに、都合がいいよな。異世界召喚に憧れてるやつらを呼べば、自分から進んで戦ってくれるんだから)


 目の前で騒ぐ石田たちを、影山はちらりと見た。


(──だが俺は………そこまで呑気じゃあない。)



 ◇◆◇



 重厚な魔導扉が、滑るように開いた。

 その奥──
 金属と石と魔導回路が絡み合う、巨大な機械空間が広がっていた。


 「……こちらへどうぞ」


 フラムの声に導かれ、生徒たちは列をなして歩き出す。

 円陣状に敷かれた銀の床、その表面には無数の魔導刻印が脈動しており、歩くたびに淡い光が足元を照らす。

 その中心に浮かぶのは──

 天井から降りる複雑な魔導管。

 床から伸びる鋼の支柱。

 そして、その間に浮遊する、直径三メートルはあろうかという紅白に煌めく球体。

 まるで心臓の鼓動のように脈打ち、機械のようでもあり、生き物のようでもあるその存在。


 「うわ……なんかすげえ……」

 「これが……スキル、測るやつ?」

 「これが“霊脈晶核《ライネス・コア》”だよ、きっと!」


 オタク四人組が目を輝かせ、思い思いに興奮を口にする。

 そのときだった。


 「…………」


 部屋の隅── 金属の柱にもたれかかる、ひとりの男の姿が目に入った。


 歳の頃は20代中盤くらいに見える。

 紅の髪。

 それを弁髪に結い、深紅のチャイナ風戦闘服を纏う男。

 整った顔立ちに鋭い目つきで、腕を組んだまま静かに壁にもたれている。

 その佇まいには、ただならぬ威圧感があった。


 「誰……あれ……?」

 「え、烈◯王……?」

 「てか、めっちゃ強そうなんだけど……?」

 「確かに……強キャラ感すげぇ~……!」


 生徒たちがざわつく中、フラムが一歩前へ出て、その男に向かって小さく頭を下げた。


 「……ご苦労様です、紅龍《コァンロン》将軍」


 男は、僅かに視線をこちらへ向けると、低く、硬質な声で答えた。



 「……そのわらべどもが、新たな“召喚勇者”か」



 その目は、まるで何かを見定めるように、じっくりと高校生たちを一瞥していた。

 言葉の意味に気づいたのは──影山だった。


 (……、だって?)


 心の中に、小さなひっかかりが生まれる。


 (あの紅龍コァンロンって男……今、そう言ったな。
  “新たな召喚勇者”──ってことは……)

 (……俺たちの前にも、いたのか?
  この世界に、召喚された人間が……?)


 背中に、嫌な汗が滲む。


 (それってつまり……)


 「ねえねえ、フラムさん! もういいっしょ! そろそろ俺らのスキル、見せてくださいよ!」


 石田ユウマが、手を上げて興奮気味に声を上げる。


 「うんうん! 早くチートスキル確認したい!」

 「俺、魔眼系がいいって念じてたから、多分来るよ、マジで」

 「私は重力操作とかがいいな~。浮きたい~」


 興奮した様子の声が、あちこちから飛び交う。

 誰もが“スキル”のことしか頭にないようだった。

 そんな中で、ただひとり、影山の目だけは冷えていた。


 (……なんか、どんどん嫌な予感がしてくるな……)


 やがてフラムが、生徒たちの視線を受けながら、静かに口を開く。


 「……では」


 彼女の声が、しんと静まり返った空間に響いた。


 「今から、君たちの“個別適性”を調べていこう」


 霊脈晶核ライネス・コアの光が、脈動とともに強まる。

 魔導陣がゆっくりと回転を始め、機械音とともに室内の気圧が僅かに変化した。


 「君たちが、世界から授かった力……」


 フラムは、ほんの僅かに微笑んだ。


 「そう、“チートスキル”を──」
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