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君との会話 一人台本(約5分)
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甘い時間は一瞬。
終始言葉は紡がれない。耳が聞こえない私の世界には、音がないから。
だからこそ君を想って打つ鼓動が、いかにうるさく聞こえているのか。怖くて怖くて仕方がない。
君と私の言霊の代わりはメモ。
『おはよう』
それを見て君は笑う。本当の君の声を私は知らない。
君は手話はできないから、こうやってメモに書いてやり取りをする。
君が返事を書こうとすると、誰かが君に声をかけた。そうなると私は完全に蚊帳の外だ。
少し悲しいけど、しょうがない。だって私が聞こえないのが悪いんだもの。
君が引き止めかけたのは見えたけど見えないふりをする。それくらいの距離が、ちょうどいいのだ。
君と私が出会ったのは、大学内の図書館。いつも同じ作家の作品を借り合っていたら…いつの間にか友達になって、いつの間にか好きになっていた。
普通じゃない私には叶わない恋だ。耳が聞こえない。たったそれだけで無意識に哀れみの目で見られてしまうのは否めない。
自分は人魚姫とよく似ている。好きな人が目の前にいるのに、声が出せなくて彼の命を選び泡になって消える。最後以外は私にそっくりだ。
こんな気持ち、早くなくなってしまえばいいのに。
気まずい雰囲気になっていたのに、一緒に帰る約束をしていたのを思い出した。
最悪だ。待ち合わせ場所にはもちろん君がいて、そしてなぜか両脇にはお友達もいる。
私を横目に楽しそうにお友達は君に何か話している。私のことを何か言われてるんだろうか。
しばらくすると、お友達は君に手を振り去っていった。私たちはゆっくり歩き出す。
『友達はよかったの?』
長い沈黙に耐えられなかった私は尋ねる。そうすると君は笑って
「最近恋人ができたらしくてさ。そっちと一緒に帰ってんの 」
そんなことを言う。
『君が恋人いないのは意外』
「意外じゃないない!いたらこんなぼっち生活送ってないよ」
『好きな人でもいるの?』
「一応ね 柚木は逆にいないの?」
『私は』
書きかけてやめる。
私は君のことが好き。
それは誰にも言えない秘密だ。…君にも。
これを言ってしまえば、放ってしまえば、この日々が終わってしまう。
首を傾げる君に私はなんでもないと返す。
少し無理やりだっただろうか。
君は私にとても優しい。だけどそれは決して特別なんかではなくて、君はみんなにそうなんだ。悪気がないのが余計に悔しいけど、しかたない。
〝 君はみんなに優しいしね〟
つい嫌味っぽく言ってしまった。メモを手放して、君にはわからないように手で言った。ほんとずるいよね、私って。
〝 君の好きな人が羨ましいな〟
今になって思う。人魚姫は幸せだったんだ。
好きな人が結ばれる前に泡になって消えることができた。こんな辛い思いをする前に、逃げることができたのだ。
お互いの足が止まる。君は驚いた顔をする。当たり前だ。私はさっきから手話で君に一方的に思いをぶつけている。君が意味がわからないのは当然のことだ。
しかし君はいつになく真剣な表情になり、私の手をとった。それじゃ口を塞がれたのと一緒だ。とても困る。
いつも優しい君の目が、見つめ合う今だけは少し怖く感じる。思わず目を閉じると、不慣れな感覚がやってきた。
そっと軽く重なった影が、ゆっくりと離れていく。吐息が、酷く甘ったるく感じた。
〝 好きな人は、君なんだよ。〟
君の手で紡ぐ文字はひとつひとつゆっくりと、私の心に染み込む。
〝 ずっと君ときちんと話したかったから、手話練習してたんだ。ちゃんとできてるかな?〟
頭が追いつかない。ぐるぐるぐるぐる回る。
