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「もしかして、俺への風当たりが強くなったのは、そのせい……?」
急にそんなことを尋ねられた。
私は、少しためらったあと、正直に頷いた。
私の態度が変わったことを、彼もきちんと気づいていたのだ。
「そんな気持ちにさせたのは、悪かった。だが、神山は本当に俺が言ったことを、ちゃんと聞いていたか? 俺は、〝先輩とのデートで〟って言ったんだ」
「……え?」
確かに言ったけれど……先輩がデートの話をしていたから、そういうことじゃなくて?
「言っただろう? 俺は出会ったときから神山に惚れてた。そんな相手が他の男と付き合いだしたって聞いただけでおかしくなりそうなのに、可愛い格好でその相手とデートなんてしてほしいわけないだろう」
「っ……」
ストレートな言葉に、思わず息が止まった。
「俺以外の隣を歩いて欲しくないと思ったら、いつの間にかあんなこと言ってた。お前にそんな誤解を与えているのは知らなかったが、先輩たちには俺の嫉妬が伝わったみたいで、ちょっと気まずくなったけど……」
新が苦しそうにそう囁いて、私を胸にぎゅっと抱きしめる。
――新が、嫉妬……
いつも輪の中心にいる人気者の彼の意外な姿に、胸がきゅんとする。
「子供じみたこと言ったっていうのは分かってる。でも、神山が、先輩の隣に立っている事すら想像したくなかった。だから、ぶっちゃけ別れたって聞いたときは、ホッとしたし、もう誰にも取られたくないから、今度こそ、自分の気持ちに正直になろうとした――だけど、お前は、ちょうどそこから俺を極端に避けはじめた――」
新は、そう言って静かに私を見つめる。
そうか。新と先輩の話を聞いて、距離を置き始めた頃だ。私の行動は、新の決意を折ってしまっていたらしい
「それでも、俺はお前と一緒にいたいと思って粘った。お前は俺のこと避けるし、本当に嫌われてるんだろうって思ったけど、俺、神山と一緒にいる時間が一番楽しかったから、嫌われてることを知らないふりして諦めなかった。出会ったときは、好みの外見に惚れたけど、一緒に過ごすうちにありのままのお前に惚れてたんだ。だから、婚活する前に、俺のことを真剣に考えて欲しい――」
「新……」
真っ直ぐで、一途な思い。
打ち明けられた真相に戸惑いつつも、心が激しく揺さぶられ、新の真剣な気持ちが伝わって来た。
――そして、気付いてしまった。
休憩室で彼が口にしていた言葉を聞いて、私はあんなにもショックを受けたのは、可愛い格好なんて似合わないと、悩んでいた部分を刺激されたからではない。
――たぶん……私も新に惹かれていたんだ。
だから今……素直に彼の気持ちが嬉しいって思ってるんだ。
「私、ずっと、あんなこと言われたから、傷ついたんだと思ってた――でも、違ってた、のかもしれない……」
「え……?」
「……なんでもない」
「は? 気になるだろう」
ショックだったのは――相手が新だったからなのかもしれない。
まだ、恥ずかしくて言えないけれど。でも、確かにそう思う。
いつしか、以前のようにあーだこーだ言い合っていると、
やがて、新が、そっと手を差し出してきた。
「神山」
そして、恐る恐る、彼は口にする。
「返事はゆっくりでいいから……今夜は、今夜だけでも……俺に付き合ってくれないか? ここの夜景、すげえ綺麗なんだ――」
まずは前みたいに、一緒にいる時間を増やしながら、私の歩調に合わせて考える時間をくれようとしているのだろう。
新のそういう優しいところ、とても好きだ。
私は、一瞬迷ってから、そっと手を重ねる。
「いいよ。ちゃんとあとで、一緒に美希に謝ってくれるならね?」
ぱっと表情を明るくした新が、私の手を引く。
「いくらでも、謝ってやる」
並んで歩き出した先のラウンジは、美しい夜景が堪能できるよう、照明の光度は抑えられ、落ち着いたダウンライトの光に包まれていた。
テンポよく言い合いながら、肩を並べて進む。
――来年は、きっと。ふたりで特別な夜を過ごしている気がした。
――――おわり
急にそんなことを尋ねられた。
私は、少しためらったあと、正直に頷いた。
私の態度が変わったことを、彼もきちんと気づいていたのだ。
「そんな気持ちにさせたのは、悪かった。だが、神山は本当に俺が言ったことを、ちゃんと聞いていたか? 俺は、〝先輩とのデートで〟って言ったんだ」
「……え?」
確かに言ったけれど……先輩がデートの話をしていたから、そういうことじゃなくて?
