sandwich

水市 宇和香

文字の大きさ
39 / 47

love you

しおりを挟む
「……っ、何?」
 リビングは悲惨な状態だった。
 ローテーブルは引き倒され、PCや楽譜や食器が散らばっている。その中心に立つ皐月は、僕の姿を見とめるなり、足が傷つくのも厭わずズカズカと近くまでやって来た。
(え?!)
 逸れない視線が怖い。
 と、突然壁に体を押し付けられた。吐息を感じるくらいすぐ近くに、皐月の顔が迫る。
 皐月は眉間に皺を寄せ、眼光を鋭くさせた表情で一言、
「ざけんなよ」
 吐き捨てたと思ったら――唇に噛みついてきた。何、何どうして視界が真っ暗で、何も見えない、皐月どうして、怒ってるの? なんで?!
「ん! ん、ぅ」
 違う、これは噛みつかれてるんじゃない。キスだ。さっきまでの竹松さんとのキスとは全然違う。荒々しくて苦しい!
 胸板を叩いても、皐月は離れるどころか角度を変えてさらに僕の深いところを食いつくそうとする。
(嫌だなんでこんなことに、苦しい離して!)
「……竹松さんとのデートは楽しかった?」
 カタンという音とともに、聞いたこともない優士の無機質な声がした。それを契機に皐月の顔が離れたので、肩で息をしながら、僕の携帯を拾い上げる優士に視線を向ける。
(……今、なんて?)
 酸欠の頭はクラクラして、よく聞き取れなかった。そんな僕を察したみたいで、優士はもう一度、ゆっくりと繰り返す。
「竹松さんと一緒にいたんでしょう?」
(なんでそんなこと、知ってる――携帯を、見たのかな?)
 ダンッッ!
 皐月が壁を殴った。ヒッと息を飲んだ僕の胸ぐらをつかみ上げる。爪先が浮いた。息が詰まる。
「てめぇ何してんだよ! あのクソビッチと何してたんだよ!」
「皐月……やめ、竹松さんを悪く言わなっ……!」
 皐月は再び僕の背中を壁に打ちつけた。咳き込む僕に構いもせず、睨み上げてくる。
「んだよ、あの女庇って彼氏ヅラか? とんだ茶番だな、てめえは俺たちのモンなんだよ勘違いしてんじゃねーよっ」
「この手も、」
 近づいてきた優士が、皐月の拳に乗せた僕の手のひらを取ってなぞる。その指先はつぅと腕をすべって頬、瞳、そして唇に移る。
「目も何もかも全部、何一つだってあの女にやったつもりはないよ、シロー。」
 指が下唇に触れたあと、優士にそっとキスをされた。
 暗い笑顔を浮かべる優士も、凶悪な顔つきで睨んでくる皐月も、怖い。
(俺たちのもの? 僕たちのもの? どういうこと?)
 二人が怖い。何を言ってるのかわからない。だって、僕は二人のものじゃない。竹松さんは僕の彼女で、なんだか突然ひどいことを言われて……――どうしてこんなことに。
 唖然としながらまた、二度、三度咳き込む。そんな僕を鼻で笑って、皐月はパッと手を離した。
 鈍い音とともに、僕はその場に崩れ落ちる。立ち上がる前にしゃがみこんだ優士に手を引かれた。
「ねえ、シロー。僕たちは君のことが好きなんだ。好きでしかたないんだよ」
「僕だって……」
 二人が好きだ。なのにどうして、すれ違ってる気がするんだろう。僕の好きは、こんなに乱暴じゃない。もっと笑顔で、あたたかい気持ちで語れるものだ。
 でも、二人の表情は笑ってるのにどこか怖い。緊張感と、険しいまなざしと――どこか危ういもろさを感じる。
「シローも俺たちのことが好きだろ?」
 素直にうなずいていいんだろうか。
 口を閉ざして座り込んだままの僕を皐月が覗きこんだ。そして、優士に取られたのとは反対の手を取り、薬指の付け根に口づけを落とす。
「愛してんぜ」
 その言葉とともに、ベッドまで連れていかれた。そこで、二人の言葉の意味を知った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

花香る人

佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。 いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。 自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。 ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。 もしも親友が主人公に思いを寄せてたら ユイト 平凡、大人しい カイ 美形、変態、裏表激しい 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

Original drug

佐治尚実
BL
ある薬を愛しい恋人の翔祐に服用させた医薬品会社に勤める一条は、この日を数年間も待ち望んでいた。 翔祐(しょうすけ) 一条との家に軟禁されている 平凡 一条の恋人 敬語 一条(いちじょう) 医薬品会社の執行役員 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

【BL】SNSで出会ったイケメンに捕まるまで

久遠院 純
BL
タイトル通りの内容です。 自称平凡モブ顔の主人公が、イケメンに捕まるまでのお話。 他サイトでも公開しています。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...