1 / 47
guerrilla1
しおりを挟む
渋谷には流行が詰まってる。
大きなテレビ画面が流すのも、マルキューの壁面に貼られた巨大ポスターも、本屋やコンビニの店頭に作られたコーナーも、今はすべてスリーピースバンド・3moon(スリームーン)の新曲告知のものだ。
車のスモークガラス越しにそれらを眺めていたら、ふいに背後から髪の毛を掻き回された。
「おい、そろそろ行くぞ」
振り返れば、垂れ目かつ泣きぼくろがセクシーな超イケメン。3moonのギターボーカル・五代 皐月(ゴダイ サツキ)だ。その後ろから、同じく3moonのベースコーラス・霜月 優士(シモツキ ユウシ)が顔をのぞかせる。
「シローはまず髪の毛直したほうがいいね」
柔らかく微笑む姿がまぶしい。好青年というだけでなく、皐月に負けず劣らずの美青年ぶりだ。皐月にしろ優士にしろ、女性ファンがたくさんいるのもうなずける。現に車外では、ゲリラライブの噂を聞きつけたファンが、二人の名前を蝉のように連呼していた。
「どーせドラム叩いてるうちにボッサボサになんだろ」
優士に頭を撫でつけられていたら、皐月がふたたび髪をぐちゃぐちゃにしてきた。うわあ、すごくイイ笑顔……。それにしても。
(緊張するなあ……)
デビューしてからそろそろ半年が経つけど、いまだ歓声には慣れない。小さなライブハウスでやってたときは、黄色い悲鳴なんてめったに聞かなかったから。
(昔は男のお客さんのほうが多かったもんなあ)
野次とか、ダイブとか、そんなのばっかりだった。それこそ最初は怖かったけれど、それらも激励だとわかってからはなんだかとても楽しかった。……でも「変わってしまった」なんて僕が嘆いてはいけないのだ。この世界から逃げるなんて許されない。
デビューを望んだのは、僕なんだから。
「準備終わりそー?」
車の扉を細く開いて、顔をのぞかせたのはマネージャーのナカさん。長い爪とかばさばさのまつげとかざっくばらんな話しかたとか、ちょっと怖いけど、仕事ができる働く女性だ。(って自分で言ってた)
ナカさんは僕らを一瞥して、キッとまなじりをつり上げる。
「あんたたち、準備できてんならはやく行きなさいよ! 時間おしてんでしょーがっ」
「うるせぇよババア」
「ババアじゃねぇわよ! まだ二十代よ!」
「まだ? ギリギリ、だろ?」
(ひぇえ!)
皐月とナカさんを交互に見る。ライブ前だっていうのになんでそんなにバチバチするのさ!
それを収めたのは優士。
「喧嘩してる場合じゃないでしょ? 子どもじゃあるまいし」
ニコニコと笑顔で、心に刺さる毒を吐く。子どもじゃない皐月とナカさんは、口の端を歪ませながらもなんとか黙った。あ、あいかわらずだなあ。
「んじゃ、行ってらっしゃい」
そう言ってナカさんが扉を大きく開けた。途端、歓声が爆発的に広がる。
渋谷には流行が詰まってる。
大きなテレビ画面が流すのも、マルキューの壁面に貼られた巨大ポスターも、本屋やコンビニの店頭に作られたコーナーも、それから道行く人の瞳のなかも――今はすべて3moon一色なのだ。
大きなテレビ画面が流すのも、マルキューの壁面に貼られた巨大ポスターも、本屋やコンビニの店頭に作られたコーナーも、今はすべてスリーピースバンド・3moon(スリームーン)の新曲告知のものだ。
車のスモークガラス越しにそれらを眺めていたら、ふいに背後から髪の毛を掻き回された。
「おい、そろそろ行くぞ」
振り返れば、垂れ目かつ泣きぼくろがセクシーな超イケメン。3moonのギターボーカル・五代 皐月(ゴダイ サツキ)だ。その後ろから、同じく3moonのベースコーラス・霜月 優士(シモツキ ユウシ)が顔をのぞかせる。
「シローはまず髪の毛直したほうがいいね」
柔らかく微笑む姿がまぶしい。好青年というだけでなく、皐月に負けず劣らずの美青年ぶりだ。皐月にしろ優士にしろ、女性ファンがたくさんいるのもうなずける。現に車外では、ゲリラライブの噂を聞きつけたファンが、二人の名前を蝉のように連呼していた。
「どーせドラム叩いてるうちにボッサボサになんだろ」
優士に頭を撫でつけられていたら、皐月がふたたび髪をぐちゃぐちゃにしてきた。うわあ、すごくイイ笑顔……。それにしても。
(緊張するなあ……)
デビューしてからそろそろ半年が経つけど、いまだ歓声には慣れない。小さなライブハウスでやってたときは、黄色い悲鳴なんてめったに聞かなかったから。
(昔は男のお客さんのほうが多かったもんなあ)
野次とか、ダイブとか、そんなのばっかりだった。それこそ最初は怖かったけれど、それらも激励だとわかってからはなんだかとても楽しかった。……でも「変わってしまった」なんて僕が嘆いてはいけないのだ。この世界から逃げるなんて許されない。
デビューを望んだのは、僕なんだから。
「準備終わりそー?」
車の扉を細く開いて、顔をのぞかせたのはマネージャーのナカさん。長い爪とかばさばさのまつげとかざっくばらんな話しかたとか、ちょっと怖いけど、仕事ができる働く女性だ。(って自分で言ってた)
ナカさんは僕らを一瞥して、キッとまなじりをつり上げる。
「あんたたち、準備できてんならはやく行きなさいよ! 時間おしてんでしょーがっ」
「うるせぇよババア」
「ババアじゃねぇわよ! まだ二十代よ!」
「まだ? ギリギリ、だろ?」
(ひぇえ!)
皐月とナカさんを交互に見る。ライブ前だっていうのになんでそんなにバチバチするのさ!
それを収めたのは優士。
「喧嘩してる場合じゃないでしょ? 子どもじゃあるまいし」
ニコニコと笑顔で、心に刺さる毒を吐く。子どもじゃない皐月とナカさんは、口の端を歪ませながらもなんとか黙った。あ、あいかわらずだなあ。
「んじゃ、行ってらっしゃい」
そう言ってナカさんが扉を大きく開けた。途端、歓声が爆発的に広がる。
渋谷には流行が詰まってる。
大きなテレビ画面が流すのも、マルキューの壁面に貼られた巨大ポスターも、本屋やコンビニの店頭に作られたコーナーも、それから道行く人の瞳のなかも――今はすべて3moon一色なのだ。
6
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる