地球少年ハマオ

祥一

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 そのよく晴れた日にトミをむかえにいくと、おお、いつもよりかわいいやん。
 顔はなんもかわらん、ふつうの美少女やけど、服装がふわふわしている、とゆうか。ふだんはズボンやのに、今日は黒いチェック模様のスカート。黄色いサンダルにきれいなくるぶし。
 どきどきしてきた。
「じゃあ、いこうか」
 えっ、どこへ?
 それからしばらくあるかされた。無言で。ぼくからいう言葉なんかなんも見つからんし、どこをあるいているかやって、見当もつかへん。
そしてぴたりと円盤が止まる。
「あのさあ、三十八歳の女の人って、なにをもらったらうれしいだろう」
 なんやその質問。
 トミはしばらくためらってから、小さい肩かけかばんからカードをとりだした。このあいだ机の引き出しから出してたやつかな。
 それはハガキやった。
「見て、いいんですか」
 うなずくトミ。
 ぐにゃぐにゃした読みにくい字で、文章が書いてある。
『なかなか連絡できなくて、ごめんなさい。
 寒い季節ですが、風邪などひいていませんか。
 あなたはきっと怒っているわね。突然、家からいなくなったのだから、当然だと思う。
 なんの言い訳もできません。わたしは母親失格です。
 パパと話し合った結果、今後はなかなか、会うことができなくなりました。
 とてもつらく、かなしく、やりきれません。言葉ではあらわしようのない気持ちです。
 けれど心の中では、ずっとトミのことを想っています。
 またいつか、あなたと暮らせる日を夢見ています。
                                母より』
 裏にはトミの宛名と、差出人の名前、住所が書いてあった。
「今日は、ママの誕生日なの」
 えっ、つまり、これから会いにいくと?
 トミはまたうなずいた。
 そんなん、ぼくなんかついていってええんやろか。
あっ。このあいだのトミパパのはなしを思い出した。去年やっけ、雨の日にとなり町へ母親に会いにいったトミは、交通事故にあって……
ぼくはトミの足と円盤をながめた。目があい、すぐそらす。
わからん。情報がたりなすぎる。
「手ぶらでいくのも、おかしいと思って」
声がちょっとふるえているような。
なんかゆわなあかん。
えっと、つまり、誕生日プレゼント?ぼく、そんなんしたことない。それってはずかしいことなんかな。いや、子どもやったらふつうちゃうの?大人の女の人がなにもらったらうれしいかなんて、かんがえたこともなかった。うーん、うーん、もしかしたら、あれかなあ。
「地球には『母の日』というのがあります」
「なにそれ」
「五月の第何日曜日かなんかに、母親にありがとうをつたえるというか、そういうイベントで」
「ふうん」
「なんでしたっけ。花をおくります。ピンクとか、赤とか黄色の……ええっと……あのう……」
 ぼくはしばらくうなりつづけた。そしてひらめく。
「カーネーション!」
 トミはぜんぜんピンときていない。
「まあ、それでいいか。じゃあ、花屋へいこう」
 ぼくらはそのへんの商店街へおもむき、なんとか見つけた。
「へい、らっしゃい。なんにしましょう」
 花屋のおじさんがさけんだ。
「あのう、なんだっけ、カーネーション?」
 トミはぼくのほうに顔をむける。うなずくぼく。
「なんだい?カーネーション……うちは、そういう花はおいてないなあ」
 ああ、やっぱり。あれは地球の花やから、こっちにはないんや。
 ぼくもそれがどういう花なんか、あんまりおぼえてない。たしか、赤くて、くしゃくしゃっとした感じの。
「そっちの、それがちょっとにているかもしれません」
 ぼくは赤い花をゆびさした。
「バラだね。これでいいかい?」
 そうそう、ちょうどこのくらいの大きさちゃうかったっけ。
「いいわ、じゃあ、それを十本ちょうだい」とトミ。
 ただ、思ったより金額がたかかったらしく、三本ということに。いちおう、花束にしてもろた。
「まいどあり」
 ぼくらはそれから駅にむかった。じつをいうと、ラガタ星の電車にのるのってはじめて。ぎりぎり、いってかえってくるだけの電車賃を持っていて、ほっとした。
 しかしすっごいな、こっちの電車は。地球でいう新幹線みたいなかたちで、ぴかぴかして、しかもとんでもなく長い。やっぱり人口がぜんぜんちがうからか。日曜日やのにめっちゃいっぱい人がおりてきて、のりこむ人も多い。
 うっわー、うっわー、速いなあ。と思ったらすぐついた。なんや、二駅かいな。各駅停車か。
 感動をあじわってるひまもなく駅から出てきたところ、トミのようすがおかしい。
 顔が真っ青で(もともと青いけど、よりいっそう)、目をぱちぱちさせている。あさい呼吸、汗もびっしょり。こんなトミは見たことなかった。
「やっぱり、今日は、やめよう」
 やっとそれだけ、声をふりしぼるようにいった。
 なんで?せっかくここまできたのに。
「でも、誕生日、ですよね?花も買いましたし」
 涙ぐむトミは、首を横にふった。
「やめます?」
 また首を横に振る。
 あかん、そうとう緊張してるみたい。
 そういえば、トミパパによると、トミママは不倫して離婚して、もうずっと会ってないってことなんかな。
 もしかしてトミが交通事故にあったときも?えっ、そんな母親っている?