〝 改めて、君のことが好きです。付き合ってくれませんか?〟
私はゆっくりと縦に首を振った。
終始言葉は紡がれない。耳が聞こえない私の世界には、音がないから。
だからこそ君を想って打つ鼓動が、いかにうるさく聞こえているのか。怖くて怖くて仕方がない。
君と私の言霊の代わりはメモ。
『おはよう』
それを見て君は笑う。本当の君の声を私は知らない。
君は手話はできないから、こうやってメモに書いてやり取りをする。
君が返事を書こうとすると、誰かが君に声をかけた。そうなると私は完全に蚊帳の外だ。
少し悲しいけど、しょうがない。だって私が聞こえないのが悪いんだもの。
君が引き止めかけたのは見えたけど見えないふりをする。それくらいの距離が、ちょうどいいのだ。
君と私が出会ったのは、大学内の図書館。いつも同じ作家の作品を借り合っていたら…いつの間にか友達になって、いつの間にか好きになっていた。
普通じゃない私には叶わない恋だ。耳が聞こえない。たったそれだけで無意識に哀れみの目で見られてしまうのは否めない。
自分は人魚姫とよく似ている。好きな人が目の前にいるのに、声が出せなくて彼の命を選び泡になって消える。最後以外は私にそっくりだ。
こんな気持ち、早くなくなってしまえばいいのに。
気まずい雰囲気になっていたのに、一緒に帰る約束をしていたのを思い出した。
最悪だ。待ち合わせ場所にはもちろん君がいて、そしてなぜか両脇にはお友達もいる。
私を横目に楽しそうにお友達は君に何か話している。私のことを何か言われてるんだろうか。
しばらくすると、お友達は君に手を振り去っていった。私たちはゆっくり歩き出す。
『友達はよかったの?』
長い沈黙に耐えられなかった私は尋ねる。そうすると君は笑って
「最近恋人ができたらしくてさ。そっちと一緒に帰ってんの 」
そんなことを言う。
『君が恋人いないのは意外』
「意外じゃないない!いたらこんなぼっち生活送ってないよ」
『好きな人でもいるの?』
「一応ね 柚木は逆にいないの?」
『私は』
書きかけてやめる。
私は君のことが好き。
それは誰にも言えない秘密だ。…君にも。
これを言ってしまえば、放ってしまえば、この日々が終わってしまう。
首を傾げる君に私はなんでもないと返す。
少し無理やりだっただろうか。
君は私にとても優しい。だけどそれは決して特別なんかではなくて、君はみんなにそうなんだ。悪気がないのが余計に悔しいけど、しかたない。
〝 君はみんなに優しいしね〟
つい嫌味っぽく言ってしまった。メモを手放して、君にはわからないように手で言った。ほんとずるいよね、私って。
〝 君の好きな人が羨ましいな〟
今になって思う。人魚姫は幸せだったんだ。
好きな人が結ばれる前に泡になって消えることができた。こんな辛い思いをする前に、逃げることができたのだ。
お互いの足が止まる。君は驚いた顔をする。当たり前だ。私はさっきから手話で君に一方的に思いをぶつけている。君が意味がわからないのは当然のことだ。
しかし君はいつになく真剣な表情になり、私の手をとった。それじゃ口を塞がれたのと一緒だ。とても困る。
いつも優しい君の目が、見つめ合う今だけは少し怖く感じる。思わず目を閉じると、不慣れな感覚がやってきた。
そっと軽く重なった影が、ゆっくりと離れていく。吐息が、酷く甘ったるく感じた。
〝 好きな人は、君なんだよ。〟
君の手で紡ぐ文字はひとつひとつゆっくりと、私の心に染み込む。
〝 ずっと君ときちんと話したかったから、手話練習してたんだ。ちゃんとできてるかな?〟
頭が追いつかない。ぐるぐるぐるぐる回る。
〝 改めて、君のことが好きです。付き合ってくれませんか?〟
私はゆっくりと縦に首を振った。
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