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クレール・クール

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異世界実況、始めます

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俺の名前は春野ヒカリ。

 大学院を修了して今年就職したばかりの24歳独身彼女無し。

 童顔で若く見られるのはいいんだけど、大学生どころか高校生に間違えられることもあるのはどうにかならないかと思っている普通の会社員。

名前だけだと男なのか女なのかわからないとよく言われる。

うん、大丈夫だ。

 きちんと昔のことも思い出せるし、意識もしっかりしている。

 仕事の帰りにトラックに轢かれそうになっていた子犬を助けようとして、なんとか子犬は助けることができたけど自分はそのまま轢かれて……。

 ああ、もうダメだと思ったけど、どうやら助かったみたいだ。

 悪運だけは自信があるんだ俺は。

『春野ヒカリさん。あなたは残念ながらお亡くなりになりました』

 ですよね、分かってましたよ。

目を開けたら事故現場でも病院でもなく、ドーム状の空間の天井から床まで透明で、宇宙空間みたいなところで目の前にいかにも女神様ですって格好の女性がいるんだから。

むしろこれで死んでないって言われたらそっちのほうが驚きですよ俺としては。

『すんなりと受け入れていただけて助かります。私は数多の世界を管理する存在、メルトリーゼと申します。ヒカリさんのいた世界では、女神といったところですね』

 心を読まれた? それとも顔にわかりやすく出ていたのか?

『その両方です。さて、それではさっそくですがあなたにここに来て頂いた理由をお話ししましょう』

 女神メルトリーゼ――様の話によると、彼女は地球のある宇宙を含めたいくつもの世界を管理する、本物の神様らしい。しかもかなり高位の。

 そして、俺たちの持つ魂はすべての世界で一定量となっていて、ある世界で亡くなった魂は死後にメルトリーゼ様の部下の部下の部下の部下の……だいぶ下のほうの神の元に召され、そこであらたな祝福を与えられ別の世界に生まれ変わり、そしていずれまた死を迎えると別の異世界へ転生する。

 その際記憶は失われるらしいのだが、魂の奥に刻まれた経験は失われない。まあ、スポーツ選手が記憶喪失になっても身体は覚えているというやつに近いそうだ。
  とにかく、その経験を異世界に持ち込むことによって異世界ごとに差はあるものの少しずつ発展していっていたらしい。

「でも、最近の地球の発展スピードが速すぎて、他の世界との差がだいぶ開いてしまったと?」

『はい。それに最近のライトノベルやアニメは必ずしもハッピーエンドばかりでなく、それどころかひどい目に合う作品も多くなっていますよね? それ以外にもブラック企業や格差社会で人生に絶望している方も多くて……。それで生まれ変わりを拒否する方も増えてしまい、差は大きくなる一方なのです』

 昭和のころからハッピーエンドで無い話も結構あったと思うけど……デビ○マンとか……でも、確かに増えているような気はするな。

 ちなみに生まれ変わり拒否を選択した場合は魂そのものが消滅し、どこの世界にも転生することはなくなってしまうらしい。

 ということは、このままだと全世界での魂の絶対量がどんどん減っていき衰退し、いずれは消滅してしまうかもしれないということか?それはさすがにマズイ気がするな。

『そこで何かしら対策を立てる必要が出てきまして、その第一弾として地球の皆さんに異世界の良さをアピールしていこうということになりました。具体的にいうと、マイチューバーとして活躍していて異世界のテンプレにも詳しく、さらにトラックに轢かれた方という条件に当てはまったのがヒカリさんということですね』

「話は分かりました。でも、もし断った場合はどうなるんですか?」

『その場合は普通に転生していただくか、もしくは残念ですが魂の消滅か……。私はまた条件を満たした方がお亡くなりになるのを待つことになります』

「ちょっと待ってもらえますか? 今、普通に転生と言いましたよね? ということはメルトリーゼ様のお手伝いをすれば普通じゃない転生になるということですか?」

『ヒカリさんには、火・水・土・風・光・闇魔法の適正と魔力無限のチート能力を持っていわゆる中世ヨーロッパのような世界観の剣と魔法の世界に転生していただくつもりです。そしてヒカリさんの生活や活躍の様子をマイチューブで配信し、チャンネル登録者が増えれば増えるほどさらにチート能力をお渡しして、俺TUEEEを満喫していただければと。ああ、もちろんプライバシーには配慮いたしますし、マイチュ-ブの規約に引っかかってしまうようなあんなことやこんなことも配信はしませんのでご安心いただければと』

「魔法の使い方は?」
『ヒカリさんがイメージがそのまま魔力で形作られますので、試していただければすぐに分かると思いますよ』

「なるほど」

 話を聞いた感じ、悪くない気はするな。

 少なくとも新しい世界に転生するという前提なら受けたほうがいいと思う。

 デメリットは顔バレしてしまうことだけど、どうせもう地球では死んでいるのだから気にする必要もないだろう。

 ……よし、決めた。

「分かりました。その話、受けますよ」

『ありがとうござますヒカリさん』

 俺の返事に満足したのか、メルトリーゼ様の顔が優しく微笑む。

プラチナシルバーの長い髪に薄青色のドレスで微笑むその姿は、まさに女神そのものだ。

『快く引き受けていただいたお礼として、あちらの世界の言語は理解できるようにしておきますね』

 そういえば俺が読んだラノベは大抵は言葉には困らない設定が多かったけど、中には言葉がわからないまま送り込まれて四苦八苦するものもあった。

 メルトリーゼの目的が異世界の良さをアピールすることである以上、ある程度の利便は図ってくれるみたいだな。

『それと、相棒の美少女パートナー枠として私もご一緒させていただきますね。これからは親しみを込めてメルルと呼んでくださいね。もちろん旅の仲間になるのですから言葉遣いも気を使ったものは不要ですよ』

「は?」

『それでは、さっそく行きましょうか。異世界エランディールへ』

「いや、ちょっと……え?」


 真っ白な光に包まれ足元が無くなったような感覚がしばらく続いた後、気が付くときちんと整備された街道沿いに立っていた。

メルトリー……いや、メルルと共に。

「さあ、行きましょうヒカリさん」

 こうして、俺の新しい世界エランディールでの人生の幕は切って落とされた。


 ☆彡
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