sandwich

水市 宇和香

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obstinate person

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「3moonに憧れて軽音楽部に入ったんです!」
 新入生からそう言われるたび、一年前のABCを思い出す。
 今でも一番憧れているバンド。激しくて変幻自在で、ピンと張りつめた演奏なのに危うさがない。とにかくかっこよかった。
 僕はABCに憧れて軽音楽部に入った。だからこそ、去年の自分と同じような台詞を叫ぶ新入生に恐縮してしまう。
「ありがとう」
「作曲って卯月先輩がしてるんですよね? 俺、3moonの曲すげえ好きです!」
「あ、……ありが、とう」
 3moonは皐月と優士がいるから体裁を保てていると思っていたけど、最近(たまに)ドラムも誉めてもらえるようになったし、僕の作った曲を気に入ってくれる人もちょっとずつ増えてきた。
 嬉しい。
 けど、「僕なんてまだまだだよ」とつい苦笑してしまう。
 以前に比べたら上達したと感じるし、ABCと3moonではやってる曲調が違うから比較できることじゃないのかもしれないけど……まだまだ、庄司先輩が遠い存在なんだ。
 先輩は大学でも軽音楽部に入ってバンド活動をしていて、このあいだ久しぶりにドラム捌きを見せてもらったら一段とうまくなっていた。僕も先輩のようにドラムを叩きたい。
 家にあるゴム製のドラムセットは庄司先輩のおさがりだ。基礎練習のやりかたも先輩に教えてもらった。
 ピッ、ピッ。メトロノームに合わせてペダルを踏みながら各部を叩き、徐々にテンポアップ。僕にはパワーが足りないから、最近では強い叩きかたも練習したいんだけど――。
「うるせェぞ!」
 荒々しく扉を開き、お父さんが怒鳴り込んできた。
「いい加減にしろ!」
「ごっ、ごめん……」
 今日はそんなにうるさくしたつもりなかったんだけど……。
 お父さんはじろりとドラムセットを眺め回し、舌打ちする。
「そんなモンやってる暇あったら勉強しろ! ったく! 低学歴にろくな奴はいないからな!」
 そして、扉を勢いよく閉めて去っていった。お父さんはこのところ、ずっとイライラしている。お母さんとの喧嘩が絶えなくて、ストレスが溜まっているみたいだ。でも、ドラムをやめるなんてできない。だって、僕には目標とする先輩がいるし、叩きたい音、作りたい音楽がまだまだある。
 皐月と優士が引退するまであと四ヶ月。三人でやれるうちに、もっともっと、バンドを完成させたい。
 僕はお父さんの足音が遠ざかるのを聞き届けてから、そっとスティックを握り直した。
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