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雨に詩えば(沖野聡大ver.) 一人台本(約5分)

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自分はしがない公衆電話です。

そうそう。歩道橋下のわかりづらい隅にある、あの公衆電話です。
こんな雨の日です。少し昔話をしましょうか。

これは自分がまだピカピカの新参者だった頃の話でございます。
そりゃあその時代は今のような携帯電話なんて持っている人の方が少数で、その頃はよく自分に向かって皆さん話しかけてくれました。

そんなたくさんの人々の中、自分には忘れられない二人がいるのです。

あれはそう、今のような梅雨の時期です。アジサイがこれまた綺麗に咲いて、雨粒が反射して光を放つ。そんな季節でございます。

おそらく文通をしているであろう幼い男女がおりまして、よく自分の頭に手紙を置いてはそれはそれは甘酸っぱいやり取りをしておりました。

おそらくお小遣いでしょうか。貯めた小銭で、雨にもかかわらず自分のところまできて会話をするのです。

たった数分ではありますが、二人は幸せそうでしたよ。男の子がロマンチックな人でして、毎回女の子にうたを送るんです。
それがまあ可愛らしくて。自分も聞いてしまっていいのかと思うくらい素敵で謙虚なうたでございました。

ただね、女の子の方には一つ、男の子に言えない秘密がございまして。
大人になるまで生き残るのが難しい難病に侵されていたのです。とても上手く病院から抜け出して、時間ぴったりに電話をかける。辛そうな表情が男の子との電話の最中だけは、笑顔に変わるのです。

息も絶え絶えに、つくばるように来た日もありました。何もしてあげられない自分があれほど悔しかったことはありません。

段々と、女の子は自分のところへ来なくなりました。男の子も来なくなりました。

雨になると、彼らを思い出してしまいます。あの時の自分はもう少し何かできたのではないか、と。

…え。なんでこの話をあなたにしたか、ですって?ふふふ、それは自分があなたに話したいと思ったからですよ。今時の子なのに公衆電話を使うだなんて、不思議だなと思いまして。

なるほど。おばあ様とおじい様が、それはそれはお元気そうでなによりでございます。お手紙はあちらのポストにいれればすぐに届きますよ。

あ、そうそう。これからデートなのでしたら傘をお持ちになっていくのをおすすめ致します。今日はきっと午後から雨が降りますから。

…いえ、一本でいいのです。
そうではないと相合傘にならないでしょう?鈍いですねえ。それと、あなたもお相手に手紙の一つや二つしたためてみてはいかがですか?
ううむ、それではうたは?…却下ですか。
ええ、そりゃあお節介を焼きますよ。

私は今度は、後悔しないと決めているので。
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