 いや、よくわからんけど、うちのお母さんも、べつにぼくとそんな仲よしでもないし、ぜんぜん連絡もくれへんから、よそもそんなもんなんかな。
 心がざわざわしてきた。ぼくまで泣きそうに。
 駅前でたたずむ二人。
「ごめんね」
 いや、ぼくにあやまる必要なんかまったくないよ。というか、トミにそんなんいわれたん、はじめてかも。
 やっぱり、泣いてる女の子をそのままにはしておけへんかな。
「あのハガキ、もう一回見せてもらっても、いいですか」
 ぼんやりとかばんから取り出し、わたしてくれる。
 ぼくは駅にもどり、駅員さんに聞いてみた。
「えっと、あのう、この住所には、どうやっていきますか」
「ああ、ここね、すぐそこだよ。ここを出てまず右、三つ目の信号を左で……」
 ふりかえると、トミがいた。
「いちおう、家がどこにあるかだけ、見てみませんか?」
 ぼくの言葉に、トミはゆっくりうなずいた。
 あるきながら、聞いてみる。
「その家、いったことはありますか」
 首を横にふられた。やっぱり。
 駅員さんのいうとおり、べつにとおくもなく、またわかりにくくもなかった。
 うちのおじさんの家と大してかわらん、見た目はとくに大きくもなくて、ちょびっとの庭に、車がおいてあるガレージ。
「どうします?花だけポストにいれて、帰るとか?」
 返事にこまっているみたい。
 門のところについてるボタン、インターホンとかいうやつ、あれをおしたら出てくんねよな。ぼくはジャンプして、まどをのぞこうとした。人の気配は感じられへん。
 ざざっ、と足音がした。
「トミ、なの?」
 赤ん坊をおぶって、買い物ぶくろをぶらさげたおばさんが、そこに立っていた。
「ほんとに、ほんとに足が……」
 なんや、今ごろそんなんゆうんかいな。そうやで、トミは去年からあるかれへんねん。
 このおばさんが、トミママなんやろうなあ。もっときれいな人を想像してたけど、髪はぼさぼさやし、服もよれよれで、肌もうるおってない。メガネかけてるし、にてるといえばにてるか。
「花、わたしたら」
 かたまってあわあわしているトミに、ぼくはうながした。
 さっとさし出すも、トミママの手は買い物ぶくろでふさがっている。ずいぶん買い込んだな。
「ごめん、じゃあ、あがってくれる?」
「それじゃあ、ぼくは、帰ったほうがいいですね」
 そでをつかんでぶんぶん首を横にふるトミ。その目つきは必死やった。えー、気まずいなあ。
 案内されたリビングはずいぶんちらかっている。
「花びん、ないの。また買ってくるわ。ありがとう、おぼえててくれたのね」
 そうゆうてトミママはコップに水をそそぎ、そこにバラをいけた。しばらくばたばたしてから、ぼくらの正面にすわる。
 さっきから赤ん坊がずっと泣いていた。そうとう人見知りする子なんかな。トミの弟か妹やろう。一歳、もういってるんかどうか、ぼくには判断できん。
 仮に一歳やったとして、トミの交通事故が去年で、みたいなことをついかんがえてしまい、おそろしくなってきた。
「ごめんね、連絡できなくて」
 さっきからトミママは、泣きそうになりながら何度もあやまってくる。カウントしたらえらいことになるやろう。
 トミもやっと少しおちついたらしく、その弟か妹についていくつか質問し、弟やと判明して、「ちょっとだいてみる?」といわれてだっこをこころみるも、めちゃくちゃに泣かれてあきらめた。
 それからトミパパのようすはどう?とか、ごはんどうしてるの?とか、ぼくが聞いたらわるいみたいな個人的なやりとりもいくつかされる。
 あとどうしても気になるらしく、トミの足のことをたくさんたずねてきた。こたえの内容はこのあいだトミパパがゆうてたんとだいたいおなじやけど、やっぱり本人の口から聞くほうがなまなましい。そうか、リハビリがんばったんやな。
 そのあいだもトミママは赤ん坊にミルクやったり、おむつかえたり、ずいぶんいそがしそうやった。
 それでとりあえず、もう帰ろうか、ということに。
「またきていい?」とトミ。
「もちろん、ぜひきてちょうだい」とトミママ。「ハマオくんも、今日はありがとね」
 いいえ、ぼくなんか、なんも。
 また電車にのってもどってきた。今日は全体的におとなしかったトミが、最後に聞いてくる。
「ハマオのママは、どんな人?」
 えー、なんて説明したらええんやろう。
 そういえば、トミママとうちのお母さん、共通するところがあるわ。不倫して離婚した、っていう。
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