天つ乙女と毛獣

あわ☆さくら

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SS NO.4 山手線散策道中銀鉄路

もうひとりの親友

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 さて、時刻は進み、時計の針は、短い方が七を過ぎて八に差し掛かり、長い方は五を少し過ぎていた。
 場所は変わり、千葉県君津市東坂田にある東鉄内房線の君津駅。
 同時刻、百合子や茜の乗っている千葉行きの電車は君津駅に滑り込み、シューと空気の抜ける音がした後、そのドアが開いた。
 それとともに、車内からスーツや私服姿のサラリーマン、また制服姿の学生などの乗客が動物園や水族館のペンギン行列みたいに列を成してホームに降り立った。
 まさに、旭川の旭台動物園のペンギンの行列を見ているようだった。
 そして、行列を成した乗客たちは、ストローで吸い上げられるかのようにホームの千葉寄りにあるエスカレーター、反対側の館山寄りにある階段などを経て、改札口に向けて歩いていた。
 そのうち、館山寄りの階段の乗客の列の中に紛れ、百合子の姿があった。
 いつも、百合子が学校に登校する際、保田駅から親友の茜が話し相手として付き添うのが慣例となっていた。
 しかし、この日、どういう訳だか、茜の姿はなく、百合子は一人ぽつんと階段をあがった。
 そのとき、彼女は、いつものように、顔のキャンパス上に明るくて優しげな表情を浮かべていた。
 百合子は、階段をのぼり終えて右の方向に進み、サラリーマンや学生などの乗降客でごった返す君津駅の改札口に向かい、改札機の機械に定期券をタッチしようとした。
 そのとき、
 「百合子ちゃん、おはよう。」
 一人の少女が安房鴨川方面のホームの階段より現れ、駅の改札口に向かおうとしていた百合子に声をかけた。
 少女は、百合子と同い年のようで、濃いターコイズブルーの色のブレザーとスカート、翡翠石の色のリボン、白いワイシャツの渡鍋学院の制服を纏っていた。
 特筆すべき点としては、秋の七草の一つで古式ゆかしき紫色の花を咲かせる桔梗の花を象った前髪の髪飾り、いまにも洪水となって溢れそうな明るい表情である。
 その少女の名は、中田綾子といい、一四才の女の子である。
 東京都は、東海道の宿場や大森貝塚、銀座商店街の発祥地(戸越銀座)で有名な品川区二葉出身で、現在は木更津市大和町に住んでいる。
 百合子は彼女のことをあこちゃん、綾子は百合子のことを百合子ちゃんと呼ぶほどお互いに仲の良い親友である。
 そして、
「あこちゃん、おはよう。」
 百合子は、一旦進めていた足を止め、身体をくるりと動かした後、綾子の顔を見て挨拶をした。
 このとき、百合子の顔には、目をくりくりとさせ、口をU字型にして明るい雰囲気を漂わせていた。
 それは、まさしく、いつも明るく気前の良い美香をも思い起こさせる表情である。
 「ねぇ、百合子ちゃん。今日は東郷さんいないけど、どうしたのかな?」
 綾子は、百合子の右脇を二秒程度見つめ、首を三〇度ほど斜めに傾けつつ百合子に尋ねかけた
 どうやら、綾子は、いつも通学する際、百合子のかたわらにいるはずの茜がいないことを気にかけているようである。
 それに対し、
 「あこちゃん。茜ちゃんは、お父さんに送ってもらうってメールが来てよ。だから、今日は、私と一緒ではないの。」
 百合子は、とても明るい表情にゆったりとして聞き取りやすい語り口を交え、茜のいない理由について綾子に説明をした。
 「へぇ、そうなの。」
 「百合子ちゃん。お互いに一人で登校するって寂しいし、せっかく駅で会えたのだから、たまには一緒に登校しよう。」
 綾子は、目の前に広がっていた霧がすぅっと晴れるかのように、茜がいないわけをはっきりと理解した後、百合子に対して登校できないか誘った。
 「あこちゃん、もちろん。」
 百合子は、にっこりとやわらかい笑顔を交え、綾子の誘いを受けることにした。
 百合子と綾子は、お互いに顔に喜色が溢れた様子で言葉を交わし、睦まじそうに改札を出て学校へと向かった。
 その様子は、まさに互いに心を通わせ、仲の良い親友らしいものであった。
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