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四章
5話
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夢の世界なのか?
見知らぬ池の辺りだった。でも、どこかで見た光景のように既視感があった。
俺は今の俺じゃなかった。荒井武蔵、前世の俺だった。手足を見る。脇腹や胸を摩る。ひょろひょろだ。六歳である今世の俺、リデルと比べても肉が無い。
「来たか」
闇神……だった。池へ足を浸らせ、その水面を眺めていた。
「どうして俺を?」
「昔話をしてやろうと思ってな。招いてやった」
招いてか。だとすると、ここは闇神の中の世界なのかもしれない。いや、きっとそうだ。何故か分かる。
「初めてだよね。あんたの中に入れてくれるの」
「ああ。そろそろこの世界の真実の一端を聞かせてやってもいいと思ってな」
「真実を? やっとか。俺何も知らないんだもん」
「とは言え、武蔵に課せられた宿命はお前の想像を絶する。だから、今回は昔話だけだ。ある愚かもののな」
想像を絶する宿命か。それは聞きたくないな。そして出来れば一生向き合いたくない。きっとこのよく分からん神様は俺のそんな思いを分かっている。俺は闇神へ頷いた。
「愚かものは、彷徨っていた。何もない荒野を、生まれてからずっと当て所なく、この世界は空虚だと嘆きながらな。ある時、愚かものは思った。喉が乾いたと。すると、泉がそこへ既にあった。愚かものは訝しながらも泉の水を手で掬い飲んだ。水は冷たくも温くもなく、体中へ染み渡るようだったらしい。そこで愚かものは気付いた。頭の中を埋め尽くしていた嘆きの言葉が消えていると。そして、辺りを見回すと美しく色付いた花々と木々に囲まれていた。愚かものは思った。これは自分が作り出したものだと。こんなに美しいものを生み出した自分もさぞかし美しいのだろう。愚かものは泉を覗き込んだ。すると、遥か天に暖かく笑みを浮かべる美しきものが、その水面へ映っていた。愚かものは愚かにも思ってしまった。あれが、自分であると。あの美しきものが、自分であると」
闇神は池へ浸らせていた脚で水を蹴り上げた。バシャリと飛び出した水の塊達が不恰好な弧を描いて再び池へ戻っていく。
語ってくれたのは昔話なのかな? 寓話のようだけど。
「その愚かものは、本当に愚かだね。見守ってくれていた人を自分と思い込んだんでしょ?」
「ああ。それが、その愚かものが、この世界の創造神だ」
「……は?」
俺の顔を見て闇神は鼻息を立てて笑った。そして次の瞬間、俺と闇神は観客のいない円形劇場の舞台の上に立っていた。なんだ、この急な場面転換。ここが闇神の中だからか?
「まあ、そんな顔になるだろうな。そこからこの世界は始まったのだ。俺も、その愚かものによって造られたのだ。遠大なるフラクタルの舞台装置として機能する為にな」
フラクタルって以前にも聞いたな。そうか、俺が荒井武蔵として死んだ後だ。その時も闇神が言っていた。
「あの、さっぱり意味が分からないんだけど……そこからどうして、あんたが俺の魂の中へ住むことになったの?」
「どうせなら、舞台装置より役者の方が面白いだろう。いや、武蔵と俺なら、脚本家と演出家に成り代われるやもしれん」
「えっと、ますます意味が分からないんだけど」
「今はそれでいい。だが、心せよ。貴様は既にこの舞台に引きづり込まれている。重要な配役だ。そのような者には決まって大きな困難が用意されているものだ。そろそろ訪れるぞ。どのような困難になるか、俺にも分からんがな」
「重要な配役か……俺、そんなキャラじゃないんだけどな」
「そうか? 俺にはそうは見えんがな。お前は前世からの反動か、成長すること学ぶことから人一倍喜びを得ているように感じる。そのような変わり者にこそ重要な役が回ってくるものだぞ」
闇神は一つ大きなあくびをした。
「少し余計に話したな。俺はいつものように引き篭もって寝る。お前はもう帰れ」
「……うん。やっぱり」
いつものように、闇神との会話はそこでブツリと一方的に切られた。円形劇場が目の前から消え、なんて感覚だろう……夢が夢に戻って来たようだった。世界と自分がグニャグニャになって、そこからまた覚えていない。
