sandwich

水市 宇和香

文字の大きさ
44 / 47

drug5

しおりを挟む
 寝て、起きて、セックスして。疲れてまた眠る。
 そんな生活が何日続いたんだろう。よく覚えてない。お腹がすいたら、デリバリーの食事をとり、身体がベタベタしてきたらお風呂に入り、それ以外はベッドにいた。
 倦怠感と焦燥感、そして常に誰かに追われている恐怖がずっと付きまとっていたけれど、セックスするときだけは快感のおかげか全部忘れられた。
 それに、セックスしているときの皐月と優士はいつも以上に優しかった。
「シロー、ほら、クスリ。これがないと、シローの身体辛いから」
 あーんと言われるがまま口を開けば、優士がタブレットを口に放り込んでくれた。まだセックスに慣れていない僕は、このクスリを飲んで身体を弛緩させないと、二人を受け入れるのは難しいらしい。クスリを水で流しこんでから、ベッドの際に座る皐月ににじり寄る。皐月が携帯を見ながら何かしていたから、気になったんだ。
「ねえ、皐月。どうしたの?」
「あーわりい、これからシャチョーんとこ行かなきゃなんなくなったからエッチはお預けな」
「そっかあ。わかった、行ってらっしゃい」
 それじゃあ、優士とふたりきりか。と、思っていたら、皐月に抱き上げられた。
「今日はおまえも行くんだよ。もちろん優士もな」
「ついに呼び出し?」
「そ。っつーわけで、服着ろな」
(ついに?)
 優士の言葉にひっかかりを覚えたものの、疑問はすぐに立ち消える。
 僕らは三人とも裸だったから、言われるがまま、久しぶりに服に袖を通した。ちょっと前まで、服を着るのが当たり前だったのに、なぜか今は現実感が希薄な気がする。
 ピンポーン。
 セックスをしていないと、よく耳に入るインターホンの音。僕の焦燥感の原因はこれだ。
「ねえ、皐月。また、チャイムの音がするよ……」
「外出んの怖いか?」
「うん……」
 こくりとうなずけば、皐月が抱きしめてくれた。
「俺たちが守ってやるから」
 皐月の柔らかい声が心地いい。ありがと、とつぶやいて、僕も皐月にしがみつく。そんな僕を情けないと笑うことなく、シャツを着せてくれたのは優士。やっぱり僕には皐月と優士がいないとだめだ。
「シロー、芸能人なんだからちゃんと帽子とマスクしないと」
「ん……」
 皐月と優士もラフなTシャツ、ジーパンに着替え、僕と同じように帽子とマスクで顔を見えづらくした。マスコミ対策はばっちり……だけど、二人がここまで厳重に顔を隠すのって、珍しい。なんでだろう? 部屋に響くチャイムの音と関係あるのかな?
 なんだかここのところ、ぼうっとしてしまって、大事なことを思い出せないでいる気がする。考えるということが、ひどくむずかしいとすら思うんだ。それでも、二人といれば何も心配はいらない。二人といられれば、僕は大丈夫。
 二人に手を取られて、僕は家を出た。直後。
「UOHが出てきた!!」
「UOHさん!! お話聞かせてください!!」
「SATSUKIさん! YUSHIさん!!」
 視界が白く感じるほどの光。思わず目を細めた矢先に、ぐい、と誰かに腕を引かれ、数歩そちらにたたらを踏んだ。
「UOHさん、竹松さんとのご関係を教えてください!!」
「竹松さんとはあれから会っていますか?!」
「おい、UOHに触んな!」
 皐月に引っ張られ、再び僕らは手を繋ぐ。怖い。怖い。みんなが僕の名前を呼んでいる。竹松さんの名前を叫んでいる。なんだか、不思議な感覚だ。
 竹松? 竹松さんとは、誰だ。竹松さんは僕の彼女だ。彼女は今、何をしているんだろう。彼女と最後に会ったのはいつだっけ? 最後に連絡を取ったのは?
 なんで、僕は彼女のことを忘れていたんだろう。どうして?
 紗がかかったようだった記憶が、徐々に鮮やかになってくる。そうだ、僕は竹松さんとのことを週刊誌に撮られて、記者の人に追われて、クスリを使ってるなんてことも言われて、みんなが、怖くて。家に引きこもって、皐月と優士は優しくて。二人だけが優しくて………そんな僕の耳元に囁いたのは優士。
「シロー、思い出したくないことは忘れてていいんだよ」
(思い出したくないこと?)
 竹松さんとのことは思い出したくないことだったっけ? だけれど、優しい優士がそう言うんだから、もしかしたらそうなのかも。
 だって、こんなに、おじさんたちに囲まれて、叫ばれて、マイクを突きつけられて、怖い。気持ち悪い。
 だから僕は、皐月と優士に手を引かれるまま、無心でその場を立ち去った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

ファントムペイン

粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。 理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。 主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。 手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった…… 手足を失った恋人との生活。鬱系BL。 ※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。

【完結】勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん<山野 石郎>改め【イシ】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中……俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない<覗く>という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

処理中です...