太陽を喰らう月

白木 月

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黒いもや

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 これは私の母のノートなのだろうか。
月出ひだち あかり』と書かれているのだから、十中八九そうなのだろう。

(何が書かれているんだろう…)

 私の両親は、私が物心つく前に他界たかいしてしまい両親の顔を写真でしか見たことがない。

祖父母からは、名前程度しか聞かされたことがなかった。私は自分の両親について、何も知らないまま、成長してきた。

だからこそ、このノートに私は何かを期待してしまう。

私のお母さん。どんな人だったのだろうか、知りたい


 ノートを開こうとしたが

『あ、鍵が…』


気持ちが先走りすぎてノートに鍵がついていることを忘れていた。

(仕方ない、今度お母さんの遺品の中から鍵を探そう…)


私は額縁を壁にかけ直し、ノートは自室に持って行って保管することにした。


ふすまを開け、仏間ぶつまを出ると、右足に違和感を覚えた。

右足がおもりをつけられたかのように重く、自室に戻ろうとするがなかなか前に進まない。

(さっきまでは、何とも無かったのに…なんで急に、)

 右足を引きずるようにして歩き、なんとか自室に戻った。




 ノートを鍵付きの机の引き出しに入れる。

 すると、さっきまでの右足の重さが嘘だったかのように消え去った。


『あれ、足が重くない…?』


 不思議ふしぎな感覚に襲われたものの、喉元を過ぎればなんとやらで特に気にすることも無く、湊くんたちがいる部屋へと足を進めた。


『ただいまー』

「あ、おかえりぃー」
「おかえり」

私がこの部屋を出た時と同様、結愛ちゃんは湊くんにピッタリくっついている。


『あれ、一誠は?』

部屋にいたのは湊くんと結愛ちゃんだけで一誠がいないことに気がついた。

「一誠ならさっき陸上があるからって言って帰ったよ」
『そうなんだ』

「…こはくちゃんもしかして体調悪い?」

『え、なんで?体調悪くないよ』

「いや、なんか顔色悪い気がして」

「あっほんとだぁ、顔すごい真っ青だよ?」

『え、ほんと?』

「鏡貸してあげるから1回見てみなよ」


結愛ちゃんが手鏡を貸してくれた。貸してもらった手鏡で自分の顔を見る。


『えっ…』

私は驚いて思わず声を上げてしまった

「ね?真っ青でしょ?」
『あ、うん…』

 私が驚いたのは、自分の顔色が悪かったからじゃない。一瞬私の背後に黒いもやのようなものが見えた気がしたのだ

(さっきのなんだったんだろう、気の所為かな…?)


「こはくちゃんちょっとこっち向いて」

私は湊くんに言われた通り、湊くんの方を向いた。
湊くんの手が私の顔に向かって伸びてくる

(え、なに…!?)

湊くんの手が私のひたいに触れた


「熱はないけど、」

ああ、熱がないか確かめてくれてるのか

「すごい冷たい…」

『え?』

「こはくちゃん寒い?」

『いや、寒くないよ』

「なんでこんな冷たいのかな、ほんとに体調悪くない?」

『うん、だいじょ…うっ』


 突然、強烈な吐き気に襲われた
 反射で口を手でおさえる

「どうしたの?」

今、口を開けばきっと胃の中のものを吐き出してしまう。
訊ねられても答えられない
 

『うえっ』

ぐっと胸の奥から何かがせり上ってくる感覚がする

 ────気持ち悪い。吐きそう。

熱い液体が口から出てきそうな感覚が何度も繰り返しやってきて、

もう、だめだ、吐く。と思ったとき


「これに吐いていいよ」


湊くんがゴミ箱を差し出してくれた。

私はそれをとり、胃の中と喉元を行き来していた熱い液体を一気に吐き出した。


「結愛ちゃん水とティッシュ取ってきてくれない?」

「あっ、うんわかった!」

バタバタと足音を立てて、結愛ちゃんが部屋を出ていった。


『はぁ...っ...』

胃の中のものを吐き出したが、また吐き気が襲ってきて熱い液体が上がってくる


湊くんが私の背中に手を置いた。背中をさすってくれる

『おえっ』




 私は胃の中のものを全て吐き出した。
吐き気は収まったものの、その後に襲ってくる疲れは尋常ではなかった。まぶたが重くなり、倦怠感けんたいかんが体を支配していく。

 眠気に抗うことはできず、私は自分の意識が遠のいていくのを感じた


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