見知らぬ池の辺りだった。でも、どこかで見た光景のように既視感があった。
俺は今の俺じゃなかった。荒井武蔵、前世の俺だった。手足を見る。脇腹や胸を摩る。ひょろひょろだ。六歳である今世の俺、リデルと比べても肉が無い。
「来たか」
闇神……だった。池へ足を浸らせ、その水面を眺めていた。
「どうして俺を?」
「昔話をしてやろうと思ってな。招いてやった」
招いてか。だとすると、ここは闇神の中の世界なのかもしれない。いや、きっとそうだ。何故か分かる。
「初めてだよね。あんたの中に入れてくれるの」
「ああ。そろそろこの世界の真実の一端を聞かせてやってもいいと思ってな」
「真実を? やっとか。俺何も知らないんだもん」
「とは言え、武蔵に課せられた宿命はお前の想像を絶する。だから、今回は昔話だけだ。ある愚かもののな」
想像を絶する宿命か。それは聞きたくないな。そして出来れば一生向き合いたくない。きっとこのよく分からん神様は俺のそんな思いを分かっている。俺は闇神へ頷いた。
「愚かものは、彷徨っていた。何もない荒野を、生まれてからずっと当て所なく、この世界は空虚だと嘆きながらな。ある時、愚かものは思った。喉が乾いたと。すると、泉がそこへ既にあった。愚かものは訝しながらも泉の水を手で掬い飲んだ。水は冷たくも温くもなく、体中へ染み渡るようだったらしい。そこで愚かものは気付いた。頭の中を埋め尽くしていた嘆きの言葉が消えていると。そして、辺りを見回すと美しく色付いた花々と木々に囲まれていた。愚かものは思った。これは自分が作り出したものだと。こんなに美しいものを生み出した自分もさぞかし美しいのだろう。愚かものは泉を覗き込んだ。すると、遥か天に暖かく笑みを浮かべる美しきものが、その水面へ映っていた。愚かものは愚かにも思ってしまった。あれが、自分であると。あの美しきものが、自分であると」
闇神は池へ浸らせていた脚で水を蹴り上げた。バシャリと飛び出した水の塊達が不恰好な弧を描いて再び池へ戻っていく。
語ってくれたのは昔話なのかな? 寓話のようだけど。
「その愚かものは、本当に愚かだね。見守ってくれていた人を自分と思い込んだんでしょ?」
「ああ。それが、その愚かものが、この世界の創造神だ」
「……は?」
俺の顔を見て闇神は鼻息を立てて笑った。そして次の瞬間、俺と闇神は観客のいない円形劇場の舞台の上に立っていた。なんだ、この急な場面転換。ここが闇神の中だからか?
「まあ、そんな顔になるだろうな。そこからこの世界は始まったのだ。俺も、その愚かものによって造られたのだ。遠大なるフラクタルの舞台装置として機能する為にな」
フラクタルって以前にも聞いたな。そうか、俺が荒井武蔵として死んだ後だ。その時も闇神が言っていた。
「あの、さっぱり意味が分からないんだけど……そこからどうして、あんたが俺の魂の中へ住むことになったの?」
「どうせなら、舞台装置より役者の方が面白いだろう。いや、武蔵と俺なら、脚本家と演出家に成り代われるやもしれん」
「えっと、ますます意味が分からないんだけど」
「今はそれでいい。だが、心せよ。貴様は既にこの舞台に引きづり込まれている。重要な配役だ。そのような者には決まって大きな困難が用意されているものだ。そろそろ訪れるぞ。どのような困難になるか、俺にも分からんがな」
「重要な配役か……俺、そんなキャラじゃないんだけどな」
「そうか? 俺にはそうは見えんがな。お前は前世からの反動か、成長すること学ぶことから人一倍喜びを得ているように感じる。そのような変わり者にこそ重要な役が回ってくるものだぞ」
闇神は一つ大きなあくびをした。
「少し余計に話したな。俺はいつものように引き篭もって寝る。お前はもう帰れ」
「……うん。やっぱり」
いつものように、闇神との会話はそこでブツリと一方的に切られた。円形劇場が目の前から消え、なんて感覚だろう……夢が夢に戻って来たようだった。世界と自分がグニャグニャになって、そこからまた覚えていない。
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