「言っただろう? 俺は出会ったときから神山に惚れてた。そんな相手が他の男と付き合いだしたって聞いただけでおかしくなりそうなのに、可愛い格好でその相手とデートなんてしてほしいわけないだろう」
「っ……」
ストレートな言葉に、思わず息が止まった。
「俺以外の隣を歩いて欲しくないと思ったら、いつの間にかあんなこと言ってた。お前にそんな誤解を与えているのは知らなかったが、先輩たちには俺の嫉妬が伝わったみたいで、ちょっと気まずくなったけど……」
新が苦しそうにそう囁いて、私を胸にぎゅっと抱きしめる。
――新が、嫉妬……
いつも輪の中心にいる人気者の彼の意外な姿に、胸がきゅんとする。
「子供じみたこと言ったっていうのは分かってる。でも、神山が、先輩の隣に立っている事すら想像したくなかった。だから、ぶっちゃけ別れたって聞いたときは、ホッとしたし、もう誰にも取られたくないから、今度こそ、自分の気持ちに正直になろうとした――だけど、お前は、ちょうどそこから俺を極端に避けはじめた――」
新は、そう言って静かに私を見つめる。
そうか。新と先輩の話を聞いて、距離を置き始めた頃だ。私の行動は、新の決意を折ってしまっていたらしい
「それでも、俺はお前と一緒にいたいと思って粘った。お前は俺のこと避けるし、本当に嫌われてるんだろうって思ったけど、俺、神山と一緒にいる時間が一番楽しかったから、嫌われてることを知らないふりして諦めなかった。出会ったときは、好みの外見に惚れたけど、一緒に過ごすうちにありのままのお前に惚れてたんだ。だから、婚活する前に、俺のことを真剣に考えて欲しい――」
「新……」
真っ直ぐで、一途な思い。
打ち明けられた真相に戸惑いつつも、心が激しく揺さぶられ、新の真剣な気持ちが伝わって来た。
――そして、気付いてしまった。
休憩室で彼が口にしていた言葉を聞いて、私はあんなにもショックを受けたのは、可愛い格好なんて似合わないと、悩んでいた部分を刺激されたからではない。
――たぶん……私も新に惹かれていたんだ。
だから今……素直に彼の気持ちが嬉しいって思ってるんだ。
「私、ずっと、あんなこと言われたから、傷ついたんだと思ってた――でも、違ってた、のかもしれない……」
「え……?」
「……なんでもない」
「は? 気になるだろう」
ショックだったのは――相手が新だったからなのかもしれない。
まだ、恥ずかしくて言えないけれど。でも、確かにそう思う。
いつしか、以前のようにあーだこーだ言い合っていると、
やがて、新が、そっと手を差し出してきた。
「神山」
そして、恐る恐る、彼は口にする。
「返事はゆっくりでいいから……今夜は、今夜だけでも……俺に付き合ってくれないか? ここの夜景、すげえ綺麗なんだ――」
まずは前みたいに、一緒にいる時間を増やしながら、私の歩調に合わせて考える時間をくれようとしているのだろう。
新のそういう優しいところ、とても好きだ。
私は、一瞬迷ってから、そっと手を重ねる。
「いいよ。ちゃんとあとで、一緒に美希に謝ってくれるならね?」
ぱっと表情を明るくした新が、私の手を引く。
「いくらでも、謝ってやる」
並んで歩き出した先のラウンジは、美しい夜景が堪能できるよう、照明の光度は抑えられ、落ち着いたダウンライトの光に包まれていた。
テンポよく言い合いながら、肩を並べて進む。
――来年は、きっと。ふたりで特別な夜を過ごしている気がした。
――――おわり
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